東京旧市街地区――郊外
人工的な明かりが一切無く、星空の光だけが辺りを朧げに灯している。
タッタッタッタッタッ
そこには、一人の靴音と――
ズルズルズルズルズルズル
一つの怪音が響いていた。
GSB横島修羅黙示録!!リポート4
一つの影――横島は先程から延々と走っていた・・・20分程。
タッタッタッタットッ
「チィ!」
横島は後ろから聞こえてくる風切り音を避けるように右に跳ぶ。
ドォン ドォン ドォン
羽が横島の左脇に、舗装されていない土の大地に拳大の穴を穿つ。
(このままだと、いづれ追いつかれるな)
見た目と裏腹に中々俊敏な動きを見せる後ろの異形は、横島を捉えようと大量の羽――羽弾を飛ばしてくる。
横島が一瞬でも動きを止めれば、たちまち体は穴だらけと化すだろう。
パパパパンッ!
右手に持つ拳銃――銀製のソレを振り向きざまに異形に向けて、発砲する・・・が、
「フゥオォオオオオオオオオオオ!!」
弾丸が肉に埋まるだけであり、全く効果が見られない・・・ただ相手を挑発しただけに終わる。
(銀製の銃弾も効かないって事は・・・やはりどういった形でかは知らないが神族の霊基片を取り入れられてると考えたほうがいいな)
銀とは元来より、魔を祓い魔を滅ぼすモノである。
魔に属すモノだと、銀に触れただけでも火傷を起こすと言われている
が、異形は全くのノーダメージ・・・ここから推察するには銀と相性がとても良い神族か、それの力が付与されていると考えられる。
(それに、霊基片なんて提供しそうな奴には心当たりがあるしな)
バイザーで目元は隠されて見えないが、口元には一瞬昏い笑みが浮かぶ
――が、脅威を前にしての考え事は命取りとなる。
ブォオオ
「しまっ!ちぃ!!」
間合いを詰めてきた異形はその発達した右腕が、横島を掴もうと掌を広げながら横から叩きつけて来る。
――咄嗟の判断で左手に持つロッドを、迫る右腕と自分の体の間に構える。
バキィッ
ロッドは折れ曲がり、使い物に為らなくなったがお蔭で衝撃は殆ど殺せる
――しかし、その腕からは逃れる事までは出来なかった。
ミシミシミシ
「ッ・・・・ガァアアアア!!」
万力のような握力で、右手の中に捕らえたモノを握りつぶそうと力を込める。
(やば・・・意識が遠のく)
体中から上げる悲鳴を聞きながら、横島は懸命にこの窮地を逃れる方法を考える。
――しかし事態は更に悪くなる。
フォォォォ
異形の中心部―――人間の女性の顔がお面のようについている、その更に上に乗ってるように在る、異様な物体の口のような部分から霊気が溜まっていくのが、横島は辛うじて分かった。
「ぅぅぅ・・・ぁぁぁ!!」
(霊波砲で頭を吹き飛ばそうとしてるのか・・・くっ・・・時間が無い・・・考えろ・・)
しかし、横島が自由に動かせる部分は頭と――もうすぐ吹き飛ばされるが、そこと両足・・・
(――足!!)
横島は最後の気力を振り絞り、足の部分に『力』を入れて思いっきり振る
ドゴッ!!
「――グォオオオオオオオオ!!」
横島の振った足先――ブーツ(鉄板入り)が思い切りよく吹き飛び異形の頭部を直撃した。
これにより、溜めていた霊波は空気中へと霧散した。
(文殊を残しておいて助かった)
横島は、ブーツに埋め込んでいた[加][速]の文殊を作動させたのだ。ジャミングされてコントロールできない文殊は暴走し、ブーツだけを吹き飛ばしたのだ・・・その先にいた異形の頭部目掛けて。
横島は自分の体が特に損傷してないのを確かめると、ふらつきながらも異形との距離を離そうと歩き出した。
―――異形に思考能力など存在しない
異形の体のベースとなる女性GSの自我は、神族の霊基片を霊体に取り込ませられた時点で既に呑み込まれている・・・霊基片の持っている力の衝動に。
ズル・・・ズル・・・
異形は歩き出す・・・自身に埋められている呪縛の衝動に突き動かされて。
『ユコシマ・タダオ・ノ・ショウキョ』
ソレ・・・異形には横島の霊波パターンがインプットされており、何処までも追跡できるようになっている。
ズンッ!
