「ぜーっ、ぜーっ」
『はーっ、はーっ』
『い、いや悪かった…。頭に血が上っちまって…』
ポチとホワイトウルフは息も絶え絶えで、ゴースト・シンガーの謝罪に応える気力も無い。
彼等は今現在、なんとか戦闘ヘリの類を片付けて岩山の陰で一息ついた所だった。
航空戦力さえ無ければ、MTや車両ではACの機動力に追いつけない。
それ故ポチはヘリを中心に始末していたのだ。
だが敵機の数があまりに多く、既にポチは弾切れしたバーストライフルをパージして予備武器のハンドガンに持ち替えている。
更に言えば、肩装備のミサイルポッドも残弾が心もとない。
彼のAC自体も、護衛対象のテスト機を庇ったために相当量被弾していた。
いくらACが戦場において最強兵器だとは言え、やはり数には勝てないのだ。
ちなみに彼の弟子であるホワイトウルフも敵陣に斬り込んでかく乱したため、けっこう機体にダメージを受けている。
飛んだり跳ねたり避けたり斬ったりといった単純な操縦技量だけで言えば、彼女は師匠をはるかに越えていた。
しかしやはり四方八方からの集中砲火を受けては、いかに彼女とは言え避けきれなかったのだ。
ポチはようやく、と言った様子でゴースト・シンガーに向け口を開く。
「…まあとりあえず、だ。そのACの両肩についてるミサイルポッド…。なんとか機能復旧させられんのか?」
『色々コクピット内の回線いじってみちゃあいるんだが…』
このテスト機、キング・モルダー2世に積まれている武装は、今回のテスト対象である両腕の武器腕の他に、両肩に従来品のマイクロミサイルポッドを搭載している。
だがこのパーツは、現在作動不能状態に陥っていた。
理由は、武器腕の装備切り替えシステムとFCSの相性である。
問題となっている試作武器腕は、中〜長距離用のアサルトライフル、近射程用の光波射出式ブレード、白兵戦補助火器である火炎放射器、そして格闘武器たるパイルバンカーと言うようにキサラギ社がノウハウを持っているAC用腕部武器を束ねたシロモノだ。
従来の武器腕においても、ミサイルの同時発射数や射出方式を切り替えたり、リニアガン弾頭を攻撃力重視から熱量重視へ切り替えたりできる物が多数存在している。
これはその系列の機能を極限まで推し進めた野心作と言えよう。
もっとも『成功していれば』、という但し書きが付いているが。
この実験的装備、最大の問題は装弾数の少なさである。
戦闘開始後十秒あまりでライフル弾は使いきり、パイルバンカー機構は右手と左手で戦車を1両づつ撃破した所で単なるデッドウェイトと化した。
それでもゴースト・シンガーは果敢にシステムを火炎放射器に切り替えて戦闘続行したが、これは当てるのが難しい事で有名な武器であるため、それ以降一機も潰せぬうちに残弾が無くなってしまう。
テストするパーツが武器腕であるので、できるかぎりそれを用いて奮闘していた彼だったが、弾切れではやむをえない。
仕方無しに肩装備のミサイルポッドに切り替えよう…としたが、ここで大問題が発生する。
なんと火器管制が肩装備に切り替わらなかったのだ。
ぶっちゃけた話、あまりに多くの武器を武器腕に詰め込んだため、『現在使用する武器』の切り替えシステムに不備が残っていたのである。
実戦において被弾した影響で、トラブルが顕在化したのだ。
実験室内ではまともに稼動していたため、この致命的なバグは見過ごされてしまっていたのである。
「あー…くそ。問題点も充分表面化したし、テスト終了してもかまわんのじゃないか?」
『…モルダー博士は同僚のスカリー博士に歪んだライバル心持ってっからなー。失敗は失敗でも、せめてなんか成果出さんと…帰還許可出さんだろな』
『成果、でござるか?』
『この敵ども殲滅するとか、かな。なんか張り切ってあっちこっちに情報流しまくってたし面子の問題もあるみてーだ…』
『え〜、こっちからもキサラギ社に連絡取ってるけど「まだテストは終わってないっ!」ってえらい剣幕なのね〜』
その時、突然岩場のオーバーハングが爆発した。
