修業・試験・おキヌ
「あんたが戦ってもらう相手はこいつだよ。」
そう言って幻海が呼び出したのは一羽の鷹だった。
「!!・・・・・・・・・・・。」
おキヌはその姿に一瞬見ほれる。気高さを感じさせる力強いフォルム。この式神を本当に自分が従えるなんて事ができるのかと一瞬不安になる。
「こいつの名はクマタカ。見ての通り鷹の式神だ。見事こいつを従えてみな。それじゃあ、あたしは横島の所にいくからね。しっかりやりな。」
「はい!」
だが、おキヌはそんな不安を振り払い力強く答えた。ここで怖気づいたらいままでと同じ、そう自分に言い聞かせ精神を強く持つ。そんな彼女を幻海は満足そうに見ると部屋から立ち去って行った。そして、残された一人と一羽はにらみ合う。そして先に仕掛けてきたのはクマタカだった。何と巨大化して飛び掛ってくる。鋭い嘴で彼女を突き刺そうとするそれをかわすおキヌ。
「っつ・・・・。」
彼女の脇から血がにじむ。予想以上に速いスピードに彼女はかわしきる事ができなかったのだ。クマタカは空中に身を舞わせるとおキヌの方に再び狙いを定める。
「ま、負けません!!」
おキヌが構えを取って迎え撃つ。そしてクマタカが接近した瞬間、鷹はそのままひっくり返された。“空気投げ”、合気でそう呼ばれる技を霊力を使って応用したのである。
「ピッピー・ピッピー!!」
そのまま地面に落ちそうになるが体勢を立て直し、再び宙に舞うクマタカ。そして先ほどよりもおキヌの方に警戒を強める。そして両者は互いに睨みあう膠着状態に入った。
修業・試験・雪之丞
「なんだ、貴様は?幻海・・・・ではないな。確か、人間の老婆という話だがどこにいる?」
雪之丞の姿を見た魔族が不機嫌そうな声でそう言う。その態度に雪之丞は少しムカッとくるがそれを隠してからかうように言った。
「そっちこそ何もんだ?ここは私有地だぜ、勝手に入るなよ。それから用があるなら菓子折りの一つでも持ってこい。」
と、自分だってしてないような事をぬけぬけと言う。その態度に魔族はいらつきを見せる。
「ちっ、うざい人間だ。まったく、何故俺があんな作られたばかりの道具の下についてこんな仕事をせねばいかん。大体、嘗て有名だったがなんだか知らんが所詮人間のしかもロートルだろうが、神族ならともかく何故わざわざ殺しておかねばならん。」
ぶつぶつ言いながら目的を全て暴露してくれる魔族。それを聞いて雪之丞はニヤリとした。
「なるほど、そういう事かよ。それなら遠慮なくぶっ飛ばしちまっていい訳だな。」
「なんだと?ふざけるな、人間!!貴様など2秒で惨殺してくれるわ!!」
「へっ!!人間舐めると痛い目に会うぜ!!」
そう言って雪之丞が魔装術を纏い飛び出す。
「はっ、その程度の力で・・・・・・。」
それに対し余裕の表情を見せる魔族、だが、すぐにその表情が変わった。
「なっ!?」
魔装が右腕に収束され、その力が格段に上がる。そしてそれに気付いた時には解き既に遅く。その一撃をまともに喰らった魔族が吹き飛ぶ。
「ぐはっ。」
数十メートル先まで飛ばされた魔族は起き上がり、憤怒の表情を見せる。
「くっ、まさか人間がここまでの力を見せるとはな。だが、俺にもはや油断は無い。貴様に勝ち目は・・・・・いない、どこだ!?」
「ここだよ。」
魔族が視界の先に雪之丞の姿が無い事に気付いたその時、声はすぐそばから聞こえてきた。そして振り向いたその先には雪之丞の足があった。
「ごべっ。」
顔面にまともに蹴りを喰らう魔族。雪之丞は魔族を殴り飛ばした後、魔装を脚部の強化形態へと変化させると、間合いを一気につめ、そのまま強化された足で全力の蹴りを見舞ったのだった。
修業・試験・横島
「覚悟はいいかい。」
「あ、ああ。」
幻海の言葉に横島は緊張しながら頷く。ここまで来て、怖気づく事など如何に彼とてできない。そして試合が始まる。
「はあああ!!!」
