横島育成計画・本章３６（ＧＳ）

ＧＳメンバーが、注目している一戦が始まった。

白竜会・丸井鶴夫ｖｓドクター・カオス

「わははは、なんだか知らんが、スゴい注目だの」

そのカオスが連れているのは、ＧＳメンバーが見たことのない少女。

前回とは、違う相棒に、
観客席もざわついている。

「なんなわけ、あの娘。マリアじゃないわけ」

「カオスにもう一体、アンドロイドがあったなんて、聞いてないわよ」

「わたしも知らない」

エミ、令子、タマモ。

「むー、よぼよぼじいさんが、なんだか、手強くなっていきます」

そして、おキヌ。
君も包丁捌きを、上達させないとね。
シメサバ丸秘技、“大根切り”とか、“桂剥き”とか。

「白竜会の動きを引き出すほど、頑張ってくれれば良いんだけど」

「なっ、美神さん！　あのじいさんを応援する気ですか！？」

「えっ、いやそういうわけじゃ・・・」

本人の知らない所で盛り上がられ、
注目を集めているカオス。はたして、どういう試合をするのだろうか。

試合開始！

その合図と共に、テレサが飛び出す。

まっすぐに向かっていきながら、
同時に、横にロケットパンチを飛ばす。

丸井の視線は迫り来るテレサをとらえているため、
その拳に気づきにくく、
さらに、パンチは、弧を描き、

　バキッ

丸井の死角から、その頬を殴り飛ばす。

ああ・・・、この辺りの騙し技っぽい方法は、
忠夫、さらにいうなら令子の流れを汲んでいそうな気がする。

「ちっ、機械人形が！！」

丸井の唸るような拳を、
テレサは腕を十字にして防ぐが、同時に強力な霊波砲を放たれる。

　ドォン！！

「なんだよ、ずいぶんと簡単に吹っ飛ぶな、その人形」

「マリアより、だいぶ軽いからのう」

しかし、テレサはしっかり立っていた。
それどころか目立った傷もなし。

「くそっ、なんか特殊なコーティングでもしてんのか？」

言いつつ、丸井は自分の足下に、
ころころと、転がる物体を見つける。

「なんだ、これ？　しかも、いつのまに？」

霊波圧縮榴弾！

　ドッカン！！

精霊石の小さな欠片を核として、
大量の霊力を圧縮してつくった手榴弾のようなもの。
持ち込める道具はテレサだけだが、
そのテレサが、この場でつくったものならば、ルール違反にはなるまい。

さらには、その榴弾を、

ドカン！

ロケット弾のように撃ち出すこともできる。

って、カオス、おまえも少しは戦えよ・・・

とにかく、その霊波圧縮榴弾は、
精霊石をそのまま使うよりも、お得だ。

「信じられないある！　人体によらない霊波圧縮。
とんでもない技術あるなあ、これは売れるある。
カオスー！！　後で商談するある」

「厄珍さん、今は試合中です、そういうことは後で・・・」

「やかましいある。商いはスピード勝負ある」

カオス、もしかしたら貧乏から脱出できるかもしれない。

「わはは。初めて使用したがどうじゃ？」

そんなカオスを、

「ドクター・カオス・・・、それは、試用すらまだでしょうに・・・」

共同研究者の冴子が、額を押さえつつ観戦していた。

テレサの体内に、榴弾をつくる圧縮機が組み込まれているが、
万一、圧縮過程で失敗すれば、むろん爆発である。
いきなり使用するには、というか、試用もせずに組み込むには、
あまりに危ない代物なのだが。

