栄光Ver.2の右手に構えられたリニアライフルと、左手に装備されたハンドガンが同時に火を噴いた。
二機の戦闘ヘリが同時に爆散する。
ポチとホワイトウルフが防衛任務に就いているこの補給基地は、ミラージュ社がナービス領に先ごろ建設した駐屯地へ送る物資を一時集積しておくための拠点であった。
そしてミラージュがナービス領に手を出すのを快く思わない勢力が、物資が集積されたのを見計らい、反ミラージュ勢力のテロリストを煽動して攻撃させたのである。
だが、その最後の戦力は今しがたポチに撃墜されていた。
コックピットの通信システムから、オペレータであるペスの声が聞こえてくる。
『敵戦力の殲滅を確認したのね〜』
「…ヲイ、今回はレーダー見忘れてねーだろーな。嫌だぞ?突然ACが出現する、なんてーのは」
『や、や〜ねぇ過ぎた事をいつまでも…。あ、あははは』
ポチはペスのうわずった笑い声を聞き、ジト目になる。
そんな中、彼のACの傍らに、彼の僚機が歩み寄ってきた。
『先生、どうやら終わりでござるな。基地も無事でござるし』
「ああ。ACが出てくるかもってのはやっぱりガセだったみてーだな。ま、出てきてなおかつ倒せたらボーナスっつっても、余計な危険は無い方が…」
『わ、わ!た、隊長っ!この機体もう…』
『機体を捨てて脱出しろっ!』
『は、はいぃ〜っ!!』
ポチとホワイトウルフが話していると、突然無線に防衛MT部隊の通信が飛び込んできた。
彼等は、ここミラージュ社補給基地をポチ達と共に防衛していたのである。
ポチとホワイトウルフがACの頭部カメラをそちらに向けると、鳥脚のような逆間接型MT…大破した胴体から火花を吹き、今にも爆発しようとしている…のコックピットハッチが吹き飛び、パイロットが脱出するのが見えた。
そのパイロットが遮蔽物の陰に飛び込むのとほぼ同時に、そのMTは大音響と共に爆発する。
『だ、大丈夫でござろうかパイロットは』
「大丈夫…じゃねーの?鼓膜はどーかなったかもしれんが。…あ」
『え?』
『おわ?』
『え?何?どーなったの?』
爆炎の中から何かが飛び出した。
MTに搭載されていたミサイルの残弾である。
それはへろへろへろ〜〜〜、とノーロックオン状態のままふらふら飛び回り…補給基地の弾薬庫へ突っ込んでいく。
「『『『『『『あ…ああああああぁぁぁぁぁっ!?』』』』』』」
ポチ、ホワイトウルフ、MT部隊隊長以下MT乗り達、基地司令官以下の職員などその他大勢が絶叫した。
爆音が響き、衝撃波が周囲を薙ぎ払う。
どうやらミサイルの信管は作動していたらしい。
呆然としているようなオペレータ達の声が聞こえた。
『…み、ミッション…失敗。作戦を中断…するのね〜』
『し、システムを通常モードへ移行しま…す』
この事件により、届くはずであった大量の弾薬や燃料を灰にされたミラージュ社駐屯地では、一時的に戦力が激減した。
結果としてレイヴンの需要が微妙に増えたりもして、ミラージュ駐屯地にてランキング8位『マッハマッスル』の『八マン』VSランキング9位『光速道路の鬼』駆る『ナインボーズ』という好カードが見られたりもしたのだが、まあソレは余談である。
「…それは災難だったのう」
「そうじゃのう…。なんと慰めてよいやら」
「もう言わんでくれ右、左…」
「拙者、思い出すだけで涙が…」
そのようなわけで、ポチとホワイトウルフは今日もまた自分達のACを自前で修理していた。
まあ先ごろよりは資金に余裕が無くも無いので、正確には右と左の整備士コンビがメインとなって作業を行い、貧乏師弟コンビは補助&雑用&軽作業となっている。
今回はさほど損傷が酷く無かったため、赤字もたいして深刻では無い。
しかし今回のミラージュ社の依頼は、全額成功報酬の契約であったため、入金はまったくのゼロである。
更にポチ達にとっては、ある意味赤字よりも厳しい事態が発生していた。
それは風評被害である。
「しかし…このまんまじゃヤバいよなぁ…」
「依頼が…来ないでござるな…」
