横島育成計画・本章３５（ＧＳ）

「で、実際、調査の方はどうなってるわけよ？」

令子、エミ、タマモ、神父、小竜姫。

会場の、とある一室で顔を合わせる。

「怪しいところが、二、三。それ以上はまだ、絞り込めていません」

「今日と明日、わたしと小竜姫様で、
　この三つのグループに関して、調べてみるつもりだ」

会場外での調査を担当している、小竜姫と神父。
令子は試合への潜入捜査。
タマモとエミは、会場内での調査を担当。

「わたしは、この白竜会っていうところが気になるわ」

「あら、わたしもそこが怪しいと思うわけ」

受験人数、バランス、個人戦力、性格。
その他、過去に実績もろもろから、割り出した。

「たしかにね、急に、方針が変わったというか、妙な所はあるね」

神父も同意する。

「どいつが白竜会の選手なの？」

資料を手に取り、顔と名前を頭に入れる。

鎌田勘九朗
伊達雪之丞
陰念
丸井鶴夫

「四人か」

「トーナメントではどうなってる？」

「全員、勝ち残っていますね」

「それはわかってるわけ。だからこそ、怪しいのよ」

誰か、知り合いが当たりそうか、調べてみる。
ピート、タイガー、忠夫やミカ・レイ。
かれらは第二試合では、特に当たりそうにないが・・・

「カオスが、丸井とかいう選手と当たるわけ」

「「「・・・」」」

頼りになるのか、ならないのか、
事情を話しても大丈夫か、話さない方がいいのか、
迷う人物である。

「とりあえず・・・このまま様子を見ましょう」

令子の判断に、特に異論は出なかった。

「テレサ、次の対戦相手の記録は取ったか？」

「言われたとおり撮ったわよ、お祖父様」

カオス宅。

彼はいまだ、ぼろいアパートに住んでいる。
最近、研究や実験は盛んだが、
金になるもの、商品になるものを造っているわけではない。

当分は、このアパート住まいが続くだろう。

「ふむ」

白竜会、丸井鶴夫。
名の通り、頭を丸めた、つるつるの青年。

その男の今日の試合を分析する。

軽いフットワーク、
強力な霊波砲、
丈夫な体。

「どう思う、マリア？」

「わたしより、テレサに向いている、思います」

「やはり、そうか」

しかしのー、テレサの場合、まだどの武器も使ったことがないんじゃが・・・
小僧相手の対戦実験が、間に合わなんだのう。
仕方ない。

「テレサ、明日、第二試合で初戦闘じゃ」

「やった。頑張って、初勝利しちゃうもんね」

そうでなければ困る。
勝たねば、免許がもらえんからのう。

「がんばって、良い所をお兄様に見てもらうんだもんねえ」

「お兄様？　誰のことじゃ？」

「横島さん、のことです」

マリアが答える。

「ぬっ！　いかん、いかんぞ！　確かに小僧は見所があるが、
　誕生して早々、嫁ぐなどワシは許さんぞ！！」

「えー、なんで？　お兄様みたいな人を、いい男って言うんでしょ？」

「む。そんなことはない」

「でも、わたしのプログラム内での基準では、そうなってるけど？」

「？」

ワシは、そんなプログラムを組んだ覚えはないぞ？

というか・・・

テレサの思考プログラム。
