バタバタバタ
バタバタバタ
「………」
皆様こんにちは、蛍です。
何やらバタバタうるさいですが、決して誰かが走り回っていたり、布団を叩いている音ではありません。
ちょっとばかりスカートが揺れている音なのです。
え、何で揺れてるかって?
それは―――
「……うっそーん」
―――青空の中、急速落下しているせいで風圧をモロに受けているからなのです。
眼下には『見ろ、人がゴミのようだ(HAHAHA)』と嘲笑うかのように広がる小さな街並み。
「いやぁぁぁぁぁぁっ!?」
きっと一緒に
第1話 私とGS見習いさんと
横島忠夫。
人類唯一の文殊使い。他にも「サイキック・ソーサー」「栄光の手」といった霊能力を使いこなし、霊気の出力と収束だけならば人類で彼と肩を並べる者はいない。アシュタロス戦役において重要な役割を果たし、様々な要因が重なったとはいえ人の身で魔神を打ち倒すという快挙を成し遂げる。神魔人妖問わずその友好関係は多岐に渡り―――
というのは、まだ未来の話。
今の彼は、『いち荷物持ち兼丁稚』にしか過ぎなかったのです。
「そ、空から姉ちゃんが降ってきたー!? こりゃあ恵まれない俺に神様からのプレゼント! ありがと神様仏様小竜姫様ー!」
「……はへ?」
目が覚めてみたら、煎餅布団に寝かされていました。
しかも、すぐ傍には目の血走った男の人が。
私が目を丸くしていると、素早い反応で振り向き……
「生まれる前から愛してましたー!」
「へ、変態ーっ!」
がすぼすがきべきどすばか
ごきんっ
「……す、すみません。大丈夫ですか?」
「大丈夫、慣れてるから……」
先ほどとは逆―――つまり、寝ているのが先ほどの男の人(血塗れ)で、その前に座ってるのが私。
首が斜め45度になってるのはご愛嬌。……ごあいきょう、ごあいきょう。
ち、ちょっと気持ち悪いけど。
何でも彼によると私はいきなり彼の部屋に落下してきたらしい。
天井を見ると、見事に人型の穴が開いている。天井を突き破ったぐらいじゃ勢いが止まらなかったのか畳にも大きな穴。
……よく生きてたな、私。
バンダナとジーンズファッションで身を固めた彼(私より2、3つ上かな?)は横島忠夫さん、だそうだ。
いきなり天井を突き破って落ちてくるなんて一般人には信じられない霊能事故―――しかも遥か上空に瞬間移動なんて母さんでも出来ない―――に、素早く(色んな意味で)対応出来たのは、どうもこういう異常事態に慣れてたかららしい。
一見冴えない彼だけど、なんとあの超ウルトラ難関GS試験を通って(!)今現在バイト先のGSの元で見習い中。
思わず尊敬の目で見てしまう私に、彼は照れくさそうにしていたんだけれど……。
私の身の上話になってから、話の方向性が変わってきた。
「無能には無能なりの立場がありますよねぇ……わたしの場合運もないし……」
「蛍ちゃん、泣くな! 女の子は強くなくてもええんや! 棍棒ぶん回したり、破魔札叩きつけたりだけが能やないっ!」
「そ、そうですよね! 戦闘能力だけが全てじゃないですよねっ」
「そうだ、ちくしょー! 例え霊能力が自由に使えなくても、GS試験は受かったんじゃー! 時給上げろー!」
「可哀想な横島さん……せっかく運が向いてきたのに……頼りの綱があっさりお亡くなりだなんてっ」
「バンダナー! カムバーック! 俺だけじゃどうにもこうにもならーんっ!」
―――シンパシーを感じてしまった。男の人の、しかも年上相手に。
横島忠夫さん。
聞けば聞くほど泣けてくるその生活、その人生。
高校に上がると同時に強制一人暮らし(仕送り極小)
時給255円の極貧丁稚生活(でいて超危険なGS家業)
霊能力皆無の状況で挑んだGS試験(しかも魔族絡み)
次々に襲い掛かってくるアクシデント(日常的に)
「……なんで生きてるんですか?」
「……自分でも不思議だなぁ」
どこか遠くを見ながら、さめざめと涙を流す横島さん。
親のスネを齧ってた私には直視できない……これでも恵まれてたんだなぁ、私。
ついさっき落下死しそうになった自分を棚に上げて、ぽんぽんと私が肩を叩いて慰めると、横島さんは『分かってくれるのは君だけやぁ』とさらに滝涙。
か、可愛いような……可哀想なような……。
―――ヨコ―――シマ―――
……ふと、一瞬何かが頭の中を横切った気がした。
横切った……というよりは、まるで一瞬だけ湖の水面に何かが見えて、すぐ沈んでしまったような……。
自分で言ってて良く分からないけど。
そんな一瞬掠めた”何か”のせいか、それとも自分の意思だったのか。
私は自然に、泣いている横島さんの頭を抱き寄せていた。
そっと横島さんを胸に抱きしめ、後ろ頭を撫でる。
「元気出して。そのうち、きっと良いことありますよ」
「―――」
「……横島さん?」
ふと、横島さんにまったく動きがないので、腕の力を緩めて顔を覗き込むと……って。
「わぁぁっ!? よ、横島さーんっ!?」
「う、うへへ……桃源郷や……あ、てふてふが〜ま〜て〜……」
……鼻血を出した上に白目を剥いて、昇天していた。
彼を開放しているうちに、日は沈み、窓の外はすっかり暗くなっていた。
放って帰っても良かったんだけど……ま、まあ、原因がアレだけど、一応私のせいだし。
