岩石ばかりの荒れた大地、
その中央に、忠夫は静かにたたずんでいた。
目を瞑り、
細く、長く、深く、紡ぐように息をする。
精神を静め、霊力を活性する。
高度な集中。
黒い刃を天に向けて高く掲げ、目を開ける。
一瞬で、周囲に清浄な気が広がっていくような、そんな静かな眼力。
その実、彼の霊力は鋭く、鋭く、研ぎ澄まされていた。
まるで、忠夫自身が一振りの刃かと、思われるほどに。
「はあっ!!」
振り下ろされた刃は、黒い半月を描き、
バシュッ
そして、離れたところにある岩の表面に、傷が生まれる。
「ゲハ、少しは使えるようになったか」
「まだまだ、使い物にはならないだろ」
悪食を使った遠隔攻撃。
「まあ、もっと剣の腕自体を磨かなけりゃな」
「だろうな」
そもそも、気を高めるのにあれほど時間をかけていては、
とてもじゃないが、使えない。
「今回、試験では、お前を使わないかも」
「ゲハ? まあ、別に良いけどな。因幡は連れて行くのか?」
「会場には連れて行くけど、結界内には、いれない」
「自分を試す気か? まあ、お前の試合だ。好きにしやがれ」
悪食を、今度は担ぐように構えてから、
上体を回転させながら、薙ぐ。
バシュッ
岩の傷が十字になり、
口元が、三日月のような笑みを描く。
「お前に会うのが楽しみだよ・・・」
ブゥン
異界化した部屋に扉が現れた。
「忠夫! もう、そろそろ出かけるわよ」
GS試験が始まる。
ことの始まりは一週間前。
妙神山の竜神・小竜姫が、唐巣神父を伴い訪ねてきたことから始まる。
「どうやらGS協会に入り込もうとしている魔族がいるようなのです」
おそらくは、人界での活動を容易にするためであろう。
複数人の、息の掛かったGSを合格させることで、
GS界への影響力を掴もうと目論んでいるらしい。
同時に、その合格者たちも、戦力に育てるつもりかもしれない。
「これは由々しき事態だよ、令子くん。
まさか、GS協会の有力者が魔族と繋がるなどはしないだろうが、
魔族ということを知らなければ、とんでもないことになるかもしれん」
真摯に、そうなった場合の将来を憂えているのだろう。
真剣な顔で唐巣が言う。
「だから、君にGS試験に潜り込んで欲しいのだよ。
外部からの調査はエミくんに依頼しているが、
今のところ、我々を含め、事前調査はあまりうまくいっていない」
「確かに厄介な事態かもね」
腕を組んで聞いていたタマモ。
うん、この辺りは、少しだけ知ってる。
でも・・・詳しいことはわかんないし、雪之丞だっけ・・・
あいつが所属しているところをマークするにしても、
いきなりじゃ、おかしいわよね・・・
結局、ことが動き出すまでなにもできないかしら。
「協力しないわけにはいかなそうね」
令子も、難しい顔をして、
「それで、いかほど払ってもらえるのかしら?」
唐巣と小竜姫を引きつらせた。
「で、どんな魔族が関わってるとか、分かんないわけ?」
令子の問いに、小竜姫はちらっと、忠夫を見てから、
「以前、天龍童子の暗殺を目論んだ魔族を覚えていらっしゃいますか?」
聞いた。
「ええ、あの年増の蛇女ね」
憎たらしそうに令子は答え、そして、はっと忠夫を見るが、
聞いていた忠夫は、特に反応もなく、
静かにお茶を飲んでいた。
なんか戦いたがってたし、
もっと過敏に反応するのかと思ったけど・・・
ただ、静かに湯呑みを見つめていた。
そして、試験当日、二千人近い受験者が集まる試験会場。
そこに、
「わっし、わっし、緊張して緊張して、
飯も眠れんで、夜も喉を通らんのじゃー」
言語中枢がしっちゃかめっちゃかのタイガー寅吉がいた。
忠夫の頭の上で、因幡が警戒している。
耳はすでに変化し、ナイフ状。
抱きつこうとした途端、多分タイガーは刻まれるだろう。
わかった、わかったと、あやすようにしながら、
逃げるようにして、人混みの中、会場の奥へといくと、
「横島さーん!! やっぱり、横島さんも来てたんですね。
うう、故郷の期待を一身に背負っちゃって、
