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「車が動かなくなって」、路上で男が助けを求めていた。 |
車を停めたウジェーヌ。街まで送ってあげた。キオスクで朝刊を買った時に初めて気がついた。先ほどまで助手席に乗っていた男は新聞で話題になっている犯罪者そっくりだった。 |
警察に通報しておいた。「今”肉屋ロジェ”が駅にいます」、「何?声が遠くて聞こえないんですが」。受話器を置いたウジェーヌ。勘違いの可能性もあった。翌日、駅の待合室で”肉屋ロジェ”が射殺されたという記事が載った。 |
6週間後、朝の病院で小さな産声があがった。赤ん坊を抱きしめるクララ。「父親がいないんですよ」、小さな腕に目をやりながら女。「6週間前、憲兵に撃たれて殺されたんです」。 |
家も身よりもないクララは保育所で子供をあやしていた。警官がやってくる。「ロジェが金を隠した場所を教えてくれたら賞金が出る」そうだった。「何も知らないんです」、同じ返事を繰り返したが・・・信じてはもらえなかった。遺産を求め、パリの犯罪者たちが暗躍を始める。赤ん坊を抱きかかえたアルプスへの逃避行が始まった・・・ |
クララを追っていく警察、パリの暗黒街、ロジェの旧友、ウジェーヌの軌跡が重なっていく逃亡と追跡の物語。「赤ん坊」「未婚の母」という要素を絡めたことで旧来のロマン・ノワールと大分違った質感になっています。犯罪を描く視点も一般市民側からとなり、古典的ノワールから完全に離陸している作家の姿が伝わってきます。 |
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