和樹たちは部屋まで連れていかれた。案内したのは、眼鏡をかけたメイドだった。本来ならリーラが客を案内するのだそうだが、主人である老人の許にいなければならないらしい。かわりとしてこのメイドが案内することになったのである。メイドはエーファと名乗った。
部屋についた。
「こちらの部屋をご利用ください。中の掃除はすんでおります。お食事はすぐに運ばせますので・・・・」
彼女は細い腕で指し示した。相変わらずうつむき気味のままだ。
和樹は礼を言うと、部屋に入ろうとする。
「あっ、待ってください・・・そこには段差がございますので、お気をつけて・・・・きゃあっ!」
押しとどめようとしたエーファがつまづいた。和樹は手を伸ばし、彼女の身体を支えた。
「大丈夫か?」
「す、すみません。わたしって要領悪くて・・・」
「転ぶのは要領じゃないだろ」
「本当にすみませんでした。こ、こんなことで式森様の手をわずらわせたと知れたら・・・どうしよう・・・」
彼女の顔がどんどん青くなった。
「そんなに気にしなくてもいいんじゃないか。それより怪我がなくてよかった」
和樹は彼女に向かって微笑む。エーファの顔が赤くなった。
「本当に申し訳ございませんでした。ではその、これで・・・」
エーファは頭を下げると、足早に階下へ去っていった。
「・・・・・あの娘も落ちたわね・・・・・」
玖里子がつぶやいた。
四人は部屋に入った。それぞれ個室があり、中には飲み物とお菓子が用意されていた。
和樹は入った。ベッドに寝転がる。少し疲れていた。
だんだん眠くなり、うとうとしていたら、ノックが聴こえた。和樹は扉を開ける。
「失礼いたします」
リーラが深々と礼をした。
「あ・・・はい?」
「お食事をお持ちしました。すぐに用意しますので、お座りになってお待ちください」
リーラはカートを押して室内に入った。
豪華な料理だった。スープに始まり、次々と豪華な料理が運ばれる。フォアグラが出てきたころ、和樹はリーラにたずねた。
「あのさ、リーラってメイド長とかしてるのか?」
「・・・確かに私はメイドたちの長を任せられております」
「城の主人が待ってるんじゃないのか」
彼女は、ちらと和樹を見た。
「ですが今は式森様に仕える身。お気遣いは無用です」
「そう・・・・あのさ、こんなこと言うのもなんだけど、ここの主人、結構な年だろ。万が一なにかおこったら、君たちどうするんだ?なんなら・・・」
「そのことなんですが、明日ご主人様から大事なお話がございます」
それを聞いた和樹はなにかを考える。
「式森様・・・・」「え、なに?」
「早くお召し上がりください。料理が冷めてしまいます」
「ああ、ごめん・・・・・ん?今なにか聞こえなかったか?」
「いえ、なにも聞こえませんでしたが」「そう、気のせいか」
しかし、すべての料理を食べ終わったころ、部屋の外がなにやら騒がしくなった。
「ちょっと押さないでよ」「いたいいたい!」「ちょっと!あんまり騒ぐとバレちゃうわよ!」
ガチャッ 「あ、あー!!」ドタンバターン!
リーラがドアを開けると、そこには多くのメイドたちがいた。
「お前たち、何をしている!」
「す、すみません、リーラ様。あの、あの・・もっと式森様のお顔を見たくて・・・」
他のメイドたちも同様だった。
「ネリー、お前まで・・・」「リーラ様・・・」
そこには、ネリーもいた。
「とにかく、お前たちは自分の仕事に戻れ」
「はい・・・・」
リーラに言われ、彼女たちは元の場所に戻ろうとする。
「ちょっとまってくれ、ネリーさん」
ネリーは振りかえる。
「ネリーさん、だよね」「は、はい!」
「式森様、ネリーとは知り合いなんですか?」
「ああ、会ったのはええと・・・何年前だったっけ?」
「二年前になります」
「もうそんなになるのかあ・・・」
和樹はリーラに、ネリーとのことを話した。幽霊時代、塵を探していた和樹。ドイツで反応があったので行ったところ、暴漢に襲われていた彼女を助けたことから知り合いになったという。このころの和樹は、塵もだいぶ回収しており、ほとんどの人たちにも見えるようになっていた。彼女は塵探しに協力してくれた。
「人間に戻ることができたんですね」
「おかげさまでね・・・なんか前と雰囲気変わったな」
「そうですか?」
「なんていうか・・・・前会ったときよりもたくましくなったというか、強くなったというか・・・メイドになったことと関係あるのか?」
「はい・・・」
このあとも他愛のない話をした。そして彼女たちは「仕事がありますので」と言い、部屋を出ていった。
リーラとネリーは仕事場へ向かう。リーラは少し機嫌が悪かった。
「ネリー」「はい」
「私は知らなかったぞ。式森様とお前にあんな関係があったなんてな」
「はい・・・・」
リーラは顔を赤くしたネリーを睨んだ。
「・・・暇だな」
彼女たちが出ていってからとたんに暇になった。どうしようか考えていたとき、部屋の外から何か聞こえた。
「ねえやめようよー」「なに言ってんだよ香奈、久しぶりに和樹に会えるんだぞ」
「だけどリーラ様に見つかったら怒られるよー」「香奈は会いたくないのか?」
「・・・・会いたい」「じゃあ決まり」
コンコンコンコンコン、「式森様、いらっしゃいますか?」
「ちょっとまって、今開けるから」
和樹はドアを開けた。
ガチャッ、ドン!
