ブォン!
振り下ろされた岩のような拳を、
槍で受け流すようにして捌き、
がらあきの胸に、突きの一撃を入れるものの、
鎧のような体にダメージはない。
戦っているのは、妙神山の修行用の式神とでもいうべき存在のひとつ。
岩のような鎧の体を持つ、
剛錬武(ゴーレム)
そして、令子の影法師(シャドウ)。
小竜姫に導かれて、異空間に入り、
今回の修行者である令子が、見慣れぬ法陣を踏むと、
シュバッと、現れたのが、このシャドウである。
「影法師というのは、あなたの霊能の本質のような存在です」
確かにそれは令子に似た姿をし、
身軽そうで、槍を構え、
素速く、攻撃に特化しているという点を見る限り、
令子の霊能の本質というのもうなずけた。
「これから、対戦形式で修行してもらいます。
勝つごとに新たに力を得ますが、負ければ命はないものと思ってください」
げ、とびびるおキヌと忠夫。
「やりますか?」
「当然ね」
うなずくタマモ。
「って、なんで私のことをタマモが答えんのよ!!」
「やらないの?」
「やるわよっ!」
タマモなりの鼓舞なのだろうか?
そして、対戦が始まったのだが、
「なかなか、動きがいいですね」
そう小竜姫は褒めるものの、
令子は攻めあぐねている。
圧されてはいないものの、痛打を浴びせることも出来ない。
「忠夫、あんたならどうする?」
ズズズッ、とお団子をお茶請けに、
どこから出したのか、絨毯の上で、抹茶を飲んでいるタマモ。
完全に観戦モード、他人事である。
因幡も耳で団子の串を持ち、ぱくぱくと、
忠夫の頭の上で、和んでいる。
「人の修行見るのも、また修行になるのよ?」
とのことだが、
「あの・・・美神さんを応援しなくてもいいんですか?」
「あら、心の中で応援してるわよ、おキヌちゃん」
「そうなんですか?」
「そうそう」
ズズズッ
「そもそも、これくらいの相手に令子がやられるわけないじゃない」
「信頼してるんですね~」
っていうか、世界が滅びても自分は生き残る、と、
豪語するような女だし。
まだまだ金に未練があるだろうし、
しぶとさは、ゴキブリ並みだし・・・etc
たいした友情である。
「で、忠夫?」
「う~ん、硬そうやし、悪食で・・・」
「ノンノン、令子の影法師と同じ条件で、よ」
軽装と槍。
「あの、鬼みたいなの怪我しても治るよなあ?」
「・・・多分ね」
「だったら、鎧のない眼を狙うかな」
忠夫がつぶやいたとき、
令子の方も、同じ狙いだったのか、
槍で剛錬武の眼を突き、第一戦を制した。
「よく弱点を見抜きましたね。これで一つ目の力を得ます」
小竜姫が言うと、
令子のシャドウに鎧が増える。
「これは、防御力が上がったってこと?」
「そうですね、防御力、耐久力が上がりました」
こうして段階的な修行が続くらしい。
「続いては禍刀羅守です」
現れたのは、骸骨の上半身と鎌の脚で出来たような、
蜘蛛のようなグロい奴。
「ほんまに、神様の手下か?」
忠夫は、その痛々しいデザインに呆れた声を漏らした途端、
「ぎけけっ」
禍刀羅守は、素速く地を駆け、
令子のシャドウに一太刀浴びせた。
「きゃっ! やってくれるじゃないの」
「禍刀羅守! まだ合図をしていません!」
「ぎけっ」
小竜姫を嘲笑う。
「ほ~、そうですか・・・逆らいますか・・・」
ゆらっと、鬼気が立ちのぼる竜神。
「ずるい。それに怖い」
禍刀羅守と小竜姫のことであろう。
「なあ、本当に神様って神様?」
脳裏に浮かぶのは、膝を抱えて拗ねていた小竜姫。
おっちょこちょいで人騒がせなヒャクメ。
「しっ。黙ってなさい、忠夫。これ以上怒らせないの」
団子は食べ終わったようだが、
いまだ、ぽけ~っと座って観戦中。
これは信頼なのだろうか?