ポチ達はあわてて機体を走らせる。
「くそ、垂直ミサイルだっ!ミサイル車両がまだ生き残ってやがったっ!」
『デコイはっ!?デコイはねーのかっ!?』
「もー無ぇよっ!!」
『くそっ!なら…』
キング・モルダー2世の肩装甲が開き、アンテナ型の小さな浮遊メカが射出される。
それと共に通信機にノイズが走り、同時にミサイルの雨が止んだ。
『うわザザッECMでござザッ!?』
『心配ねぇ!こっちのザザッ備だ!肩装備は動かなかったがこっちザッら!』
ECMメイカーはインサイドと呼ばれる兵器群に含まれている。
この主の装備は肩装甲内部に配置されており、肩装備や腕装備とは別系統の制御系でコントロールされているのだ。
かわりにインサイド兵器には、単純に射出するだけのノーロックオン兵装しか存在していない。
もっともそれが幸いして、火器管制がイカレたこのテスト機でも問題なく使えたのだが。
「あるんなら先に使えよっ!」
『悪いっ!忘ザザッザザザ』
「自機の装備を忘れんな〜〜〜!!」
『俺のじゃねザザッ会社の機体だ〜〜〜!!』
ポチは策を必死で考える。
こちらの武装は残り少ない。
栄光Ver.2はハンドガンとブレードそれにミサイル少々、雪狼はブレードのみ、そしてキング・モルダー2世はECMメイカー少々と試作武器腕のブレード光波機能だけだ。
はっきり言って、遠距離戦闘はまったく不可能である。
更に言えば、キング・モルダー2世は壊されるわけにはいかない上、既に試作装備のテストとしてはこれ以上データの取り様が無い。
一応ブレード光波機能は生きてはいても、撃った直後の硬直時間内に集中打を浴びるため、多数相手に無力なのはつい先ほど実証済みだ。
なおソレをかばったせいで栄光Ver.2もいっしょに集中打を浴びたのはお約束である。
「…よし。ゴースト・シンガー、ECMあと何発残ってる?」
『えー、1発だ』
「うっわ少ねぇ…。んじゃあ俺の合図でソレ出してくれ。ECM効いてる間に俺とウルフは敵中に飛び込んで格闘戦に持ち込むからよ。ミサイルさえ防げればまあなんとか…」
『了解したござる!』
『残敵は多いわ、無茶はしないでよね。…な、何よ。し、死なれたらこっちの評価下がっちゃうんだから!』
ホワイトウルフの元気良い返答と、そのオペレータの心配そうな声が無線の向うから聞こえた。
対してゴースト・シンガーは不満そうである。
『その後、俺はする事ねーのか?』
「しかたねーだろ。その機体に壊れてもらっちゃこまるんだ。んじゃ行くぞ!」
『あ!…くそ、使うぞっザザザッザザザ』
栄光Ver.2と雪狼は機体を左右前方に小ジャンプさせながら敵中に飛び込んでいった。
小刻みな左右へのジャンプにより、両機の被弾は最小限に抑えられている。
いつもならこういう作戦を取るときは、装甲の厚いポチの機体を盾にしつつ突入する事が多い。
しかし今回はポチの機体が相当量被弾していて壁役には心もとない事、敵までの距離があり栄光Ver.2を先行させると逆に雪狼の機動性が殺される事などから、別々に機体を走らせている。
勿論この場合、雪狼の機動性で敵陣をかく乱した方が逆に有効である事、敵の目標を分散させる事もポチ達の考えに入っているのだ。
『うおおザザッぉぉぉぉっ!!』
「エネ残量に気をつけろよっ!?っと、あぶねっ!」
雪狼は比較的耐久力の高い人型MTを両腕のブレードで切り裂く。
それを狙った逆脚無腕MTをハンドガンの連射で沈めた栄光Ver.2だが、重砲を積んだ車両に狙われて慌てて回避する。
善戦している2機だったが、やはり敵の数が多すぎた。
このままではじわじわと耐久力を削られてジリ貧になる可能性が高い。
とうとうECMも時間切れで、相手の攻撃にミサイルが混じり始めた。
そんな中、無線からゴースト・シンガーの不穏な声が聞こえ始める。
『…くそっ!俺だってレイヴンだってのに…。なのにこんな所で何もしないで…いられるかよっ!』
「!?」
『ま、待つでござるっ!』
「そ、そうだっ!1〜2発ブレード光波撃った所でオマエがやられちゃ…」
