暴れる一匹の白い龍。
彼女は通常空間に出ても、なお暴れていた。
打ち壊される建物、
倒壊する修行場、
真っ平らの居住棟。
「「おまえら、どうしてくれるのだー!」」
怒れる鬼門たち。
「あんたたちで、どうにかしなさいよね!」
逃げまどうタマモ。
「そんなこと言ったって、どうすりゃいいのよ!」
逃げまどう令子。
「なにか思いつかないんですかー!」
逃げまどう忠夫。
「小竜姫さまには申し訳ないが、額になんとか、一撃入れろ」
「おまえらで、なんとかしろ」
やっぱり逃げる鬼門。
そのころ因幡は、
「みゅ」
崩壊した宝物殿で、いろいろと、
ぱくり
ぱくり
ぱくり
ぱくり
喰っていた。
っていうか、火事場泥棒?
元のウサギの姿。
とはいえ、元がすでにウサギに見えないという説もある、
翼の生えたボール状態。
いや、これこそがウサギか。
しかし、少し霊体が不安定だ。
シャドウを戻す前に、吹き飛ばされてきたせいかもしれない。
肉体と霊体の中間みたいな状態。二重のような状態。
一方、壊せるものは壊しきり、
しかしまだまだ暴れる白い龍。
「が、頑張って、忠夫くん。あなた、暴走に慣れてるでしょ?」
「桁が違うでしょ!」
「これも修行のうちね、可愛い子には苦労をさせろって言うし」
「言うの?」
「応援するからがんばってね忠夫くん、ぐすぐす」
「援護はするから、がんばってね忠夫、うるうる」
鬼門のでかい体の後ろに隠れて、泣き落とし?
おキヌも一緒に隠れている。
「うう、嘘泣きだってわかってんのに・・・」
頼られるとイヤって言えない。
損な性格。
「悪食っ!」
思いっきり左手を振る。
しかし、出てきたのは刀ではなく、
大きな大きな大きな鉄球。
忠夫のイメージを元に飛んでいき、
白い龍の額を目指すが、避けられた。
「ぐぉるるる」
龍が向かってこようとするが、
具現されたのは鉄球だけではなかった。
じゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃら・・・
鉄球に鎖が繋がっており、
鉄球が飛ぶまま、手のひらからどこまでもじゃらじゃら出てくる。
これが新たな悪食の第一形態のひとつ。
まあ、今思いついたのだが。
さらに、鉄球がぐるぐると龍の回りを飛び、
忠夫のイメージどおりに巻き付いていく。そして、
「第二形態!」
忠夫のイメージのもと、変化した姿とは・・・・・・
「「「首輪?」」」
「「しょ、小竜姫さまに首輪とはなんと羨まし、じゃなくて畏れ多い!」」
首輪をつけた白い龍、
その首輪に繋がった鎖を持つ少年。
なかなかにスゴい光景だ。
しかも、その首輪も鎖も悪食である。
つまりは、小竜姫の神気をぐんぐんと、喰っていく。
「捕まえた。やった!」
ガッツ・ポーズして、タマモたちの方を向くが、
「不憫ね」
「バカね」
「哀れな」
「愚かな」
「横島さん、スゴい。って、皆さんどうしたんですか?」
反応は冷たい。
「首輪つけられたからって」
「理性を失った龍が大人しくしてるわけないじゃない」
「ぐるる」
再び暴れ出す龍。
縦横無尽に飛び回り、
首輪が鬱陶しいのか、はずそうと首を振り回す。
そうなれば、当然、鎖を持った忠夫は、
「ぎゃ〜、うわ〜、目ぇ〜がぁ〜回ぁ〜るぅ〜、堪ぁ〜ん忍ぃ〜んや〜・・・」
ジェット・コースターなんか眼じゃないくらい、
ブンブン、ブンブン、宙を振り回される忠夫。
地に叩きつけられてないのが唯一の救い。
「どうするタマモ?」
「助けるしかないじゃない」
「どうやって?」
「・・・・・・」
最大風力で地に押さえつけるか、
いつかのように、神気を暴発させるか。
タマモが、スッと目を鋭くし、
ゆっくりと、暴れる龍に近づいていく。
ぱたぱた
羽音に見上げれば、因幡。
右に左に振り回される忠夫をしばらく目で追った後、
次に白い龍をみて、ふむふむ、うなずく。
ご主人様危機、元凶はあれ。状況認識。
「天津風!!」
タマモの最大風力が龍に襲いかかるが、
龍も、すー、と息を吸い込み、
ブワッ
龍の炎。拮抗する。
霊気の風と龍気の炎が、ぶつかり渦巻く。
