既に深夜と言って良い時刻、先日美神達三人が相談していたのと同じ部屋に今度は四人の女達がいた。
前回と同じ美神令子、氷室キヌ、それに、タマモにシロである。
その会話の内容は、タマモとシロにとって大戦の際にあった聞かされる事の無かった真実、横島忠夫主演の悲恋の物語。
シロはその事実を聞かされると、その瞳から大粒の涙をこぼし始めた。
師の身に宿る悲しみを察する事の出来なかった自分が、それを知った今でも何も出来る事が思いつかない自分が、情けなくて・・・・・。
その隣りにいるタマモは、話を聞いている間はずっと目を閉じていた。
そして、話が終わると同時に目を開け、言葉を紡いだ。
「・・・・夕日に関してはわかったわ。 でも、そんな事があったって知ってたのに、なんで最初にそれを要因に入れなかったの?」
そのタマモの問いを聞き、対面に座っていた美神は、話をしている間に覚めてしまっていた紅茶を一口含み、喉を潤して話を続ける。
「確かに、一番最初にそれを要因として疑ってもおかしくないわね。 でもね、私達はあの時の彼の慟哭を聞いて、その後に彼がそれを乗り越えて前へ進もうとしている姿を見たのよ。 ・・・・・言い訳かもしれないけど、彼がその事でどうにかなるなんて事態があるとは思えなかったのよ。」
その美神の言葉を聞くと、タマモは一度ため息をついた。
「・・・横島がどんなに凄くっても、大切な人をそんな風に失って、すぐに立ち直れたりするわけ無いじゃない。 立ち直っているように見えて、どっかに綻びが出るもんでしょ。 ・・・・・・いや、止めましょ。 今はそんな事を言い合うより、横島を何とかしなくちゃいけないんだから。」
口論になってしまいそうな所を、タマモは自分から言葉を止めて断ち切り、天井を見上げた。
その先の屋根裏の部屋のベッドの上で寝ている、横島の姿を見るかのように。
「そうね、中途半端なショックを与えちゃった所為で、精神状態が危うい事になってるものね。」
タマモと同じように天井を見上げながら、美神はそう言った。
周りを見れば、さっきまで泣いていたシロも、うつむくようにしていたおキヌちゃんも、同じように天井を見上げていた。
「方法としては、やっぱりショック療法が一番か・・・。」
タマモのその呟きに、誰も異を唱えるものはいなかった。
先程の横島の姿は、酷いものであったから。
今までの希薄とは言え、感情が多少見て取れた状態と違い、怯えのみを目に宿し、微かに震え続けるその姿は。
「多分、かなり暴れる事になるだろうから、応援を呼ぶわ。 雪之丞は捕まるかわかんないけど、ピートかタイガーは呼べば来るでしょうね。」
そう言って、美神が電話の方へ向かって行った。
* * * * * *
おキヌSIDE
「もうすぐ、か。」
大分落ちて来た太陽を見て、私はそう呟いた。
私は今、東京タワーの上にいる。
長引かせる事無く、一気に強いショックを与える為に、この場所が選ばれた。
ルシオラさんが消えた、この場所が。
「そうね、そろそろだわ。」
私の独り言に答えるように聞こえてきた声に振り返ると、そこには美神さんが立っていた。
「タマモに言われてようやく自覚できたけど、私達って横島君を超人みたいに考えてたわよね。 大切な人をあんな風に失って、すぐに平気な顔が出来るはずが無いのに、表面の平気そうな顔だけ見て内面の苦しみを見逃してた。 いえ、見たくなくて、無意識に目をそらしていたのかも。 バカな上に情けないわよね〜〜、ホント。」
美神さんのその言葉に、私は頷いた。
「そうですね。 だから、謝りたいです。 色々言わなくちゃいけない事も有ると思うんですけど、まず一言、ごめんなさいって謝りたいです。」
私がそう言うと、美神さんは少し笑って、小さく頷いてくれた。
「私がごめんなさいなんて言ったら、どんな顔するかしらね。」
なんて言いながら。
一時間が経過して、夕日が辺りを赤く染めあげた。
私達は顔を見合わせて頷き合い、横島さんに[覚]の文珠を使い、眠りから目覚めさせた。
最初は頭がまだはっきりしていないのか、ぼうっとしていた。
だけど、自分がどこにいるのか、そして、目の前にある夕日を目にすると、狂ったように叫びながら暴れ始めた。
「横島さん、しっかりしてください!」
応援として呼ばれてきたピートさんとタイガーさん、そしてシロちゃんが、その横島さんの体を押さえていた。
「先生、すいません! ですが・・」
「横島さーーーん、元に戻ってつかーさーーーい!!」
しばらくその状態が続くと、いきなり横島さんが静かになった。
ピートさん達に目配せしても、わからないと言った様子だったので、もしもの時の為に少し離れて待機していた私達も横島さんの所に駆け寄っていった。
だけど、その瞬間・・・
「ぐ、が、あ、 ぐぁああああああああああああ!!!」
今まで以上の叫びをあげると同時に、横島さんの体から迸るエネルギーに、私達全員が吹き飛ばされていた。
「う、う〜〜〜〜ん。」
吹き飛ばされた衝撃で意識が飛びそうになったけど、なんとか保たせて横島さんの方を見ると、横島さんは文珠を手の中に取り出していた。
「横島さん!」
それがどういった文字が込められたものかを確認する前に、私は横島さんの名前を叫びながら飛び出していた。
そして、横島さんの体に手が触れた瞬間に光りに包まれ、気がつくと辺りには何も見えない場所にいた。
忠夫 Side
俺は困惑していた。
自分を苦しめる赤い光りから逃れたと言うのに、目の前に居る女を見ると、あの光りを見ている時と同じように苦しみを感じるのだ。
まるで、この女からあの光りと同種の輝きが放たれているように。
「・・・横島さん?」
目の前の女が何かを言うのを聞きながら、俺は考える。
この苦しみを無くすには、どうしたら良いのか?