そのマザーは、マリアである。
マリアから株分けし、さらに、柔軟な思考と、
言語プログラムを持たせたのだ。

つまり、その価値判断の大元は・・・・・・

テレサ、カオスの視線が、マリアに集まる。

すっ

視線をそらすアンドロイド。
う～ん、世にも珍しい。

「い、いかんぞ、マリア！　なぜ、こんなことに・・・」

毎日のように、会わせておったのが、いかんかったか？

「でも、お祖父様。あんな孫が欲しい、って言ってたじゃない」

「む・・・」

テレサの指摘に、黙り込む。

考えること数分。

「わっはっは、頑張るのだ、マリア！　テレサ！
　小僧を孫にか、悪くない、悪くないぞ。わはははは」

なにをどうガンバレというのだろう。このボケじいさんは。

しかし、

「イエス、ドクター・カオス」
「わかった、がんばるわ」

アンドロイドたちはその気。

なんだか、混戦の様相を呈してきた。・・・・・・なにが？

ちはーっす、と医務室の扉を開ける忠夫。

「おや？　忠夫くんかい？」

「あれ、冴子さん？　冴子さんも協会に頼まれてたんですね」

そこには、顔馴染みの霊能女医がいた。

「いよっ、なにしに来たでげすか？」

聞くのはカボチャ。
ジャック・オ・ランタン。

「お前も来てたのか、ボチャ」

すでに顔なじみである。

しかも、忠夫は、このカボチャのボチャと初めて会ったときにも、
全く驚くことのなかった強者でもある。
すでに謎生物には、慣れっこということだろうか。

「いや、九能市さんがまだ、目を覚ましてないって聞いたから、
　お見舞いというか、ちょっと様子を見に、な」

頭には因幡。
しかし眠っている。
基本的に喰うか眠るか散歩をするか。
三つの行動しかしないのか？　今日は退屈だったようだ。

「彼女は特に問題ない。消費した霊力を回復するために、
　体が睡眠を必要としているだけだ」

「そっか。やりすぎたかと思った」

霊力中枢に、回復不可能なダメージでも与えたかと心配した。

「しかし、良い攻撃だったね、あれは」

「見てたんですか？」

「そのためだけに、来たようなもんでげすから」

　ボカッ

「余計なことを言うな、カボチャ頭」

ゴホン、と咳払い。

「あの手の攻撃はわたしもよく使う」

「そうなんですか？」

「うむ。わたしは霊脈を見極められるからな、
　そこに、それを乱す波動を流し込めば、断ち切れるし、
　やりようによっては、完全に破壊できる。
　わたしは医者だ。
　治し方を知っているからこそ、効率の良い壊し方も知っている」

淹れたての珈琲をカップに注ぐ。
静かに受け取る忠夫。

冴子には、どこか覇気がないというか、
無気力のようにも見えてしまう。

「そのわたしの観点から言わせてもらえば、とても良い攻撃だ」

圧縮し、活性化させた霊力を叩き込む。
雷電を、颶風を、猛火を、
一匹の荒ぶる獣を敵体内に解き放ったようなもの。

「それを静めようと、彼女の霊力は無意識に働いてしまい、
　あっという間に、全霊力を消費してしまう。
　霊力を集めて防ごうとしても、そう簡単に防ぎきれるものでもないしね」

