涙を流しながら、話を続けようとした横島の背後の空間が二ヶ所程歪んだ。
しかし、横島はそれに気付かない。(後ろに目でもあれば気付くだろうが)
「だから、み【はい、そこでストップや!?】
ぶべら!!??」
横島の背後に出た黒い十二枚の翼を生やした魔族の最高指導者である
サッちゃんの一撃が横島の後頭部に直撃した。
【まったく、横島君にも困ったものですね】
倒れた横島の背中を踏んづけているのは、同じく神族の最高指導者であるキーやんである。
突然現れた人物が誰かわかっていない人達は、先程の横島の言葉との相乗効果で頭がテンパり、
代表として美神が切れてしまった。
「ちょっと!あんた達、何で
『私の』横島クンを踏んづけてるのよ!?」
美神が強調した部分に逸早く反応したのは、当然横島LOVEな女性達だった。
『私の?』×横島LOVEな女性達
と言った女性達と美神の間で口論が始まるが、それも永くは続かなかった。
恐らく彼女達は、自分の意思で話題を無理矢理変えようとしたのだろう。
横島の話を続けさせない為に。
その口論を止めたのはキーやんの一言だった。
【私達は、神界と魔界の最高指導者です。今横島君が言った事を『きちんと』説明する為に来ました】
キーやんはそう言うと、足元の横島をグリグリと踏みつける。
踏みつけられ続ける横島からは、「うぅ・・・やめて~。俺が何したって言うんじゃ~」と言う、
呻き声が発せられていた。
まあ、キーやんの自己紹介を聞いた某神父が
「私は何も見てない・・・見てないんだ」と呟いているが、この人はほおっておこう。
キーやんの言葉を聞いた女性達は二人に詰め寄り、問いただした。
何気にその中には神族の小竜姫と魔族のワルキューレとベスパがいたりする。
【まあまあ、落ち着いてください】
【今説明するさかい、ちょっと待ってっな?おら、ヨコッち起きろや!?】
サッちゃんが横島の頭を叩くと、横島はノロノロと立ち上がり後ろを向いた。
「いってぇ~・・・って、何でここにキーやんとサッちゃんがいるんだよ!?」
横島の問いに、律儀にキーやんが答える。
【貴方の所為でしょう?まったく、何であんな説明になるんですか!
私達が説明しますんで、横島君は黙っててくださいね!?】
キーやんが怒っている事に気付いた横島は、余計な事を言わずに黙って頷いた。
【さて、横島君の了承も得た事ですから、説明しますね。
そもそもの話は去年の今頃になりますかね?】
キーやんがサッちゃんに確認を求めると、サッちゃんは頷き続きを話し出した。
【そうやな。あん時にあの出来事に気付いたのがそもそもの始まりや】
今まで雰囲気に呑まれて話し出せなかった美知恵が、恐る恐る話かけた。
「あの、『あの出来事』って何でしょうか?」
【まあ、待ちなさい。今から説明しますから。
・・・まずは皆さんに質問なんですが、この世界を作ったのは誰だがわかりますか?】
この質問に、最初に答えたのはシロだった。
「この世界を作ったのは、神様じゃないんでござるか?」
その答えに、キーやんとサッちゃんは首を振った。
【それが違うんや。まあ、さすがヨコッちの弟子さんやな。あん時のヨコッちと同じ答えや】
【この世界を作ったのは『造物主』と言われる存在です。よく知られている呼び名は『創造神』ですね】
ゆっくりと語るキーやんとサッちゃんに、段々イライラしてきた美神が声を荒げながら問いかける。
「それと、横島クンがいなくなる事と何が関係あるのよ!?」
【せっかちですね。そんな事では横島君に嫌われますよ?】
「えっ!?」
キーやんにそう言われた美神は泣きそうな顔で横島の方を向くと、
横島は微笑みながら否定していた為、ホッと安堵のため息をついた。
【おいおい、キーやん。そんな事言ったらあかんで。でな、続きなんやけど。
その『造物主』が最初に作った存在が今回の問題を起こした張本人や】
サッちゃんがそう言うと、その場にいる全員に緊張が走った。
自分達から横島と言う存在を奪う存在の名が分かるからだ。
【ですが、その名を言う前に皆さんに確認したい事があります。
皆さんは横島君の事を、友人として、異性として、好きと言う気持ちはありますか?】
キーやんがそう質問すると、西条以外の全員が頷いた。
「ちょっと西条君!?」
頷かない西条に、美知恵が問いかけると。
「何ですかせんせぇ~い?どぉ~かしましたかぁ~?」
【・・・彼は外してもいいですかね、横島君?】
横島はその質問に、苦笑いを浮かべながら了承した。
【やはりここにいるという事は、横島君に好意を持っている人達だけなんですね】
【そうみたいやな。それに、力をうまく扱う事が出来る人だけ集まってるさかい、やりやすいな】
サッちゃんの言葉に、キーやんは頷いた。
【ええ。それではその存在の名前を言いますね?覚悟はいいですか?】
再度キーやんが確認すると全員が頷いた。
【その存在の名は『聖魔神』。『造物主』にいと近き存在であり、世界の管理人でもあります】
【だがな?その『聖魔神』がここ数年で、いや、
あの『アシュタロスの乱』が終わった瞬間から狂ってしまったみたいなんや】
サッちゃんが言った言葉に、その場の全員が愕然としてしまった。
しかし、続いて言ったキーやんの言葉で全員が青ざめてしまう。
【さらにですね。『聖魔神』はどうやったかは分からないのですが、
『造物主』を封印してしまったんです】
『!!??』
【その所為で今、平行世界を含めた全ての世界が崩壊し続けています。
ですがこの世界は、幾つもある平行世界の中でも特殊な【横島君】がいるので、
私達の力で崩壊を防いでいます】
キーやんの説明をサッちゃんが引き継ぎ続ける。
【この世界のヨコッちはな、世界が産み落とした『抑止力的存在』なんや】
『え?』
サッちゃんの言葉に少々反応は違うものの、全員が疑問の声を挙げた。
【ヨコッちはな、あのアシュタロスの乱の時に何回生きるか死ぬかの瀬戸際に立ったか分かるか?
数回あったけど、一回も致命傷を受け・・いや、一回だけあったな。
あれは、世界も予想だにしなかった行動みたいやな。でも、ヨコッちは死なないで生きている。
これはな、世界がヨコッちを生かそうと働きかけているからなんや】
それを目の当たりにいている人達は何も言えずに黙ってしまい、
他の人達もそれに近い物を何度も見ている為に何も言えなかった。
【それでですね。ここからが本題なんですが。この世界は一本の木なんです。
つまり、過去は一本しかありませんが、未来は枝の様に無数にあります。
そこで、その狂った理由を知る為に私達の力を使って横島君に過去に飛んで貰う事になったんです】
キーやんがそこまで話すと、横島は一歩前に出た。
「そこから先は俺が説明します」
横島が皆の方を向きながらそう言うと、キーやんとサッちゃんの二人は頷き返した。
そして、横島は一年前の出来事を話始めた。
第八話に続く
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