「はあ、はあ。駄目、このままじゃあ・・・・。」
おキヌとクマタカの戦いは当初互角の様相を見せていたが、徐々におキヌは押されつつあった。ダメージは大差ないが、スタミナの差でおキヌは圧倒的に負けていたのだ。
「こうなったら・!」
おキヌは決意をかためる。今までは大きいダメージを受ける事を避けたリスクの少ない方法を選んでいたがそのままそれを続ければ負けるのがどちらかは明らかである。おキヌは危険を冒してでも勝ちに行く事を決めた。
「ピッピー!!」
クマタカが吼え飛び掛ってくる。それに対し、おキヌは完璧な回避を目指していたがわざと肩で受け止める。
「くっ・・・はあっ!!」
そして動きが止まった瞬間、おキヌ痛みに顔をしかめながらも掌ていを放つ。その直撃を受けて苦痛の悲鳴をあげるクマタカ。撃を仕掛けようとするがそれよりも早くクマタカは空中に逃げた。しかし、ダメージは大きいらしくふらふらしている。
「今の一撃かなり効いてるんだ。これなら!!」
ダメージを受けている今なら力を認め契約してくれるかもしれないと考え、おキヌは笛をとりだし吹き出した。
(お願い!!私に力を貸して!!)
祈りを込めて笛を吹く。それを受けて停止するクマタカ、そしてしばらくすると、ゆっくりとおキヌの顔の前にやってくる。
『オマエヲ・・・・アルジ・・・ミトメル』
そして、念話でそう語りかけてきた。それで契約は完了。
おキヌ、試験完了・クマタカと契約成功する!!
「ちっ、つまらねえ、こんなものかよ。」
強敵との戦いを期待していた雪之丞は、その期待を裏切った魔族に対し、愚痴をもらす。だが、同時に自分が強くなったことを実感した。戦った魔族は少なくとも魔力の強さに置いては勘九郎並はあった以前ならダメージすら与えられなかった相手をこうも容易く倒せた事に自分自身の成長を実感する。だが、その時、魔族が起き上がってきた。
「んっ、まだくたばってなかったのか?今、止めを・・・・。」
その時、雪之丞は魔族の雰囲気が今までと違う事に気付いた。
「・・・どうやら、俺は本当に貴様を、いや、人間を侮っていたらしい。認めよう、お前は強い。全力を出さなければ勝てない相手だ。」
魔族の魔力が高まり、同時に濃密さを増していく。
「へっ、それでこそやりがいがあるってもんだぜ!!」
それを見て生き生きとする雪之丞。そして飛び出した。
「そのスピードは対したものだ!!だが、他の部分ががら空きだぞ!!」
それに対し魔力砲を連続して放ち迎撃してくる魔族。今の雪之丞は魔装術を脚部に集中してしまっている為、GS試験の時のサイキックソーサーを使った横島と同じ、と、までは行かないにしても他の部分は並の防御力しかなくなっている。つまり魔族の強力な魔力砲を一発でも喰らえばアウトなのだ。必死に回避する雪之丞、だが、魔力砲の衝撃で出来た地面の割れ目に足を挟んでしまった。
「くっ、しまっ!!」
「喰らえ!!」
動きが止まったところに今までよりも強力な霊波砲をはなつ魔族。激しい爆発、砂煙が舞う。そして、視界が晴れた時、雪之丞の姿はどこにも無かった。
「直前で回避したか!!流石だな!!」
しかし、魔族は雪之丞の霊気を捕らえていた。雪之丞は攻撃を喰らう直前、強化された脚力を使って上空に退避していたのである。