先手必勝とばかりに横島は霊波刀を出すと間合いを詰めようとする。だが、ある程度まで近づいた瞬間、彼ははじかれた。
「なっ!?」
「真正面から突っ込んでもあたしには勝てないよ。」
霊光波動拳、構えさえも取らずただ方向性とある程度の収束性をもった気を発することで幻海は横島を吹き飛ばしたのだ。
「くっ、なら、これで!!」
横島は空中に20以上のサイキックソーサーを生み出す。そしてそれを操作し、幻海を囲むように配置した。それに対し幻海は無言で両手を広げた。
「喰らえ!!!!」
20のサイキックソーサーを一斉に幻海目掛けて飛ばす。逃げ場のないほどに密集した攻撃。だが、幻海は欠片も慌てなかった。
「喝!!」
掛け声と共に両手から霊波砲が放たれる。そしてそれが分裂し、全てのサイキックソーサーを撃墜した。
「たあ!!」
だが、横島は既に次の行動に移していた。サイキックソーサーを放った瞬間、彼女の側部に周り、そこから攻め込もうとした。だが、しかし、その身体はまたもはじかれる。
「はあ、はあ、マジかよ・・・・。」
その力の差に横島は愕然とする。横島とてもはや彼女に勝てると思っていた訳ではない。それでも、修業により力をつけ、ある程度渡り合える程度にはその差を埋める事ができていると思っていた。だが、現実は違った。霊波刀、サイキックソーサー、教えられた技巧、それらを駆使し、横島はいまだ、幻海の半径2メートル以内に踏み込む事すらできないでいるのだ。
「・・・・・制空圏って奴か?」
横島は漫画か何かで読んだか聞いた知識を思い出す。熟達させた武道家ならば自分の武器が届く、一定の間合いより内に入らせないという、だが、2メートルという長い距離は霊波動を極めた幻海ならではと言えた。
「こうなったら、これしかないな。」
そう言って横島は文珠をとりだす。そして“爆”と文字を刻みこませた文珠に“加”“速”という効果を付与して弾丸のような速度で飛ばした。3文字もの文珠を使いながら実質一文字の効果しか得られぬ贅沢な使い方だが、小型ミサイルを飛ばすのと同じような効果が得られる強力な使い方でもある。例え霊波動を使って防ごうとその力の余波までも防がねばそれは彼女の側にまわる。これでダメージを与えられなかったとしても完璧な防御に対し、隙ぐらいは作れる。横島はそう考えた。そして文珠は彼女の制空圏よりも初めて内側に入り、“当たった”。そう“当たって”そのまま何も怒らず彼女の掌に落ちた。彼女はそれを投げ返してくる。先ほど横島が文珠を使って為したように霊波動を使って加速させて。
「なっ!?」
その文珠は横島に直撃する。文珠にこめられた“倒”という文字の効果によって彼はそのまま地面に叩きつけられた。
「言った筈だよ。文珠は諸刃の刃だってね。もっと工夫おし。」
「反則やー!!!いくらなんでも反則過ぎやー!!あのスピードでも対応できるなんて非常識やー!!」
横島が叫び、そして一つの記憶を呼び起こす。それはまだ横島が記憶を取り戻す前で幻海が若返る前の事だった。
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「横島、文珠の弱点、いや、“欠陥”をおしえてやる。」
「欠陥?何かまずいことがあるんですか?」
ある日の修業時、幻海はそう言い出してきた。文珠の利便性を知る横島としては欠陥というのが納得できないでいる。
「そうさねえ。実際に見せて見た方が早いだろ。試しに“止”とでも文字を入れてあたしに押し当てて発動させてみな。」
「えっ、いいんですか?そんなことして。」
「かまわないから早くおし。」
幻海の言葉に横島は戸惑いながら言われたとおりする。しかし、幻海に押し当てた文珠は横島が発動させようとしても発動しなかった。
「えっ!?どうして。」
「その文珠を良く見直してみな。」
文珠が発動しなかった事に動揺する横島。言われるままに文珠を見ると入れた筈の文字が消えていた。
