皆は何でこんな所でこうやっているのかと思うときはあるだろうか?
因みに、俺はそれの真っ最中だったりする。
とりあえず、俺がどうしてここにいるのかを話そうと思う。
俺の名は横島忠夫。
現在腹ペコでぶっ倒れている好青年(!?)だ。
横島大戦
第弐話『人魔・横島』
とある最上級魔族が、己の運命を変えようとしておこした戦乱、通称『アシュタロスの乱』が終結して一年ぐらいたったころだろうか。
俺に、変化がおきた。
突然、体が動かせないほどの妙な感覚が、俺を襲ったのだ。
多分風邪か何かだろうと思って、美神さんからしばらく休みをもらってたんだけど、一週間ほどたって、それが何か大分わかるようになった。
ようは、俺の中の魔族因子と人の因子の拮抗が崩れ、人の体である俺の体が魔族因子に対し拒絶反応を起こしているのだ。
まさかそれが美神さんの命令での文珠の作りすぎによる霊力の低下に原因があったとは思わなかったけれど、突然咳き込んで吐血して、その中に少しだけ紫色が混じっているのを見たとき、俺の心は決まった。
翌朝、文珠で何とか体を動けるようにして、何て言えばいいのかわからなかったから事務所のポストに辞表だけ出して、俺は、妙神山に向かった。
この状態を何とかしてくれそうなのは、彼女しか思い浮かばなかったから・・・
妙神山に登った俺を出迎えたのは毎度おなじみ鬼門の二人。
二人は俺に気がつくと、声をかけてくれた。
『おお、横島ではないか。今日はどうしたのだ? 修行か?』
「ああ、悪い。今日はそういうわけじゃねえんだ。小竜姫様に用があるんだけど・・・今、いるか?」
『うむ、いるぞ。いまよぼ・・・』
「ヨコシマーーーーーーーーーーーーーーー!!」
鬼門たちがそこまで言ったところで、急に扉が開かれた。
そこから飛び出してきたのは、俺の妹・・・そう思っているけど・・・になる筈だった魔族の少女、パピリオ。
俺は軽く吹っ飛ばされながらも、少女を抱きとめる。
・・・決して変な意味はないからな、言っとくけど。
数秒間滞空し、岩壁に激突。
・・・痛い。
けど、そんなのは顔に出さずに、俺はパピリオに微笑んだ。
「よ、久しぶりだな、パピリオ」
「久し振りでしゅ、ヨコシマ!」
満面の笑みで返してきやがった。
・・・ホント、ちょっと見ないうちに、ずいぶん成長しやがったようだ。
・・・何度も言うようだけど、変な意味はないぞ?
無いんだからな。
「修行はうまくいっているか? パピリオ」
「当たり前でしゅ! 語尾も、『ちゅ』から『しゅ』に変わってるんでしゅよ!」
・・・・・・・・気付かなかった。
「そ、そうか・・・ところで、小竜姫様はいるか?」
「・・・小竜姫・・・でしゅか? あんなおばちゃんに何の用でしゅか!?」
なんとなく不機嫌そうな表情で言ってくる。
・・・なにげにひどいこというな、パピリオ・・・
「あんなおばちゃんほっといて、私と遊ぶでしゅ! 猿のゲームでもぶん取って――――っ!!」
突然口をつぐみ、はっとするパピリオ。
・・・やっぱこいつには気付かれるか・・・
「ヨコシマ・・・お前――――」
「・・・そういうわけだからさ、小竜姫様、呼んでくれるか?」
悲しそうな表情をするパピリオに、俺は優しく微笑んで言ってやる。
・・・頼むからさ、そういう顔、しないでくれよ。
俺も悲しいけどさ、何より、俺の中のあいつが、悲しむんだよ・・・
「わかったでしゅ。呼んでくるから、中で待ってるでしゅ」
こうして、俺は妙神山に入った。
因みに、
『なあ、右の?』
『なんだ? 左の?』
『我ら・・・忘れられてないか?』
『・・・言うな』
なんてやり取りがあったという。
・・・合掌。
小竜姫様にあった後、俺はすぐさま検査を受けさせられた。
小竜姫さまが言うには、もう少し、妙神山に来るのが遅かったら、本気でやばかったみたいだ。
俺の体の中は、ほぼ七割がすでに魔族因子が侵食していたらしい。
ぶっちゃけ、ここまで侵食されると、人の因子が崩れ体が塵に帰すか、魔族化するかどちらかになるそうなんだけど、俺の場合、何故かそうならなかったらしい。
・・・ホント、俺って規格外だよなあ。
とまあ、そんなこんなで、俺には二つの道が示された。
一つは完全に魔族化してしまうこと。
完全な魔族になれば、いくら魔族因子が侵食しようと大丈夫だろう、と、そういう理屈らしい。
そしてもう一つ。
それは、人の因子と魔族因子のパワーバランスを完全に対等にし、完全な半人半魔・・・つまりは『人魔』になるということ・・・。
道はたった二つ。
それ以外はありえない。
けどその道は、二つとも“ヒト”ではなくなるということを意味していて――
それはつまりアイツが――ルシオラが好きになった“俺”がいなくなることを意味していて――
俺は――
俺は思わず・・・涙を流していた。
結果から言えば、俺は後者を選んだ。
理由は――今は言いたくない。
いつか、言えるだろうけど、今は・・・勘弁してくれ。
大事なのは、俺はもう“人”ではなくなり・・・中途半端な半人半魔、“人魔”になることを選んだ――そういうこと。
・・・いっつも中途半端な俺には――俺には、お似合いだろ?