しばらく考えた後、俺はは一番簡単な答えを導き出し、それを開始した。
それは・・・
「横島さん、大丈夫ですか? 横島さん?」
目の前の女から輝きが放たれているなら、
「横島さん? え、なに、横島さん?」
その輝きを消す為に、
「ちょっ、どうしたんですか!? 横島さん!?」
汚してしまえば良いだけの事だ、と。
「いや、ちょっ、やめてください! 横島さん!!」
女の上に圧し掛かり、服に手をかける。
その瞬間目が合い、その目に宿る何かを感じた瞬間に、自分の中から何かが浮かんでくるのを感じた。
何故か、その何かが自分を壊すであろうと言う確信が浮かび、俺は必死になった。
息が苦しい、頭が痛い、このままでは自分は壊れてしまう。
だから、壊れる前にこちらが壊してしまえ、と。
「・・・・・・横島さん。」
そのまま服を引き裂いていた俺の耳に、女の声が聞こえてきた。
聞こえてきた声は先程のような叫び声ではなく、静かに、だがはっきりと聞こえてくるものだった。
それに反応して顔を上げると、女の顔が正面に見えた。
その顔は何故か微笑んでいた。
癇癪を起こした息子に、大丈夫だ、と慰める母親の如き顔で。
「ぐ、が、う、うわああああああああ!」
俺の中から浮かんでくる何かは止めろと叫び、俺の頭の中では、これ以上見るな、壊せ、汚せ、思い出すな、と叫ぶ。
そうやって苦しんでいた俺の首に、何か暖かいモノが回された。
目の前に居た女が、俺の首に手を回し、抱きしめてきたのだ。
「あ、ああああああああああああああああああああ!!」
その瞬間に、俺は叫びながら女に抱き着いていた。
壊すとか、汚すとか、何も考えず、縋る様に抱きつき、そのまま女を貫いていた。
「うあ、くっ、つっ!」
女はうめくような声を上げたが、その手を離すことはしなかった。
俺は、がむしゃらになって動き、叫び続けた。
「う、うう、うううううううううう!」
痛いのか、苦しいのか、悲しいのか、・・・・忘れたいのか、思い出したいのか、もう何もわからなかった。
自身が泣いている事すら、俺は気付いていなかったから。
「くっ、ううっ、くぁっ、ぐっ!」
女のうめき声を聞きながらも、俺は残酷なまでの速度で動き、女を蹂躙していた。
それなのに、女は抵抗はおろか、首に回した手に力を込める事すらもしなかった。
体の防衛本能が働いたのか、膣壁に蜜が染み、ぬめりが帯び始めていたが、未だに激痛が走っているはずなのに。
「ううっ、うっ、あっ、くっ! よ、横島さん。」
何故受け入れる、何故拒まない、何故、何故?
とても痛い筈なのに、とても苦しい筈なのに、何故そこまで俺を受け入れれるのか?
そこまで考えているうちに、女を貫いていたモノが震え出し、俺自身の動きも最高潮に達していた時、女は耳元に顔を寄せて言った。
「横島さん、ごめんなさい。 ・・・・・・・・・・・大好きです。」
それが聞こえた瞬間、俺は体の中で何かが弾けるのを感じて断末魔のような咆哮を上げ、同時に彼女の胎内に迸りを発した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん、おキヌちゃん。 ごめん。
おキヌ Side
私の内で射精をした後、横島さんは俯くようにして泣きながら、ゴメン、と言い続けていた。
股間から体に走る痛みに顔をしかめながら、私はその横島さんの方に目を向けて声をかけてみた。
「横島さん。 記憶が戻ったんですか?」
私のその声に横島さんは小さく頷いたが、顔は見せてくれなかった。
体の震えが増し、零れる涙の量が増えていくのだけが見える
「ごめん、おキヌちゃん。 俺はとんでもない事をやっちまった。 俺みたいな、俺みたいなクズ野郎が。 おキヌちゃんを・・・・・・・」
最後の方は、嗚咽が混じって聞こえなかった。
それでも、横島さんがさっきの事で自分を責めているのは十分に分かった。
私は、横島さんの頭を抱きしめるようにして、撫でさすった。
「横島さんは、クズなんかじゃないですよ。 私に、・・私達にとっては、とっても大切な人なんですから。」
私がそう言った次の瞬間、横島さんは私の手を振りとって顔を上げ、泣き笑いのような顔を見せた。
「俺はそんな価値のある男じゃないよ。 俺は、・・・俺は、本当に、薄汚れた男なんだから。 弱っちい、只のクズなんだよ。」
そして、横島さんは語り出した。
あの時何を見たのか、何故記憶を失ったのか、を。
血を吐くような苦しみを湛えた声で。
後書き
はははははははは、・・・・・・やっちまったかな。
現代編の軽い空気に比べて、過去編の空気の重い事重い事、横島がとち狂っておキヌちゃんを襲っちまったと来たもんだ。
いや、まあ、他にも事に及ぶ前に正気に返って、その後にラブいえちーって展開も有ったには有ったんですが、その後の展開とかも考えると、こっちの方が良いもんで。
非難の声は覚悟の上、これからの展開上必要だったと胸を張っちゃいますよ。
記憶喪失の理由なんかは次回にでます。
それを聞いたおキヌちゃんがどういう反応を見せるのか、お楽しみに♪
でも次回は多分、守護者の方を出します。
そいでは、これにて。
BACK<
>NEXT