ポチとホワイトウルフは集中砲火の中を疾走していた。
無論、自分の足ではなくACで、である。
付け加えて言えば、その場には彼等だけではなくもう1機ACが存在していた。
その機体は別に敵のACというわけではない。
ポチは叫ぶ。
「こらゴースト・シンガーーー!!反撃しようとすんじゃねぇ!弾切れなんだからテメーは逃げ回ることだけ考えんかっ!!だーーー!!光波ブレードを撃つなーーー!!」
『お、俺の歌を聴けーーー!!』
『錯乱してるんじゃないでござるっ!!』
このゴースト・シンガーというレイヴン…ホワイトウルフに言われるようではオシマイである。
いつもの貧乏師弟コンビが何故このような羽目に陥っているかというと、それにはとある事情があった。
ここで話は二日前に遡る。
その日、ポチはガレージで自機の様子を見ていた。
彼はこの日何度目になるかわからない溜息をつく。
「…はぁ。やっぱり高ぇよなあ暗視スコープ付き頭は…。ザ・キラーが使ってやがるWASPは安いけど…他になんの機能もねーんだよなぁ。できりゃ…クレストのH84E2が欲しいよなぁ…。60000Cかぁ…買えなくもねーが…」
彼が言っていたパーツは、クレスト社が売り出している万能型頭部パーツである。
これはホワイトウルフの雪狼にも使われているCR−H37Eをベースに改良された、センサーの塊のようなパーツだ。
ポチの栄光Ver.2のような非・対戦仕様の中量機に用いるには最適だろう。
だがこのパーツを買ってしまうと、その後のやりくりが非常に厳しくなってしまう。
ポチは臆病なので、万一にそなえてある程度の金額は残しておきたかったのだ。
彼がパーツのパンフレットを前に頭をかかえていると、そこに彼の押しかけ弟子が現れる。
「先生!」
「ん?どーしたウルフ。…なんだよ珍しくシリアスな顔して」
「珍しくは余計でござる…」
ホワイトウルフは眉間に縦皺をよせて呟いた。
ポチは彼女に話を促す。
「はは、悪ぃ悪ぃ。んで?一体なんなんだ深刻そーに」
「先生…。拙者たちでこの仕事を受けたいんでござるが…」
「ん?どれ。…ぶっ!?…あー…ちょいとこりゃキビシクねーか?」
ホワイトウルフが持ってきた携帯端末の画面を覗き込んだポチは、その依頼メールの内容に難色を示す。
その依頼は傑作パーツか腐った失敗作かどちらかしか出さないとご近所の奥様方にも大評判のACパーツメーカー、キサラギ社からの物だった。
依頼内容は、実際の戦場において自社製ACパーツの実戦テストを行うので、テスト機の護衛をして欲しいと言うものだ。
なおその戦場というのは、あらかじめ試作機を輸送するという情報をリークしておいて、同業他社の襲撃を誘うというものである。
実戦テストであるため、護衛とは言ってもテスト機に戦闘行為を行わせないわけにはいかない。
しかしテスト機を撃破されたりしては本末転倒だ。
機体に積まれた記録装置が失われては、データが取れなくなってしまう。
つまりそのテスト機を戦闘の真っ只中に放り込んだ上で、なおかつ機体の破壊はできるだけ避けなければならないのだ。
「…万が一テスト機が撃破された場合は、最低でもコアパーツと頭部パーツだけは回収すること…か。データ取りのためだなコリャ。
で、機密保持のために残りの残骸は原形を留めず徹底的に破壊すること…ねぇ。けどそーなった場合とかテスト機の損傷があんま派手だったら特別減算…ねぇ。
…あー、やっぱ駄…?」
ポチは『やっぱ駄目だ』と言いかけた。
だが彼はホワイトウルフが悲しそうな上目遣いで彼を見つめているのに気付き、内心焦る。
彼女は目をうるうると潤ませ、唇を噛み締めていた。
彼は心の中で叫ぶ。
(こ、こんなガキによこしまな考えを抱くほど俺は飢えてないっ!!ちがうんだちがうんだちがうんだー!!!ドキドキなんかしてないっ!ほんとだぞーーー!!!)
「先生っ!」
「は、はいいいぃぃぃっ!?」
「お願いでござるっ!」
ポチは突然叫んで頭を下げたホワイトウルフに驚く。
彼女は必死に師匠に頼み込んだ。
「先生、どうかこの仕事、受けさせてくだされっ!拙者、友達を助けてやらねばならんのでござるっ!」
「…あ?…あー。まあ…とりあえず、よ。事情説明してみろって。判断はそれから、な?」
「先生…」
(あー危なかった危なかった、なんかヤバかったーーー!!!)