風に押し流され、炎の一部が、上空の因幡にも向かう。
「み」
カードを出し、炎を吸引。
ぱくり
大量の龍気を取り込む。そして、
ぽふん
シャドウと同じ少女の姿へ。
ツインテールを翼に変じ、ぱたぱた飛ぶ。
手には、なぜか黒いレースの日傘。
まっすぐな持ち手の部分、グリップが、なんか龍の彫像っぽい。
上を向いた龍の口から、傘が生えたような感じ。それが、
ぽん
大きな大きなハンマーになる。
三十センチくらいの龍のグリップは変わらない。
だが、その龍の口から
因幡姫の身長と同じくらいの細く長い柄が伸びている。
その先に、鎚。サイズはなんと・・・・・・
ドラム缶。
龍に向かって、ぱたぱたと飛び、
特大スレッジ・ハンマーを軽々と、大きく振り上げ、振りかぶり、
小竜姫の額、目掛けて無表情に、
ザ・撲殺!
「!? ☆◆◎▼※!?」
沈む龍。
「助かったぞ〜、因幡」
ぎゅっと抱きしめれば、
「♪」
無表情ながら、どこか嬉しそう。
でも、ほどなく、ぽふん、とウサギに戻った。
いつものように頭に乗せる忠夫。
なんで人型に? とか、
こいつはそういうこと一切、気にしないのだろうか?
「え? でもこの世界、たいがい、なんでもありだし」
ごもっとも。
「ご迷惑かけてすみません」
「こっちこそ、まさか逆鱗なんてものが本当のあるとは思わなくて」
頭を下げ合う小竜姫と、令子。
おでこに、ぷくりと出来た、大きなたんこぶが、なかなかプリティ。
「えっと、なにがどうなったか、いまいち覚えていないのですが・・・」
今だ、涙目でおでこをさする小竜姫。
「えー、あの・・・、修行はどうなったのでしたっけ?」
「「「「・・・・・・」」」」
一部、記憶喪失?
絶句する一同、しかし一人、気にしてないものがいた。
「おほほほ、私が勝って終わったわよ?」
「そうなんですか?」
おいおい。令子、それでいいのか。
「ちょっと令子、いいの?」
「だって、チャンスじゃない?」
「思い出したらどうするのよ?」
「そうなったら、そのとき考えるわよ」
神をも恐れぬ強突張り。
「えっと、令子さんがオレに眼で合図して・・・」
「横島さんに?」
その横で、正直者の忠夫が、暴露。
「ええ、それで・・・」
ゴチン、と神通棍。
「それで、小竜姫の気がそれたとこ、わたしが突っ込んでったのよ」
「・・・じゃあ、そのときに逆鱗を?」
「そうそう」
忠夫を潰して、令子が真実を語る。
思いきり歪め、省き、ひん曲げて。
「それでは、最後の力をあげてませんね、まだ」
「ええ」
令子に手を向け、力を注ぐ。
「これで、全般的な能力が大幅に上昇しました」
「ほんと、力が溢れ出る感じがするわね」
「しばらくは、少し慣れないかもしれません」
タマモが呆れた顔で見守る中、
結局、令子は、まんまと力を手にしたのだった。
「でも、建物壊しちゃって、どうしましょう。怒られちゃうわ・・・」
「じゃあ、うちが業者に頼むわ。
お金さえ払えば、すぐにでも、建ててくれるわ」
こんな提案をする辺り、
少し後ろめたいのかもしれない。
それとも、恩を売るつもりかも。
「そうですか? じゃあ、お願いします。
なにか、お礼をしなければいけないですね・・・」
「え、いや、お礼なんて・・・痛!」
言いつつ、嬉しそうな令子の足を、
むぎゅっと、タマモが踏みつけた。
いい加減にしろ! と。
倒壊した建物の方へ歩いていく小竜姫に問いかける。
「それよりさ、聞きたいことがいくつかあるのだけれど、いいかしら?」
「ええ、なんです?」
振り向いた小竜姫、不思議そうに首をかしげ、
「因幡のことなんだけどさ・・・」
「・・・なんで影法師が人型なのか、なんてわかりませんよ?」
ふるふると首を横に振る。
さすがに、意味不明、原因不明。謎だ。
「まあ、それもあるんだけどさ。
さっき、因幡自身がシャドウと同じ人の姿になったんだけど」
「!」
そういえば、見た気もしないではない小竜姫。
「例えば、極めれば影法師のような姿に近づく技はいくつかあります」
悪魔と契約することで可能になる魔装術。
あれは、はじめ不安定で歪であるが、
