初副題! いざ行かん!皆を守る為に過去に!
光が収まった時、その光の中心にいた横島は余り無事とは言えない姿で立っていた。
左右に突き出していた腕だけでなく身体もボロボロになっており、
両腕はあらぬ方向に曲がっていて、身体もいたる所から血を流していた。
【・・・私達の持つ最強の技を防ぎきりましたね】
「ハァハァハァ・・・・いや、もう無理です。こんな事絶対にもうやりません。
霊力と神通力がもうスッカラカンです」
【でも、魔力は残っとるんやろ?】
横島の言葉にサッちゃんが質問するが、横島は苦笑いを浮かべながら答えた。
「今は眠らせています。
まあ、暴走させてもいいって言うんなら出して身体を回復させますけど?」
最後にそう言った横島は意地の悪い笑みを浮かべながら答えた。
その答えを聞いたサッちゃんとキーやんは顔を青くして、首を横に振った。
【【もう、二度とあんな光景見たくありません(見とうない)・・・】】
どんな光景か気にはなるが、その言葉を聞いた雪菜が頬を赤らめているのを見ると、
どんな事が起きるかは想像しやすい。
キーやんのヒーリングで身体の傷を癒して貰った横島は、
この時の為にキーやんとサッちゃんが用意した服に着替えていた。
【横島君には前にその服については説明しましたね?】
「確か、神通力と魔力を併せて作られた服でしたっけ?」
【そうや。その服やったら、ヨコッちの全力にも耐えられるはずや】
それ聞いて喜んだのは横島だけでなく雪菜も喜んでいた。
何せ、修行で横島がその時の全力を出す度に服がボロボロになっていたのだから。
そして、全ての修行を恐るべき速さで終わらせた横島は、
キーやんとサッちゃんから説明を受けていた。
【さて、それでは横島君を過去に戻って貰います】
【ヨコッちが戻るのは、ヨコッちが美神に会う二年前や】
サッちゃんの言葉に疑問を覚えた横島は、サッちゃんに質問した。
「何でですか?別にあの一日前に戻ってもいいんじゃないんですか?」
【別にそれでもいいんやけどな】
【考えて欲しいんですが、今の身体で過去に戻る訳では無いんですよ?】
「あっ!」
キーやんのちょっとしたヒントに横島は思い当たる事があった。
そう、今の横島は人間と言う『殻』を破った状態でいる。
しかし、過去に戻れば再び『殻』に入った状態になる。
横島はその事を失念していた。
それに今考えてみても、あの頃の自分の身体は全く鍛えられていない。
美神に会うまで自分は極普通の一般人だったし、武に関する事も何もしていなかったのだから。
【どうやら分かったみたいですね】
【つまりや。二年前に戻って少しでも鍛えて貰うっちゅうのが一つ】
「二年前?・・・サッちゃん、何であんたがその事を知ってるんだ?」
横島は二年前と言う言葉を聞いた途端、意識を抑止力モードに変えて問いかけた。
そう問いかけられたサッちゃんは冷や汗を掻きながら答えた。
何故、サッちゃんが冷や汗を掻いたのか?
それは空っぽの筈の横島の霊力と神通力が恐ろしい勢いで回復して行き、
そこから溢れ出す怒気を一心に浴びていたからだった。
【お、落ち着いてやヨコッち。あれをワイが直接見たわけやない。
ワイはこれでも、魔族の最高指導者やで?
全部とは言えんけど、中級の上位くらいから大体は把握してしまうんや。
その所為で、あのエミっちゅう人に何があったのかは少しだけ知ってしまったんや】
サッちゃんが横島にそう説明すると横島から溢れ出ていた全てが収まり、
通常の横島に戻った。
「・・・そう言う事でしたか。すみませんでした」
【いや、ワイの説明不足やった。ヨコッちの所為や無いで。
(あれをワイだけで受けるんはマジできついな・・・)】
さて、横島が切れかけた理由だが、ここに来る前にあった卒業パーティーで、
エミが横島争奪戦に加わった事は覚えているだろうか?
その大きな理由と言うのが、横島の『どんな人にも優しい』と言う物だった。
それはエミの心を暖める事になった。その時の事を少し語ろう。
あれは、既に美神等から告白され保留にしつつも関係を持ってしまった暫く経った時。
その日は何事も無く、事務所からの道を夜空を見上げながら帰っていた横島は、
近くの公園で一人ベンチに座り込むエミを見かけ、
『どうしたんだろう?』と思い歩み寄っていった。
「どうしたんですか?エミさん」
俯きながらぼんやりしていたエミは、
横島が自分の近くに来ていた事に気付いていなかったか、横島が近くにいた事に驚いていた。
「!! おたくは横島!・・・おたくこそどうしたワケ?こんな所にいて」
エミの質問に横島は簡潔に答える。
「俺はバイトの帰りっスよ。エミさんこそ、こんな所でどうしたんですか?
