午後10時、一日の修業が終わり、横島と雪之丞は畳の上でへばり、寝そべり夕食を待っていた。
「うー、腹減ってるんだが、食欲わかねーよ。」
8時間もの間、針の上で指立ちさせられた雪之丞はそう言ってほとんど動かない。
流石の彼も限界のようである。
「てめえなんか、まだいいぞ。俺なんか12時間続けてやらされたんだからな!!けど、あの頃はまだ幸せだった。」
横島はそう言って遠い目をする。するとそこにおキヌがやってくる。そして二人はやってきた彼女の姿を見て何重にも驚愕させられた。
「お、おキヌちゃん!?」
「あ、横島さん、そのー、あまり見ないでもらえますか恥ずかしいんで。」
全身に包帯を巻いた痛々しい姿、そして長く綺麗だった髪をばっさり切ってショートカットにしてしまっている。
「全員そろったようだね。それじゃあ、飯にするよ。」
そこに幻海が入ってくる。その姿を確認し、横島は彼女に詰め寄った。
「ど、どういうことですか!!これは!!」
「なんだい、そうぞうしいねえ。心配しなくても怪我は見た目ほどひどかあない。治療もしといたし、明日にはすっかり良くなってるよ。」
「そ、そうじゃなくてですねえ・・・・・。」
何でもないように言う幻海に対し、横島は食い下がる。例え、怪我が治るにしても怪我を負ったこと、痛みを負ったことは事実なのだ。だが、幻海はそんな横島を睨みつけた。
「昼にもいったがあんたこの娘のこと過保護にしすぎやしてないかい?この娘はあんたの仲間、対等な存在なんだろ?苦労は自分だけがしてりゃあいいなんてのは大間違いだよ。」
「うっ。」
その言葉に横島はまたも押し負ける。だが、もうひとつだけ聞いておきたい事があった。
「そ、それじゃあ、髪は・・・・・。」
「戦うのには長い髪ってのは基本的に不利だからねえ。髪を掴まれたり、目に入ったり。半人前の内は特にね。それから、これは本人の決意の印でもある。あの娘はそれだけの覚悟をしてここにきてるんだよ。」
幻海がそう答える。その答えを聞いて横島がおキヌの方をみると彼女は照れたような困ったような表情をしている。それを見て横島は今度こそ何も言えなくなった。
「まあ、ここで修業してれば半年もすれば元通りの長さまで伸びるだろうさ。その頃には髪のハンデなんかあっても気にならない様になる。ま、それまで、持てばの話だけどね。」
そして、最後に幻海がそう付け加える。横島はそれに対し、“どうしたら半年でそんなに髪が伸びるのか?”とか、“それまで持てってのが修業に耐えられるって意味じゃなくて、死ななければって意味に聞こえて、多分それが正解でリアル過ぎて怖い”、とか色々突っ込みたくなったが、怖かったのでやめておいた。
「・・・・・なんですか、これは?」
夕食が並べられる。幻海とおキヌはまともだが、横島と雪之丞の前に並べられたのは見るからに、怪しい、いや怪しすぎる“物体”だった。多分、植物だと思うのだが、まるで見た事の無い形をしている上に何か動いているし、蠢いている。
「蔵馬って知り合いが修行者用に栽培してくれた特別な薬草を使った料理だよ。あたしみたいな年寄りやこの娘には刺激が強すぎて毒にしかならないが、あんた達みたいに頑丈な奴らには強くなる為の特攻薬さ。」
(あんた、もう年寄りじゃないだろう?)
横島は、そう突っ込みたかったがやはり怖かったのでやめておいた。そして、彼は眼前の料理に再び視線を戻した。
(これを、食う位ならうんこ味のカレーとカレー味のうんこを両方食う方がまだましかもしれん。)
横島はそんな事を本気で思う。雪之丞の方も彼と同じような表情をしている。
「雪之丞、まずはお前から食ってみろよ。さっき腹減ってるって言っただろう?」
「い、いや、食欲が無くってな。」
そんな二人を見ておキヌは自分の食事を差し出そうとするが、幻海に睨まれ、手を引っ込める。そして二人はやがて決意をし、同時に目のまえの“それ”を口に運んだ。
「「ぐはっ!!」」
そして、両者、同時に声をあげる。苦いとか辛いとかそういうレベルではなかった。まずい、という感覚すらない。ただ、口の中が溶けていくようなというか、侵食されていくというか、だが、確かに体中に力が湧いてくるような感覚はあるのだ。
「さあ、早く食っちまいな。あんた達にはまだ修業の続きがのこってるんだからね。」
「ま、まだやるんですか!?」
そんな二人に投げかけられた言葉に横島が叫びをあげる。それに対し、幻海は当然と言った表情で答えた。
「当たり前だろ。何せ、一週間しかないんだからね。」
「け、けど、運動生理学とかでやりすぎは・・・・・・・。」
鍛えすぎると却って筋力が落ちたりするのは近代体育学の常識である。それを理由に何とか逃れようとした横島だったが幻海の言葉がその理屈をあっさり覆した。
「心配しないでもその飯とあたしの霊光波動拳で超回復は15分もあれば行なえる。問題ないよ。」
「くっ、やってやる!!おい、幻海さん!!横島はもっと厳しい修業をやってるって話じゃねえか!!俺ももっと厳しくしてくれ!!」
そこで、雪之丞が半ばやけになったかのように叫んだ。まあ、彼の場合は半分は本音というか地でそういう奴なのだが。
「ほう、やる気があるねえ。まあ、今、横島がやってるのと同じ修業をすればぶっ壊れちまうだろうが、さっきまでの5割ましで厳しくしてやるよ。」
そう言って幻海は楽しそうに笑う。やる気をみせる雪之丞、それを哀れみ、同時に自分の修業の事を考え、嫌そうな顔をする横島。そしてその後、地獄の修業が繰り広げられ、修業後、二人は死んでいた。ちなみに寝床は本物の針のむしろどころか、針山だった。
――――――――――――――修業・一日目・終了―――――――――――――――――
(後書き)
ちょっと間が空いてしまいましたが続きをアップしました。次回は戦闘シーンがある予定です。修業の成果はでるのか!?
それはそれとして、幽白キャラで横島とくっつけて面白そうなの考え中。
うーん、あんまりいない。基本的に横島に惚れるのって基本的に横島を頼って、いつの間にかってパターンだけど、幽白キャラって自立度高いしなあ。幻海までいけば、逆に横島が頼るという形でくっつけるのもありかもしれないけど。ぼたんの後輩(映画オリキャラ)とかかな、ありえそうなの。
現段階での霊力
横島 212マイト→216マイト
おキヌ 79マイト→81マイト
雪之丞 84マイト→90マイト(魔装術使用時142マイト)