洗練すれば、本質である影法師に近づく。
それとよく似ており、
守護霊の助けによって得ることが、ときたまある霊装術。
あるいは、霊体と肉体の中間的存在を目指す技もある。
仙人がそれに近い存在かもしれない。
いずれにしろ、そうそう可能なものではない。
「もしかしたら、霊体と肉体が不安定なところに、
大量の霊力を浴びて、肉体が霊体の方へ引っ張られたのかも」
歩きながら、考え込むように、
ぽつぽつと語るが、要は詳しいことはよくわからない、ということだ。
さすが因幡、謎である。
「じゃあ、練習すれば、出来るようになったりするんですか?」
「いえ、さすがにそれは、無理だと思いますよ、横島さん」
苦笑する。
でも、無理を可能にするのがこの男でもある。果たしてどうなるのか。
そうするうちに、宝物殿につき、
キョロキョロと見て回る小竜姫。
「何かお礼に良いものがないかと思ったんですが・・・」
瓦礫だらけでよくわからない。
「なにか武器の方が良いですか?」
「別に無理しなくて良いわよ。まあ、くれるって言うんならもらうけど」
同じく、周りを見て回る令子。
タマモは腰に手を当て、
呆れた感じで令子を見ているし、
忠夫は、面白そうなものがないか、探している。
「おかしい。ないですね。三つ首の龍棍が、丁度良いと思ったんですが」
「三つ首の龍棍?」
「ええ。美神さんは棍を使われるようなので、それに近い方が良いでしょう?」
「どんなものなの?」
三十センチくらいの、龍を模した棒。
力を込めると、神通棍のように、龍の口の部分から、武器が伸びる。
という武器だそうだ。
「まあ、刃にするか、棍にするかは、使い手のイメージによるんですが、
最初に出した形が、基本として記憶されるんです」
三十センチの短いまま携帯しても良いし、
杖の形をデフォルトとして記憶させたら、武器ではない形で持ち歩ける。
「さらに、使い手が上達すると、
その、基本の状態から、変型させることが出来るんです。
棍を基本にしているなら、場合によって刃とか鞭とか、
あるいはもっと大きな刃にするとか」
「へ〜、便利そうではあるわね。強いの?」
「使い手にも左右されますが、でもかなり強いですよ?」
硬く丈夫で、
さらに使い手には重さを感じさせない。
そもそも、龍気がこもっている。
「ただ、変型は、三つの型にしか、できません。
いえ、基本が武器タイプのときは二つ、ですね」
つまり、杖とかに偽装した場合なら変型は三つ。
結局、三種の武器になる、ということだろう。
「だから、三つ首の龍棍なわけね?」
「いえ、どちらかというと、元が三つ首だから三タイプにしかできない、
という感じです。因果が逆ですね」
「元が三つ首だから?」
「私も伝承としてしか知らないんですが、
昔、三つ首龍が、地上で暴れ、その罰として武具にされたそうです。
そして、使い手が大きな善な功績を成したとき、元の姿に戻れるとか。
それまでは、意識を持つこともなく、使われ続けなければならないのです」
「へえ」
「なんか、他にも似たような話は聞きます。
一時、竜族の中には、神族に属するのを嫌った者が多かったそうです。
あとは、大昔、・・・理由は知りませんが、
九頭竜が暴れたときは、それはもう大変だったそうで・・・」
そんな令子と小竜姫の会話を聞きながら、
タマモは二つほど、思い当たるような事例を思い出していた。
ひとつは先ほどのこと。
もうひとつ、なにか引っ掛かるのだが・・・・・・思い出せないので保留。
「ねえ、小竜姫? その龍棍とかいうのは、傘の形にも出来たりする?」
「まあ、イメージ次第で出来ないこともないでしょうが、
よっぽど毎日のように、傘でも見てないと、難しいですし、
傘にしようと思いつく必然性も、理由もないですね」
「・・・・・・」
「どうかしました?」
タマモは忠夫を見る。
そして、その頭の上の因幡を見る。
傘にしようと思う理由。
毎日のように、傘を見る環境・・・。
そして、さっきの、
スレッジ・ハンマーへの変型。
このウサギが喰っちゃったみたい・・・・・・とは言えない・・・
いや、言うしかないのか?
