横島育成計画・本章１９（ＧＳ）

「最近、なんか霊が強くなってない？」

「そうね、全体的に底上げされてるっていう感じがするわ」

仕事帰りの令子とタマモの会話である。

「そのわりにはあんた、平気そうよね？」

わたしなんか、結構大変なのに、と愚痴るのは令子。

「なんか、ブラドー島で戦ったときに、また成長期に入ったみたい」

「いいわね。わたしも、まだ伸びる余地があるうちに、
　どうにかした方が良いかもね」

そうして、ヴィーナス除霊事務所の一行は、
唐巣神父に紹介状を書いてもらい、

修行者の聖地、妙神山へと、向かうことになったのだ。

「大変そうな道のりですね～」

ふわふわと浮いているおキヌが、
険しく足場の悪い山を登る一行に言う。

「これくらい、簡単に登りきりゃなきゃ、
　そこで修行する資格がないってことなのかしら？」

「単に辺鄙なだけじゃない？」

多少疲れはあるものの、
さすがに鍛えてあり、まだ余裕のある令子とタマモ。

そして、その後ろから荷物抱えて、すたすたとついてくる、
全く余裕の忠夫。

「忠夫くん、なんか最近、急に、スタミナ出てきてない？」

「そうですか？」

というか、今まで悪食のせいでスタミナがなかったのだ。

「み」

忠夫の頭にはもちろん因幡。

「見えてきたわね」

霧の中に大きな門がそびえ立っていた。

そして、二つの大きな鬼面。

「「その者ら、止まれー！」」

「我らの許しなくば」「何人も通ることはできーん！」

「「通りたくば、我ら二人を・・・」」

突然の声。

口上を述べる鬼の面を驚き見ていると、
ギギッと、門が開いた。

ひょこり、と女性が顔を覗かせる。

「客人ですか？」

髪は短めに整えられ、角が二本生えていた。

「我ら二人をどうしろって？」

「許可なく開いたみたいだけど・・・」

「おお。こんな山奥に美人さん」

反応は様々だ。

「小竜姫さまー、我らには我らの任が・・・」
「すぐに、開かないでくださいー」

「固いことを申すな。ただでさえ、修行者は少なく退屈しておったところ」

滂沱する鬼、肩をすくめる女性。

「令子、彼女、竜族みたいよ？」

「・・・そうね。でも、霊圧が全然わかんないわ」

「強者はたやすく、実力を隠すからね」

見た目だけで判断してはならないのだろうが、
それにしても、巧妙な気の隠し方だ。

「修行させてもらいに来たんだけれど、
　もしかして、あなたが管理人かしら？」

「ええ、そうですよ」

にこやかに答える女性は、やはりそうは見えないのだが。

「こらー、お前、小竜姫さまに向かって態度がでかいぞ」
「口を慎め、頭が高い、それに派手すぎだ」

　ブチッ

はじめの右の鬼門の言葉はわかるが、
左の鬼門の言葉にキレた。

「やろうってのね？」

「「わっはっは、まずは、我らが試すのが規則」」

ズシン、ズシンと歩いてくる鬼の体。
首なしだ。

「五秒で仕留めてやるわ」

ぴっと御札を飛ばして、門についた顔の目をふさぎ、

そして、

　カックン

膝の裏を神通棍で、思いきり殴る。

「「どわっ」」

「かなり、変則的ではありますが、着眼点は悪くないですね」

「じゃあ、修行はもらえるのね？
　でも、失礼だけど、本当に管理人？」

　にっこり

その小竜姫の笑みに危険を感じる。

　ブワッ

瞬間、凄まじい霊圧が生じる。

令子だけでなく、おキヌ、タマモも吹き飛ばされかけ、

　バサッ

忠夫は半ば開いた傘を、小竜姫に向け、なんとか凌いでいた。

「・・・なるほど、納得したわ」

「目だけに頼ってはいけませんよ」

唐巣からの紹介状をわたして、
導かれるまま、四人は中に入っていく。