何かかぶつかり、和樹は倒れた。
「な、なんだ?」「和樹だ和樹だ和樹だー!」
「ちょっと椎奈、大丈夫ですか、和兄様」
「和兄様って・・・お前たちまさか椎奈と香奈?」
「そうだよ」「はい」
「久しぶりだなあ、まさかメイドになってたなんて」
「はい・・・・あの、和兄様、人間に戻られたのですね」
「本当だ。会えただけで舞い上がっちゃったから気づかなかった。いつ人間に戻ったんだ?」
「高校に入る前にな」
「そうか、よかったよかった」
椎奈は再び和樹に抱きつく。
「お、おい・・・・」
「ちょっと椎奈、やめなっって」
「なんだよお・・・香奈だってしたくないの?」
「そんな・・私は・・・」
「・・・・まあいいけどさ、会えただけで嬉しいんだろ?」
「・・・うん」
紹介が遅れた。彼女たちは花月椎奈と花月香奈。双子の姉妹で姉の椎奈は男勝り、妹の香奈は寂しがりやの甘えん坊である。和樹とは小学校の頃からの友人であったが、両親の仕事の都合で、卒業後にドイツに行った。
「あのさ、お前たちっていま年いくつ?」「十五歳」
「メイドって年齢制限無いのか?」
「さあ、分かんない。私たちはむこうでメイドになるための訓練してた。大変だったよな?」
「うん、何回もやめたいと思った」
「そんなに大変なのか?」「うん・・・」
コンコンコンコンコン、突然ドアがたたかれた。
「式森様、よろしいですか」「どうぞー」
(やばい・・・)リーラが入ってきた。
「すいません、こちらに・・・お前たち!」「ひゃあ!」
「何をしている!」
「あの、ちょっと和樹に・・・」
リーラが睨んだ。
「いえ、式森様にちょっと・・・久しぶりに会うんで・・・」
「・・・とにかく仕事場に戻れ」「・・・・はい」
二人は仕事場に戻ろうと部屋から出る。出る直前、二人は和樹に手を振った。和樹も手を振った。
「ふう・・・式森様、たびたび申し訳ございません」
「いや、いいよ」
「あの、式森様?」「ん、なに?」
「ずいぶん知り合いが多いようですね」
「うん・・・・さっきの二人は、俺が小学生の時からの友人なんだ。壁際にいたメイドたちの半分くらいはどこかで会った気がするんだ」
「そうなんですか・・・たびたび失礼しました。もおこんなそそうの無いようにします」
「いや、いいよ。彼女たちに会えたのは嬉しかったし」
「それでは失礼いたします」
リーラは退出した。しかし、その後も和樹の知り合いであるメイドたちが次々とやってきた。最後のメイドが来たときには、リーラは顔には見せていなかったが、疲れの色が出てきていた。・・・・・時間がたったがもうメイドはこなかった。
そして、退屈になったのか他の三人が和樹の部屋に集まった。
「広い部屋ね」
来るなり、玖里子が言った。和樹も改めて見渡した。相当豪勢な部屋だった。
「ずいぶん立派よね、私のところとは大違い」
和樹は笑った。
「そんなことないだろ」
「あるわよ。ビジネスホテルの部屋みたいなもんなんだから。お風呂なんかユニットなのよ」
他の二人も同じようなことを言う。どうやら和樹と他の三人では、相当な格差があるらしい。食事もあまりおいしくなかった。
とりあえず、和樹は老人から聞いた出来事を話し、聞いた三人は呆れるやら感心するやらであった。やがて話は
「・・・夕菜ちゃん、この手の服、ぴったり着こなせるわね」
「そう見えますか?」
やや嬉しそうになる。
「うん、大したもんよ」
「こういうの、いいなって思ってたんですけど・・・和樹さんはどうです?」
「え?」夕菜の頬がふくれた。
「この服です」「んー」生返事する。
「和樹はあんまり好みじゃないみたいよ」
玖里子が余計なことを言う。
「あー、ひどいです。メイドっぽくないですか」
「だってなあ・・・」「じゃあこれならどうですか」
彼女は立つと、両足をきちんと揃えて手を前にやり、礼をした。
「ご主人様。私は忠実なメイドでございます。どのようなことでもお命じになってください」
「え・・・」
「どうしたんですか、ご主人様」
潤んだ瞳で、上目遣いに見てくる。どぎまぎする和樹を見て夕菜は笑った。