「…」
「……」
「「…とほほほ」」
ポチ達…特にポチのアーク内での評判は、かつての『腕が悪いド三流』という物から微妙に変化していた。
彼は一応かろうじてナービス領近隣レイヴンの中で、上から30位にギリギリ入っただけのポイントを稼げるだけのレイヴンである。
そう言った輩を、『腕が悪い』と斬り捨てる者はさほど居るまい。
それにホワイトウルフとチームを組んだ事で、彼は比較的珍しい『チームで働くレイヴン』として若干注目を浴びるようになっている。
そうなると、彼の戦績や戦跡なども多少は分析されるようになってきていた。
結果として、彼の評価はなんと『腕はそこそこだが致命的に運が悪い』と言うように変わっていたのである。
レイヴンズ・アークとしては、腕が悪いやつには簡単な依頼を回せば良いし、腕が良いやつには高額な依頼を回せばよい。
だが運が悪いやつにはどうすればよいのか。
アークが派遣するレイヴンに下手を打たれては、アークの評判にも関わる。
レイヴンズ・アークにとって、ポチとホワイトウルフのコンビはザ・キラー同様の『外れた時が大きくて依頼を回すのが怖いレイヴン』になってしまっていたのだ。
「「ヤツと一緒にするなあああぁぁぁ!!!」」
「ど、どうしたのだ二人ともっ!」
「突然大声など上げて…」
「あ、いやなんか今…」
「空耳が聞こえたんでござる…」
ちなみに、考えようによってはコレはテロリスト等にお得意様が多いザ・キラーよりも、もっとずっと深刻な問題かもしれない。
ポチとホワイトウルフは頭を抱えた。
彼等はなんとかして事態の打開をはからねばならない。
やがてホワイトウルフが決然と顔を上げた。
「先生…。こうなったらアレしか無いでござるよ」
「…ん?アレ…だと?はっ!ま、まさかっ!イカン、ソレだけはやめろっ!」
「何故でござるっ!?」
「いくらなんだって、そんなことはダメだっ!」
ポチは必死にホワイトウルフを思いとどまらせようとする。
けれど今回ばかりは彼女も黙っていない。
「けれど今のままではっ!拙者はともかく、先生ほどの御仁が干されてしまうなど、そんな事があって良いわけがっ!」
「だからと言って!俺を買ってくれるのは嬉しいけどよっ!けどそんなマネしなくたってっ!!」
「アリーナで戦うのの、何が悪いんでござるかっ!?」
ホワイトウルフは叫んだ。
ポチは一瞬頭が真っ白になる。
「…は?…あ…りー…な?」
「そうでござる!」
ホワイトウルフは力強く頷く。
ポチはまだ自失状態から戻ってこない。
ホワイトウルフは言葉を続けた。
「だからアリーナで試合を組んでもらうんでござるよ。ペス殿や女狐めに頼んでおけば、一度や二度なら書類を通して貰えるのではないかと思うんでござる」
「…」
「そこでしっかりとした働きを見せれば、生半な風評などきっと吹き飛ばせるでござるよ!それに勝てばお金も入るでござるし!」
「あー…。アリーナ、ね。あー、うん。…なーんだ、俺てっきり」
「は?」
怪訝な顔をする弟子に、ポチは苦笑いを返す。
いったい彼はナニと勘違いしたんだろうか。
ソレはともかく、彼は考え込んだ。
(…確かに、ペスに頼めばまあ1回や2回は試合を組んで貰える…よな。たぶん。
あいつ自分じゃ自覚してねーけど、あの覗き癖でけっこうだれそれの弱みを握ってやがるし。
上手くランクが上がりゃ、そういうレイヴンに依頼回さねーのは逆に変だし外聞も悪ぃし…)
「…先生?」
(けど…勝てるか?俺の機体はミッション用アセンブリ…っつーか、アリーナバトルに使えるパーツなんか殆どねーし…。
それになー…。ランク上がったら、依頼の難易度も…。
ってーか、今からンな事心配してどーすんだっ!まず勝てるかどーかすらワカランのに)
「…あの〜、せんせい?」
ポチはウンウン唸り続ける。
(けど、今ン所なんとかなりそーな手はこれぐらいっきゃ無ぇのも確かだ。
本当に他のレイヴンの手が足りない時なんかは依頼が回って来るだろーが、ンなの待ってたら干上がっちまう!
