闇が満ちるその空間に、男の慟哭が響いた。
「何故だ・・・!?
俺は確かに人魔を召喚したはず!
“召喚円”にも間違いはなかったはずだ!!
それなのに・・・何故“器”がないのだ!?
これでは、俺の悲願は・・・」
そこで、男の慟哭は止まった。
そして、次の瞬間には笑い声が闇が満ちるその空間に響く。
「くくく・・・クハは八は八はははははっははは!!!!!!!!
そうか、そういうことか!
貴様か、貴様かァァぁぁ!!!
くく、まあ、いい。
奴がこの世界に来たことには変わりはないのだからなあ!!
待っていろ人魔よ!
必ず手に入れていやる・・・全てを滅ぼす貴様の力を!
くは、くははっはははっははっはっはっはははは!!!!!!」
横島大戦
第壱話『横島襲来?』
ぷしゅうううううううううううう
真っ白な蒸気を上げ、一台の蒸気機関車が上野駅のホームに滑り込んでくる。
人々がにぎわうこの上野駅に、その蒸気機関車から降りてくる乗客が合わさり、さらに混雑していく。
そんな中、蒸気機関車の二等客室から降りてくる一人の少女がいた。
少女の名は真宮寺さくら。
破邪の血をその身に宿す一族の、末裔である。
所変わって上野公園。
春が近いせいか、さくらがちらほらと咲き始め、それに乗じて屋台もいくつか出ており、花見シーズンとまでは行かないものの、
それなりの賑わいを見せていた。
そんな中、さくらはというと・・・
「・・・ここ、どこ?(涙)」
迷子になっていた。
とりあえず弁解をしてみると、さくらは決して方向音痴というわけではない。
しかし、さくらの故郷は仙台と、言っては悪いがド田舎に当たる。
今までこんなに人が混雑しているのを見たことがなかったさくらは、ついつい人の流れに乗ってしまい、ついには迷子になってしまったのだ。
まあ、母にもらった帝都の地図とか、指定の場所を記した紙をそろって落としてしまったのがおもな原因になるのだが、まあ、そこは言及しないでおく。
現在、さくらは上野公園の中央広場にいた。
これ以上うろつきまわってさらに迷うより、少なからずわかりやすい地形の場所にいたほうがいいと思ったからだ。
そしてそれはさくらに思いのほか、心にゆとりを与え、さくらは辺りを見回す。
(ここが・・・お父様が守った街・・・)
さくらの父、真宮寺一馬が、命をかけて守った都市。
そして――
(これから、私が守っていく街・・・)
心の中で呟いた。
そんなさくらの前を、数人の子供が走り去っていく。
(・・・がんばらなくっちゃ!)
平和な光景に、さくらはこの光景を守っていこうと新たに決心をする。
そのときだった。
ドゴオオオオオオン!!
「なっ!?」
派手な音を立てて、屋台の一つが吹っ飛んだのは。
粉々になった屋台の跡地から現れたのは鋼鉄の武士。
「ま、魔操機兵・・・!」
誰かがそう叫んだ。
魔操機兵――そう呼ばれた金属武士は、なおも破壊を繰り返そうと、その手に持つ刀を構え・・・振り下ろそうとした、その時。
「待ちなさい!」
凛とした声が、上野公園に不思議と響いた。
「帝都の平和を乱すもの、この真宮寺さくらが許しません!」
真宮寺家に代々伝わる『霊剣・荒鷹』の切っ先を鋼鉄の武士に向け、叫ぶ。
鋼鉄の武士はさくらの言葉を解した風も無いが、意思があるのか、はたまた人を優先的に襲うようにされているのか、
どうやらさくらを敵として認識したようだ。
鋼鉄の武士は、ゆっくりとさくらのほうを向き・・・
「いやああああああああああああああああああああ!!!!!」
――ザン!!!――
気合一閃。
神速の踏み込みから繰り出された剣戟は、たやすく鋼鉄武士を切り裂き、爆散させた。
さくらは息を吐き、荒鷹を鞘に収める。
が、それがいけなかった。
「うわああああああ!!!」
「!!??」
子供の悲鳴。
視線を送る。
そこにあったのは、逃げ遅れた子供が、鋼鉄の武士に襲われかけている光景。
「くっ!」
一瞬の硬直。
それが、さくらに抜刀させるトキをなくさした。
さくらは思わず飛び出し、少年をかばい――
鋼鉄の武士の凶刃が、振り下ろされた。
さくらは思わず目をつぶる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
しかし、しなにも起こらない。
『まったく、莫迦者が。後先考えずに行動しよって・・』
「いいじゃねえか別に。目の前で死にそうになってる娘を見捨てられるほど、俺は人間捨てちゃいねえんだ」
最初に聞こえてきたのは中世的な声。
次は二十歳前後の男性の声。
不思議に思い、目を開けてみると、そこでは右腕から光る剣を出している妙な格好の青年が、
鋼鉄の武士の刀を受け止めていた。
逆行のため、顔までは見えないが、声の感じからして結構若そうだ。
「ま、俺のほうもそろそろやばいしな、さっさと決めるとしようか」
男がそういった途端、篭手の部分の宝玉が太極模様に変化し、光の剣の輝きが、さらに強くなる。
「ふっ! 弧月閃!!」
―― 一閃 ――
音すらも感じさせない超高速の斬撃が、鋼鉄の武士を完璧に捕らえ、爆散させる。
(す、凄い・・・)
さくらは見とれていた。
そのあまりの剣のするどさに。
自らがかばっていた少年が、もうすでにいなくなっていることにも気付かぬほどに・・・。
青年は鋼鉄の武士が機能停止していることを確認すると、輝く剣を消してゆっくりとこちらを振り向き、
「大丈夫かい?」
等と聞いてくる。
「あ、は・・・・」
さくらが頷こうとしたそのときだった。
「ふぇっ!? え、あっ!?」
男がさくらのほうに倒れこんできたのは。
当然、急なことに戸惑うさくら。
そんなさくらに、青年のかすれた声が届く。
「・・・は、腹減った・・・」
「・・・・・・・・・へ?」
結果として、その場には唖然としている少女と、彼女にぐったりともたれかかっている奇妙な服装の青年という光景が出来上がっていた・・・
次回予告
俺はなんだ?
ヒトか?
マか?
それとも・・・
活性化し、俺の体をむさぼる魔族因子。
それを何とかしようと、妙神山に訪れた俺を待っていたのは、魔族因子をコントロールするための修行の日々だった・・・
次回、横島大戦第弐話 『人魔・横島』
太正桜に浪漫の嵐!
>NEXT