染める・・・
染まる・・・
染めていく・・・
真っ赤に染める・・・
そしたらお前は、俺の雌・・・
第三話 汚されるもの 中編
惑星テラツーは六つの都市国家からなる。
300年前、事故を起こし宇宙を漂流していた移民船メソポタミア号が流れ着き、生き残った6人の男性によって作られた星―
彼らは遺伝子操作とクローン技術によって子孫を増やし、それぞれ歴史と文化を形成していった。だが、星の環境か、はたまた仏の意思か、どんなに試行錯誤を重ねても『女性』を作り出すことはできなかった。
そこで一計を案じた彼らは女性を模した存在、『マリオネット』を製造した。やがて、それらは都市開発から愛玩用とさまざまにバリエーションを増やしていった。
だが、その発展の陰でもともとの発祥であった『女性』の存在は少しずつ忘れ去られていった―
その都市国家のひとつゲルマニアは完全な要塞都市だった。建物の細部にはセンサーやレーザーが取り付けられて容易に攻略することはできない。また、完全なる統治のために不穏分子や反逆者をことごとく弾圧してきた。
その都市の中央には最も尊敬され、あがめられた建築物がある。
ゲルマニア総統府―ゲルマニア総統ファウストが住む、この都市でもっとも豪奢な建築物である。
「ハイル・ファウスト!!」
「総統閣下、万歳!!」
「閣下!!万歳!!」
歓呼の声が響き、偉大なる総統の登場を数十人の将校が待ち構えていた。重厚な扉が音を立てて開くと、均衡の取れたたくましい身体と金髪の男がニヒルな笑みを浮かべて、それと鉄の鎖を三本右手につかんで入ってきた。鎖の先には首輪をつけられた白い裸体のマリオネット―セイバードールスが犬のように四つん這いになって地面を歩いていた。それを見て、あるものは嫌悪感を示しあるものは興味深そうに見入っていた。
「ティーゲル・・・・」
名を呼ばれた赤髪のマリオネットが顔を上げた。嫌悪感など微塵も感じられない、快楽に陶酔しきった潤んだ瞳を主に向け、その皮の高級な靴を音を立てながら舐めてみせた。他のマリオネットは恨めしそうにその様子を見ている。その艶かしくエロティックにうごめく肢体に昂然と並ぶ将校たちものどを鳴らしてしまう。
いや、一人だけその様子を寂しげに見つめていた。将軍ルーベンスはファウストの側近の一人で、その情報担当としてすばらしい手腕を発揮していた。そのため、将軍の中では誰よりも彼と接する時間が多く、自分以外には明かさないその胸のうちを知っているだけあって悲しまずにはいられなかった。
「総統閣下、ペテルブルク侵攻についての協議はどうなったのですか?」
「フム・・・そうであったな、すまないルーベンス」
その様子を見た他の将軍は納得のいかない表情でルーベンスを見た。たかが一介の将軍に過ぎない若蔵が、何故尊敬する総統閣下に意見するのか。
それに気づいたのか、ファウストはそちらへ目を向けると別のマリオネットの名を呼んだ。
「ルクス・・・」
名を呼ばれた黒髪のマリオネットは一瞬でその言葉の意味を理解し、行動に移していた。
シュン!!
