そんな妙神山の居住区の一室で、とある女性神が二人、何かを熱心な表情で見つめていた・・・
「正直、ここまでてこずるとは思っても見なかったのねー」
「・・・どうですか? ヒャクメ」
ため息をつくハイカラな女性神に詰め寄る妙神山が管理人、小竜姫。
鼻息荒く詰め寄る小竜姫に、ヒャクメと呼ばれた女性神は首を振る。
「残念だけど、こればっかりは間違いないのねー」
ヒャクメは己の『千里眼』につないであったコードを、ポコン、とはずしながら言う。
「私の『千里眼』はこの世界中で見れないものもはないのねー。それでも、横島さんはどこにもいない。あれほど特殊な霊波だもの、見つけれなかったら、私は『神界主任調査官』の名を返上しなければいけないのねー」
やれやれと首を振る。
「やっぱり・・・では横島さんは・・・」
「念のため、封印といて私の最後の感覚器官、『万里眼』を持ってきておいて正解だったのねー。私の万里眼は、時空さえも見通すし、並行世界だって――――」
ヒャクメがそこまで言いかけたとき、突然その部屋の襖が開いた。
そこにたっていたのは――
「そこまでじゃ、ヒャクメ」
「・・・げっ」
小竜姫の武の師匠であり、神界の中でも名高い斉天大聖老師であった・・・
「ろ、老師! どうしてここへ?」
頬に冷や汗が流れるのを感じながら、小竜姫は自らの師に問う。
小竜姫のしである彼は、神界の中でも最強クラスの力を持つため、その力を危険視されこの妙神山に括られている。
斉天大聖自身それを理解しているし、そして何より、自分が余り好き勝手に動けばそれはおのずと自分の愛弟子に『責任』という形で帰ってくる。
それがわかっているし、それに、今の暮らしも結構気に入っている彼は、めったなことで妙神山の頂上付近に作られている彼の居住区からは出てこない。
しかし、今はそんな彼がこの場へと来ているのだ。
一体何が・・・
そう思い、身構える小竜姫の前で、斉天大聖は静かに封書を開けた。
「つい先ほどジークの奴が神界、魔界上層部からの封書を届けにきおっての。おぬしらにも関係することじゃから持ってきたのじゃ」
そう言って、彼は静かに語りだす。
「『この命令書を聞いた、もしくは読んだその時その瞬間より、横島忠夫に関するあらゆる行動を禁ずる。この命令の期限は無期限とし、この令が解かれるときはおって通達する。もし、この令を破った場合、いかなる理由があろうともそれは三界への反逆とみなす。
発令元
神界最高指導者キリスト
魔界最高指導者サタン』
・・・ま、こんなところじゃな」
その令を聞いたとき、小竜姫はまさに気を失うかと思った。
数秒で再起動。
「・・・っ! そ、そんな横暴! 彼は、今不安定な状態で、いつ魔族因子が暴走してもおかしくはないのですよ!? とてもそんな命令、承服できません!!」
必死に詰め寄る小竜姫。
しかし、聖天大聖老師、ハヌマンは意に介した風もなく、口を開く。
「・・・正式な上層部から、しかも最高指導者達からの直接の命令に、逆らう、と?」
「・・・っ!!」
わかってはいる、わかってはいるが・・・
「・・・私達には・・・私達には責任があるのではないのですか? 彼を苦しめ、彼1人に、全てを押し付けて・・・。それなのに!」
「そこまでじゃ、小竜姫」
ハヌマンの静止も、もう利かなかった。
一度決壊したら、もう止まらなかった。
「彼が、横島さんが大変なときには、何も手助けをするな、ですか!? 横島さんが今どんなに大変なときか、上層部も理解しているはずでしょう!? 何を考えているんですか、上層部は!!!」
「落ち着けぃ!!!! 小竜姫!!!!」
一喝。
ハヌマンの一喝とともに放たれた、すさまじい霊力の奔流が、小竜姫を押しとどめる。
「ここでおぬしが取り乱してどうする!! 今おぬしが動いて、今の状況がどうとでもなると思っておるのか!?」
「老師・・・」
「頭を冷やせ小竜姫。・・・おぬしには、しばらくの謹慎を命ずる」
「・・・はい」
うなだれる小竜姫を前に、ハヌマンは今までの成り行きを見ていたヒャクメに向き直る。
「ヒャクメ」
「は、はい!!」
「おぬしにはしばらく小竜姫の監視を命ずる。仕事のほうはわしから言っておくから気にするな」
「は、はあ・・・」
突然の命令に、戸惑うヒャクメ。
本来妙神山にはハヌマンの知覚が届かないところはない。
つまり、妙神山にいる限り、小竜姫には監視は必要ないのだ。
しかし、ハヌマンはヒャクメに監視を命じた。
これは、一体――
考えるヒャクメを尻目に、ハヌマンは部屋を出て行こうとする。
そしてふと立ち止まり――