「和樹さん、かわいいですね」
「か、からかったな!」
夕菜はさらに笑った。
話題が変わった。
「さっきメイドさんに訊いたんですけど、ここの皆さんは船を使うんだそうです」
夕菜が言った。
「船で近くの島に行って、そこの飛行機に乗るって言ってました」
「ふーん。ここに飛行機は無いのね。そういや、ヘリポートも無かったわね」
玖里子は腕を組んだ。
「明日、船を使わせてもらおうか。まだ休みはあるからゆっくりできるんだけど・・・」
「けど?」
「あたしたち撃墜されたじゃない?あれが気になるのよ。なにかと戦っているんでしょう?下手に巻き込まれたら、どんなことになるのか分かったもんじゃないわ」
会話が止まった。じっと考える時間が続く。
「・・・どうした凜?」
彼女は窓の外を見つめていた。
「・・・なにか聞こえませんか?」
三人は、一緒になって耳をすませた。遠くで音がした。かすかな明かりも見えた。窓の外を覗き込むと、メイドたちが数名、慌てたように屋敷に駆け込んでいた。入れ違いに、十名ほどが飛び出していく。全員、棒みたいなものを持っていた。
「なんだろ」
「分かりませんがただ事ではなさそうです。城も騒がしくなっています」
窓の外がぱっと明るくなった。同時に腹に響くような爆発音、四人は窓から離れ、急いで伏せた。ガラスがびりびり震える。それきり物音はしなくなった。
和樹たちは立ち上がった。外は静寂が戻っていた。メイドたちの姿も見えない。
「なにがあったんだ」「さあ・・」
爆発に振動。なにが起こっているのだろう。
コンコンコン、ノックする音がした。返事する間もなく、扉は勝手に開いた。気の強そうなメイドが一人、立っていた。どこか弛んでいるような感じもある。目は物憂げというより、めんどくさいことはいやだ、みたいな色をしていた。
「あー、式森っている?」
やけに乱暴な言い方である。
「俺だが」「・・・・・へえ、あんたが、結構かわいい顔してるな」
「・・・なに?」「ご主人様がね、客が不安だろうから安心させろって」
「さっきの爆発のことか?」
「そう。結構浸透されたけど退治したから。もうなにもおこんねえよ」
「退治・・・猛獣でもいんのか?」「そんなもん」
彼女は断りもせず部屋の中に入った。椅子を見つけ、腰をおろした。ポケットからタバコを取り出し、ライターで火をつけた。そしてお菓子が入っていた皿を引き寄せ、ガラス皿に灰を落とした。それを見た和樹は
「おいおい・・・
「あー、ごめんごめん、ちょっと休憩させてくんない?」
彼女は天井にむけて、煙を豪快に吐いた。
「最近仕事がきついんだよ。家事以外に訓練が二時間も延ばされてさー。あいつもなにはりきってんのかね。今までより生き生きしてやがる」
「ちょっとすみません」
夕菜が空咳をしながら言った。
「あなたいったいどなたですか?」
「んー?見ての通りメイド」
「そうじゃなくて・・・・」
「名前ならセレンってのがあるけど」
「セレンさん、いったい御用はなんなのですか」
「さっき言ったろ。安心しろって伝えにきたの」
セレンはさっきの出来事の間、自分が何をしていたかを話した。
「メイドなのに戦闘なんかしてんのか・・・?」
「私は傭兵みたいなもんだから例外だけど、普通のメイドでも武器ぐらいは使えるぜ」
「そうなのか」
「当然だろ。おまけにメイドの長になったら将校課程だぜ。銃器の一つも扱えないようじゃあ、示しがつかない」
「じゃあリーラも・・」
「ああ。あいつはここのボスだから。主人の世話はもちろん、なんだってできるぜ。サイボーグみてーな女だ」
セレンは肩をすくめた。
「あの老人がこれだけの土地を維持できんのもあいつのおかげだ。資産と会社は全部あいつが仕切ってる。しかも減らずに増え続けてるんだ。メイド趣味の親父だけでなく、ちょっとした資産家ならどれだけ金を払っても雇っておきたい女だな」
「へえ・・・そりゃいいな・・・」
「和樹、なに考えてんの」「そうですよ」
二人は和樹を睨んだ。
「いや、ちょっとなあ・・・・」
