学校で掃除をしているときだった。

「横島くーん、そっちのゴミ掃いてくれない？」


机を運んでいた忠夫に、愛子が声を掛ける。

当番制のはずだが、愛子は毎日、掃除に参加。
それさえ楽しんでいるらしい。

まあ、半ば自分の住処でもあるしねえ。



今では、愛子は準学級委員みたいな存在だ。



「ホウキがないぞ？」

掃けと言われて、素直に従うのは忠夫の良いところだが、
肝心のホウキが余っていない。

「ホウキやーい」



その声が届いたのかどうかは知らないが、



バリンッ！



教室の窓が突き破られ、

「へ？」

飛び込んできたホウキが、

「げ？」

忠夫をすくい上げるようにして、上に乗せ、



　ビュバッ



再び窓から飛んでいった。



残された愛子は、その超常的な現象を目にして、



「あー、横島くん、サボリ。ペナルティ１。
　来週も掃除当番決定ね」



まったく気にしていなかった。










「なんだ、なんだ？」

高速で飛んできたホウキに驚き、硬直して、

そして気がつけば、空を飛んでいた。

「止まれー！　降ろせー！」

叫んでみるが一向に言うことを聞く気配はない。

しかし、はじめのうちこそ騒いでいたが、

それでも、慣れてくると爽快である。






「これ・・・魔法のホウキかなんかか？」

結構速く、気を抜けば、風圧で後ろに飛ばされそうだが、
しっかり柄を握っていれば、なかなかに快適。



「そっか。これが空を飛ぶ感覚か」


以前、ペガサスの子を追いかけて悪食で飛ぼうとしたときは、

まったくイメージが出来ずに、落ちるだけだったが、

これなら、次は飛べそうだ。





だが、しかし、世の中にはこういうとき、
調子に乗るバカがいる。

そんな一人がこいつであった。




「おっしゃ。悪食と違って、イメージしなくても飛ぶみたいだからな、
　スケボー乗りにチャレンジ！」

ゆっくりと、両足を柄の上にあげ、
ホウキの上に、しゃがんだような状態で、手を離す。

「お、お、お？」

ふらふらと危なかったが、
少しすればバランスを取るコツをつかんで、


「ほっ」


立ちあがった。


「はっはっは、成功成功。絶景だな」




空飛ぶホウキの上に立ち、
サーファーのようにバランスを取る。

オレって格好いい！



「いい気持ちだな。どんどん行け！　飛べー！」

完全に調子に乗っていた。

「オーレ！　なんつってな。わははは、はあぁああっ！？」

急加速。



このホウキ、スペイン秘宝展に出品されていた魔法の箒で、
炎の狐という。
青い稲妻と並んで、二本しか残っていない。

日本語は分かんなくても、スペイン語なら理解できちゃう賢い箒なのだ。





ホウキに乗って、調子にも乗っていた忠夫は、
思いっきりバランスを崩して、現在、

「ぎゃー、落ちるー」

膝を曲げて、逆さまにぶら下がっているような状態。

自業自得と言わずしてなんと言おう。




「ど、どないしょー？」

このままじゃ落ちる。
悪食を出して、そっちに移ろう。
ホウキはこのまま、さよならになってしまうが、仕方あるまい。
そう思った矢先、


Ｐｕｒｕｒｕｒｕｒｕｒｕ


携帯が鳴る。


なんとかポケットから落ちていなかった携帯を取る。
逆さまにぶら下がっている最中というのに、
律儀な男に育ったものだ。


「あっ、忠夫くん。博物館からね、空飛ぶホウキが逃げちゃったらしいのよ。
　見つけ次第、連絡ちょうだい。じゃ」

　プツ

「・・・・・・」

どうやら乗り捨ては無理らしい。




どうせいっちゅうんじゃー！

逆さまのまま、腕を組んで考えていると、

前方に白い点。
白い鳥らしきものが飛んでいるようだ。このままじゃ衝突必至。



しかし、止める間もなく、
あっという間に、ホウキは、その飛行者に接近し、

「み？」

「うおっ」

忠夫は飛んでいた謎生物を抱きとめた。



「って、因幡！？」

どうやら、日課の空中散歩中だったらしい因幡。

「ヘルプ・ミー！」

情けない主人である。









いつものように、
ぱたぱたと空を飛んでいると、急接近する存在があり。

よく見ると、ご主人様。

なぜだか、逆さまになって飛行中。



散歩だろうか？



「ヘルプ・ミー！」



因幡は賢い。だから忠夫の言葉も理解する。

「あっ、でもホウキは壊さないで捕まえて欲しいなー」

注文が多いが、
ご主人様の危機っぽい。



頭をひねる白ウサギ。



自分は飛べるが、人間を抱えて飛べるほどではない。

つまりは、他に飛行ユニットがあった方が良い。
それに、このままの姿では、うまくいかないかもしれない。




妙神山で、因幡は少女化した。

あれは、肉体と幽体のリンクが不安定になったことで、
偶然、起こった現象だ。

しかし、実は、あれから忠夫が毎日、少女化の練習をさせていた。
妙神山で起こった過程を、因幡にイメージさせながら。

忠夫の理由は、面白そうだから。
小技は多い方が良いから。
