無限の魔人 第二話 〜戻った世界は〜
彼が文殊で「視」たのは地球、そして日本に大阪。彼は確信したのだ、僅か3つの類似点で。
<間違いないっ!>
(さて、ここが俺が居た世界だと仮定してまず何をすべきか・・・やっぱ「こらーーーーー!!!そんなとこで何をやっているんだ! 危ないからこっちに来なさい!!!」
「なっ!」
彼は失念していた、東京タワーの鉄筋の上に居た事を。
さらに言えば前の世界の服装そのままだった事を。
(げ、やる事が他人任せで決まってしまった。)
彼は自主性を重んじる性格だった。流れに乗るのはもう止めていた。
この世界で最初にやるべき事なのは、「服の購入!!」
彼は飛び降りた。東京タワーの真中辺りから。
「なっ、自殺か!!」「「「キャーー!!!」」」
野次馬が見ていたらしいが彼は気にもせず、地面につく前に足の裏から霊力を溜めて放つ。
バシュッ! トン
その動きは体操選手が着地するよりも柔らかく、華麗であった。
彼は走り出した。誰にも見られない場所へと、静かな場所を求め。
常人には見えぬほどのスピードで。
(体が軽い!やっぱりこの世界は俺に[合う]みたいだ)
一度目の世界は常に全身に40Kg程の錘がついているようだった。
二度目の世界は酸素が彼の生まれた世界よりも薄かった。などなど。
一つを残し、全ての制約が外れた。彼は自由となったのだ。
(そういや改めて考えると・・・・金の単位なんだっけ? どのくらい有れば服が買えるんだ!?まずい、非常にまずい・・・・このままじゃ変な服来た人に見られちまう)
彼はタイ人のお坊さんがするような格好だった。見られてもコスプレ位に思われただろう。
誰も居ない公園を見つけ、そのベンチに腰掛けながら物思いにふける。
(そもそも金持ってないしな、金目の物は・・・)
ゴソゴソ ガサゴソ
取り出したのは4枚ほどの金貨。金貨は前の世界で住んでいたコールディ王国の標準貨幣だ。
(・・・売れるかなぁ、売れなきゃこのままの格好のままなんだが・・・・あ。文殊を使えばええやん!)
彼の特殊能力、文殊。この能力は『漢字』が特に有効な言語だ。普通の文殊は1個に1つの文字しか込める事は出来ない。
すなわち一字で効果を期待するなら、意味の有る一字にするしかないのだ。
そのため、何年経とうとも生まれた世界の、いや、日本の言葉を忘れる事は無かった。(特に関西弁
[模][倣]
彼は先ほど走っているときにすれ違った若者の服装をイメージ、そして『模倣』した。
<質屋・まいど>
「いらっしゃいませ〜」
人のよさそうな白髪頭の老人が、読んでいた新聞をたたみ老眼鏡をはずした。
「どう言った御用でしょうか?」
ニコニコしながら揉み手で商売を始める老人、中々の商売人だ。
「これを売りたいんだが」
チャリンチャリン
彼は4枚の金貨全てをカウンターに出した。
「ほぉ、これはこれは」
そう言いながらカウンター脇からルーペを取り出し、金貨を見る。
表、裏、側面をじっくりと観察、5分ほどで全ての金貨の鑑定が終わった。
「いくらになる?」
「お兄さん、これは何処で手に入れたんです? こんなの見たことないよ。私はこう見えてコインコレクターでね。ありとあらゆるコインをコレクションしとるんですよ。」
「ふーん、珍しいものなのか? 友達に貰ったんだ、もう死んじまったが」
珍しいも何も、この世界の物ではないのだから当たり前だ。だが、深く追求されるわけには行かない彼は惚ける。
じぃーっと彼の目を見つめる老人。
じぃー じぃー
およそ3分ほど見詰め合った彼らは誰とも無く会話を再開した。
「1つ4万、4つで15万では?」
(ん!・・・思い出した、単位は円で時給255円で働いてたな・・・・懐かしい)
「1つ5万、4つで19万だ」
「むむっ・・・1つ4万2千、4つで16万では!?」
(今後の為にもう少し上げておきたいな)
「1つ4万7千、4つで18万!」
以下略
等と言う商売人魂を掛けた(?)争いは5分後に決着した。
「まいどあり〜」
ほくほく顔の老人。取りあえず値段を上げてみたが未だ円の感覚が戻っていない彼は、普通の顔だった。
金貨は1つ4万3千281円、4つで16万5千901円になった。
(さて、服でも買うか)
省略(買い物してます、服買ってます。間違い有りません)
およそ1万程で服を、ついでに3千円ほどのリュックも購入。ちなみに量販店ではなく、商店街で買い物をしたためまたもや値切り合戦が始まったのはここだけの話。
服装は黒のジーパンに紺のシャツ、黒のジャケットを羽織っている。
(んー、あとは・・・食料の確保と「な!」どういうことだ、この気配は・・・・・・・・誰だっけ?)
彼は800年前の事をほとんど忘れていた。
(仕方ない、文殊使うか)
手のひらに霊力を集め文殊を作り、文字をこめる
[思][出]
『忘れる』とは記憶が無くなる訳ではない。記憶した場所への通路が細く、そして無くなる事。其れが『忘れる』と言う事だ。
記憶はあるのだから、『そこまでの道を作ればいい』彼は生まれてから18年の事を思い出した。
(あははは、こんなこともあったなー・・・なんて思い出し笑いしてる場合じゃないな。この気配はメドーサ+αだ、まず間違いないな)
彼は勘違いをしていた。この世界に『戻って来た』そう思っていた。
それは一面では正しいが、全てではなかった。
(魔力の大きさから言って、若返る前だな・・・くそっ、ただ戻ったわけじゃなくて・・・あー、2重の意味で戻ってやがるのか)
彼は焦った、何故ならこの世界、この時には「横島忠夫」が存在している。彼では無い彼が。
孤独が彼を苛む。
誰も彼を知る者が居ない世界。それだけなら良かった。8回も経験している事だから。
だが、この世界は彼のみが一方的に知っている世界。
彼は未だ1人。
無限の魔人 第二話 〜戻った世界は〜
end
あとがき
今回は彼が戻ってきて何を始めるか?と言うところにポイントを置きました。
戦闘シーン等見所が無いのが悔やまれます・・・。
前話で帰還しましたが、「何時か」とはまだ分かっていませんでした。
レスを見る限り疑問に思われていたようですが・・・完全に意表がつけずに私はとっても残念です(ぇ
さて、第三話はようやく皆さんご存知の人物が登場します!
こうご期待!(何気に宣伝
レス返し
>紫竜さん
アシュタロス戦役・・・実はまだ起こってすらいません!
意表をつけたでしょうか!?
>九尾さん(レス神様)
彼(ら)・・・気づかれましたか!?
今回の話で分かると思いますが、彼と彼ですね
>水カラスさん
初めまして〜、水カラスさんには「何時か」の罠がバレバレだったようですね。
脱帽です。
>siriusさん
プレーンズウォーカーってなに? と思って調べてみました。
異界渡り・・・の事ですよね!? 違ったらごめんなさい。
”元の世界”ここに注目する辺りsiriusさん・・・強敵です(ナヌ