「まあ、リーラも一から十まで完璧じゃないさ。ちょっと思い込みが激しいのが欠点だな」
「そうは見えないけどな・・・」
「ときどき冷静じゃなくなる。外で会ったんだろ?」
「ああ、銃を持ってたけど」
「ワルサーP38だろ。あいつはあれしか使わねえんだ。なんでそこにいたと思う?」「さあな」
「あんたが墜落したって聞いたとき、自分で捜索隊を指揮するって言いだしたんだ。ちょっとやりすぎだな。リーラの奴、張り切ってるんだ。なんでここまで熱心になったんだか不思議だったんだが―」
セレンは消えたタバコで、和樹を指した。
「もしかしたら、あんたのこと気に入ってんのかもな」
「俺か!?でもリーラのことは知らなかったし、墜落するまでメイドにはあまり縁はなかったぜ」
「あんたはそうだろうけどリーラは違う」「なんで?」
セレンは答えず、和樹の顔を覗き込んだ。
「結構いい男じゃん、こりゃリーラにはもったいないかも。リーラが仕えたがるのも分かる気がするな。他のメイドたちにも人気があったぜ」
セレンは元の椅子に座る。またタバコを取り出した。
「あいつ、生まれながらのメイドだからな、人の世話をするのが好きなんだ。ちょっと弱みを見せたら死ぬまで仕えますとか言うぜ。面倒見のいい女房みたいなもんだよ」
「あの、ちょっといい?」
「ん、なに?あんたたち和樹のコレ?」
小指を立てて玖里子たちに示した。ついでにセレンの和樹の呼び方が変わった。
玖里子と凜はそうだと答えた。夕菜は「私はべつにそんな・・・」としどろもどろ状態になっていた。
「で、なに?」「今の主人がいるのにどうして和樹に手を出すの?」
いささか機嫌が悪い。
「ああ、そりゃ訳がある。あのな」
と、そこまで言ってセレンは口をつぐんだ。彼女は扉を見た。
カンカンカンカンカン、いささか荒っぽく叩かれた。
「申し訳ございません。こちらにセレンはおりませんか?」
リーラの声だ。セレンとは違い、すぐに開けたりはしない。
「やべえ、リーラだ」
セレンはそう言うと和樹に近づき、
チュッ
頬にキスをした。
「え・・・」「なっ!・・・」「ちょっと!!」
「それじゃあまたな、和樹」
セレンはそう言うと、窓から出ていった。玖里子と凜は窓を睨み、夕菜は和樹を睨んだ。
「な、なんだよ・・・・」「・・・・・別に」
「失礼します」
リーラは中に入り、室内をさっと眺める。
「あの、セレンはどこに・・・」
和樹は開いた窓を指し示した。
「あいつ・・・まことに申し訳ございません式森様。あの物が仕事をサボっていたので。これから精一杯尽くさせていただきますので、なにとぞお許しください」
「いーよ、別に嫌なことがあったわけじゃないし」
「本当にもうしわけありませんでした」
「・・・あのーちょっといいかしら」
玖里子がリーラに尋ねた。
「あら、いらしてたのですか、なんでしょう?」
リーラの表情が硬くなった。声も低くなる。
「なんで私たちと和樹とじゃ部屋にあんなに差があるの?ここのメイドは客人にまともな応対もできないのかしら。あと、なんでそんなに和樹の世話をしたがるの?」
「あなたたちはオマケです。オマケに本来の客人である式森様と同じ待遇をする必要はございません」
「なによそれ、和樹は私たちの飛行機に乗ってたのよ。私たちだって客人じゃない!」
「だから食事も部屋も用意してあげたじゃないですか。十分でしょう?」
「あんな狭い部屋と不味い食事の、どこが十分なんですか!」
ついに凜まで争いに加わった。
「式森様とあなた方では差が出て当然。私がご奉仕しているのは式森様だけです」
「だからなんであなたが式森先輩のメイドになるんです」
「・・・・・・」
リーラはそれに答えず和樹の方を向いた。
「式森様、私はこれで失礼いたします。先ほどもお伝えしましたが、明日は主人から大事なお話がございます。朝食は必ずお取りになるようお願いいたします」
「・・・・わかった」
玖里子と凜がまだなにか言っていたが、リーラは無視して部屋から退出した。
「・・・・和樹さん、どうしたんですか?」