スゴいプレッシャーなんですー」
うるうる眼のダンピールがいた。かわいくない。
だが、いきなり、きりっと、表情を引き締め、
「でも、精一杯、戦い抜き、合格して見せます。
だから、しっかり見ていてくださいね」
がしっ、と忠夫の手を掴む。
えっと、こいつの名前はなんだったっけ・・・
ピー・・・あっ、
「お互い頑張ろうな、ピーコ」
「はいっ、横島さん! って・・・今なんと?」
「え? だからピー・・・・・・ト?」
「ですよね。あはは。小鳥か、服飾評論家みたいな名前で呼ばれたかと・・・」
どうやら、ピート、が正解らしい。
そこへ、どたどたどた、と近づいてくる大男の足音。
「横島さーん、置いてかんといてつかぁさい!」
抱きついてくるが、
「なんなんだ、お前は! 勝手に横島さんに触れるな!」
ピートが止める。
お前もな、と心の中で突っ込みつつ、
早々に、この場を離れることにした忠夫であった。
「わっしは、横島さんのクラスメイトじゃー!!」
「くっ。試験が終われば、僕だってクラスメイトになるんだぞ?」
「編入もまだしてないのに、クラスが同じとは限らんですジャー」
「横島さんと違うクラスになるなんて、神がお認めになるはずがない!」
なぜだか知らないが、ピートとタイガーの張り合いが続く。
「この試験の試合で、君に勝って、勝利を横島さんに捧げてみせる!」
「わっしこそ、横島さんの友人として、ふさわしいとこ見せたるんじゃー」
「ならば、僕は横島さんの、こいび・・・
グワッシャ!!!!
どこからか、巨大なハンマーが飛んできて、
ダンピールと大男が潰された。
ピート、タイガー。
受験不可能?
いや、でも、ギャグキャラって、しぶといからなー・・・
「はっはっは、このくらい横島さんのそばにいるためなら・・・」
「そうじゃ、そうじゃ、どうってことないですノー」
ドクドクと血を流しながら起きあがる二人、
原作の誰かさんを彷彿とさせる。
「なかなか、タフだね、君も」
「そういうピートさんとやらこそタフですノー」
もしかして、認め合っちゃったりするのか?
奇妙な友情が生まれるのか?
とにかく、まあ、この二人も、
一次試験、霊力量による足きり試験を見事に突破するのであった。
そしてもうひとつ、出会い、いや、再会が。
「ぬおっ、お前は確か・・・」
「おっ、その目つきの悪さは確か・・・」
「邪(よこしま)!」
「雪乃嬢(ゆきのじょう)!」
昔、ちらりと会っただけだが、
お互い、忘れてはいなかったらしい。
((変わった名前だしなあ、こいつ))
「しかし、お前も受験しているとは思わなかったぜ」
「まあ、こんなとこで会うとは、思わなかったな」
「お互い、頑張ろうぜ。是非とも、決勝でお前を倒したいもんだ」
「気が早いな。そもそも、どういう組み合わせになるかわからんのに」
「だから、是非ともって、言ってるのさ。
じゃあな、あっちに一緒に受ける仲間がいるもんでな」
「おう、オレは・・・・・・・・・・・・特に仲間はいないんだが、
知ってる人はいるから、じゃあ」
なんとなく、お互い戦うことになる気がした。
だからこそ、背を向けて別れる。
白竜会、伊達雪之丞。
歩き去る忠夫を眺め、
「頭の上に眠ったウサギねえ・・・。ますます邪ってのが、似合わねえのな」
二人はいつ、お互いの間違いに気づくのか・・・
「がはははは、これがGS試験の会場か。思った以上に人が多いな」
「イエス、ドクター・カオス」
人混みの中、
アンドロイドを連れて歩く黒いコートの老人。
「マリア、お主には、ドクター冴子と、何度も手を加えた。
優勝はわからんが、まず、合格は間違いあるまい。頑張るのだぞ」
「イエス。任せてください」
「しかし、あの小僧と当たると・・・まだ勝てんのう」
「イエス」
傍目には、どう見ても人間にしか見えない女性。
その後ろから、もうひとり、少女がついてくる。
「お祖父様? わたしは出場できないの?」
「お前はあまり、戦闘向きではあるまい、テレサ?