そんなこんなで、壁に掛けられている時計の長針は既に8時を回っている。
もうそろそろ帰らなくちゃいけないんだけど……。
蛍ちゃんの被害予想講座〜♪
まず父さんの形見の玉、最低1個。最後なんか光ってたし、最悪全部。
次に爆発が起こった母さんの事務所一部屋。こっちも下手すると、事務所全体やその中にあったオカルトグッズ全部おしゃかになってるかも。
そして最後に母さん自身。母さんだし、さすがに死ぬ事はないと思うけど洒落にならない霊気爆発だったから大怪我してる可能性大。
被害総額、金銭にしたら100億円以上(精霊石も大量にあったので)。
父さんの形見は金銭に直すことすら不能。
母さんが入院することになったらその治療費、およびその間仕事を受けられないのでキャンセルなどなど……。
つまり―――
『蛍。怒らないからちょっとこっち来なさい』
「う、嘘つきーーっ! 絶対怒るー! 怒るっていうか殺されるー!」
「ぐぇぇぇっ、ほ、蛍ちゃん、首絞まってるから! さっきのこと怒ってるならすんまへんでしたー!」
「あ、ごめんなさい」
”下”から横島さんの悲鳴を聞いて何かを握り締めていた手を緩める。
無意識のうちに布団に寝ていた横島さんの上に跨って、首を絞めていたようだ。
……どんな無意識だ、私は。
とにかく、両手を上げて殺意がないことを示し―――
「許してー! 仕方なかったんやー! あのふにふにした感覚が全部悪いんやー! あ、今もふとももが気持ち」
「だ、黙ってくださいっ、本当に怒りますよ!」
「しもたー! また口にだしてたぁー!」
「もう……」
私は母さんの事務所に忍び込んだ時の格好のまま―――中学校の制服だったので、当然スカートだ。
顔を真っ赤にしてスカートの端を押さえながら、私は横島さんの上から降りる。
見られなかったかな……と、横島さんの顔をちらりと覗き見たのだけど。
意外や意外。
彼も真っ赤な顔で、視線を逸らしている。
さっきからの様子だと、てっきり足を上げた時に覗き込んでくるぐらいの事はしてくると思っていたのに。
……もしかして、割と純情な人?
ややあって、ポリポリと頬を掻きながら、身体を起こした横島さんは頭を下げた。
「ご、ごめん」
「……う、うん」
チッコチッコと、時計の秒針の動く音だけが聞こえる。
私達は妙に互いを意識しあってしまって、どうにも言葉を掛けられない。
帰るにしても、何も言わないで出て行くわけにも行かず……ただ時間だけが過ぎていった。
「あのさ、家まで送るよ」
「い、いえ、悪いですし」
「けど、事故でここに飛ばされたんなら全然ここら辺の地理分かんないだろ?」
「……でも」
「それに……」
「?」
「こんな可愛い子に夜の一人歩きなんてさせられんっ! 美少女と美人には親切にっ、これが俺のジャスティス!」
「……ぷっ」
「わはは、下心アリの台詞やけど、気にせんといてっ」
そんな気まずい沈黙を破ったのは、横島さんの方。
思いっきり迷惑掛けた―――殴ったし、首絞めたし―――私に、彼は親切な言葉。
本人の言うような下心は、まったく感じられなかった。
先ほどとは違い、ただこのぎこちない空気を和ませる為に言ったジョーク。
確かにスケベだけど……本当の彼は、紳士と言っても良いのかもしれない。
そんな彼の不器用な優しさが、どくんと胸を打つ。
だから、思わず……私は、
「よ、横島さん! お願いがあります!」
「へ?」
「わたしを―――ここに置いて下さいっ!」
そんな、血迷った事を、言ってしまった。
―――命と貞操の危機じゃ、後者の方がいくらかマシよね。
なんて計算がいくらか働いていたのは彼に内緒。
☆★あとがき★☆
……そして母の恐怖から逃れるために、何か重大な事を忘れている蛍なのでした。べんべん(棒読み)
>バジル様
蛍は父の事を全く知りません。
なので、父に気付くのはかなり後になるかも、です。
>紅様
下記の方もかなり言ってらっしゃいますが、私とは無関係であります。
その作品自体も読んだ事がありません。
……はふぅ、ネタ被り。
>九尾様
『時期』はGS試験直後です。
つまり、霊能力は(自分の意思で)まだ何にも使えません。
>矢沢様
時間移動かパラレルワールドかは……まだ秘密です。
>D,様
同上。ネタバレの為お答えできず。
……だけど、きっと美神は最後まで意地っ張りだったでしょう。
「この宿六がーっ!」みたいな。
>tojack様
さらに同上。秘密です。
でも、未亡人は嫌いじゃないです。
>リーマン様
……こんなんなりました(笑)
>スレイヤー様
件のSS読ませていただきました。
しかし、本編の方は読めませんね、夜華ですし。
そっちに引きずられるといけないので読まないほうがいいかもしれませんけど。
>偽バルタン様
基本コンセプトは女横島。
無能は無能なりに頑張ってるんです。
そして、横島本人の扱いですが……秘密っです。
>柳野雫様
ぽむ(手叩き)
妖怪に好かれる、と(メモメモ)
もちろん、蛍も好かれます(笑)
レス返しは以上(--zzz
……皆様、ご感想ありがとうございました(ぺこり
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