だが止める声に耳も貸さず、キング・モルダー2世は岩陰から飛び出してしまった。
ゴースト・シンガーの叫びが通信と機体外部スピーカー両方から大音量で響く。
『うるせえ〜〜〜っ!!俺は…俺は最後までやってやるううっ!!どがんばき!ばちばちばち!!』
音声に妙な音が混じった。
なんかコックピットのコンソールを両の拳で思いっきり殴りつけたような音である。
ついでに何かがショートするような音も混じった気がした。
次の瞬間、テスト機の両肩に搭載された、今の今まで死んでいたミサイルポッドが開く。
ちなみに普通は両肩用の特別なミサイルポッドを搭載しない限り、両肩にミサイルを積んでも動くのは片方ずつである。
「あ」
『い?』
『う…』
『えぇ!?』
『おおおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉおおおお!?』
キング・モルダー2世の両肩が一瞬爆発したかのように見えた。
次の瞬間、煙の中から無数のミサイルが連続で飛び出してくる。
「わ〜〜〜!板野サ▼カスうううぅぅぅっ!?撃つなあああ〜〜〜!!」
『や、やめるでござるううぅぅ〜〜〜!!拙者たちにも当たっちゃう〜〜〜!!』
『そ、それがっ!と、止まらねえんだ〜〜〜!?なんとか避けてくれ〜〜〜!!』
「『な、何いっ!?どわああああぁぁぁぁ!!』」
敵味方関係なし、所構わずにミサイルが降りそそぐ。
ちゅどどどどどどどーん、と荒野に火柱が吹き上がった。
赤貧師弟はやっぱり不幸だったのである。
本日のレイヴン情報ならぬ開発者情報:
名前(本名):モルダー博士(♂)&スカリー博士(♀)
備考:モルダー博士は重量級パーツの開発においては極めて高い能力と実績を持つ有能な技術者。
重火力機重装甲の機体を得意とする。
元々はUSE(中小企業連合)からヘッドハントされた人材。
キサラギ社では開発主任待遇で迎えられたのだが、上役の手違いで軽量機部門に配属された。
それ故に本来の才能を活かしきれず、内心で不満が鬱積している。
同僚であるスカリー博士に対し、歪んだライバル心と同時に微かな慕情、ねじけた仲間意識を抱いている。
スカリー博士は総合制御系…つまりは頭部パーツのエキスパートである。
だが彼女にとって不本意なことに、『商売になる』製品の開発に追いやられ、本来やりたい事ができていない。
彼女からすれば、他のキサラギ研究者は彼女が稼いだ金で好きな研究をしているように見える。
最近軽量格闘戦機の開発主任に移動したが、これも彼女がやりたい事ではなかった。
同僚であるモルダー博士に対しては、歪んだライバル心とともに、上に理解されない事に対していびつな仲間意識を持っている。
(あとがき)
えー、赤貧師弟、死んでません(笑)
機体も無事とは言い難いですが壊れてません(笑)
まあ考え無いで書くのはやっぱり楽です。
ちなみにマ●ロス7だのなんだの言われていた(実はそう思ってもいたけど)ので、今回はオチに板○サーカスをば盛り込んでみました。
…タ■ムボカンシリーズも入ってるって言われたら返す言葉も無いですが。
というわけでレス返しです。
>九尾さん
いや、誰かレイヴンに使えそうな奴で、しかも二度と出てこなくても何度出てきてもどっちでもいいヤツいないかな〜と原作ペラペラめくりながら探してたら目に付いたのがアイツでして。
で、『俺の歌を〜』って台詞はモロにマ●ロス7を考えてたんですけどね。
しかしオペレータは考えてませんでした。
そっか〜、たしかに似合うかも。
となるとあのヒトも某キサラギ社勤務ですかね。
>kuesuさん
あはは、ポチ宅のご近所はご近所ですよ〜。
まるでサ○エさんに出てくるようなAC世界には場違いなヤツ。
何故そんな噂がこんなとこに流れてるんだ〜って思うようなヤツですハイ。
ちなみに『俺の歌〜』は某マク△ス7でした。
>D,さん
はい、読んだ通り全然ダメダメでした。
でもポチがいなければホワイトウルフもこういう道を辿っていた可能性が…。
