魔人織田信長との交戦当日の夜
リーザス・反信長軍の陣地では、沈んだ空気が流れていた
その理由のひとつは、ハウレーンが負傷したということ
これは、主に白の軍の兵達に、沈んだ空気を持たせる原因となり
そしてもう一つ、ランスが暴走し、倒れたために、魔人を討つための方法が
現在の戦力では、無いという事になったためである
もちろん、ランスが起きれば戦力として使えるだろうが
ランスの暴走の原因を、ほぼ全員が悟っているために
再び信長と対峙させたら、また、狂うかもしれないという考えが広がり
流石に、ランスが狂う可能性があるのに、対峙させる事などできないため
エクス、バレス、リック、五十六、メナドは緊急の軍議を開き
明日以降の戦いについて、話し合っていた
「まず・・・現在の戦力状況を再確認しましょう
敵の農民兵の三分の一は捕らえることは出来ましたが・・
武者兵の多くはいまだに存在しており
さらに、後続部隊が、二日後には到着する可能性があるようです
あちらの被害も大きいために、そう長引くとは思えませんが
それでも、魔人相手では、今の私達の保有戦力では話になりません」
「そうじゃな・・・・
ランスも、まともな判断は今は出来まい・・・
既にリーザス城に伝達兵を走らせておる
今は守りを固め、援軍をまつしかあるまい」
「私も、バレス将軍の案に賛成です
しかし・・・なぜ、魔人が、ああも自然に動いていたのでしょうか」
「・・・失礼ながら、先ほどのリック殿の発言
何か魔人に対抗する策を張っていたというように取れますが
我等は聞いておりませんでしたが・・・・どういうことですか?」
リックの言葉に、五十六が即座に疑問の声をあげた
「あぁ、貴方達に伝えなかったのは私の判断です
JAPANの兵の多くが、多かれ少なかれ
心のどこかで、信長に対する恐怖を抱いていたようですので
未確認の情報で、無意味にそれを煽る事も無いと思ったのです
後、その魔人に対する策というのは・・・・
簡易な魔封印結界を、結界志木を各所に伏せ
魔人信長が、その範囲に入ったら、
セルさんが、即座に発動させるはずだったのですが・・・」
エクスは、そこまで言うと、軽く頭を抱える素振りを見せた
「・・・ついさっき、入ってきた報告によると
結界志木の設置と護衛を担当していた兵が、皆殺しになってたって・・・
多分、あの、月光とか言う忍者の仕業だと思う・・・・・」
メナドが、どこか悲しげな口調で、そういった
その、メナドの報告を聞くと共に、沈黙が場に降りるが・・・
「報告!!ハウレーン将軍の意識が無事に戻りました!!」
突如入ってきた伝達兵の報告によって、その雰囲気は崩された
「おぉ・・・!!そうか、無事、戻ってきたか・・・!!」
バレスが、涙を必死に抑えながらも、喜びを抑えきれない声でいい
「ふぅ・・・これで、何とかなりそうですね」
エクスも、平常を装うも、その顔には笑みがこぼれており
「意識不明と聞いたときはヒヤリとしましたが・・・・
無事、意識が戻りましたか・・・ランス、よかったな・・・」
リックが、今この場にはいない親友に、自分も喜びながら伝え
「ボク、ランス将軍に急ぎ伝えてきます!!」
メナドがそういうと、即座に駆け出し、ランスが眠っている場所に向かい
「これで、勝機が見えてきましたね・・・」
五十六も、喜びながらも、戦のことを考えながら、発言していた
ハウレーンの意識が戻ったことにより、沈んだ空気がどこか払拭され
エクス、バレス、リック、五十六がより効果的な陣形について話し合っていたときに
「た・・・大変です!!