こうなったら開き直って目立つしかないっ!)
「せん…」
「そうだっ!やるしかねぇっ!!やるぞウルフっ!!!」
「わぁ!」
ポチが弟子の方を振り向くと、彼女は尻餅をついていた。
彼は眉を顰める。
「…何やっとんだ」
「先生が突然大声出したから驚いたんでござるよ」
「そ、そっか。悪い。それよか、お前が言ったアイディア…やるぞ」
「!」
ポチの台詞に、ホワイトウルフは目を見張る。
ポチは続けた。
「パーツのカタログ、持って来いよ。いちかばちか、有り金突っ込んで対戦用装備整える!お前のも一緒に考えようぜ?」
「は、はいっ!…先生が、先生が燃えてるでござるっ!」
「ふ、ふふふ…。やるぞ…。開き直った貧乏人の恐ろしさ、思い知らせてやるぜっ!」
ポチの背中には、めらめらと闘志の炎が燃え盛っていた。
…この作品では、珍しい引きだなコリャ。
「闘志の炎というよりは…」
「投資の炎、かもしれんのう、左の」
「うむ、右の」
本日のレイヴン情報:
レイヴン名:光速道路の鬼(♂)
本名:キューベィ・I・ダーティン
AC名:ナインボーズ:856500C
頭部:H07−CRICKET(重量100%):77000C
コア:CR−C840/UL(重量100%):131000C
腕部:CR−WA69MS(武器腕):57000C
脚部:LH02−LYNX2(重量100%):43000C
ブースター:CR−B83TP(出力100%):63000C
ジェネレータ:KONGOH(重量100%):110000C
ラジエーター:CR−R92(冷却100%):88500C
FCS:MIROKU:70000C
インサイド:なし:0C
エクステンション:CR−E84RM2:58000C
右肩武装:WB270−HARPY2:99000C
左肩武装:WB13RO−SPHINX:60000C
右手武装:CR−WA69MS(武器腕):−
左手武装:CR−WA69MS(武器腕):−
右手格納:なし:0C
左手格納:なし:0C
機体解説:光速道路の鬼が所有するAC。
機体名は、伝説の最強レイヴン『ハスラーワン』の乗機『ナインボール』にあやかった。
だがはっきり言ってコイツもネーミングセンスが悪い。
肩のエンブレムはでっかい『9』の文字を背景に坊さんが座禅を組んでいる図。
だが目つきが悪い上に目が四つもありトドメに角まで生えてるので坊さんに見えない。
何はともあれやはりセンスが悪いデザインである。
機体は全身赤銅色一色に塗装されている。
強力なジェネレータに軽量パーツを組み付けているOB戦闘用の機体。
コンデンサ容量はわざと小さい物を選んでいる。
理由はチャージ状態にならないよりも、なった時に即座に回復する事を選んだため。
OBを噴きっぱなしではなく、OBオン、オフを繰り返す戦法を取る。
備考:マッハマッスルの双子の弟でランキング9位の強豪。
レイヴン名は『光速〜』であって『高速〜』ではない。
もっと言えば、間違っても『高速○路の星』では絶対にない。
努力家で負けず嫌い…と聞くと好感が持てそうだが、さにあらず。
実は負けず嫌いが行き過ぎており、陰険でひがみっぽい上に切れやすい。
実力はマッハマッスル以上なのだが…。
(あとがき)
さて、今回はアリーナ戦の前フリです。
ポチは対AC装備として使えるパーツをほとんど持ってなかったため、アリーナにはあまり興味を持っていません…という設定でした。
そんな彼の尻に火を着けてみようというのが今回のお話です。
ちなみに今回名前だけチョロっと出てきたランキング9位『光速道路の鬼』…果たしてチョイ役で終わってしまうのか!?
それとも出番はあるのか!?
