ホワイトウルフ達の戦いが終わった後、アリア丘陵野外アリーナでは本日最終戦の準備が着々と進められていた。
散らばった残骸やパーツ片などが、作業用MTにより手際よく片付けられていく。
やがて対戦の準備が整った会場に、1機のACが通常モードで歩み出てきた。
その赤銅色のACから声が響く。
『ククク、この日を待っていたぜ…。貴様を衆人環視の中で無様な敗者へと叩き落せるこの日をなあ!』
『ぬう…。つい先日戦場で偶然相対した時にも感じたが…。貴様、仏の道を踏み外し…真の鬼と化したか…!』
そう言葉を発したのは、対戦相手である黄色と白で塗り分けられた趣味の悪い…というよりはセンスが悪いACの乗り手だ。
肩には漢数字の『八』がエンブレムとして描かれている。
最初のACのレイヴンが、嘲うように言った。
『あたりまえだ!暢気にのほほんと生きてきた貴様などと違い、ただひたすらに強くなる事を願い、修羅の道を歩めばこその、今の俺よっ!』
『…もはや言葉での説得は無駄か。ならばこのマッハマッスルが性根を叩き直してくれよう!神妙にいたせっ!』
黄色い機体『八マン』のレイヴン、『マッハマッスル』が叫ぶ。
応えるように、赤銅色の機体『ナインボーズ』のレイヴン、『光速道路の鬼』が咆えた。
『ほざくな!先日の借りを返してやるぜ!』
2機のACが戦闘モードへと移行する。
同時に試合開始の合図が、両機に送信された。
『READY…GO!!』
『うおおおおおおっ!!』
『ふははははははっ!!』
両者は同時にOBを起動し、高速機動に入る。
両機は互いに自分の武器に適した射撃位置を求めて飛び回った。
最初に火を噴いたのは、八マンの右手に装備された大型ハンドガンだ。
だがナインボーズは軽々とその火線を避ける。
『甘いわぁ!ひゃははははっ!』
『ばかな…。わずか数日でこれほど腕が上がっているだと…!?』
赤銅色のACは、マッハマッスルが驚愕した一瞬の隙を突いて左肩の3連ロケットを撃った。
八マンもまたそれを軽々と避けるが、それは相手の誘いである。
ロケット弾を囮に、光速道路の鬼は八マンをロックオンに必要とされる時間の間、サイト範囲に留めておく事に成功したのだ。
ナインボーズの右肩から3機のオービットが次々と射出される。
オービットはマッハマッスルの機体を取り囲み、エネルギー弾を次々と浴びせ掛けた。
『ぐわっ!?』
『うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!ざまーみろっ!!わはは!!』
オービットキャノンに攻撃され、八マンには熱が溜まる。
あぶなく限界ぎりぎりで、マッハマッスルは自機のOBを解除した。
一方のナインボーズは、既に八マンの射界外でOBを一端停止し、排熱とコンデンサのエネルギー再充填を終えている。
光速道路の鬼は再びOBを起動させると同時に、武器腕のミサイルを4発同時発射モードで射出した。
ACのエクステンションに搭載されている連動ミサイルも、勿論使っている。
機動力が死んだ状態で6発のミサイルに狙われた八マンは、為す術も無く全弾直撃を受けた。
対戦会場に、高速道路の鬼の嘲笑が響いていた。
『うははははっ!貴様には何もできまい!!俺の方が強いからな!!おまえは弱いんだ!!トロいんだ!!弱いレイヴンに何も価値などないわ!!』
『く、悪に染まった貴様には負けん!!』
既にズタボロに傷ついた機体で、それでもマッハマッスルは闘志を失ってはいなかった。
彼のそんな様子が気に食わなかったのか、高速道路の鬼は更に彼を貶めるような台詞を吐く。
『ほーれほれ泣けー!!わめけー!!俺より数分だか数十分だか早く産まれたからと散々兄貴風吹かしてくれたが、今や立場は逆転じゃーーー!!思い知ったかー!!』
『な、な…に?』
マッハマッスルは怪訝そうな声を上げる。
だが彼の弟は、喋っている間になんか来る物があったらしく、段々と激昂してきたようでソレに気付かない。
『そうだ…そうだっちくしょうっ!!たかがナンボか早く産まれたってだけでっ!どいつもこいつもマッハマッスル、マッハマッスル!マッスルマッスルマッスル!
なんだっつーんだ!?リングに稲妻でも走るのかっ!?炎の戦士でも照らすっつーのかっ!?