結果、これだ。
今も九能市は、医務室のベッドで眠っている。

「しかし・・・忠夫くん、どこか悪くしているのかね？」

やはり、忠夫の様子がおかしくて気になる。
覇気がない、無気力。

良くいえば穏やかなのだが、なにか違和感を感じる。
だが、特に、怪我や病気をしていそうには見えないのだが。

「いえ・・・ただ、ちょっと・・・足らないというか・・・」

「？」

「相手が物足りなかったってことげすか？」

「いや、そうじゃなくて、試験をさっさと、えっと、なんというか・・・」

そこで、目を瞑り深呼吸。
そして開いた眼には、

「他に戦いたい奴がいるんだよ」

鮮烈な光。

言葉から、
眼力から、
霊圧があふれ、部屋を満たしていき、

ぞくり

震える。

一瞬、すべてを放り出して逃げたい、とさえ思ってしまった。

これは、単なる穏やかさとか、落ち着きじゃない。

嵐の前の静けさだ。

どこの誰か知らないが、えらいことをしてくれた。

果たして、こうして内部に溜められ、
溢れ出るほどに溜められた後、凝縮され、
高圧になっている霊力に、ひとたび火をつければ、

一体、後になにが残ろうか。

そして、今の忠夫くんに火をつけることのできる実力者とは、
どれほどの存在なのだろうか・・・

粟立つ肌を抑えるために、一服。
煙草がひどく美味かった。

「み？」

「お？　因幡、起きたか」

そりゃ、起きるだろうさ。
一瞬とはいえ、あんな霊圧吹き出したらね。

「どした？」

み、と耳で指した方向には、
ゆっくりと目を開けた九能市氷雅。

「！！・・・あなたは・・・」

「ああ、えっと、ごめんな。なんか、やりすぎたみたいだ。
　長いこと、起きないって聞いたから、少し見に来たんだ」

すまなそうに頭を下げた忠夫と、
その頭の上でバランスを取る因幡。

「いえ、あれは、真剣勝負。
　それに、こちらは殺すようなつもりで、斬りかかったのですから、
　お気遣いは無用ですわ」

「・・・そっか」

いや、「ようなつもり」ってか、思いっきり殺気がこもってた気が・・・

「それにしても、素晴らしい攻撃でしたね」

「え？　そう？　実は初めて使ったんで、加減もわからなくてさ」

「そうなのですか？　スゴく洗練されているように感じましたが・・・。
ふう。わたしはまだまだ未熟ですね。また一年、修行しなおしますわ」

「あっ、ごめん」

また頭を下げる忠夫に、

「ぷっ。ふふ、謝られると、余計に立つ瀬がないですわ」

「あ、えっと・・・そっか」

しどろもどろである。

「それよりも、わたしに勝ったんですもの。
　合格はもちろん、優勝してもらわなくては・・・」

「げ・・・、いや、まあ頑張るけど・・・」

試合中と違って、本当にやわらかに笑む九能市と、
どことなく赤い顔の忠夫。

なんか、忠夫の照れたような様子が面白くない。

「さて、忠夫くん。患者も起きたし、そろそろここも閉めなくては。
　今日はもう帰りたまえ」

後ろから腕を回して、
話しかける冴子。

「先生。わたしの見舞客です、取らないで頂きたいですわ」

「ふん。医務室における全権限はわたしにある」

　バチバチバチ

「ああ、なんかやばい雰囲気でげすな」

「そうだな・・・。なあ、オレのせいか？」

「他に誰がいるんでげすか？」

ボチャに突っ込まれる忠夫。

「ところで、そちらが、因幡さんでげすか？」

「み」

「ああ、よろしくでげす」

片耳をあげるウサギと、頭を下げる・・・ように見えるカボチャ。

謎生物は、これからも、増えるのだろうか。

「可愛いお嬢さんでげすな」

「み」

「えっと・・・オレ、まだ夕飯食ってないんで、そろそろ・・・」

なんとか、退室しようとする忠夫、しかし、

「ならば、わたしも一緒に行こう」

「わたしもご一緒させて頂きますわ」

「・・・」

藪蛇だった気がするのだが・・・

タマモや令子が、神父たちと食べて帰ると言っていたのが、
せめてもの救いである。

今日のことは黙っていよう、そうしよう。

以後、たまに、九能市が、
一緒に修行をしませんか、などと訪ねてきたりすることにもなるのだが、

そう誘われると、
ほいほいと、一緒に出かけてしまう忠夫に、
タマモはいつ気づくだろうか・・・

忠夫攻略法その１

忠夫を誘い出すなら、修行を理由にすべし？

〔あとがき〕
今回の見所、目をそらすマリア（笑）

彼女を一番、書きたかった気がする。
マリア、テレサ、冴子、九能市…すごいね、忠夫くん。
尊敬に値するかも知れない。
もう少し、長くなるかなーと思ったんですが、
結構短くなりました。まあ、良いでしょう、裏話だし。

次回、白竜会の面子が登場します。
雪之丞以外と、忠夫が顔合わせ。
しかし、トイレで遭遇っていうのがまた、なんというか、
ＧＳらしい出会いだよな～。

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