将軍が・・・ランス将軍がいません!!」
メナドが、切羽詰った表情で駆け込んできて、衝撃の報告をした
「まさか・・・単身で・・・・!?」
「馬鹿な、いくら冷静ではないといってもランスがそんな事を・・・」
「メナド、一つだけ聞かせてくれ、カオスは・・・魔剣カオスはどうなっていた?」
その報告に、エクスとバレスが混乱しているとき、リックは冷静に質問した
「カオスも・・・ありませんでした」
その報告を聞き、リックは頭を軽く振ると、エクスとバレスの方を振り向き、こう言った
「ランスは、間違いなく単身で強襲をかけたようです
今、迅速に動けるのは夜警を担当している赤の軍のみ
そこで、赤の軍は即座に出撃し、ランスと合流し、連れ戻してきます」
「お願いします、私達も出来るだけ早く追いつけるようにします」
リックの言葉にエクスがそう返すと、リックは頷き、即座に命令を出し始めていた
ランスの単身出撃、その報告が全軍に広がるとほぼ同時に
赤の軍と、緑の軍兵のうち、赤の軍出撃に間に合った兵が
闇の中を、敵陣へと、全速力で駆け抜けていた
少し時間が戻り リーザス・反信長軍陣地
ランスが眠っている横に、魔剣カオスは、地面に刺さる形で存在していた
(しかし・・・・ハウレーンの嬢ちゃんが傷つけられて怒るのは解るが
あそこまで、このランスが狂うとはのぅ・・・・
そこまで重要な人だったという事じゃろうが
それ以上に・・・気になるわい
あの時、ランスの闇の中で、何か別の存在があったように思えてならん
人のものではない、もっと別の・・・まさか、奴がちょっかい出しておるのか?
いや、奴の気配にしては、違いがありすぎる・・・・
複数の人を超えたものの干渉?・・・いかん、わからんわい
カフェか日光、この際ホ・ラガでも構わんが
あいつらなら、何か思い当たるのかも知れんのぅ・・・)
カオスが、その柄にある目をつむったまま、深く、考え事をしていた
そして、考え事をやめ、目を開けたとほぼ同時に
「ん・・・?おぉ、起きたか」
ランスが、ゆっくりと、その上半身を起こしていた
「まったく・・・お主らしくもないぞぃ
ハウレーンの嬢ちゃんが傷つけられて動揺したのは解るが
いくらなんでも、あそこまで闇に囚われる・・・・!?」
ゆっくりと、体を動かしていたランスに、カオスは話しかけていたが
その途中で、異質な気配に気付いて、その言葉を止めた
「この気配・・・魔人・・・?いや、もっと濃いか・・・
ランス、お主も気付いて・・!?まさか・・・お主が!!」
その気配、魔剣になって、いっそう敏感に感じ取れるようになった
場に流れている魔の気配の事を、ランスに話しかけた時に
カオスは、驚愕の事実に気付いた
その気配が、ランスから流れており、しかも、ランスの目が、普段と違っていたのだ
そう、普段の、無限の自信を宿したかのような、瞳ではなく
色落ち、全ての闇を味わい、その結果、光を完全に失ったような
酷く濁りながらも、どこか美しささえ覚えさせる、蒼い瞳をしていた
そして、ランスは、ゆっくりと立ち上がり、カオスの柄に手をかけた
ランスの変化に驚いていたカオスは、ランスの手を避ける事もままならず
その柄に、手をかける事を許してしまった・・・そして
「なっ・・!?・・な・・なんという闇じゃ・・・!!
いかん、このままでは儂の自我が・・・止むをえんか・・・!!」
カオスは、その自分に逆流してくる闇の量が、自分を破壊しうる量だと悟ると
即座に、自我意識を封印し、一時的な冬眠状態に入り、自我を保つ事に決めた
ランスは、カオスを手に持ち、天を仰いだかと思うと
その場から、消えうせていた
信長軍陣地 司令室
そこで、織田信長は、ゆっくりと酒を飲んでいた
「あの小僧、予想以上にやりおるわ
次の戦で、何としてもあの小僧の首を取らねばならんか」
信長がそういい、一気に酒をあおると共に、一人の兵が駆け込んできた
「報告!!敵が襲撃を仕掛けてきました!!」
「ほぅ・・・数はどれくらいじゃ?」