それからが大変だった。
まず、この状態では魔族因子のパワーが強く、いつ、俺の体が崩れるかわからないので、魔族因子を少しでも抑えるために心眼が復活した。
そして再会を喜び合う暇もなく、地獄の修行が始まった・・・
俺には霊力の基礎知識が全くと言っていいほどわからなかった(滅茶苦茶小竜姫様が驚いていた。・・・小竜姫様の驚いている顔ってのも、可愛かった・・・って、何言ってるんだ、おれ!?)ため、まずは地獄の勉強、勉強、また勉強。
まあ、そのおかげで霊力やら霊力の修行法やらの知識は、一流のGSにも負けないくらいになったらしいけど・・・俺にはあまり実感はない。
けど、そのおかげでその他の修行もいい具合に、効率よくいけた。
人の因子を鍛えるため、常に一定以上の霊力を放出し続けたり、魔族因子を抑制するために、妙神山の“神気”を吸収したり、何故か途中から斉天大聖老師が加わったりしての体力づくりとか、魔力に慣れる為だとか言われてパピリオから一定の魔力を受け続けていたり(実は只ゲームしていただけ。・・・結構しんどかったけど)、まあ、あとはいろいろ・・・
戦闘訓練はしなかった。
それっぽいことはしたけど、もし、戦闘訓練によって魔族因子が活性化でもしたら、今度こそ、終わりだ・・・そういわれたからだ。
因みに、美神さんとか、俺の知り合い達には、小竜姫様がいいように言ってくれたらしい。
ホント、この人にはいくら礼を言っても言い切れないよ・・・
まあ、そんなこんなで、大体一年くらいの月日がたった。
そのころになると、俺は心眼無しでも十分普通に生活できるまで回復していて、成長期だったためか、霊力もぐんぐん伸びていた。
ようやく、太極文珠も作り出せるようになったのも、そのころだったと思う。
そして――そんなある日、俺は、小竜姫様に呼び出されていた。
小竜姫様に呼び出された部屋には、何故か俺の顔見知りの神族、魔族が勢ぞろいしていて。
そこで、俺は――ある事実を聞かされた。
ここまで運命を憎んだのは産まれて、二度目だと思う。
言いにくそうにしていた小竜姫様に変わり、斉天大聖老師から聞かされたのは、俺の存在意義すら、変えるもので――
それはつまり、俺は“作られた存在”――だということ。
いや、全体的に言えば、人は何らかの役目を負って、この世に生を受ける。
けど、その場合は特別意識されないで、機械的に生み出されていくのだという。
わかりやすく言えば、・・・そうだな、なんかの機械の歯車を想像してくれれば、一番それが近いと思う。
ただ、俺の場合、それが少し違っていた。
俺は、<宇宙意思>というものにより、それも特別意識され、生み出されたというのだ。
そんな俺の役目・・・それは――言わなくてもわかると思うけど、一応、言っておく。
それは、・・・・・・アイツを――アシュタロスを、倒すため。
アイツは・・・優しすぎた上に、強すぎた。
だからアイツは、そんな自分に耐え切れなくて、あんなことをしたんだと思っていた。
けどそれは――俺にも原因があったんだ。
アイツは、アシュタロスは、何でかしらないけど、知ってしまったんだ。
このよくできた大芝居に。
そして、俺かアイツか・・・そのどちらかしか生き残れない、俺とアイツが、“対極の者”だったということに・・・。
だからアイツはおこしたんだ。
あの戦いを。
あいつは決着をつけたかったんだと思う。
こんな、手の平で踊るような事を続けて、いつか滅ぶより、いっそ宇宙意志ですら予測できないような大混乱を起こして、自分の手で、いや、俺と、あいつの手でこのふざけた運命を、誰にも邪魔されずに、終わらせたかった・・・
それが――コスモプロセッサ。
