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僕は国鉄の乗務員。いつかバチカンを敵に回すとは思いもしなかった。 |
ローマ=パリの寝台列車。熟睡した同僚マルコを見つめている。コーヒーで目を覚まし、トイレで煙草を一服。ささやかな愉しみ。廊下でナイキ青年とすれ違う。嫌な目で見つめてくる。悪い予感が当たってしまった。 |
一等車の司教。垂れた舌。垂れ落ちている大量の唾液。間違いなく死んでいた。床に転がっていた財布を拾い上げる。何か転がり落ちてくる。ポケットにそっと忍びこませた。 |
四日間の休日を彼女と一緒に過ごしていく。同僚マルコから電話があった。「武器を持った神父がお前さんを探しているぞ」の警告。悪いことをした覚えは無かったのだけれど。二人の神父がやってくる。尋問にやってくる。しかも二度だった。今度は違う面子、明らかに違う組織に属している連中がやってくる。バチカン秘密警察の内部対立に巻きこまれた、気付くまで時間はかからなかった。 |
「鍵には気をつけないと」、クリーニング屋のおばさんが人指し指を立ててくる。手渡された小さな鍵。そう、鍵を忘れていた。制服のポケットに入れたままだった。キーホルダーにイタリア人の名、パリの電話番号が刻まれていた… |
百ページ強という超極薄の一作ですが内容は濃いです。淡々と物語を綴りながら最後の最後で西欧史を根こそぎ解体してしまいました。キリストのミイラを納めた木棺が見えた一瞬に思考が停止。筋捌きの巧みさに磨きがかかっています。 |
物語は国鉄話で始まっています。バレンヌ社の叢書ル・プルプ(プイの『馬乗り娘は密告した』)への目配せ。前作のタイトル『変光星ミラ・セティ』も実は鯨座(バレンヌ)にあったりします。細かな気遣いと遊び心が嬉しいです。 |
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