ポチの心の声は脇においといて、ホワイトウルフが話した事情は次のような事だった。
彼女のオペレータはもともと彼女がレイヴンになる以前から彼女の友人…というより悪友であったそうだ。
その友人は孤児であったが、頭脳はかなり優秀であったため企業が共同で出資している奨学金を獲得、更に飛び級を重ねて高度な教育を受けた。
そして普通ならそのままどこかの企業に入社するはずだったのだが、その友人はホワイトウルフが父の敵討ちのためレイヴンになると決めた時にレイヴンズ・アーク入りを決めたのである。
「…当人は『勘違いしないでよね。ただの気まぐれなんだから』と言っておったでござるが…そういう馬鹿なやつなんでござる」
「あー…んー。けど、よ?そういう場合って奨学金返納せにゃならんのじゃないか?」
「その通りでござる…。それ故あの女狐めは経済的にあまり余裕は無いんでござるが…。先日の例のポカで減俸になって…。あやつ頭は良いし勉強はできるんでござるが…。その…世間知らずで常識が無い所があるでござる故に…」
『常識無しはお前も同じだろ』とポチは言いそうになる。
だが幸いにも彼はその台詞を飲み込む事ができた。
その頃になると、ポチはホワイトウルフの言いたい事を理解していた。
レイヴンの評価が上がれば、その専属オペレータの評価も上がる。
そうなれば、これまでの多少の評価落ちや減俸も深刻な問題ではなくなるだろう。
更には彼等が優秀な成績で任務を達成すれば、それをサポートしたオペレータにも臨時のボーナスが出る場合とてあるのだ。
ホワイトウルフはオペレータに対するその臨時ボーナスで、己の友人の窮状を救おうとしているのだろう。
どうやらその友人とやらはずいぶん素直じゃない性格らしい。
それ故、彼女が単純に金を貸そうとしても断るのだろう…いや、もしかしたら既に断られているのかもしれない。
そのためにホワイトウルフは、今現在彼等のチームが受けられる中で、単純に一番難易度が高そうな物を選んで来たのだ。
ポチは己の頭をわしゃわしゃと掻き毟る。
「…だーーーっ!!」
「わぁっ!?」
「わかった、この仕事受けるぞ。そのかわり…そのかわり相当な赤字、覚悟しとけ。とほほ…」
「せ…せんせいっ!?拙者、拙者…!」
ホワイトウルフはいきなりポチへと抱きつき、頬をすりすりする。
彼は叫んだ。
「やめんかーーー!!!」
「せんせー!きゃんきゃん!」
(俺はちがうー!!ロリコンやないー!!ドキドキなんかしてないーーーっ!!ちがうんだちがうんだちがうんだー!!!)
ちゅどーん、と轟音が響く。
「俺ははやまったーーー!!!」
『敵増援、なのね〜。戦闘ヘリ4、戦闘MT2、ミサイル車両1です』
『あワン!あツー!!あワンツーさんしーーー!!ハイウェイをつっぱしーる、マイラブ・レボリューション!!』
『歌うなでござるーーー!!』
ポチは叫びつつ、テスト機を狙ったミサイルの前にデコイをばらまいた。
デコイの弾薬はけっこう値段が高い。
情に流されて受けた任務は、やっぱりズンドコに厳しかったりしたのだった。
本日のレイヴン情報:
レイヴン名:ゴースト・シンガー(♂)
本名:デンジロウ・ジェームス
AC名:キング・モルダー2世:価格不明
頭部:キサラギ社試作パーツ:価格不明
コア:RAKAN(実防50%・E防50%):予価87770C
腕部:キサラギ社試作パーツ(武器腕):価格不明
脚部:CR−LH74M(脚部積載100%):37500C
ブースター:CR−B72T(出力100%):28500C
ジェネレータ:KONGOH(容量100%):110000C
ラジエーター:ANANDA(冷却100%):56500C
FCS:MIROKU:70000C
インサイド:HOHSHI:54100C
エクステンション:SAISUI:82000C
右肩武装:MAGORAGA:67510C
左肩武装:MAGORAGA:67510C
右手武装:キサラギ社試作パーツ(武器腕):価格不明
左手武装:キサラギ社試作パーツ(武器腕):価格不明
機体解説:キサラギ社の試作機…というより実験機。
正確に言えば、腕部パーツの武器腕をテストするためのプラットフォームとしての機体。
できる限りキサラギ社製パーツを使用して作られた。
用意できなかったパーツは分析用に購入された他社製品を流用している。
はっきり言って実戦に出すには問題がある機体。
更に言えば複数種の武器を組み込んだ武器腕は意欲作ではあったものの、ぶっちゃけ失敗作。