「これからわしはたまっているゲームをクリアするのに加速空間に入るからの。ま、急ぐことはないから大体三ヶ月ぐらいで出てくるつもりじゃが・・・。はて、そういえばその間は妙神山に何が起ころうとわからないのう・・・」
「・・・!!」
バッと顔を上げる小竜姫。
しかし、ハヌマンはそのときにはもうすでにいなくなっていた。
「・・・・・・・・」
小竜姫はハヌマンが去っていった方向に、深々と頭を下げるのであった・・・
横島大戦
第参話 『さくら、舞台に立つ!』
所変わって太正時代。
帝都の気脈が集まる地点に位置する大帝國劇場。
そんなところで本作の主人公、横島忠夫は・・・
『ズドドドドドドドドドドドドド!!!!!』
ものすごい音を立てて、
『ドカバキグガギゴズガバヂドドド!!!!』
・・・ご飯を食っていた。
話は数時間前に遡る。
見ず知らずの奇妙な格好の男性に寄りかかられ、途方にくれていたさくらは、脇時の出現により駆けつけたマリアと合流。
さすがに倒れている男を見捨てていくのは後味が悪かったので、お持ち帰り・・・ゲフンゲフン・・・保護したのだった。
大帝國劇場につれてこられた横島は、意識がなかったのですぐさま診断を受けたが、只の栄養失調等による極度の疲労から来るものだとわかり、使っていなかった部屋に寝かされた。
その間にさくらの顔見せは終わり、一般人に知られては困ることなども、すでに伝え終わっていた・・・。
と、まあそんなこんなしているうちに横島は目を覚まし、様子を見に来ていた高村椿にセクハラを働こうとしたが空腹のために動くことが出来ず、現在の状況に至っていたりする。
(『ドカバキグガギゴズガバヂドドド!!!!』って・・・、・・・一体どういう食べかたすりゃあ、んな擬音たつんだよ・・・?)
ものすごい勢いでどんぶりの中の物をかっ込む横島の対面に座った初老の男、米田一基は、頬を引きつらせながら心の中で呟いた。
そんな米田の内面も知らず、横島は米の一粒もなくなったどんぶりをドン! と置く。
「ぷはーーー!! 生き返ったーーー!!」
そう晴れ晴れと言い、横島は改めて米田に頭を下げた。
「・・・あ? 何だよ、急に頭を下げて」
「いや、見ず知らずの上にこんな身元不定の俺に、こんなにしてもらって・・・頭を下げるのは当然ですし・・・」
「ああ、いいってことよ、あんたにゃ、うちのさくらを助けていただいた恩もあるしな」
「はあ・・・」
さくら、とは人の名前であるのだろうが、いまいちよくわからない。
まあ、助けた、という自覚がない(本人としては当然のことをしただけ。因みに女性限定)だけだったりするのだが。
それはそれとして。
「しっかしよお、おめえ、どうしてあんなとこにいたんだ? っていうか、どっから来たんだよ?」
「えっ・・・ええと・・・」
米田の問いに、急にしどろもどろになる横島。
いくらなんでも、別世界からきました〜、なんて信じてもらえるとは思えなかった。
・・・が、
『そこから先は私が話そう』
「なぁっ!!??」
「し、心眼!?」
突如横島の額のバンダナに目が開き、急にしゃべりだしたのだ。
当然、びっくりする米田。
もちろん、急な心眼の登場に、横島もあわてる。
「お、おい、なんとつもりだよ人前に顔(?)出して」
『・・・私に顔があるかどうかは知らんが、おそらくは心配はないだろう。米田殿にはかすかだが霊力が感じられるし、呪術等を使った匂いも感じる。我らに近い』
「お前がそういうんなら別にいいけど・・・わかった任せる」
『承知』
心眼はおもむろに目を閉じると(頷き?)、改めて米田に話しかける。
『・・・申し送れた、私はこのものに憑いている心眼という。・・・そうだな、式神、と同じようなものだ』
「・・・式神・・・?」
『そうだ、そう思ってくれてかまわない』
「なるほどねえ」
心眼の説明というか今までの事情というかまあそんなのが話し終わって、米田は、さすがに数分間黙っていたが、ゆっくりと頷いた。
「つまり、あんたらは何らかの理由でこの世界に来た、異世界の人間だ、と」
『そうだ』
とはいえ、さすがに人魔のこととかは伏せてはいたが。
「ってえことはだ、いくあても何にもねえのか?」
「・・・いえ、一つだけ心当たりはあるんですが・・・」
「心当たり?」
「はあ」
『主、この世界では妙神山の気配はない。・・・どうやらないと考えて言いようだが?』
「・・・たった今消えました」
「・・・そうか」
がっくりしながらどこか安心しているような横島を見、米田は少し考えるそぶりを見せた後、自らのひざをポンとたたいた。
「よっしゃ、それなら、しばらくうちにいねえか?」
「え、ええ、いいんすか!?」
突然の米田の申し出。
それは行く当てもなかった横島にとっては渡りに船のものでもあった。