・・って、足に怪我してるじゃないですか!?」
「あっ!触るんじゃないワケ!?」
エミの怪我を見ようと、横島が足に手を伸ばすのをエミは止めようとしたが、
エミの言葉を聞いていないのか、横島はパンストの破れて傷がある場所を、
持っていたハンカチで血を拭うと驚きの表情をする。
「ハァ〜、まさかおたくなんかに見られるなんてね」
そう言ったエミの足は古い傷が数箇所あった。
「汚いでしょ?これは全部除霊の時に付いた傷なワケ。
足だけじゃないわ。体の至る所に付いてるワケ。
普段は色々な方法で隠してるけど、今は霊力が少なくて隠せないってワケ」
エミの独白を聞きながら、横島は無言で文珠を出すと『治』と刻みエミの足の傷に当てた。
「悪いわね。この借りはいつか返すわ。
あと、この事は他言無用なワケ。・・・こんな事、他人に知られたくないワケ」
エミはそう言うとベンチから立ち上がり、公園を去ろうとする。
しかし、そんなエミの腕を横島が掴み引き寄せた。
「ちょっ!おたく、何するワケ!?」
そう叫んだエミは横島の腕の中にいた。
何故自分がこんな事をしているのか横島自身も分からなかったが、
エミがまるで泣いている女の子の様に感じたら、こうしていたらしい。
横島に優しく抱きしめられたエミは、何時もなら振り解き殴っていただろうが、
この時に横島から感じる雰囲気は邪な物ではなく、
純粋に自分を心配している物とエミは分かっており、振り解く事が出来なかった。
「えっと、すんません。こんな事しちゃって。でも、これだけは言いたかったんです。
エミさんは汚くなんか無いですよ?だって、その傷はエミさんが誇りを持ってやってきた、
GSって言う仕事の中で付いた傷じゃないですか。
その傷を汚く、ましてや醜く感じる何て事ないですよ?」
エミは今言った横島の言葉が上っ面だけの物では無く、
心の底から思っている言葉だと確信していた。
殺し屋もやっていた事のあるエミは、そう言った事に人一倍敏感だった。
その後、どう言った話を横島としたのかエミは余り覚えていないが、
横島にどういった経緯か分からないが、自分の昔の話をし始めた。
(エミはその時の事をこう語った。
「なんか、あの時に感じる横島の霊波って言うのかしら?
それを感じてたら、自然と話してたのよね。思えば、あの時から横島に捕まっていたワケ」
との事らしい)
エミの話を聞いていた横島は初めは驚いていたが、
すぐさま真剣な顔になって黙って話しを聞き続けた。
十歳の時に両親を亡くし、引き取られた先の叔母とそりが合わず家を出、
その後知り合った黒魔術の師匠に拾われ、その師匠が死ぬと使い魔を譲り受け、
公安の殺し屋をしていた事まで話した所でエミは一旦話を止めて横島を横目でチラッと見た。
しかし横島には特に変化は無く、真剣な顔のままエミを見ていた。
それを見たエミは、心の何処かで安心すると話を続けた。
殺し屋をしていた金で、使い魔との契約が切れる三年間を過ごし、
契約が切れた途端に自分に襲い掛かってきた使い魔を、
自分の脇腹に酷い傷を負ったが、その時の師匠と協力して封印に成功して、
その年にGS試験を受けに行った所で美神達に出会い、今に到る。
そこまで話すと、エミは「ふぅ」と息を吐いて夜空を見上げた。
「何で、ピートにも話してない事をおたくなんかに話したのかしらね」
「さあ?俺にはわかりませんよ。
でも、その子供の霊が言った様に、その事を何時までも気にするのは良くないですよ。
確かに、人を一人殺した事には変わりはありませんよ?
でも、その男に取り付いていた怨みの念は、エミさんのお蔭で成仏出来たんでしょ?