それに搭載している武器もまだ、どれも実験段階だ」
「そうだけど・・・戦闘して、自分のデータを得るには、
良い機会でしょ、お祖父様?」
カツカツと、やはり少し重たい足音。
「イエス。マリアも、そう、思います」
「でしょー、姉さん」
「むう、確かに絶好の機会ではあるのう。
そうじゃなあ、二勝すれば合格じゃからの、三試合目からテレサを使おう」
「やった。じゃあ、頑張って二勝してよ、姉さん」
「イエス。マリア、頑張ります」
周囲は、どこか羨ましげに老人を見やる。
なにせ、かなりの美人二人に挟まれ、両手に花なのだから。
正確には、両手に造花だが。
「ねえねえ、タマモ、どう思う?」
「なにがよ?」
眼鏡をかけた女性と、髪を九つに束ねた女性。
「この変装なら、忠夫くんにばれないと思う?」
「・・・さあ? そもそも、なんでばれちゃいけないわけ?」
「その方が面白いじゃない」
ショートカットの、かつらをかぶった令子。
確かに、パッと見、気づきにくいが・・・
「忠夫って、バカだからさ。
あっさりわかるか、最後まで気づかないかのどっちかでしょうね」
途中、自力で気づくということはまずあるまい。
「そっか。じゃあ、あとは演技力ね」
一体、どんな演技をするつもりであろうか。
医務室、
「ちっ、なぜ、わたしが、GS試験の医療班などに加わらねばならんのだ」
しかし、妖怪の保護をしている以上、
GS協会に頼まれた依頼は、できるだけ、受けておく方が良いだろうし。
何度も舌打ちしながら、
医療ベッドに、寝ころんでいる白衣の女性。
小石川冴子。
「ん? 確か、忠夫くんが、この試験を受けるようなことを言っていたな。
よし、怪我人が出るまで、会場で、観戦しておくか」
むくり、と起きあがり、
煙草をくわえて、歩き出す。
「あーれ? センセ、出かけるんでげすか? お供するでげす」
美人の一人歩きは危険でげすよ、と、
ぷかぷかと浮いて、冴子のあとをついていくのは、
「やかましくするなよ?」
ジャック・オ・ランタン。
「わかってるでげすよ」
ハロウィンのカボチャちょうちん、のような使い魔。
冴子の土地の、畑で生まれた、謎生命体である。
「それからな・・・」
「なんでげす? センセ」
「ウサギに気をつけろ。喰われないようにな」
「ウサギ? 最近のウサギはカボチャも喰うでげすか?
よくわかんないでげすが、気をつけるでげす」
ちゃくちゃくと、役者が集まっている。
ガチャリ
医務室の扉を開け、中を覗くのは、
「あら〜、誰もいないわ〜。
ここで他の医療班の人と、顔合わせって聞いたのに〜」
六道冥子。
「お母様、また嘘ついたのかしら?」
そんなこと言ったら、怒られるぞ。
「あっ、でも、ひとり、うちの学院からも〜、
受験するから、応援しなさいって言われたわ〜」
とことこと、今度は会場の方に戻っていく。
「でも〜、お名前、なんだったかしら〜」
果たして、ちゃんと応援できるだろうか。
そして、某所。
淡い桜のような色をした髪を持つ少女。
「確か・・・悪食・・・でしたか。あの刀」
ぺらぺらと、写真付きの紙の束をめくる。
そして、ボウッ、とライターで火をつけ、
資料を燃やし、灰にする。
「どのような力を持つ妖刀か、どれほどの強さを持つ刃か、
是非とも、知っておきたいですね。
できれば、使い手と直接当たれば、よいのですが・・・」
黒い和服に身を包み、
スッと、一振りの刀を抜く。
刃に映る自分の顔。
「そして、できれば、勝って・・・譲って戴きたいものです」
二次試験、第一試合、開幕。
〔あとがき〕
GS試験編のプロローグです。
導入部なので、細かく区切り、こういう感じでまとめてみました。
それから新顔が二人。
ひとりはテレサ。
まあ、この登場は結構予想どおりだったのでは、と思っています。
原作よりも、ちょっと精神年齢下っぽい感じですが、
彼女をこういう形で登場させた理由は簡単。
カオスのことを「お祖父様」と呼ばせてみたかった。
それだけ。
本当にそれだけ。
ただ、彼女の装備に関してはマリアとは大きく違います。
少しは面白いことになるはず。
もうひとり、桜色の髪をした少女。
彼女の登場意義は三つ。
ひとつは、GSメンバーではない第三者の視点担当が欲しかったため。
それから、六道女学院を少し、関係させたかったから。
いずれ、また、おキヌの友人として再登場するかも。
あとひとつは秘密ですが、重要になるのは第二章に入ってからです。
着々と第二章の構想もできあがりつつあります。
とはいえ、また、
「GSじゃない〜」とか言われそうな気もしないではない、今日この頃。
あっ! あとひとり。
カボチャのボチャくん。冴子の助手決定。
ま、役に立つかどうかは知りませんが…。
謎生命っていうのは、存在するだけで意義があるのです♪
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