暗い、確かに暗いが明るい。
人工の光から隔離されている夜の妙神山。
そこを照らすのは星々の小さい光。
だが人工の物と比ぶれば遥かに暖かい光だ。
ルシオラの纏う光もこれと似ていた。
小さくか細い光。
されども暖かく力強い光。
また巡り会えるだろうか。
今はまだわからない。
きっと俺はまだスタートラインにさえついていないのだから。
今はただ、一歩一歩前に進み、一つ一つの事柄をこなしていくだけだ。
だから今、俺がすべき事は―
俺の目の前で壁をよじ登ろうとするアホガキを取っ捕まえる事だ。
並び立ち、そびえ立つ建物。流れる車。そして多くの人々。
はぁ、暫く人界に来ない内に随分と様変わりしたものです。
以前に下りた時にはこのように高い建物など建っていなかったとゆうのに。
人の成長する速度というのは本当に早いものです。
「小竜…お嬢様。到着いたしましたぞ」
人の世に感心してる場合ではありませんでしたね。
「鬼門、あなた達は此処でまっていなさい」
「はっ」
どうにも周りから妙な視線で見られている気がするが構っている暇はない。
今はただ殿下を見つける事だけを考えなければならない。
先日、竜神王様が地上の竜族との会議の為に御子息である天竜童子殿下を伴い、地上にご降臨なされた。
そして我らに殿下を任せ、王は会議に向かわれたのだが…
デジャヴーランドなる遊園地に行きたい散々ゴネられ、挙句の果てに脱走されてしまったのだ。
地上には仏道に帰依した竜神王を恨む竜族も多い。
今回の機会を狙って、命を狙う輩も少なくないと聞く。
殿下を一刻も早く見つけださなければ大事になってしまうだろう。
しかし我らだけでは人界に疎い。
なんとかして人の協力を得ねば捜す事などできないだろう。
唐巣さんはいなかったし、私の人界での知り合いといったら後は美神さんだけ。
私は眼前のの建物を見上げ、駆け込んだ。
無事に美神さんの協力は確保できた。
あの美神さんに協力させたのだ。後が怖いが、今は仕方ない。
しかし、何か工事がどうとか気になる事言っていたが何のことだろうか。
美神さんの勧めで今の時代に適しているという妙な服をきせられ、今は街の中。
私の目に映る物は何もかもが奇妙なものばかり。
あちらこちらを見回していると美神さんがそういえば、とこちらを見てきた。
「ところで横島君はどうしたのよ?そっちで修行してる筈でしょ」
ならアイツの手を借りればいいじゃない、と美神さん。
はぁ…それも悩みの種なんですよね。
「どうしたのよ?溜息なんてついちゃって」
「いえ…それがどうも殿下と一緒に下山したらしいんですよ」
「はぁ!?何やってんのよ、アノ役立たずの穀潰しはぁ!」
一瞬で沸点を超え、怒りだす美神さん。
まったく同感です。この事が無事に済んだら説教しなければなりませんね。
「ま、怒っていても仕方ないし、とりあえずデジャヴーランドね」
切り替え早く、さっと方針を示す美神さん。
てすが―
「小竜姫様…」
鬼門達が進言してくる。
私も気づきました。
「ええ、わかっています」
「ちょっ…何よ?」
「殿下以外の人外の者の気配です。恐らく…」
目線を合わせると納得したように引き締まった顔になる。
気配は何処にあるか深く意識を沈め、探る。
―居た!