近くで、何かが倒れる音がする――
『モクヒョウ・ノ・レイハ・カンチ』
音がしたほうへ、異形は足を向ける・・・そこには未だに撤去されていない朽ちた電柱に足を挟まれ動けない横島の姿があった。
ズルリ・・・ズルリ・・・
異形が横島の元へと近づく―――
―――横島の顔が恐怖に歪む
その発達した右腕を振り上げる―――
―――もがく横島
グシャ
異形の振り下ろした腕の下から、赤い液体が流れ出してくる
「・・・・・・・」
それに何の感慨も抱かない異形――ソレはプログラムされた事以外動けない為、身じろぎを一切しない・・・それが、
ズドバババババンッ!
「ッガァアアアアアアアアア!?」
突如、上空から降ってくる何枚もの光の円盤によってその身を抉り取られ、その余りの激痛に体を震わせる。
「ッフオォオオオオオオオ!!」
――即座に迎撃しようと円盤が飛んできた方向に向けて羽弾を飛ばそうとして・・・その羽がまた戻ってきた円盤によってもぎ取られてゆく。
「ッフォオオオオ・・・・・ォォオオオオオ」
最早、虫の息の異形・・・それでもその戦意は衰えず視線を上・・・半分朽ちた電柱の上へと向ける―――そこには
黒い外套を風に靡かせ、下の異形を見下ろす形で電柱に立っている影
「・・・」
その周りに輝く光の円盤――サイキックソーサーを多重展開し、両の掌の上には[隠][蔽]、[幻][影]と刻まれた二つの文殊を持っている影・・・横島は静かに二つの文殊を霊力に還元し、その身に戻す。
スゥ・・・
電柱に挟まれていた横島・・・幻影はその姿を消した。
(霊力のコントロールが完全に戻ってきたな)
自分の両の掌を開けたり閉めたりして、感触を確かめる
下には、もう動く力の残っていない異形が必死にもがいている。
「・・・」
横島は無言で、異形の傍へと降り立つ――そして、その右手に光の剣・・・霊波刀を現出させると振り上げる。
「グォォォォォ・・・」
異形は必死に地面を這いずりながら迫る―――横島を殺そうと。
「・・・」
霊波刀を振り下ろす
ザンッ
異形は、真っ二つに断たれたソレを眼を逸らさないよう見つめる。
ヴ・・・ヴヴヴ・・・ヴ
霊力が漏れ、消えてゆく一瞬・・・『彼女』は笑った――それは確かに彼女にとって救いだったのだろうか
「分かっている・・・俺は全部が全部救えるとはもう思ってないさ・・・あの時から」
横島は、じっと彼女の魂が上へ・・・上へと昇っていき『世界』へと還っていった事を確認すると祈る。
――この世に天国も地獄も存在しない・・・ただ『世界』があるだけ・・・
――輪廻転生へと還っていく魂は来世に行くまで一時の休息の後、また転生する
――なら、せめて彼女が来世で幸せになる事を俺は祈ろう・・・
バイザーを外し、横島は静かに目を瞑り一心に祈った。
(予定より、時間が掛かりすぎたな・・・)
横島は急いで、手に持つ黒い文殊の片割れの[移]を起動させる。
キィィィン
視界がだんだんとぼやけてきた。
(蛍・・・待っててくれ)
東京新市街地区―――路地裏
「ン・・・」
蛍は、あの珍妙な三人組に送り出されて無事に新市街地区へと辿り着ける事が出来ていた。
――人が誰も来ない路地裏・・・そこは余りいい雰囲気ではない場所ではあった・・・しかし
(タダオに人目につかないように言われたから)
・・・ガタガタ
霊体である蛍は寒さは感じない・・・しかし霊体は少なからず周りの気に影響される・・・それが正であれ負であれ・・・
そして、路地裏は陰の気が溜まりやすい・・・それが蛍へと悪影響を及ぼす。
(タダオ・・・遅いな・・・どうしたんだろう・・・もしかして怪我をしたのかな・・・)
蛍はどんどんとネガティブな思考に陥っていく――それによって、更に周りの陰の気が蛍の周りを集まっていく
(タダオ!!)