兵の報告に、信長は酒の肴が出来たといわんばかりの顔で質問を返した
「そ・・・それが・・・たったの一人です」
「一人・・・?その程度で報告にきたのか?」
信長はそういうと、目を細め、伝達兵をにらみつけた
「は・・・はい、ですが、その男が恐ろしいほどに強く
われらが束になっても、一太刀も浴びせる事が出来ないのです!!」
「たとえ強かろうと、儂ではあるまいし、数にはかなうまい
兵をどれだけ損じても構わぬ、その男を八つ裂きにせい」
信長は、つまらなさそうな口調でそういうと、伝達兵を返させた
そして、信長の兵たちは、たった一人の襲撃者に攻撃を仕掛けていたが・・・
ビシャアア・・・ボタボタボタボタボチャ
「こ・・・・こいつ・・・人間じゃねぇ!!」
「こんな奴相手にしてられる」 ザシュ
その襲撃者・・・真っ赤な、返り血によって真っ赤に染まった襲撃者は
近寄ってくる兵を一太刀で粉砕し、その臓物を肉体に浴びながらも瞬きもせず
逃げようとする兵は、その、恐ろしい剣速で生み出された真空の刃を放ち切り殺し
近寄らず、様子を見ている兵達の中に突撃し、次々と殺戮を繰り返していた
その襲撃者が剣を振るう以外の行動をとるのは、たった一つだけだった
肉体に浴びた臓物が、その行動を妨げうる量になったときにだけ
手で、虫でも払うかのように、払いのけているのだ
その時だけ、殺戮は起きなかったが・・・直ぐに、殺戮は再開される
史上、唯の一度も、たった一個の存在によって、これほどの殺戮は行われなかった
そう、かつての魔王ジルでさえも、行わなかった所業が
今、この場で、行われていた
逃げる事さえ許されず、挑めば、その肉体が粉砕される
信長の兵達全員に、既に死が決定付けられている
そういっても過言で無いほどに、襲撃者の殺戮は早く、正確であり、残酷であった
襲撃者は、ゆっくり歩きながら、時折立ち止まり、呼吸でもするかのように
近くにいる兵の全てを、皆殺しにして、また、ゆっくりと歩き続けていた
その様は、人ではなく、魔人ですらなく、魔王すらも超えた存在のようであった
その襲撃者が、殺戮を繰り広げていたころ、赤の軍は、信長軍の陣地についていた
赤の軍がつくまでに、メナド隊、五十六・忠勝の騎馬隊が合流し
撹乱のためにと、リックの部隊と忠勝の部隊が突入したとき
そこは、地獄であった
「う・・・・・・ゲホッ・・・ゴホッゴホッ」
軍人として育ったメナドが、思わず戻してしまうほど
その光景は、あまりにもおぞましかった
「これを・・・あのランス殿が?」
五十六も、流石に直視できずに、リックにそう尋ねた
「・・・でしょう、ランスが、ここまでやるとは思えませんが
状況から見るに、そう考えるのが妥当でしょうね」
リックも、少々目の前の光景に引きながら、そう五十六に返した
「・・・ランス殿がここに襲撃をかけたという事は
狙いは間違いなく信長の首、とならば、急ぎ信長のもとに向かいましょうぞ」
比較的、自分もこれに近い光景を作り出した事があるために耐性がある忠勝が
リックにそう話しかけ、進軍を促した
「そうですね・・・全軍進撃!!ランス将軍と合流するぞ」
リックの命によって進軍が始まるが、その速度は決して速くは無かった
なにせ、あまりにも恐ろしすぎる殺戮のせいで、足の踏み場すらないのだ
さらに、その光景が、進軍の速度を緩めてしまっていた
奥に行けばいくほど、血の匂いが強くなっていき
死体の体も、生暖かいものへと変わっていっていた
途中、何名かが戻し、外へと逃げ帰っていったが
流石のリックも、怒る気にも、止める気にもなれず
その数を、少しずつ減らしながらも、進軍は続いた
そして、信長の陣地がリック達の目に入ったとき
ちょうど、鮮血で真っ赤に染まったランスと、信長が対峙していた
「・・・小僧、貴様本当に人間か・・・?
まぁ、そんな事はどうでもいい、ここで、死ぬのだからな!!」
信長はそういうと槍を繰り出すが、ランスは何の苦も無くそれを回避し
「もらった!!」
ちょうど、ランスの影から飛び出してきた月光に・・・
ドグシャアア!!
