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血の匂いがしていた。腹を空かせた野良鼠は数センチ進んだかと思うと顔を上げる。 |
気を失った青年が倒れていた。 |
工事現場、青年の姿に気付いたのはマリアだった。肩を貸して部屋まで運んでいく。青年が再び記憶を取り戻したのは4日後。名はアンジュ。 |
「試合に負けっぱなしのボクサーに似てる」、鏡を前に青年が呟いていた。体調の回復、傷跡の抜糸も終わっている。ある日マリアが目を覚ますと「ありがとう」の伝言が一つ。アンジュの姿はなかった。涙が乾いた後、マリアはいつものように窓際に座って工事現場を見つめ始めた。 |
相棒は薔薇とシャンパン、そして銃。アンジュは南仏に向かう。「キャラバン」と名づけられた白い壁の建物。幼児売春のために使われている秘密の場所だった。幼馴染のダラを救い出したかった。自分を闇討ちにしたワイスに復讐したかった。ベアトリスの手を借りてダラをパリに連れ出したまでは良かったが、ワイスの配下に居場所を突きとめられてしまう… |
「今度は余計な真似はしないで殺してあげよう。選択肢を与えてやるよ。選ぶがいい。テーブルの周りに女が三人。それぞれの形でお前を愛している。(…)誰か一人だけを一緒に殺してあげる。誰でもいい、選ぶがいい」 |
マリア、ベアトリス、ダラ。「天使」という名の十六才の青年の周りに女3人が配置される。巧みな筋捌きでこの4人が一室に集められる。奇妙な共同生活。女たちが歌い、女たちが笑う。純文学系のゴヤ新人賞を獲得、ドイツ語にも翻訳されて高い評価を得た一作。 |
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