「それが文珠の欠陥さ。文珠は念をこめれば誰でも使えると言う利便性の代りにより強い念に影響されることで命令を“打ち消されたり”、“書き換えられたり”してしまうという危険性を持っている。今、さっきは打ち消して見せた。今度は書き換えて見せるからもう一度同じ事をやってみな。」
「は、はい。」
言われた通り、再び文珠を押し付ける。すると、文珠がひかり、その光が消えた時、幻海の姿は若い女性へと変わっていた。
「今のは文字を“若”に書き換えたのさ。こういう風に下手をすれば自分の力が相手に逆に利用されてしまうことになる。もっと最悪な場合になれば、自分が放った攻撃で逆にやられるってことも・・・・・・・・あんた、ちゃんと聞いているかい?」
説明の途中で横島の様子がおかしい事に幻海は気づく。すると横島はなにやらぶつぶつ言っていた。
「若い・・・・・。肌すべすべ・・・・・。以外にありそうな胸・・・・・。ずっと前から愛してましたー!!!!」
そして次の瞬間、横島は野獣のように飛びかかり、幻海の8割出力霊光弾を喰らう事になった。ちなみに幻海はこの時はすぐにまた元の姿に戻り、横島の記憶も戻らなかった。幻海が本格的に若返り、横島の記憶が戻ったのはまた、別の話である。
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「さて、次はどうする?あきらめるかい?」
立ち上がった横島を挑発する幻海、横島は文珠3つを握り締め、切り札の一つを発動させる。
「“超”“加”“速”」
文珠を使った直接攻撃は通用しない。だが、補助的な使い方をするならば、と考え横島は文珠で超加速を発動させる。そしてその発動の瞬間、彼の周りの全てのものが“速くなった”。
「なっ!?」
そしてやがてその状態が途切れ、元に戻る。それを待っていたように幻海は口を開いた。
「距離が開いているからって油断しない事だね。直接触れなくても“念”はこめられるんだよ。今のは“加”の文字を“減”に書き換え、“超減速”を発動させた。実戦なら致命的だね。」
「!!・・・・・・。」
あまりの驚きに横島はもはや言葉もでない。そんな横島に幻海は話して聞かせた。
「念の強さは霊力の強さとは違う。そうしたいと強く願う意思だ。それに関してはむしろ人間の方が神魔よりも強い位だ。必要なのは強い意志と、その念を効率よく込める制御力。もともと文珠があんたが作ったものである以上、念の強さが同じならあんたの意思を最優先で働かせてくれる、制御力もあんたはそれなりに備えてきている。後は強く念じさえすればあたしだって、神魔だって簡単には揺るがせない。誰よりも強く、そして自由な意思を持つ事、それが文珠を活かす方法であり、人間が人間以上の相手と渡り合うのに必要な事だよ。」
それだけ言うと、幻海は再び戦闘態勢に入る。
「さて、口頭での教授することはこれで終わりだ。後は実施で教えてやるから、かかってきな。」
言葉を聞いて、横島は文珠一つに文字を込める。複数の文珠に意思を拡散せず、ただ一文字に集中、そしてそれを補助として、己の持てる全てをかけ、飛び込んだ。
(後書き)
文珠に関してはずっと前から考えていた設定です。長所と短所は表裏一体。利便性、普及性の高いWindowsがウィルスに弱いように文珠もこういった妨害方法があるのではと考えていました。どうでしょうか?
それから、このssでは記憶喪失の間も横島の性格はあまり変わっていないことになってます。あ、後、クマタカの元ネタは・・・・・・・言わなくてもわかりますよね(笑)実は結構原型なかったりするのでファンの方怒らないでくださいね。後、わからなくて聞きたいって言う人があれば教えます。ところで、鷹って何て鳴くんですかね?
現段階の霊力
クマタカ 389マイト
幻海 1208(403+805)マイト
雪之丞・右腕収束形態 492マイト