「別にいいってことよ。そろそろ男手もほしいと思ってたころだしな。おめえさえ良けりゃ、給料は安いが衣食住は保障するぜ?」
「あ、お、お願いします!!」
がばっと頭を下げる。
横島のそんな様子を見、満足そうに頷く米田であった。
「じゃ、ついてきな、他のメンバーに紹介するからよ」
「は、はい」
大帝國劇場、二階テラス。
そこはいつも大帝國劇場に勤めるメンバーが集まる憩いの場所である。
そして今は・・・四月に公演される舞台の役発表のため、帝劇に勤める全員が集合していた。
と、そこへ横島を伴った米田が到着する。
「よう、全員そろってるな」
かっかと笑いながら、米田はテラスに入り
「紹介するぜ、今日から帝劇に勤めることになった・・・ってありゃ!?」
横島を紹介しようとし、振り返ったが素っ頓狂な声を上げた。
なぜなら、そこに紹介するはずの横島がいなかったのだ。
そして、当の横島といえば・・・
「こんにちは、僕横島! ああ、こんなところであえるなんてこれってまさか運命!? 奈良さあ僕と一晩のフォーリンラブ!!」
とかなんとか叫びながら一番近くにいた金髪ブロンドの長身の女性に飛びつこうとしたのだが・・・
ゴリッと
突きつけられた拳銃とともに静止した。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
睨む金髪ブロンドの長身の女性。
冷や汗をかく横島。
冷たい沈黙が流れるテラス。
皆、いきなりのことに思考がフリーズしてしまったのだ。
しかしその中で最も早く再起動したのは、金髪ブロンドの長身の女性の隣にいた、まるでフランス人形のような少女だった。
少女は金髪ブロンドの長身の女性の服をくい、くいと引く。
「ダメだよマリア、怖がってるよ?」
「・・・ごめんなさいアイリス、怖がらせてしまったわね」
マリア、と呼ばれた女性は、どこかしぶしぶといった感じで、横島の額から拳銃を離した。
その後もしばらく場の空気は固まってはいたが、耐え切れなくなったのか米田が無理やりに話し始める。
「ま、まあ取り敢えずだ。こいつは今日からここで働くことになった・・・」
「あ、横島忠夫っす、よろしくお願いします」
米田の台詞を引き継ぎ、自己紹介する横島。
・・・多少、冷や汗をかいていたが。
その横島の自己紹介に触発されてか、再起動した帝劇メンバーも、自己紹介を始める。
「初めまして・・・ではないですね、私、真宮寺さくらです。あの、さっきはありがとうございました」
「・・・あ、わたくしは神崎すみれと申しますわ・・・」
上野公園で助けられたのが強いのか、礼儀正しく挨拶するさくらに、さっきのをまだ引きずっているのかどこか戸惑いながら挨拶するすみれ。
「アイリスだよー! ホントはイリス・シャトーブリアンって言うんだけど、アイリス、ってよんでね?」
「・・・マリア・タチバナよ。・・・次にやったら・・・撃つわよ?」
無邪気な感じで横島にペコリとお辞儀するアイリス、そしてもう撃つ気満々のマリア。
そんなマリアの様子におどおどしだしたのは隣の少女。
「・・・あ、あの、高村椿っていいます。売店の売り娘です・・・」
そんな椿の様子に苦笑しているのはどこかハイカラな少女と、大和撫子みたいな感じの女性だった。
「ふふ・・・私は榊原由里よ、よろしくね〜」
「私は藤原かすみです。おもな仕事は事務仕事なので、用があるときは事務所のほうに来てください」
やはり、挨拶の仕方でその人物の性格がわかる、といった先達がいたが、その言葉はあながち間違いではないだろう。
と、まあ、こんなふうに全員の自己紹介が終わると、米田がおもむろに口を開いた。
「自己紹介は終わったみてえだな・・・よし、じゃあ四月公演の役割を発表するぞ?」
米田がそういった瞬間、彼女達の周りの空気が張り詰める。
さすがは女優、といったところだろうか。
・・・一部、そんな空気とは無縁の方達がいたが(主にさくら)。
ま、そこら辺は気にしないで。
そんな空気の中、米田は悠々とそれぞれの役割を発表し、そして最後にこう付け加えた。
「あ、後な、この前香港に行っちまったカンナがやるはずだった役・・・さくら、おめえがやれ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
さくらはびっくりしている!!(ドラクエ風)
続きますか?
次回予告
舞台。
それは夢。
舞台。
それは戦場。
此処は全てが試され、そして全てをかける場所。
見せてもらうわ。
貴女の強さを。
次回、横島大戦第四話 『初舞台 椿姫の夕』
太正櫻に浪漫の嵐!!
BACK<