「えっと、さっき小竜姫を殴ったハンマー。
その龍棍って奴だと思うわ」
「「え?」」
周囲を物色していた忠夫と令子も寄ってくる。
「因幡、出してみ?」
「み」
忠夫が言うと、口から、龍棍の先っぽだけ出す。
「あ! これです」
その龍棍を取ろうとする小竜姫に、
がぶ
噛みついた。
「痛った〜い!! 痛いです!」
「動物がなんか口にしとるときに、手を出したらダメですよ」
いや、忠夫、正論だけど・・・
噛まれた手に、ふうふう、息を吹きかける。
「み」
がじ
小竜姫がぶら下げている神剣に喰らいつく。
「あ〜、ダメです。これはダメぇ」
「ねえ、小竜姫さま。
なにか、代わりに働きますから、因幡に龍棍をくれません?」
のぞきこむようにして、上目遣い。
「うっ」
可愛い・・・。
忠夫の無垢な眼、因幡のつぶらな眼。
「うう〜、わかりました。全く・・・」
かないませんね、と小竜姫。ナニに?
忠夫と因幡の見事な連携プレイによるおねだりだった。
「いいの?」
「いいですよ、なんだか、特にあのお二人に迷惑をかけたみたいですし」
申し訳なさそうなタマモ。
苦笑する小竜姫。
「それに、使えたってことは、使い手として登録されたようなものですし」
「そう、ごめんなさいね。じゃあ、そろそろ帰るわよ、令子」
「ええー! わたしのはぁ?」
「・・・・・・。暴露されたいの?」
「あ、やっぱ、いいです、はい」
こうして、ようやく下山することになったのである。
なんか激しかった修行は、これで終わる。
忠夫と因幡だけを残して。
「えっと、横島さん?」
「ああ。宝物殿の整理とか、業者の工事の手伝いとか、
因幡に武器をもらったお礼に、やっていきます」
令子と違って、よくできた子である。
<おまけ>
「あの・・・ところで、そろそろ、この首輪・・・はずして欲しいのですが?」
「え〜」
「え〜、ではなくて・・・。確かに暴れたのは悪かったですが」
「また、暴れたら大変だし」
「罰ゲームのようなモノとしても・・・ひどすぎません?」
恥ずかしいのですが。
もじもじ。
「大丈夫。ちゃんと、小屋も建ててもらいますから」
「わたしは犬じゃありません!」
「え〜、連れて帰りたいのに〜」
お持ち帰り?
わたしを?
イヤ、なぜ、そこで赤くなるんだろうね、小竜姫様?
「えっと、連れ帰りたいって・・・それは、なぜ?」
「こんな珍しいペットなかなかいないし」
ブチッ
「あっ、小屋より水槽の方が良い?」
「どうせ、わたしはカメですよー!!」
ゴオオオオッ
再び龍化したかどうかは、定かではない。
〔あとがき〕
妙神山編、終了。
結局、最後まで小竜姫は決まりませんでした。
次からも、こんな感じで頑張って頂きたいモノです(にやり)
それから令子…まあ、原作以上にたくましくなりました。
そして、因幡に撲殺グッズが…。
たまに、登場します。
主に、忠夫に近寄る男を殲滅するために?
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