気配のあるほうへ目を向ける。いるのは小太りの男と細く背の長い男だ。
「美神さん…奴らです…」
小声で伝える。
コクンと頷いたのを確認し、背後に近づいていく。
「あなた達のような者が人界のこんな場所で一体何をやっているのですか?」
背の高い方の男に神剣をつきつける。
「ひぃっ!ア、アニキィ!」
「イームッ!この野郎イームを放せ―ヒ…」
「悪いけど話を聞かせてもらうわよ」
美神さんは小太りの男に神通根を突きつけた。
この男たちから殿下をつけねらう奴らの情報が引き出せるはず。
恐らく殿下には横島さんがついているはずだ。
今の横島さんの実力なら私クラスの竜神でなければそう簡単にやられはしない。
今は首謀者を探し出すほうが先決であろう。
「美神さん、事務所のほうで…」
「ええ、わかったわ」
「殺すなんて大それたこたぁ、俺たちにはできやせんよ」
ひょろ長い男と小太りの男―イームとヤームというらしいが。
彼らを美神さんの事務所に連れて行き、私の方が格の高い竜神だとわかると意外と素直に話し出した。
「ただ竜神王陛下の会談が終わるまで、何処かに閉じ込めておけと言われただけでさぁ」
もっとも、見つける前に捕まってしまいやしたがねとヤーム。
「お、お、俺の鼻で探しても見つからなかったんだな」
「イームの鼻は竜族一なんでさぁ」
が、何もわからずじまい。何か、何かあるはずなんですが…。
「あなた達を裏で操っていたのは誰なんですかっ!?」
「それは…わかりやせん…ただ竜族の官吏といっていやしたが…」
「まったく…役立たずの上に捕まるとはねぇ」
唐突に室内に現れる人影。
「誰っ!?」
「旦那…っ!」
旦那…?そう、この人が黒幕!
「答える必要はないね。役立たずと邪魔者はココで死にな」
ローブを纏った人影は片手で印を切る。
―剛っ!
一瞬にして地から突き出る板。ただの板ではない、結界板だ。
これは―
「なんなのよっ!この強力な結界は!」
「こりゃぁ火角結界!?内側に閉じ込められたもんをふっとばしちまう超強力な結界でさぁ!」
くっ…こんな危険なものを街中で…っ
考え事をしてる間にもカウントは進んでゆく。
「ちょっと、どうすんのよコレぇぇぇ!」
しかしこの程度の大きさならば…っ
「はぁっ!」
全力で霊波を照射。結界の一部に穴ができる。
「ここから脱出してください!早く!」
くぅっ…長くは持ちませんね。
全員が脱出したのを確認し私も脱出し、霊波の照射をやめる。
と、同時に再び動き出すカウント。早く離れなければ。
外には未だに建物の近くにいる美神さん達。
「何をやってるんですか!爆発します!早く離れて!」
「って…ええ!?止めたんじゃないの!?」
慌てたように叫ぶ美神さん。
「アレは術者以外止められないものなんです。早くっ」
有無を言わさず美神さんの手を引き、走り出す。
そして爆音、崩れ落ちるビル。
「あぁぁぁぁ!?事務所がーーーっ!」
その場に座りこんでしまう美神さん。
まったく、命があっただけ良かったと思ってください。
「私は奴を追いますっ!ではっ!」
ちょっと事務所どうしてくれんのよ!と叫び声が聞こえますが構ってはいられません。
あのローブの女…かなりの霊格でした。恐らく私と同等程度。
殿下に仇なす輩を放っておくわけにはいかない!
神通力で空を駆け、消えた女の残滓を追う。
中空で静止し、まるで私を待っていたかのような様子の人影。
「ようやく来たんだねぇ、まったくノロマな事で」
振り返り、私の方に向き直るローブの女。
「どうやら人間なんて下等なゴミを助けていた様だねぇ」
甘い、甘いと嘲るような口調で笑う女。
「―っ、答えなさい。貴方は何者なのですっ!」
「私かい、さぁ誰だろうねぇ。わかるかい?神剣の使い手たる小竜姫さん」
私の事を知っている?ならば奴は竜族か。
「くっ…いいでしょう。仏道を乱し、殿下に仇なす貴方を放っておくわけにはいきません。今ココで散りなさいっ!」
神剣を抜刀し、女にとびかかる。
が―目の前に広がるローブに遮られる。
動きを止められ、視界を塞がれた私に襲い掛かる殺気。
―閃ッ
突き出された刺又を咄嗟に流し、受ける。
「やるね、エリートさん。だけどそんな上品な剣じゃ、私を倒せはしないよっ!」
「お前は…っ!竜族危険人物黒覧便はの五番全国指名手配中!メドーサッ!」
「ほう、私を知っておいでかい。それでどうする?私を捕まえるかい?」
間合いを測りながら、にらみ合う。
「いえ、貴方のような危険人物はここで―滅します!」
「面白い、やってみな!」
双方同時に飛び出す。
重なりあう剣と刺又。金属が擦れ合い火花が散る。
こちらが打ち、払い、突けば、
あちらは受け、流し、返しの一撃を放ってくる。
懐に潜り必殺の一撃を放とうとするも、すぐに間合いを外され、逆に痛打をくらいそうになる。
この女―やはり強いっ。
「はっはっは!やるじゃないかエリートさん」
間合いを取り、仕切りなおす私に上空から見下ろしてくるメドーサ。
「竜神王の倅も殺しそこねちまったし、今後の邪魔になりそうなアンタ位は殺しておかないとねぇっ!」
私にむかい手を広げ、集中させた霊気を放ってくる。
だが、それは僅かに私の横を掠め―下の街並みを狙っていた。
「そんな…させないっ!」
メドーサの霊波砲を神剣で受け止める。
そこにできた致命的な隙。それをあの女が見逃すはずはなかった。
「だから甘いって言ってるんだよっ!」
駄目っ―やられる!