けど、其れも――それですら、宇宙意思の手の平の上だった・・・
思えば、俺はあの戦いのとき、死ぬはずだったんだ。
一度目は、逆天号が隊長の特殊能力による攻撃を受けたとき・・・
二度目は、北極で、ベスパにライフルで狙い撃ちされたとき・・・
そして三度目は――ルシオラをかばって、ベスパの攻撃を受けたとき・・・。
このどれもが、俺が死ぬはずだった出来事。
もっとあったかもしれないけど、俺が思い浮かべられるのはこれだけ。
けれど、俺は生き残った。
運と、偶然と、そして・・・宇宙意思とで・・・
其れを知ったとき、アシュタロスは何を思ったのだろう。
多分・・・今の俺の気持ちと、そう変わりないことだけは、確かだ・・・
その日の夜、俺は全てを聞かされ、床についていた。
何も、考えたくなかった。
けど、それでも、いろいろなことが頭を駆け巡っていく。
・・・いっそのこと、俺が、この世界から消えてしまえばいいのに――
そう思いながら、俺の意識は闇に沈んでいった――
それからどれくらいたったころだろうか、誰かに呼ばれたような気がして、俺は目を開けてみた。
そこで・・・まったく知らない、街の往来に、俺は寝転んでいたんだ。
とりあえず警官と思う奴らとおっかけっこをした後、たまたま寝るときにつけていた心眼をたたき起こして、現状の状況分析。
・・・正直、喜ぶ自分が心のどこかにいたことは――否定できない・・・
とりあえず判明した事実、それは、今俺達がいるところはパラレルワールドの過去だということ。
確かに俺がいた世界の過去は、蒸気革命は起こっていたけど、ここまで大々的ではなかったはずだし、それに第一、年号がおかしかった。
『太正』・・・それが、俺が今いる時代。
点が一つ多い。
俺が知っているのは『大正』。
『たい』の字が違う。
これで困ったのはもちろん衣食住だった。
衣と住は別にどうでも良かったんだけど、一番困ったのはもちろん食。
金がなかったんだ。
この時代の金が。
この時代の俺は間違いなく“ここにはいない存在”。
つまり、身元不明の俺が早々簡単に仕事を見つけれるはずもなく、まさに餓死寸前で三日間さまよい続けた。
そして、やっと見覚えのある地形にたどり着いたそのとき、
「いやああああああああああああああああああああああああ!!!」
という、凛とした女性の悲鳴が聞こえてきた。
それを聴いた瞬間・・・俺は駆け出していた。
行き先はもちろん、悲鳴のでもと。
しばらく走って、少し開けた場所に着いた俺が目にしたもの、それは、子供をかばうまだ15,6の少女と、それらを襲おうとし、刀を振り上げている金属のロボット? 見たいな奴だった。
俺は即座に二人と一つのまにわって入り、ロボットの刀を、なけなしの霊力を使ってのハンズ・オブ・グローリィで受け止める。
滅茶苦茶しんどいけど、可愛いこのためならばなんのその!
心眼にも突っ込まれたけど、俺には、これが一番性にあってると、俺は思う。
とはいえ、さすがにしんどいので、文珠を使って一気に決めた。
・・・あ、技名言うの忘れてた。
まあ、気にせず、振り向いて「大丈夫?」まで言ったのだけれど・・・
そこで力尽きた。
ああ!
せめて住所と電話番ごおおおおおおおおおお!!!!!!
次回予告
ごきげんよう。
まあ、知っているとは思いますけど、一応自己紹介しておきますわ。
わたくしは帝劇のトップスタァ、神埼すみれですわ。
それにしても、何なんですのあの娘は!?
何も出来ないにも程がありましてよ!
これは、少々教育が必要ですわね・・・
けど、あの娘が拾ってきた、あの殿方は――
次回、横島大戦第参話 『さくら、舞台に立つ!』
太正桜に浪漫の嵐!
お兄様――――