激しく違う、と信じたい。
「小竜姫さま、これは私の相手よ」
「しかし、・・・」
「いいから」
生意気な禍刀羅守にお仕置きを加えようとする小竜姫を制し、
槍を構える令子。
シャドウの額に傷が出来ている。
売られた喧嘩は高く買う。
そんな令子が突っ込んでいくが、
存外に素速く、また硬い禍刀羅守に手こずり、
むしろ、自分ばかり傷が増えていく。
そして、ついには、
「しまった」
槍を手から飛ばされる。
「厳しいですね・・・。やはり先ほどの一撃が効いているのでしょう」
険しい顔。
だが、ふと横を見れば、
他人の自分が心配しているというのに、
おキヌちゃんとしゃべりながら、
和んでいるタマモ。
自分ならどうするかな~、と考えながら、
のんびり観戦している忠夫。
「・・・・・・」
この人たち、本当に仲間なんでしょうか・・・
「特別に援護を認めます。
横島さんも影法師を出して、援護してあげてください」
心なし、冷たい。
まだ、怒っているんだろうか、さっきのこと。
小竜姫が、ぽんっと、忠夫を円陣に入れようと押し、
「おっと」
よろめいた忠夫の頭から、
ころころ、
因幡が転がり落ちて、法陣に入ってしまう。
シュバッ
そして、因幡の影法師が姿を現したのだった。
雪色の、ツインテールは腰まで届き、
純白の肌。
つぶらな赤いお眼々。
完全無欠の無表情。
十才くらいの美少女がそこにはいた。
「「「・・・・・・」」」
周囲が、呆然と見守る中、その影法師は、
おもむろに胸の前に挙げた両手に、
ぽん♪
お子様ランチについている旗を出す。
きっと、ランチごと喰っていたに違いない。
それに、喰ったモノを口から出さずとも、召喚できるようだ。
その旗を、ゆっくり、右に、左に、右に、傾ける。
もしかして、振っているつもりだろうか。
「おお、因幡、えらいぞ! ちゃんと応援してるんだな」
影法師は、ゆっくり、忠夫に振り向いて、
こくり。
と、無表情のまま。
そしてまた、
ふれ~・・・、ふれ~・・・、ふれ~・・・。
しゃべらない。
「っていうか、忠夫! 他に驚くべきところがあるでしょ!」
「そうですよ! なぜウサギの影法師が女の子なんですか!」
「な、な、な、なんで因幡様の本質が人間の・・・」
「そもそも、なんでウサギに霊能があんのよ!」
タマモ、小竜姫、おキヌに令子。
ぐぐっ、と忠夫に詰め寄るが、
「え? なんか、おかしい?」
「「「・・・・・・」」」
「どこもかしこも、おかしいでしょうが!」
「どこを見て、おかしくないなんて言えるんですか!」
「ウサギの能力の本質が人間なんて、どう考えてもおかしいじゃないですか!」
「ってか、なんでゴシックドレス!?」
「どうして白ウサギが、黒い服装を!?」
「なぜ黒いブーツを!?」
「「「おかしいことだらけじゃない(ですか)!!」」」
「イヤ、だって、因幡だし」
「「「・・・・・・」」」
なぜかわからないが、説得力のある言葉。
「っていうか、助けてくれんのか、くれないのか、どっちなのよ!」
追いかける禍刀羅守。
逃げ回る令子。
かなり、ばてているようだ。
「横島さんも、行ってきてください」
今度こそ小竜姫は、
忠夫を円陣に押し込んだ。
シュバッ
なんとなく、何が現れるのか期待してしまう一同の見ている中、
現れたのは、
「・・・ピエロ?」
道化師のような姿の影法師。
しかし、タマモのいた世界の、
ちっちゃくて、ちんちくりんな存在ではない。
背は忠夫自身よりもすらりと高く、顔は忠夫より鋭い。
髪は蛍光色に染められ、
オールバックに、逆立ててある感じ。
服には、トランプのマークが散りばめてあり、
両の頬にも、それぞれ星と涙のペイントが施されている。
さらに心臓あたりから左肩へ回り、そこから左腕全体へ、
ぐるぐると、黒い龍が巻き付き、籠手のようになっている。
「あれが、忠夫のシャドウ?」
「あの、龍は何なのでしょう?」
「わー、なんか横島さん、危ない人みたいですね~」
まあ確かに、美神のシャドウと比較して、変ではあるが。
うるさいわい、どういう意味じゃ、
心中で、おキヌちゃんに突っ込みながらも、
意思を通し、影法師を操る。
道化師のようなそのシャドウは、令子と禍刀羅守の間に、
軽業師のような身のこなしで割って入り、
奇術師のように、右手の指の間に四枚のカードを具現した。
「ぐけけっ」
ガキンッ
振り下ろされる一撃を黒龍の籠手で止め、
カードでその脇を裂く。
「ぐけけけけっ」
後ろでは、いつのまにか因幡のシャドウが槍を拾う。
しゅるしゅる
白いツインテールが持ち上がって、天に伸び、
ばさっ
翼になった。
飛んでいって、令子のシャドウに槍を渡す。
ってか、頭から翼が生えたような状態で、飛ぶのか!?
「・・・ありがと。いくわよ? はあ!!」
ガッキン!