そして運の悪いことに、陰の気に引き寄せられていた怨念は周りの陰の気を取り入れ悪霊と化し、霊体である蛍を取り込もうと襲うとする――蛍は気づいていない。
――その時、蛍が手に持つ白い文殊の片割れ[転]が輝く
グォォォォ
そこから噴出す霊気によって、悪霊は消し飛ぶ
――が、蛍はそんな事にも気づかず、目の前に構築されてゆく人影を凝視する。
トッ
「お待たせ、蛍・・・待たせて悪かったっとぉとと」
そこに降り立つ人影―――横島は蛍を見つけると遅れたことをまず詫びる
――が、
ボスッ
蛍が横島に抱きついてきたことで中断させられる
「お、おい蛍どうし「タダオ、怪我は無かった?」えっ」
上目遣いに俺を見上げる蛍の瞳は、心配そうに揺れている
――俺の事、心配しててくれたのか・・・
ジーンとする横島・・・ちなみに先程の戦闘で握りつぶされたときにヒビでもいったのか、蛍が抱きついてるせいで失神しそうな位痛みがあるのだが・・・
「だ、大丈夫だ・・・しんぱいないよ」
引き攣る口元を必死で自制し、蛍を安心させる為に無理やり笑顔を作ると蛍へと向ける。
「・・・よかった」
ギュウ
――最後の最後で、死を覚悟したのは些細な事だと思いたい
・・・ブルブル
「蛍・・・調子が悪いのか?」
必死にやんわりと抱擁を止めさせた横島は、蛍が調子が悪そうなのに気をかける
コク
「!――済まない、肉体の構成がまだなのを忘れてた」
そう言うが早いか、すぐさま文殊を生成すると[肉][体]と刻み込むと蛍へと押し付ける。
「ん・・・!?」
蛍は少し身をよじらせる。
「ちょっと我慢してくれよ」
横島は文殊のコントロールの為に集中している・・・今集中を乱せば大変な事になる。
―――そして、
パチッ
「よし、出来た」
横島は一息ついて、額に流れる汗を拭う
「ん・・・?」
蛍は自分の体が不思議なのか、しきりに自分の体を見回す。
それを横島は少し微笑みながら見ている。
――と、
「クシュン」
「ん・・・蛍、寒いか?」
蛍は小さなクシャミをする――ちなみに今の季節は秋であり、夜ともなると少し肌寒い。
「よく分からないけど・・・たぶん」
蛍の格好は霊体の時のままで、和服であり首元が少し空いてて寒そうである。
「そっかぁ・・・肉体が出来ると五感も感じるしなぁ・・・じゃあ宿に泊まろうか」
「ん・・・」
横島は自分で納得すると、とりあえず建設的な提案をする――蛍はよく分かってないが取り合えず、頷く
―――しかし、
「生憎と此方のホテルは運営時間を過ぎてましてますので・・・申し訳御座いません」
ロビーで途方に暮れる羽目となっていた・・・ちなみに[変][装]の文殊で横島は変装していたりする――蛍はそのままなのでかなり人目を引いていたが。
「そうだよなぁ・・・こんな時間まで空いているホテルや宿泊所なんてないだろうしなぁ」
―――現在の時刻は深夜一時である。
(参った・・・流石に蛍を連れたまま野宿も無理だし・・・あいつの所にでも押しかけるか?いや・・・ここからじゃ時間もかかるし、あいつはマークされているしなぁ・・・・こんな時間帯じゃあ特に無理だな・・・どうしよう・・・「クイクイ」ん?)
思考している所を、蛍が裾を引っ張ることで中断させる。
「どうしたんだ、蛍?」
「あそこ・・・24時間営業とかかいてるよ」
「うん・・・そんな宿泊所なんてあるわ・・・げぇ!?」
蛍が指差す方向にツイっと視線を向けると横島は奇声を上げる。
―――お城みたいな建物
―――派手にライトアップされた建物
―――ピンクなどのドギツイ原色の目が痛くなるような建物
それらが立ち並んでいる通り・・・横島は冷たい汗を一筋流す。
「・・・ダメ?」
(あ、あかん・・・今日は色々な事が起きすぎて頭が混乱してきた・・・)
いつの間にか、大阪弁になっている横島・・・もう一杯一杯である。
「タダオ・・・眠い」
そんな事をしているうちに蛍がうつらうつらしてきた。いい加減にヤバイ状況である・・・横島だけ一方的に。
(どうしよ〜・・・)
あとがき
書くのが相変わらず遅くてスミマセン。とりあえず次の話で『アイツ』がでてきます。今回も批評感想お願いします。