そしていつかＧＳ免許を取らすため。

因幡としては、いつかタマモを排除するため。



そして、修行の結果、自分の意志で少女化、出来るようになった。
ただし、今のところ二十秒。



だが、強い霊的衝撃を受けたり、
大量の霊気を、一気に摂取したときは、自然に起こる可能性はある。
そして、もう少し長い時間、大丈夫なはず。

つまり、幽体を不安定にさえすれば、数分間の少女化が可能になる。



そこで忠夫が思いついた、幽体を不安定にさせる方法が、



あの特殊兵器、











チーズあんシメサババーガー！！








ちなみに、チーズあんシメサババーガーとは、
花戸食品、という小さな会社がつくっている幽体離脱食品だ。
貧乏神になったり、福の神になったりを繰り返すという、
不安定な神様が憑いており、
変な商品がでて人気が落ちたかと思えば、
違う分野で売れたりと、上がったり下がったりの経営事情を抱えている。



こころなし顔をしかめる因幡。

なんでも食べるように見られがちだが、
これでも一応、美食家なのだ。

とりあえず、なんでも試しに食べてみて、
美味しかったら、また食べるが、不味かったら金輪際お断り。

そのお断りしたい代表があのバーガーだ。




が、ご主人様の危機。仕方がない。

胃袋の中、異次元倉庫と化した空間から、
保存しておいたバーガーを口の中に召喚。

そして、がぶり。

イヤな味が口の中に広がり、一瞬、気が遠くなるが、







　ぽふ♪



因幡姫、降臨！！




なんともイヤな変身もあったものだ。

とりあえず、ホウキの上に横座りする少女。

白いツインテールがたなびき、
紅い目が、忠夫をとらえる。


次は二人が乗れる飛行物体が必要。
炎の狐をカード化してすぐ、乗り移れるもの。

でも、お腹の中に、そんな都合の良いものはない。



忠夫の、ご主人様のＧＳポリシーを思い出す。

一、あるものはなんでも使う。
二、ないものは創る。



少女の姿になると、ウサギのときには出来なかったスキルが、
出来るようになったりする。

当然、体の形態上、手で掴んだりとか、指でつまんだりもそうなのだが、

お腹の中のものを、口からでなく、
直接、手に召喚できるのだ。


　ぽん♪


黒い日傘。

つまり、三つ首の龍棍。
妙神山で火事場泥棒した神器。神具。

前は特大ハンマーにして使った。
あと二つの形状を決められる。

こいつを空飛ぶものにしてしまえ。
日傘の状態で、くるくる回せば、ヘリみたいに飛べるだろうか？




「因幡、このホウキを見ながら・・・」


なるほど。

普通なら、空飛ぶ箒なんてイメージできない。
でも今はここに、目の前にある。

普通の人なら、仮にイメージできても、
日傘が箒になるなんて、無理だと考えてしまう。

でも、因幡はそんなことを考えない。

ただあたりまえに、「なれ」と念じるだけ。
不安も不信もなく、
意思のまま、高速で飛行が可能な箒になれ、そう念じる。


常識を知らないというのは、ときとして強みである。











「助かったぞ、因幡」

数分後、ホウキ化した龍棍に、因幡と忠夫が二人乗り。
炎の狐はカードになっていた。

炎の狐と並んで、因幡が龍棍のホウキで飛び、
ツインテールを伸ばして、忠夫の腰に巻き付けてから、
炎の狐をカード化したのだ。


「よくやったな」

「♪」


よしよしと、頭を撫でてもらえる至福の時。

このまま、しばらく二人で、ホウキに乗って、
空の旅を楽しめるし、

チーズあん・しめさばバーガーを除けば、
良いことばかりだ。


でも、そろそろ、時間切れ。ウサギの姿に戻るだろう。




「ま、今日は危なかったけど、これで、悪食で飛ぶ練習が出来るな」

「み」

「ん？　そうだな、毎日一緒に飛ぶか？」

「♪」

やはり、良いことづくしだ。




「でも、前みたいに鞘がないからなー・・・」

刀の状態の悪食に乗ると、

下手すれば、本当にお尻が二つになってしまう。


悪食の第一形態の中で、乗れそうなものといえば・・・




「やっぱり傘か」




こうして、史上初、傘で戦うＧＳの卵は、

前代未聞、空前絶後の傘に乗って空を飛ぶＧＳの卵へと、

進化を遂げるのだった。





ってぇか、進化なのか？





まあ、因幡がご機嫌そうなので良しとする。







〔あとがき〕
因幡中心でほのぼのさせてみました。
今回と次回はこんな感じかな。

いろいろと騒がしくなる前に、



ちょっとほのぼのしてみようというノリです。





因幡が少女変化をしました。
何回か、続けて使ってみて、
キャラとして、スキルとしての使い具合を確かめてみようと思っていますが、
実際のところ、それ以後の、
使用頻度、登場頻度はそれほど高くないでしょう。

次回は、因幡と悪食。
横島の両脇を守る眷族が活躍…するのだろうか？

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