なんでどいつもこいつもマッハマッスルを認めて、どうして天才のこの俺を認めねえんだ〜〜〜!?』
『あ、いやマテおい。待つんだ』
『あー!?なんだ!?今更命乞いかっ!?』
命乞いも何も、基本的にアリーナ戦では何らかの事故でも無い限り命は失わない。
それは置いといて、マッハマッスルは光速道路の鬼に向かい、その誤解を正した。
『いや、な?先に産まれたのはお前の方だぞ?』
『…な…にっ!?』
ナインボーズの動きが止まる。
だが八マンはその隙を突こうとはしない。
ナインボーズから声が上がった。
『じゃ、じゃあ俺の方が兄だったってぇのかっ!!それなのに手前は今までずっと俺を弟だと』
『いやそれは違う』
『何が違うっ!!』
激昂して狂犬のごとく咆えまくる光速道路の鬼をマッハマッスルは静かに諭した。
『双子とか三つ子とかに限ってはだな。先に産まれた方が弟で後から産まれた方が兄になるのだ』
『は!?ンなバカな事…』
『本当だ。その理由には次のような説がある。
母親の腹の中で、上になっている方が兄や姉になる、という考え方によるもの。だから下になっている方が先に産まれるから、後から生まれた方が兄や姉だというわけだな。
また、兄や姉の方が大人だから、大人らしく弱い立場の弟や妹を先に世に出してやるという考え方もある。だから先に産まれるのは弟や妹だ、というわけだ』
光速道路の鬼は呆然としている。
マッハマッスルは続けた。
『…まあどちらの説か、と言うと…どちらかと言えば前者の説が主流派のようだ。
まあそれはともかく、だ。お前が先に産まれたからこそ、お前が弟なのだ。理解できたか?』
『…そ、そうだったのか』
ナインボーズのコクピットで、光速道路の鬼は項垂れる。
だが彼は徐々に顔を上げた。
『…ふと思ったんだが。なんかソレが、てめーが兄貴風吹かすのとか弟ってだけで俺が認められないのとかと何か関係あんのか?』
『…無い…んじゃないかな?
だがお前が人々に認められんのは別な問題があると思うのだが』
『て…てンめえええ〜〜〜!!!』
キュイイイイイン…とナインボーズの背中から、OB起動時特有の金属音が聞こえる。
ナインボーズは光速道路の鬼の怒りと憤りを体現したかのごとく、恐るべき勢いで八マンに突撃を敢行した。
『俺をからかいやがったなあああ〜〜〜!?』
『い、いや私はそんなつもりは無いぞ我が弟よっ!』
『五月蝿えええぇぇぇ!!!』
『うわあっ!?』
マッハマッスルは必死で機体を操った。
八マンは全力のブーストで上空へ逃げる。
その足元を掠めるようにして、ナインボーズは八マンの後方へと突き進んだ。
ナインボーズは急旋回して八マンの背後を取る。
『ち!だが後ろがガラ空きだっ!バカにしてくれた礼はきっちり…』
『LOSE』
『はぁ!?』
『ぬぬ!?』
両機に試合終了の合図が送られた。
しかもナインボーズのコクピットには、でかでかと『LOSE』の文字が表示されている。
八マンも、ナインボーズも戦闘モードから通常モードへシステムが切り替わった。
光速道路の鬼は叫ぶ。
『な、なぜだっ!!ばかな、俺は勝っていたはずだっ!!』
『弟よ…機体の立ち位置が…』
『…な、なああっ!?』
ナインボーズの足元には、未整地の荒地が広がっていた。
光速道路の鬼は頭に血が上り、自機を戦闘領域から離脱させてしまったのである。
俗に言うリングアウトだ。
彼は絶叫した。
『そんな馬鹿なああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
『いや、馬鹿はお前だと思うぞ』
マッハマッスル容赦まったく無し。
しかも悪気も無し。
カンペキに天然。
…光速道路の鬼は灰と化した。
かくして今日もまた、愛と勇気と友情によって正義は守られたのである!!
(あとがき)
これはポチの試合の後に行われた最終戦の様子です。
いやあ感動的な熱戦でしたね〜。
おもわず涙が出てきますね〜。
というわけで今回はポチ達が出てこない番外的なお話です。
本当はアナウンサーとか解説者とか入れた、放映バージョンにしようかと思ったんですが…。
純粋にこの兄弟の角質もとい確執を浮き彫りにしてみようと思いまして…。
最近、考え無いと書けなくなってきたんですが、コレは考えずに書けたんですっげー楽ちんでした(爆)