これは俺が親父に昔言われてた事なんですけど、
『人は大勢を救う事なんて出来ない。だが、その人達の心は救う事は出来る。
確かに自分に出来る事は少ないだろう。だけど、自分のした事で何人かの想いを救う事は出来る』
って、色々と俺の意見も入ってますけど、そんな事を昔に言われたんですよ。
と言っても、最近まで忘れてましたけどね?」
そう言って、横島は自嘲気味に笑った。
「だから、泣きたい時は泣いてもいいと思いますよ?」
「っ!?」
笑うのを直ぐにやめた横島は、エミに優しくそう言った。
「今日、何があったのかは聞きません。
でも、その事で傷ついている事はわかります。・・・俺も似た様な経験をしてますからね。
それに、ここにも誰にも知られずに泣く為にいたんでしょ?」
横島はそう言うと、エミを優しくその胸に抱きしめた。
そうされたエミは一瞬何が起こったのか分からなかったが、
横島の胸の温かさに気が緩んだのか、肩を振るわせながら静かに泣き出した。
と言った事があり、横島はエミの傷を知っていて、
その事を知っていたサッちゃんがその時の事を覗いていたかと思い、切れかけた訳である。
「つまり、俺にその時の出来事を助けろって事ですか?」
【そうや。あの時は大丈夫やったけど、一歩間違えれば死んでも可笑しくない怪我やったんや】
そう聞いた横島は、その時に戻る事を了承した。
【さて、説明の続きですが。横島君、雪菜さんは連れて行きますか?】
「当たり前です。連れて行くに決まってるじゃないですか」
【そやけど、ヨコッちが戻るのは中学生の時やで?
高校に上がって一人暮らしするまでどうするんや?】
「その事も考えてあります」
横島はキーやんとサッちゃんの言葉をすぐさま答える。
その横島の言葉に雪菜は、静かに涙を流しながら喜んでいた。
「お、おい。泣くなよ雪菜(汗」
「だって、忠夫様が私も連れて行ってくれるって・・・。
その事が何より嬉しいんです・・・」
雪菜は心配だった。
横島がここに来たのは自分の大切な人達を守る為に過去に行く為。
自分はその時置いていかれるじゃ?
そんな訳ないと言う気持ちと、置いていかれると言う相反する気持ちがあり、
横島がどんどん修行を達成していくのを複雑な気持ちで見ていた。
雪菜のそんな気持ちに気付く事が出来なかった自分を横島は殴りたくなった。
しかし、そんな事をすれば雪菜が傷付く事を知っている横島は、
微笑みながら、未だに涙を流す雪菜を優しく抱きしめた。
「ごめんな雪菜。雪菜がそんな気持ちでいた事に気付けないで」
「いいえ、もういいんです。忠夫様が私も連れて行ってくれる事を知りましたから・・・」
雪菜はそう言って横島にキスをした。
そして、横島は雪菜の頭の後ろに手を置くと・・・。
【あ〜〜、いい雰囲気の所悪いんやけど、そろそろ行かんか?】
サッちゃんのやぶ蛇!と思った方、石を投げないで下さい!
さて、その後真っ赤になった二人をキーやんとサッちゃんがからかったりしたが、
ついに横島が過去に飛ぶ準備が整った。
【横島君は過去に戻ったら、力を封印されます。
封印された状態での最大マイト数は400位です。
ただし、封印された状態での全力は持って五分程度なんで気をつけて下さい】
【封印は『六式封印』ちゅう奴や。解き方は刹那に聞いてくれや】
【ただ、そう何度も解いてはいけませんよ?
過去の貴方は人間なんですから、そう何度も耐える事は出来ません】
「分かりました」
キーやん達の説明を聞いていた横島はそう答えると、雪菜を抱き寄せた。
それを見たキーやんとサッちゃんの二人は、横島達に手を向けて光を放った。
【それでは、頑張って下さい。
貴方が歩む先に幸多からん事を】
【ほな、頑張ってな〜。
馬鹿な奴が襲いに行かん様に手配はしとくさかいな】
「ちょっ!それはどう言う・・!」
横島が何かを言おうとした瞬間、この場から二人は姿を消した。
【それでは、私達も彼女達の『想い』を持って行きますか】
【そやな。またなキーやん】
【はい。サッちゃんもお元気で】
そう言うと、この空間に残っていた二人も姿を消し、この空間は無くなった。
十八話に続く
あとがき〜
えっと、先ずはごめんなさい。異様に長くなってしまいました。(土下座)
執筆を始めたのが六時半・・・今は十時半。四時間か・・・。
次回、やっと過去の話に入れます。
今回は、何故エミが横島争奪に加わったのかの話を入れました。
(その所為で、かなり長くなってしまいましたが)
それでは、
saraさん、D,さん、瑠璃葉さん、T,Uさん、秋斗さん、惨劇現場の料理人さん、かかしさん、
大神さん、九尾さん、MAGIふぁさん、堕さん、れちさん、紫竜さん、ぴええるさん、
ミーティアさん、moon nightさん、通りすがり・・・さん。
この場を持って御礼を申し上げます。
大変ありがとうございました。
これからも、私の拙い文章の作品ですがどうぞお付き合いください。
それでは・・・。