令子の一撃が、
禍刀羅守を吹き飛ばし、
「ぐけ?」
ひっくり返った、禍刀羅守は起きあがることも出来ず、じたばた。
第二戦も制したようだ。
令子のシャドウ・戦乙女は槍が進化して攻撃力が上がり、
奇術師はなぜか観客へと深々と一礼、
少女は、静かにたたずんでいた。
〔あとがき〕
令子の修行前編。
今日中に多分、後編が届きます。多分。
オリキャラが暴走しすぎという指摘をもらったりしたところですし、
自覚も以前から、しっかりしているのですが、
影法師に関しては、序章を書いている頃から、
すでに決定してたことなので覆りませんでした(てへっ
◆影法師に関して◆
忠夫のは、まるっきり、H×Hのヒソカですね。
ただ、そのことに関して、特に意味はありません。お遊びです。
忠夫がヒソカっぽくなるなんてことも、ありません、多分。
単にわたしが好きなだけ。
そして、因幡。因幡は人化しません!!
ずっと、「因幡=ウサギ」です。
ただ、前にアンケートを採ったとき、人化希望者も多かったので、
影法師だけ人型にしてみました。
でも………姿が影法師に近づく技ってのがありましたよね?(邪笑)
それと因幡、人語を話すことは永劫ないでしょう。
「み」と、それに近いレパートリーだけです。
今回も、賛否激しそうだなぁ…
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ずっと前から予告してたヒソカシャドウが出ましたね!!待ってました~~!!!
まさか因幡さままでシャドウを出すとは思わなんだです。相変わらずしゃべらないし。・・・・いや、シャドウがしゃべるほうが本来異常なんですけどね。そういやここの忠夫のシャドウはしゃべりませんね~。ヒソカのしゃべりが聞けるかと思ったんですが。語尾には♪とかついて。
それにしても外野たちはな~にさわいでんでしょう?因幡さまなら当たり前じゃん。・・・あれ?俺のほうがおかしい?
【九尾(2004.11.28 17:58)】
祝・因幡の人型化。まあ、正確には違いますが。
それにしても、「頭の翼で飛ぶ」ってお前は『妖鳥シレーヌ』か<汗>。
【ファルケ(2004.11.28 18:04)】
そうかぁ、こういう手がありますか――。
いやはや、まったくもって感服しました。真逆こういう風に人型因幡が登場するとは…。
いなばちゃんはなんでとぶのんー?
横島君のシャドウは『ピエロ』というより『トリックスター』という印象を受けますな。
巻きついている黒い龍はいったい何なのか。気になりますな。
【トレロカモミロ(2004.11.28 18:11)】
毎回毎回楽しいお話を書く手腕、凄いですねー。脱帽です。
横島君のピエロもかっこいいし、因幡もきゃわいい(壊
黒い龍の正体はきっと彼なんですね、とか思ってみます
続きが気になりますー
【け~ご(2004.11.28 18:20)】
因幡の人型の姿大公開!!!!これで変身する事を覚えれば確実にタマモのライバルに!!!!
そして横島のシャドーは道化師というよりジョーカーって言った方が当てはまる姿ですねぇ・・・・・・
最後に!因幡・・・・お前はモコナになる気か?
【D,(2004.11.28 19:29)】
そういえば、服は着替えているんですか?
原作通りに話が進みますか、タマモは何処から絨毯を出したんでしょう?
確かに明神山の神様とヒャクメは神様らしくないですね。
ゲーム猿にアーバー元妖怪に拗ね姫ですから。
令子がピンチなのに和んでますね~~~、確かに仲間か?と疑いますね。
因幡のシャドウを見てラビス・ラズリ!?と思いました。
忠夫のシャドウはヒソカですか、口調は悪食ですか?
因幡のシャドウはイヴですか?
【紫苑(2004.11.28 19:51)】
おぉ!!期待していた因幡のシャドウ!!
ていうか、女の子で頭に羽が生えてるって
ラー○フォンのベ○ゼ○ォンが浮かんできたっす!!
【wata(2004.11.28 19:59)】
因幡の擬人化をこんな風にやるとは凄いですね~!!
姿としては黒猫のイヴですかね?
ところで、タマモ達がなんか騒いでますが因幡のシャドウが人型……なんか変ですか?
忠夫のシャドウはヒソカですか、カッコイイですね。
黒い龍…そういえば魂に住んでるんだっけ、出てこないのかな?
【丸猫(2004.11.28 20:02)】
困旛はウサギですよ。うん。シャドウが人型だろうがなんだろうが、ウサギなんです。
忠夫のシャドウですが、ええ感じですね。
やるときゃやるけど、基本体質がピエロですからね。
黒い龍と聞いて、邪○炎殺○龍波とか思ったりしたけど、やっぱ彼奴ですよね。
【水カラス(2004.11.28 20:35)】
前の話のレス返しを見ていて思いました。
>前世の九尾は・・・アシュタロスさえ、坊やと呼べるくらいかも
いや、これはないでしょう。
魔神と妖獣ですよ?まあ、確かに神格さえ認められてる獣ではありますが、所詮竜と同格扱いですし。大体アシュタロスが人間においやられたり、封印されたりなんて、原作のような特別な状況下以外で考えられますか?九尾ってそれされてるんですよ。
それに、九尾って妖狐の中でさえ一番じゃないんですよ?