ちなみに赤字覚悟ミッション…つらいですねぇ…。
ところで、ステージ終了時の清算画面…あれは精神的に余裕が無いと難しいんで(^^;
>ろろたさん
お褒めにあずかりまして、ありがとうございます。
伝次郎が出てくるとは、書く前日まで私も思ってませんでした(^^;
そうですね〜、たしかにいつの間にかシロがヒロインっぽくなっちゃいましたね〜。
ルシオラも小竜姫さまもワガハイ好きなんだけどなぁ…。
美神さんやおキヌちゃんは設定はできてるんですけど、なかなか出せなくて(^^;;;
>柳野雫さん
あはは、マクロ▼7は大当たりです。
しかし機体の説明とか開発主任とか、確かにダメな匂いがぷんぷんしてます(^^)
なんつっても代表作ゴーレムの茂流田に軽量機向けパーツ作らせちゃいけませんよ。
ちなみにキサラギ社…好きなヒトは好きなんですけどねぇ…ワガハイとか。
軽量級コア(胸部)パーツよりも軽い中量級コアパーツとかおかしなモノ出してますし。
>匿名さん
ポチの才能開花…遠いです。
果てしなく。
ポチ、ザ・キラーのエンブレムはいくつか候補はありますが決めてません。
ザ・キラーの最有力候補は海賊旗みたいな髑髏に骨十字パターンと、大鎌かまえてローヴ着た骸骨ですが。
ポチは一応『心眼』から取ってエンブレムに瞳を描こうかとも思ったんですが、あんまりかっこよくないなぁ〜と悩んでましたね(^^;
ちなみにペガサスは思いっきり違いますっ!(^^)
ホワイトウルフだけは決まってて、主線が黒で描かれた白いウルフヘッド(横から見た図)ですね。
前頭部だけちょっと赤いです。
ちなみに夏子は原作でも回想オンリーだったんで、出ない可能性大かと…。
銀ちゃんは微妙に登場へと方針が傾いてますが。
>紫苑さん
まだまだ遠そうですなぁ才能開花。
匿名さんにも言ったように、夏子は厳しいですが銀ちゃんはたぶん出ます。
ピートと神父は、Dr.Jさんの外伝に出たら了解もらってからそっちの設定を貰おうかな、と考えてました(^^;;;
ちなみに厄珍は一応出てますよ。
>大仏さん
タイガーじゃないです、違います(^^;;;
いくらなんでもタイガーが可哀想…。
でも存在感で言ったらジェームス伝次郎の方が上ゲフンゲフンゴホゲホガホッ!!
まあ、ポチ達には赤字は赤字でも白い明日が待ってるぜっ!
きっと。
>Dr.Jさん
一応今回分の赤字救済策は考えてます。
まあ、そんなに変な成り行きではない…と思ってますので、その救済策は。
ピートは原作ではヴァンパイア・ハーフで、だとすると二次でも普通のヒトじゃないっポイですけど、ロジャーも普通じゃなさそうなんでホントに似合いますね。
あと、アリーナの件色々ありがとうございました。
一応本作では舞台がネクサスで、なおかつ本来の設定があいまいだと言う事で次のようにしますね。
・地球上の闘技場(専用)においては観客席は存在するが入場券は高価。
・観客の防護はしっかりしているが、事故で死んでも保障されない。(入場券購入時に承諾の書類を書く)
・アリーナバトルは賭けの対象。ただし不正防止のため試合に参加するレイヴンの関係者は『勝ちレイヴン投票券』の購入を禁止。
>朧霞さん
ああ確かに!
ゴースト云々ですもんねえ。
ちなみにキング・モルダー2世は別に歌エネルギーじゃ動きません(^^;
射突ブレード…威力はピカチュウもといピカいちなんですがねえ…。
当てづらいし残弾少ないし…。
某スティンガーの胴体、僕は好きですよ。
でも実は軽量機作るんならキサラギ社のRAKANが好きですけど(^^)
あの軽量コアより軽くて脆弱で変に丸っこい中量コアが(^^)
>梶木まぐ郎さん
ですねぇ…。
優秀なデバッガーではあるんですが…。
冷静さ、無いですし…。
…。
スピーカー…ですか…。
あ゛あ゛あ゛〜〜〜思いつかなかった〜〜〜(^^;;;
>無貌の仮面さん
違和感ありまくりですね〜。
音響兵器出したらほんといいかもしれませんが…。
でも…『艦長』ですか?
『艦長父』ではどーでしょうか(^^)