「だが、飛べないお前では空中で回避はできまい!!これで終わりだ!!」
「くそ!!やられてたまるか!!」
魔力砲が放たれる。雪之丞は魔装は右腕に収束してそれを盾にして受け止める。その結果ノーダメージとはいかないものも何とか持ちこたえ、地面に着地した。
「いまのに耐えるか。だが、次で止めだ。」
そう言って魔力を集中する魔族に対して、雪之丞は腕を引いた体勢をつくった。
「なら、俺も切り札をみせてやるよ。まだ、未完成なんだが、とりあえず、今の俺が使える最強の技だ。」
雪之丞の切り札、その発想は以外な所からでてきた。妙神山さんで修業していた時、加速空間の中での修業の時やったゲームの中に、あるアニメをゲーム化した格闘ゲームがあった。そしてそれをその時かなりやりこんだ。それと同じゲームが幻海の家にもあったのを見た時、彼はふと思いついたのだ。
“この技を実際にやってみたらおもしろいんじゃないか”と
3日と言う短い期間で右腕と脚部、それぞれの強化形態を編み出したもののそれだけではルシオラやべスパと言った相手には通じない事はわかっていた。しかし、それ以上威力を上げる方法は霊力を上げる以外では3つしかない。相手に有利な属性を持たせるか、収束率をさらにあげるか、加速した状態で叩きこむか、である。
1つ目は論外。それは長い修業の末か横島の文珠のような天性の才能を持つものにしかできない。
2つ目も難しい。今の制御力では収束率を後少しあげるのが限界であるし、収束させる分さらに無防備な部分が見えてしまう。
そして3つ目、マリアの攻撃に対してのメドーサなどの例を見てもわかるように魔族に対しても、実体化して存在している以上物理的な法則に基づいて威力を上げればダメージは増大させられる。だが、この原理を実行するには高速で移動しながらスピードを殺さず、収束した攻撃を仕掛けなければならない。しかし、脚部強化形態でそんな事を実行すれば間違いなくバランスを崩してすっ転ぶ。あるいは脚部強化形態から右腕収束形態への形態を移行するなどという案も彼は考えたが、瞬時に移行などまだ不可能であったし、うまくやらねばやはりバランスを崩してしまう。
けれど、雪之丞は思いついたのだ。高速移動と収束攻撃を両立する型を。
「衝撃の・・・・ファァァーストブリィィィィッド!!!!!」
右腕の肩の部分から霊力が放出し、それを推進力として雪之丞は跳んだ。同時に魔族が魔力砲を放つ。それに対し雪之丞は拳を魔力砲にぶち当て・・・・・・・・・・貫いた。これが雪之丞の答え、魔装術究極形態のひとつ“推進力を持った腕”最高速であいてに突撃し拳を叩き込むと言う荒業。霊力の消費量は半端ではないが、高スピードで移動している為、横方からの狙いが定めづらく、前方からの攻撃は全て貫く、あまりにも乱暴な、しかし、攻防一体の技である。
「そしてえええええええ!!!!撃滅の・・・・・セカァァァァンドブリィィィィッド!!!!」
肩口まで覆っていた魔装がさらに収束され、肘口まで覆う形になる。そしてさらに加速する。避けようとする魔族に対し雪之丞は腕を捜査し方向転換して追いかける。そして、今出来る極限の一撃を叩き込んだ。
雪之丞、試験完了・魔族に勝利する!!