「さすがに神族ね、ものすごい霊圧だったわ」

「そうね」

タマモとしては知っている事実だが、
それでもやはり、ああいう形で浴びるとスゴいと思う。

「忠夫くん、怒らせるような真似しちゃダメよ？」

「しませんって」

あなた、ときどきポカやるからね～。

中は、どういう趣味かわからないが、
銭湯のような雰囲気。

「今回の修行者は、美神令子さんだけでいいんですね？」

「とりあえずね」

タマモはどうしようかとも思ったのだが、
急ぐ必要はないし、あまり、まだ力を見せたくなかった。
神族に近いその力を神族たちに注目されたくはない。

忠夫は受けたいと、事務所で言っていたが、
まだ、色々自分で工夫して修行すべきことはたくさんあるため、
今回は、早いと言われた。

「一応、皆さん、こちらでお着替えになってください」

言われたとおり、入ろうとしたのだが、
忠夫が、敷居につまずいて、

「うわっ」

転びかけ、そのまま、

「きゃ」

立っていた小竜姫に突っ込んだ。
ちょっとびっくりしていたが、受け止め、支えてやる小竜姫。

「大丈夫ですか？」

「すみません」

いきなりのドジに、令子もタマモもあきれ気味だ。
小竜姫の方は、頬は少し赤いが、さして気にしていないらしい。

にこやかなまま。ちょっと、苦笑している。ただし、

「あんた、なに、小竜姫さまの胸に突っ込んでるのよ」

タマモの言葉に、忠夫がこう答えるまでは。

「え？　ムネにだったの？」

寄りかかっていた小竜姫に顔を向け、
セクハラまがいのことをしてしまったことを、真摯にわびる。

「ごめんなさい。
ちっちゃくて、わかんなかった。・・・・・・って、あれ？」

　ゴゴゴゴゴゴゴゴッ

なんか怒らせてしまったらしい。
何がいけなかったんだろう？
やはり、胸に突っ込んだことか？

自分の発言に全く気づかないのだった。

剣を抜く。

ほっぺたが膨らんでいるように見えないでもない小竜姫。

「ちっちゃくて、悪かったですね！」

怒れる乙女の一撃が忠夫を襲うが、

「うわっ」

辛くもかわし、

しかし、すぐさま切り返しの二の太刀が、

　ぱしり

因幡に耳で白刃取りされた。

　ぴしり

小竜姫、固まる。

唖然とする令子、タマモ、おキヌ。

「おお、よくやったぞ、因幡。修行の成果だな」

ご機嫌な忠夫。どうなることやら。

「ううう・・・・・・、わたしなんか竜じゃなくて、亀なんだわ
ぐずで、のろまで・・・」

「そんなこと言ったら、亀が可哀想です」

　ぴし

いや、確かに亀に対して悪いかも知れないが、
この場合、別の意味で取られるかも。

「うう、亀以下なんだわ」

「あ、いや、そういう意味じゃ・・・」

小竜姫は解凍後、
隅の方で膝を抱えて、いじけていた。

しばらくそうしていた後、

「もう寝ます」

立ちあがって、奥へと消えていく。

呆然と見送る一同。

「って、ちょっと待ってよ。わたしの修行はどうなるの？」

「そのウサギに、見てもらえばいいじゃないですか」

完全に拗ねた子供であった。

「ぐ、偶然ですよ、偶然」
とか、
「小竜姫さまって優しいから、無意識に相当手加減してくれてたんでしょ」
とか、
「そのうち大きくなりますよ」
ナニが？
「イヤなことは、修行でもして忘れましょう」
とか、

まあ、いろいろあって、
本当に、いろいろあって、

一時間後、

ようやく修行はスタートする。

〔あとがき〕
む、出だしは好調。
妙神山編のプロローグ。

こんな小竜姫は、お嫌いですか？

妙神山編はブラドー編で登場しなかった分、
因幡が暴れまくるかも。

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