「ヒッ!?」
その、拳を、裏拳の応用で月光の頭に当て、それを、砕いた
そして、その光景を直視した兵の多くが、息を呑んだ
「ち・・違う・・・あれは・・・将軍じゃない
あんなの・・・将軍じゃないよ・・・・・」
メナドが、頭を抱えながら、震えながら、そう言った
リック達は、その言葉を否定するでも、肯定するでもなく
ただ、目の前の戦いを見届けようとしていた
「くっ!!・・・小童が・・・調子に乗るでないわ!!」
月光の頭を砕いた瞬間、ランスがわずかに笑みを浮かべたのを見て
信長が、渾身の槍を繰り出した・・・・が
ズシャアア
「ぬぉおおおお!?くっ・・・まだだ!!」
その右手が吹き飛ばされ、信長は必死に左手だけで槍を持ち、再び突くが
ゴシュッ
「ぬがぁぁあああ!!」
その槍をかわしながらのランスの一撃により、左手も切り落とされ
ドシュッッ
「ガッ!!」
その痛みに耐えている隙に、両足を切り落とされた
もはや、信長は痛みによってまともにしゃべる事すらも出来ないでいた
普通の人間ならば、とうの昔にショック死しているような傷を受けながらも
未だに、意識を持って生きているのは、魔人の生命力によるものであろう
だが、現状では、その生命力があだとなっていた
死ぬ事も許されず、痛みの中で、必死に、失われた四肢を動かそうとする
ランスは、そんな信長を見つめていながらも、その瞳には感情を宿していなかった
そして、ランスが大きくその腕を振りかぶり、カオスを振り下ろすと共に
ドガァァァン!!
恐ろしいほどの衝撃波が辺りを襲い
信長がいた場所は、クレーターのようになり、その中心に、赤い玉が存在していた
リック達は、金縛りにあったかのように、ランスの行動を見続けていた
ランスは、ゆっくりと歩きながら、その中心の赤い玉に向かい
それを、右手で拾うと、ゆっくりと力を込め
その、赤い玉を、魔人の本体であり、魔王以外には傷つけられぬ筈の魔血塊を
その手で、カオスも使わず、なんら特別な物をつけていないその手で、握りつぶした
パシャアアン
「グギャアアア!!」
その玉が握りつぶされると共に、おびただしい量の血が
その玉から噴出し、信長の声色で、断末魔の声が辺りに響き渡った
ランスは、玉を握りつぶした手を、軽く払うと、カオスを地面に突き刺し
両手をたらしながら、空を、闇の空を仰いでいた
それから、いったい何分が過ぎたのだろう
リック達は、ランスの姿に魅入ったかのように動く事が出来ず
ランスも、微動だにしないまま、数分のときが流れたが・・・
「グッ・・・・!ガァッ・・・!!」
急に、ランスが頭を抱えだした
それに反応し、リックや五十六が駆け寄ろうとしたが
「俺に・・俺の中に・・・
入ってくるなァアア!!!」
ランスは、そう雄たけびを上げると、急に動きを止め、その場に倒れこんだ
リックは驚き、急ぎ数名の兵を連れ、ランスの元に駆け寄った
「・・・気絶しているだけか、いったい何があったんだランス・・・・」
リックはそういうと、兵に指示を出し、カオスを回収させ、本陣へと帰還命令を出した
その道中では、リックがランスを背負い続けていた
赤の軍の兵達の間では、気絶しているランスを避ける様に動く者もいた
まぁ、それは仕方ないだろう、あのような殺戮を、目にしたのだから
ランスのあの殺戮の原因となった物
それを知りうる存在は、唯一人
魔剣となり、人の姿を失った、エターナルヒーローの一人、カオス
だが、彼の意識もまだ、蘇ってはいなかった
バレスが先に送った伝達兵の報告が届き、援軍として派遣された
魔人メガラスとサテラ、そして日光と、健太郎、美樹達が長崎に辿り着いたとき
その謎が、少しずつ解き明かされていくのであった・・・・・
後書き
今回、いかがだったでしょうか?
正直、ダーク苦手だったので、これが限界です
なぜ、ランスはあそこまでの殺戮を繰り広げたのか
なぜ、魔血塊すらも握りつぶす事が出来たのか
その謎は、次回以降、少しずつ解き明かされていきます
前回のレス返しは、今回の作品を持って、返させていただきます
多分、この話が、物語最大の殺戮劇となるでしょう
ランスの鬼畜という渾名の由来が、この殺戮劇となります
次回以降、しばらく戦闘から離れて
事後処理の話を2〜3話ほど挟んだ後に
ヘルマン編へと突入していきます
レス、返せるかどうかは解りませんが
出来るだけ見るようにはしていますので、ご感想お願いいたします
12/05 00:52 誤字など修正
10:09 さらにとおりすがりさんの指摘部分修正