「一体、いつの間に搭載したんですか・・・」

冴子も冴子で、苦労が多いようだ。
老人介護は、大変だ。

「やってくれるじゃねえか、じいさん」

いや、やったのはテレサだと思う。

作者の突っ込みをものともせず、立ちのぼる煙の向こうから現れたのは、
全身を、鎧のようなもので覆われた丸井鶴夫。

「危なかったが、でもこの状態になれば、並みの霊波攻撃は効かないぜ」

魔装術。

その姿を見て、令子たちはますます疑惑を深める。

悪魔と契約しなければならず、危険が大きく扱える者の少ない技、
これを他にも白竜会の人間が使えるのなら、
魔族が関係している、という疑いも現実味を帯びてくる。

この丸井鶴夫の魔装術は、
表面がつるりとしており、霊波砲などでも弾きそうである。

「なんじゃ、元から禿げておったが、ますますツルッツルじゃの」

名は体を表すって感じ？

「うるさいわ！！　このくそじじい！！」

禁句だったらしい。

しかし、テレサが指を一本向け、

「相手はわたしよ、つるっぱげ」

そして振る。

　シュバッ

「ぐあっ」

頭に血が上ったところを、
肩から胸にかけて深く斬られる丸井。

「ふむ、霊波砲は跳ね返せても、
　高圧縮霊波カッターは、無理だったようだな」

それは、まるでウォーターカッターのような攻撃、
そして、その傷がある部分目掛けて、霊波圧縮榴弾を撃てば、

　ドカン！！

バリバリと鎧が崩れ、剥がれていく。
まるで爆裂弾。

「くそがっ！！」

丸井が霊波砲を撃つが、

　バサッ

前に向けた左手の前腕部から、特殊繊維の布が傘状に広がり、

　ビシッ

霊波砲を防ぐ。

「わはは、防霊波繊維の傘じゃ」

白竜会、丸井鶴夫、為す術がない。

「ねえ、タマモ、あのアンドロイドの攻撃。
　どれも、どこかで見たこと無い？」

「魔装術の鎧を斬ったのが、白虎爪ね」

「その次のが、白虎砲の弐式ね」

「で、今、防いだのが玄武傘？」

どれも忠夫の技である。

「どう考えても、偶然じゃないわよね？」

そして、極めつけ。

「テレサ、一気に片を付けるぞ！！」

「わかってるわ、お祖父様」

テレサに勝つ方法を見つけられなかった丸井は、
カオスに向かっていく。
当然であろう、カオスを倒せば、テレサに勝てなくても問題ない。

しかし、

　ドン！

小さな爆発音の後、
一瞬で、目の前にテレサが現れる。

「なっ」

ボカッと殴られ吹き飛べば、

　ドン！

今度は後ろで待っているテレサ。

「は、はやっ」

　ドカン！！

「ぐばっ」

すでに鎧が消えている部分、
鳩尾を思いきり殴られて、同時に霊波砲を撃ちこまれる。

崩れ落ちた。

「わっはっは、徹底的な軽量化と小型燃料の連続爆発による、
　魔法科学における、小僧の閃地の再現じゃ！」

こうしてドクター・カオスは、

周囲の予想を裏切って、ＧＳ免許を獲得するのであった。

「わっはっはっはっは、わしゃ、天才じゃ！」

そのわりには、
日本に来て、こうして成功の第一歩を踏み出すまで、
長い道のりであった。

「うるさいわい！！」

その後、ミカ・レイやピートの試合が行われている一方、

場所は白竜会の寺。
小竜姫と唐巣が、調査に訪れていた。

「やけに静かですね。試験を見に、全員、出払っているのでしょうか？」

そういって中に入っていくと、

「これは！」

「白竜会会長！　石にされているの？」

石化した老人を見つけた。
やはり、メドーサが関わっているのだろう。
しかし、状況証拠にしかならない。

「小竜姫様、急いで戻さなければ・・・」

「いえ、それよりも・・・囲まれているようです」

ビッグ・イーターの群れが、
壁を突き破り、囲むようにして襲ってくる。

「どうやら、我々の動きは読まれていたようですね」

「ということは、これらも囮でしょうか？」

「ええ。早く、会場に戻った方が良いかもしれません」

ギャルルルル

その前に、こいつらをどうにかしなければならなかった。

「あれ、邪（よこしま）！」

「お？　お前も勝ち残ってたのか、雪乃嬢」

「当然だろ」

トイレに行くと、白竜会の受験者たちに会った。

「あら？　雪之丞のお気に入りね」

「ん？」

鎌田勘九朗。結構背の高い男だ。
初対面の男の体を、ぱしぱしと叩く忠夫。

人見知りとか遠慮とかいう言葉とは、まるで無縁だ。

「おお、がっしりして強そうだな」

「あら、ありがとう」

細い忠夫としては、ちょっと、その体躯が羨ましかったりする。

「あん？　おまえ、次、勝てばオレさまと当たるのを知ってるか？
　調子に乗ってっと、バラすぞ、コラ？」

しかし、そこで、いやな感じのが寄ってきた。
陰念とかいうやつだ。

しかし、忠夫は陰念ではなく雪之丞の方を向いて、

「友達は選んだ方が良いぞ」

忠告してやった。
オレって、優しい？

「ぷっ」

勘九朗などは吹き出すが、陰念の方は当然いきり立つ。

「てめっ！！」

怒りで膨れあがる霊圧。
拳を振り上げ、そして、

ズン！

瞬間、いきなり陰念が崩れ落ちた。

「メドーサに伝えておいてくれ。さっさと来い、と」

圧倒的な忠夫の存在感に、一瞬、場が支配される。

「誰のこと？」

などと、勘九朗がとぼけてみせる前に、
すたすた、立ち去る忠夫。

「雪之丞、今の見えた？」

「いや。・・・おまえは？」

腕が霞み、陰念の鳩尾に一撃。

「かろうじてね。でも反応できる速さじゃなかった」

「けっ。面白くなって来やがった」

相変わらず、バトル・ジャンキーね、雪之丞。
でも、あの子、メドーサ様のことで、鎌をかけたわけじゃなさそうね。
すでに、確信しているということかしら？
そもそも、メドーサ様と、どういう関係？

いろいろ考えなければならないことが増えたというのに、

楽しそうに馬鹿笑いする雪之丞、
医務室のベッドで寝ているであろう丸井、
そして、トイレの床にのびている陰念。

あたし、どうしたらいいのよ。

鎌田勘九朗。

なかなかの苦労人であった。

試験会場、廊下。
その壁を、バキッと忠夫は殴りつける。

くそっ・・・早く来てくれよ・・・

我慢できないじゃないか・・・

〔あとがき〕
なんだか、苦労人ズが、脇を飾ったような一話でした。
忠夫、冴子、唐巣そして勘九朗・・・、皆さん、周囲に恵まれませんね。

にしても、頑張るカオスなんか書いても楽しくねー。
やっぱカオスはボケボケのやられ役が一番だと思う。

白竜会の四人、
勘九朗は実は好きです。結構強いと思ってますし、頭も良い。
イノシシの雪之丞とは違います。
実力的には、やっぱり陰念が下っ端ですね、なにせ陰念ですから。

勘九朗＞雪之丞＞丸井鶴夫＞陰念

にして、忠夫くん、熱々ぅーの、惚れ惚れぇー。
でも、格好いいだけじゃ、忠夫じゃないしー。
落とすところは落としてもらおう。うむ。

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