第1に故障が多くて整備性も悪いため稼働率が低いしいつ壊れるかわからない。
第2に弾薬数がとても少ないため継戦能力に欠ける。
第3に無駄に重く、機体の機動性を殺す。
もともと軽量ACの火力不足を補おうと考案されたパーツだったが、企画倒れの代物であった。
もっともどちらかと言うと責任は、重量機が専門の開発主任モルダー博士を軽量パーツ部門に配置した管理職側にあると言えよう。
ちなみに姉妹機として高機動格闘戦機クイーン・スカリーmk5というのもあるらしい。
備考:かつてはアーク所属であったが、キサラギ社との直接契約がバレて除名になったレイヴン。
性格は熱しやすくキレやすい。
とりあえず何かあると歌う。
たいていは錯乱している時である。
キサラギ社ではテストパイロット的な仕事を主にやっている。
壊れやすい所や不具合がある箇所はかならず壊すため、ある意味では優秀なテストパイロットかもしれない。
ちなみにこの機体は彼の所有ACではない。
(あとがき)
考えずにつらつら書いてたら突然ネタに詰まって間があいてしまいました(笑)
というわけで、今回はちょいと変化球。
ほんのちょっとだけ考えてみました。
…。
考えないで書いたほうがやっぱり楽だな(苦笑)
まあでも、情けは人のためならず…なので、ポチとウルフには良い目も見せてあげないとなあ、とも思ってます。
というわけで遅くなりましたがレス返しです。
>D,さん
西条は、腕はいいんですよ?腕『だけ』は(笑)
まあ宝の持ち腐れと言われてもしかたありませんけど(笑)
しかしスティンガーもどき…ですか…。
…。
「あたしは面倒なことは嫌いなのよ!」
…はっ!な、何故か美神っぽい台詞にっ!?(汗)
>九尾さん
に、似合う…。
っていうか機体よりもポチ自身がやっぱり「両腕両足がまずボ(中略)小錦がドス(後略)」じゃないとなあ、とも思いますが(笑)
>トンプソンさん
画面酔いは私もよくやるんですよ(苦笑)
昔友人が「モータート○ーン・グ○ンプリ」遊んでるのを脇で見てたら酔ってトイレに駆け込みました。
>柳野雫さん
八マンはできれば今後も出したいですねぇ。
雪之丞は確実に出ますが。
彼にはもっとガンガン戦ってもらいましょう(笑)
>紫苑さん
雪之丞は貯金しません。
入った金はそのまんま全部機体強化です。
そしてタマモはシロのオペレータやってます。
西条は…実力はあるんですよ?実力は(笑)
>Pr.Kさん
あははは、言ってはイケナイ事を言ってしまいましたね。
ダメですよ、アレは八幡なんです。
間違ってもエイトマうわちがうやめんか俺は言ってないコラ…。
>無貌の仮面さん
KARASAWAは持ってるだけなら持ってるという設定ではあります西条は。
まあ外見重視にしたら重量問題で積めなかったってだけですんで。
西洋合理主義者ではあっても、まず西条と言えば聖剣ジャスティスなのでMOONLIGHTを優先したんですよ。
ちなみにネクサスではプレイヤーは強化人間になれないようです。
正確には、バグ技使えばなれるらしいんですが…文字通りその後バグるらしいです。
>朧霞さん
繰り返しますが、腕はいいんです腕は(笑)
ちなみに軽量コアに中量脚つけるとプロポーション的にかっこよく見えますよね。
頭はMANTISですか…。
あれは某スティンガ○の頭なので、わざと避けた所もあるんですけどね(笑)
ポチはジャスティスソードが金持ちだから嫌ってますが、アリーナバトルが盛んになると女性ファンも増える予定なので更に嫌いになるハズです(笑)
神父様、どうしましょうかねぇ…。
>Dr.Jさん
三次作品の投稿、ありがとうございました。
とてもハードでシリアスで…ううん、完全に本編が負けてるなあ(笑)
ピートがあのロジャーですか…唐巣神父も某K社幹部…いいかもしれませんね…。
某K社からの最後の依頼メールはなかなか泣かせますし。
いや某N社からの最後の依頼メールも、ですが。
アリーナの件ですが、観客席があるかどうかが事前にネット検索したけどわからなかったんですよ。
それで、ゲームのVSモードのアリーナ会場の壁に観覧席っぽい構造物(ただし観覧席と断定はできない程度のシロモノ)があったんで、『観客席はあるもの』として書いたのです。
無い、というのは公式設定なんでしょうか。
それと、ギャンブルにもなっているというのは本作でも明言はしていませんが、そのつもりで書いていました。
ただしイカサマを防止するため試合当事者(ありていに言って試合に出るレイヴンとか)の賭けは禁止、と言う自分設定にしました。