ルクスが跳躍した。
降り立ったのは、ルーベンスの真向かいにいた将軍の目の前だった。
「なっ・・・?!」
次の言葉を発することなく、将軍はルクスの冷酷な笑みを目に焼き付けたまま心臓を抉り取られていた。
「ルーベンス、すまんが別の将軍候補のデータを後で持ってきてくれんか?」
「かしこまりました、総統閣下」
床に倒れた死体を見ながら他の将軍たちは自分たちの身を案じた。総統が最も信頼を寄せる男には、絶対に意見することは許されないのだと知ったことも付け加えておこう。
「ジーク・ハイル!!」
「ハイル・ファウスト!!」
会議室に響き渡る声に満足そうにうなずきながら、暴君は満足げにうなずいた。
「では、諸君。これよりペテルブルク攻略の会議を始めよう」
これより、ファウストの大いなる野望が始まった。
世界に史上最大の危機が訪れようとしていた。
ジャポネス城での会議が一段落して小樽は天守閣の屋根に登って昼寝を楽しんでいた。午後の会議は参加しない予定だったので、一眠りしたら商店街で食材の買い出しに行くことにしていた。
とはいえ、小樽の頭の中は先ほどの奇妙な囁き声のことでいっぱいだった。
『ありゃ、確かに誰かがいる証拠だ。しかし、将軍様は何だって俺に隠しておくんだ?わからねぇ・・・・・』
小樽は考えることよりも身体を動かすことのほうが得意である。あまり複雑なことはわからないので、大抵はすぐにやめてしまうが今回は別だった。知りたいことは山ほどあったが、恩人のことをとやかく詮索するのは良くないと考え、とりあえず先ほどの予定通り買い物に出向くことにした。
ジャポネスは惑星テラツーに点在する六つの都市のなかで、二番目に人口が多い。そこを統治する将軍・家安の国民からの信頼は厚く、民主的なジャポネスのシンボルでもあった。
また、諸外国からの往来も多いこの国には多くの品物があふれ見ているだけでも楽しいところであった。
「えーーと、サラダ油は買ってあるしにんじんもたまねぎも冷蔵庫にあるし・・・なんでぇ!!天ぷらの材料を買う必要ねぇじゃねぇか!!」
「ほい!!旦那!!それじゃあ、この最新型マリオネット・まりあはいかがでかすかい?保証期間は最長15年間、もし壊れても御代は一切無料!!」
「悪い、いらねぇ!!んじゃな」
小樽はマリオネット専門店の前をさっさと通り過ぎた。こう言ってはなんだが、小樽はマリオネットというものに欲望―つまり性欲―が沸かない。それは取り込まれた獣の遺伝子の作用によるものだった。確かに最新型のマリオネットや愛玩用マリオネットには興味はあった。しかし、獣の遺伝子が持つ記憶、暖かさや肌の感触といった雌にとって重要なものを知る小樽にはどれも偽者だった。おかげで発情期になると、とんでもない苦しみに耐えなければならなかったが。
「はあーー・・・・つらい・・・」
「そんなにきついなら、僕のところへ来ればいいじゃないか!!小樽君、君に苦労はさせないよ!!」
「まいどまいど、お前はじゃまなんだよ!!」
「んじゃ、新しいマリオネットを購入すればいいじゃないか。何で買わないんだい?」
「事情があるんだよ・・・・大人の事情が・・・」
何をもってして大人の事情というのか知らないが、発情期をどう乗り越えるかは小樽にとって死活問題だった。大抵は薬で何とかこらえられるのだが、今回はそれも無駄だった。原因はあの『声』である。あの細い鈴虫のような響きが、小樽の本能を少しばかり刺激し、発情させていた。となると、やはりあの声の正体を知りたかった。
「わりぃな、花形。用事があるから失礼するわ!!」
「え?!あっ!!小樽くぅぅぅぅぅぅん!!僕の愛を受けとってくれぇぇぇぇぇえ」
「いらん!!」
そのころ、大江久保 彦左衛門は家安のもとへ急いでいた。
部屋のふすまを勢いよく開くと叫んだ。
「上様!!一大事にございます!!ペテルブルクが陥落いたしました!!」
「なんと!!ペテルブルクが陥落したとな?!」
ペテルブルクはゲルマニアに一番近い都市である。長い間友好条約を結んでいたが、ゲルマニアの一方的な条約廃棄を受けてやむなく戦争になったのである。結果はペテルブルクの惨敗。見るも無残に荒れ果てた国土が、家安の心を乱した。
「彦左衛門よ、小樽をここへ!!早急に動いてもらわねばならぬかも知れぬ」
「は!!」
「将軍様、お呼びですかい?」
のんびりした声がタイミング良く聞こえたので、二人は思わずこけた。
「おお・・・小樽か。おぬしに話がある」
「はっ!!」
先ほどまでの問題は頭の片隅に追いやられ、今はすっかり戦闘モードになっていた。
家安は小樽の様子を見て、真剣な面持ちで話した。
「小樽よ、残念なことじゃ。ペテルブルクが陥落した!!」
「いいっ!!それじゃ・・・これで、戦争ですかい!!」
「うむ!!小樽よ、お主にはすまぬが一週間以内に荷物をまとめ、ゲルマニアへ飛んでもらう。よいか!!」
小樽が了承しようとしたそのときであった。
バキィィィィィィィィィ!!
城の厚い壁を突き破って何者かが侵入してきたのだ。
「ぬうっ!!」
「誰でぃ!!」
砂煙の向こうから現れたのは隻眼のマリオネットだった。
「お主・・・ファウストの手のものか!!」
「あたしの名は、パンター!!ファウスト様のセイバードールスさ!!死ね、家安!!」
続く!!
申し訳ありません!!少々内容が長くなってしまい、チェリーを出すところまで行きませんでした。
次回はチェリー登場&18禁の予定です!!
レスを下さる皆様、ありがとうございます!!
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