もっと上に、天狐や空狐っていますから。
と、それはないだろうと、気になったので。
…寧ろ因幡さまならアシュタロスさえ路傍のゴミ扱いしても納得できますが。
【.(2004.11.28 20:41/2004.11.28 21:00)】
因幡シャドウ、ルリ(ナデシコ)+イブ(黒猫)+シレーヌ(デビルマン)ですか?
【ぴええる(2004.11.28 22:54)】
因幡様のシャドウは女の子ですか(もう様付けで呼ばさせていただきます)。
その内、○○術を覚えて実体化するんですね。
その時まで楽しみに待ってます。
「み」ぐらいしか、喋れなくてもいいです。べらべらと喋るよりは、可愛い感じがしますから。
【ろろた(2004.11.28 23:11)】
だって因幡だし・・・納得させるというか、諦めさせるセリフですね。
【亮(2004.11.29 00:18)】
そうですかやっぱり因幡はアヤナミ系少女ですか(笑)。このシャドウには今後とも出演してもらいたいものです。問題は横島のシャドウですが……トランプマン?(おひ) タマモのシャドウもちょっと見てみたいかもって本性まんまかもしれんなあ。
【HAL(2004.11.29 00:35)】
〔レス返し〕
>九尾さんへ
ヒソカ・シャドウ。わたしもしゃべらせたかったんですが、
それって、自分の霊能を制御できていない証だし、
他に、しゃべらせる理由が見つからなかったんですよね~。
>ファルケさんへ
変形させるとしたら、今まで耳だったんで、
結果、しかたなく、ツインテールで飛ぶことになっただけ。
そんな妖鳥は、イメージしてませんよ~ん。
>トレロカモミロさんへ
最近、思ったんですが、因幡の移動って耳で飛ぶか、忠夫の頭に乗るか。
後ろ足、使ってないんですよね~、退化してるのかも。
>け~ごさんへ
お褒め頂き恐縮です。
因幡は、忠夫のペットであると同時に、わたしのペットのようなモノですから、
特に可愛がっています。
>D,さんへ
タマモのライバルというか、お互い天敵のような関係に!?
確かに、ジョーカーって感じですね。
ルシオラも、彼のことをワイルドカードと評してましたし。
>紫苑さんへ
多分着替えたんでしょうね~。
因幡のシャドウ、BlackCatのイヴを、脱色した感じ(笑)
>wataさんへ
普段は、普通のツイン・テールですよ~。
>丸猫さんへ
いいえ、人型シャドウ・・・当然ですね。
顔を出すとやばい事情でもあるんじゃないですかね、悪食。
>水カラスさんへ
イエス! 因幡こそウサギ♪
忠夫のシャドウ・・・今後、活躍の場があるかな・・・
>.さんへ
わかってます。ちょっと書いただけじゃないですか。
それに、力の強弱の問題だけではないし。
前回のレスに関してだけの内容なら、前回のところに書いて欲しいです。
一度レス返しを書いても、何度か、追加がないか確認してますので。
それと、九尾が狐の中で一番かどうかは、
漫画や作品の、独自の設定によって、違うときもあるでしょう。
資料に残っている、すべての妖を、載せられるわけではないのですから。
九尾に関しては、うちの作品では、少し変わった経歴というか、
歴史に関わらせています。
>ぴええるさんへ
イヴ+綾波レイ、ってところでしょう。
>ろろたさんへ
そのあたりの、解決というか、方法も考えています。
○○術とは、少し違う感じかも。
>亮さんへ
わたしとしては、深く納得し欲しいです。
>HALさんへ
まあ、因幡を思いついた大元ですから。
タマモのシャドウって、どうすればいいのか、結構難しいですよね。
【ひかる(2004.11.30 00:52)】
おお、何やら凄い事に・・。面白ぇ!!・・しかしシャドウで人化するとは思わなんだ。やっぱり凄いや因幡様。忠夫君のシャドウは何かカッコイイですねぇ。
【柳野雫(2004.11.30 02:29)】
>柳野雫さんへ
結局、思いついたのが、この、人型シャドウ。
またそのうち、出るでしょう。
忠夫のシャドウは、もう一ひねりしたかった。
【ひかる(2004.11.30 20:25)】
はじめまして、戌と申すものです。
さっそくですが、因幡すげ~。
擬人化した因幡は自分的に、イヴというよりは月姫のレンのイメージが強いですな。
【戌(2004.12.05 15:03)】