横島が幻海の制空圏に入る。幻海は衝撃波でそれを弾き飛ばそうとする、だが、その攻撃は跳ね返された。ついで放たれる衝撃、だがそれらも全て跳ね返される。
「!!・・・なるほど、そういう使い方をした訳かい。」
幻海は横島が何をやったのかに気付き、感心したような表情を見せる。横島が生み出した文珠は“合”霊波長を自動で相手に合わせ、霊光鏡反射を生み出す事によって前方からの相手の霊波を全て跳ね返す。そして、幻海に対し、手の届く位置まで移動した。
「霊光弾!!」
拳より強力な霊拳を放つ。だが、幻海は上に跳んでかわし、そのまま蹴りを放った。
「ぐわっ。」
蹴り飛ばされ吹っ飛ぶ横島。すぐさま起き上がるが、その時には幻海の姿がすぐ目の前にあった。
「くっ!!」
腕をクロスさせ、さらにその前方にサイキックソーサーを生み出し防御する。
「霊光衝撃波!!」
幻海の動きが止まったところで、横島は霊波の波によって振動を起こし、霊的な分子構造の破壊を生み出す霊光波動拳の秘技を繰り出す。だが、同時に幻海も同じ技を繰り出してきた。互いの技がぶつかりあい、お互い弾き飛ばされる。
「ずいぶん、技を練れるようになってきたじゃないか。」
飛ばされて空中に舞った幻海はそのまま足を横島の方に向け、そこから霊波砲を放ってきた。
「なっ!?文珠!!!」
“護”の文珠を使ってその攻撃を防ぐ横島、そこで幻海は地面に着地した。
「あ、足からも霊波砲って撃てるのか!?」
「当たり前だろ。むしろ、手から撃てない方がおかしいってもんさ。」
人間は“手”を使う生き物であるから、手を使って術を行使するのが、最も簡単なのは道理である。だが、幻海ほどの技量があれば、霊波砲のような単純な技ならそれこそ身体の何処からでも出す事が可能だった。
「なるほど、じゃあ、俺も試して見るか。霊光操弾!!」
横島は足から霊気の弾丸を生み出し、それをサッカーボールのように蹴り飛ばした。幻海はそれをかわすがボールは方向を変えて再び幻海の方にとんでくる。彼女はそれを片手で受け止めそのままかき消した。
「おお!!できたー!!」
横島が感動を示す。ちなみに今、使った霊光操弾は放った霊弾を自由にコントロールできる霊光波動拳の割と初歩の技である。当初は霊光操気弾と名付ける予定だったのだが、何故かその名をつけると非常にへタレた技になる気がしたので霊光波動拳の先代が今の名前に決定したという言われがある。
「感動してるとこ悪いけどね。外で雪之丞が思ったより、苦戦してるみたいだよ。早く決着つけないとやばいんじゃないのかね?」
「何!?」
その言葉に横島はあせる。幻海がこの場で試験を中断してくれるような甘い性格をしていない事はわかっている。かといって負ける訳にはいかない。ならば・・・・、横島は文珠は一つ生み出し“瞬”の文字を刻みこむとさらに二つの文珠に強く念を込める。
「賭けにでるつもりだね?来な。」
幻海が構えをとる。感覚まで引き上げるには“超”“加”“速”として3文字の文珠が必要。しかし、ただ短距離を高速移動するだけなら“瞬”の文字一文字でも十分。そして横島は“瞬”の文字を発動させ、次の瞬間には幻海のすぐ目の前にまで移動している。そこで二つの文殊“同”“期”を発動させる。
「奥義・ 波翔!!」
両手から霊波を生み出し、それを共鳴させることによって、爆発的な力を生み出す霊光波動拳の奥義。制御が難しく、また肉体に関する反動が強すぎて年を取った幻海では使えなかった技でもある。その技に対し幻海の方も同じ技を放ち対抗する。技がぶつかり合い、そして“同”“期”によりより完璧な共鳴を行なっていた横島が打ち勝った。幻海を弾き飛ばし、そして彼女が壁に叩きつけられ、床に落ちた。
「や、やば!!もしかしてやりすぎたか!?」
それを見て慌てて駆け寄る横島、すると、その瞬間、幻海は起き上がり、横島にボディーブローを見舞った。
「油断大敵だよ。でも、まあ、あたしに一撃ダメージを与えた訳だから試験は合格だ。今度の戦い、精々ふんばりなよ。」
腹をおさえ、うずくまる横島に対し、幻海がそう言葉を投げかけた。
横島試験完了・幻海に認められる!!
(後書き)
ユッキーの技どうでしょう?ちょっと皆様の反応が不安です。次回はついにルシオラ登場、の予定です。