ところで、今回冒頭でのポチの機体ですが微妙に武装の配置が変更されてます。
AC名:栄光 Ver.2:705600C(総額)
右手武装:CR−WR93RL:118000C
左手武装:CR−WH73H2:28000C
右手格納:CR−WH73H2:28000C
左手格納:CR−WL79LB2:38000C
右手武器をリニアガンに変更した他、左手に装備していたブレードを格納し、格納していたハンドガンを左手用メイン武器にしました。
これは雪狼とのコンビネーションをメインに考えた変更で、支援を主眼にした射撃戦メインのアセンブリにしたわけですね。
無論いざという時は、すかさずハンドガンをパージしてブレードで抜刀攻撃かけます。
というわけで、レス返しです。
>九尾さん
文珠に対応するようなパーツですか〜。
あそこまで万能そうなパーツは…無いなあ。
あ。
MONJUっていうFCSが有ったわ(爆)
>ろろたさん
ゲーム上では、ランクインしなくてもアリーナ戦は行われるんですけどね。
初めての試合は、まるで雪之丞と陰念と韋駄天九兵衛を足して3.141592653589793238462643383279で割ったようなヤツとのアツいバトル(笑)
というわけで、ランクインしてないウルフ(シロ)にも試合は組まれます。
小竜姫さまとルシオラかぁ…。
考えないで書いてたら、そろそろ難しくなってきたなあ(苦笑)
でも、ホントにシロといい雰囲気になってきたなぁ…。
>D,さん
元30位…かあ…。
使うかどうかわからないけど、いいネタですね。
メモメモ。
ところでルシオラの意見、ハードな過去ですねぇ…。
ギャグ物だからなぁ…どうしましょうねぇ…。
>朧霞さん
レーザーライフルをあげなかったのは、第一にそう簡単にコストパフォーマンスが良くなってもらっちゃギャグ物としては困るから(笑)
第二に、チャージ状態の時のために実弾兵器をメインにしときたかったってのも。
ちなみにリニアライフルは私も好きです…欠点多いけど♪
AC−NBに新しく出てきた方のリニアライフルも好きなんですがね。
シロの機体にはあの頭、重いですから売っちゃうでしょうねえ(爆)
さて、ザ・キラーとの戦いはいつになるのか!
でも現在の評価が低いアイツに勝っても(笑)
ヤツ、無駄に強いし(笑)
>Dr.Jさん
リニアライフル…欠点はあるけど、それでも好きなんですよ…。
自分の機体にゃ楽勝ミッションの時しか積まないけど(笑)
唐巣神父…じゃねぇや、唐巣キサラギ社役員はソレでいいんじゃないかと思います。
唐巣先生らしい苦労性っぷりに乾杯♪
さて、今回はアリーナ戦の前フリでした。
ポチは追い詰めないと、機体も対戦用じゃないし動こうとせんので(笑)
ミサイル性能テストとかについては、色々思う所あって考えてたんですよ。
ああいう依頼って、一人のレイヴンにだけ頼むのは不自然ですよね。
色んなタイプのACで試すため、複数のレイヴンを募集する方が「らしい」ですよね。
USE(だったかな?)の研究員に、「前回依頼したレイヴンに手を抜かれてしまってね」と言われて「きちんとカンペキに依頼は果たしたじゃねーか」とムカついたんですが、複数のレイヴンに依頼が行ってれば不自然じゃない台詞ですし。
で、小竜姫さまなんですが…基本的には私もその設定で賛同します。
ですが、ランクはもう少し上…3〜5位ぐらいというのはどうでしょうか。
理由は『フォックスアイ』の『ジャック・O』役はどうかなーと、ふと思いつきまして。
生真面目ガチガチなヒトですので、アークの腐敗を知って暴走するあの役は似合いそうかな、と(笑)
ついでにオペさんはかつてトップランカーだった事もある『孫』という猿の様な老人とか(爆)
>無貌の仮面さん
ポチがアリーナで戦わない理由は『たぶん勝てない』と思ってるからですね。
機体が対戦用じゃないし。
彼は自転車操業なので、勝てないアリーナ出てる暇があればセコセコ楽勝ミッションに出かけるヒトなので。
で、Dr.Jさんにも言ったけど…オペレータはお猿さんはどーでしょーか(笑)
>柳野雫さん
これからも彼の人間関係はどんどん広が…るのかなあ(苦笑)
美神さんをどーしよーかと悩んでたりして(爆)
美神さんはジノーヴィーですし、おキヌちゃんはそのオペさんだし、美知恵サンは『赤い星』だし。
しまった、話がずいぶん進まないと出せないぢゃないくわっ!!(核爆)
で、キサラギの上のヒトは唐巣センセに決定っぽいので胃薬常備かと。