そう思った瞬間。
どこからか放たれた小さな玉がメドーサに当たり
―爆発した
「ぐぅっ…仲間を潜ませておくとは味なまねをするじゃないか。ここは退かせてもらうよ!」
「あ、待ちなさいメドーサっ!」
追いかけようとしたが、牽制として放たれた霊波砲を防いでる間に既にその姿は消え去っていた。
危なかった。
私が体勢を崩したその時飛来した小さな玉、アレがなければやられていましたね。
一体誰が…
残された霊波と探知してみる。
私とメドーサの戦闘の残滓。そして僅かに残るこの霊波は―横島さん…?
長い安堵の溜息。
なんとか上手くいったな。
『爆』の文珠を『射』の文珠で発射しての長距離射撃。
心眼との協力で放たれたそれは狙いを過たずにメドーサに直撃した。
ここからでもメドーサが負傷し撤退しようとする所が見えた。
これでもう大丈夫だ。後はもう帰るだけだ。
「待たせたな、ガキンチョ」
隣でお土産に夢中になっている天竜童子に呼び掛ける。
「余はガキンチョではない!竜神王が息子天竜童子じゃ!まったく失礼な臣下じゃのう」
誰が何時お前の臣下になった。まったく…
結局、夜の妙神山でコイツの脱走劇を見つけた俺はコイツをデジャヴーランドに連れていく事にした。
どうにも小さなガキに泣きわめかれると弱い。
メドーサ一行に見つけられると厄介なので『隠』の文珠を天竜に持たせて、一緒に山を下りたのだ。
その後は簡単だった。
使われてなかった生活費をおろし、デジャヴーランドでひと遊び。
その最中に、以前は小竜姫様がメドーサにやられてピンチになったな、と思いだし、
まだ遊びたいとごねる天竜童子にお土産を買い与えて黙らせ、心眼の助けを借りて慌てて戦闘してる場所に来たのだ。
長距離射撃という形をとったのは、今ここでメドーサに顔を知られるのは得策とは言えないからだ。
ま、なんにせよ上手くいって良かった。
「うし、帰るか」
天竜童子の手を引きながら帰途につく。
「うむ!今日は楽しかったぞ横島!」
両手一杯にお土産を抱えて、満足そうな天竜。
そうして俺達二人は手を繋ぎながらゆっくりと妙神山に帰っていった。
帰ったら烈火の如くお怒りになっている小竜姫様に半日も説教された。
天竜童子の奴め、自分だけさっさと神界に帰りやがって、恨むぞ。
「横島さん!聞いているのですかっ!」
「は、はいぃっ!」
お願いだからもう勘弁してください。
<後書き>
どうやって事務所を爆破しようか考えながら書いてました(マテ
まぁ、横島が妙神山にいて天竜とおとなしくしてるわけもないと思ったのでこのような形に。
戦闘シーンもそうですが、あちこちで四苦八苦しながら仕上げました。
よく言われていますが、感想というものは作者にやる気起こさせるカンフル剤でもあるなぁと初めて実感しました。
まだまだ未熟なけ〜ごでありますがどうかよろしくお願いいたします。
皆さんありがとうございます。
それでは次回までサヨナラです。
と、以前のお話の感想でのご指摘痛み入りました。
以後、言葉遣いには気をつけながら作品を書いていくことにいたします。
更に追伸(泣
スイマセン、こちらの手違いで題名を変更せずに投稿してしまいました。
ご迷惑をおかけしたことを深く陳謝いたします。
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