和樹はなにも言わず、じっと何かを考えていた。
朝食は、はじめて老人と対面した、あの部屋で食べることになった。テーブルには食事の準備が整っていた。
和樹たちの席にはリーラとエーファがついてくれた。
リーラは少し機嫌が悪かった。と言うのも、彼女が和樹を起こしにきたとき、彼のベッドに数人のメイドが一緒に寝ていたのである。もちろんリーラは激怒し、そのメイドたちはおしおきを受けることになった。ちなみに和樹はこのことをよく覚えていなかった。
昨日みたいに、壁際にメイドがびっしり揃ったりはしていなかった。それでも他に十人ほどいた。
食事は滞りなく進み、お茶となった。
「リラックスできたかね」
「いえ、あまり。あんまり騒がしかったものですから。爆発音までしてました。あと、メイドの争いが」
「ははははは,君はメイドに人気があるからな」
「はあ・・・それより、敵とは何者なんですか?」
老人は話し出した。敵はMMMの宿敵であること。名前はマーキュリーブリケード(水銀旅団)。パジャマをこよなく愛す、この世界では有名なテロ組織らしく、以前から争ってきたらしい。この島に移ってからは戦闘も減っていたらしいが、彼らが最近この島に上陸したらしい。この後、老人はコスチューム愛好家が作った組織の戦いの歴史について話し出した。水銀旅団はそのなかでもかなり過激な組織らしい。なんでも、メイドを憎んでおり、メイドを捕まえては、彼女らの耳に水銀を入れるらしい。老人は、水銀旅団を倒さないかぎり、メイドに明日はないといった。それで、ここ数日も戦っているらしい。
話は続く。なんでも、秘密が漏れたらしい。その秘密とは誓約日と呼ばれるものであった。なんでも、メイドたちには年に一回、誓約によって主人に忠誠を誓うことになっているらしい。その儀式がこの島で行われる。
「あの、そのことなんですけど、失礼かもしれませんがもう結構な年でしょう。彼女たちはどうするんですか?なんなら家が・・・・」
「そのことなんだが、確かにわしもこの通り年だ。それで後継者を探していた」
「へー」
とりあえず返事をしたが、和樹には老人の言おうとしてることが分かっていた。
「それってもしかして」
「そう。式森和樹君。君のことだ」
「・・・・・・」
和樹は特に驚いた様子はなかった。前日のリーラの発言から予想していた。
「あの、それどうしてもならなきゃいけないんでしょうか?」
「いやなのか?」
「べつに嫌じゃないですけど、むしろいてくれたほうがいろいろ楽です。必要以上に世話してくれなければ。それと、俺にはお金がありません。いや、ないことはないですけど、家に出してもらうわけにもいかないし。あと、ここで暮らすのはちょっとやです・・・」
「お金のことなら心配しなくてもいい。こっちにすべてある。だがここじゃないと暮らす場所が」
「場所ぐらい日本でなんとかなるでしょう。誓約だけこの島でやればいいんでしょう?」
「ああ、君がそういうなら・・・・リーラ、君はどう思う?」
「私は式森様の意見に従います」
「じゃあきまりだな」
「ちょっとまった!!!」
突然、玖里子が立ち上がりテーブルを叩いた。
「どうして和樹がメイドを雇わなきゃいけないんですか!そんなの駄目!あんたもあんたよ、なんでそんなあっさり承諾してんのよ」
「まあいろいろと楽になるかと・・・・それに玖里子ねえもメイドが足りなくて困ってるってこの前いってたじゃないか。なんなら貸すぜ」
「あんた、なんにも分かってないわね。誓約したらあんたの体が危ないのよ。メイドに傷物にされちゃう・・・・」
「なに言ってんだ玖里子ねえ?」
「あーもう!とにかく駄目ったら駄目!!」
「無粋なことを。これは式森君とメイドたちの個人的な誓約だ。諸君には関係ない」
「あるわ!和樹をメイドになんか渡せない!」
「全員どこに出しても遜色ないものたちだ。特にリーラは優秀だ」
「そんなの関係ない、絶対に駄目!」
「どうしても納得できぬと」
「当然よ!力づくでも阻止するわ!覚悟しなさい!」
玖里子はテーブルに飛び乗り、老人に詰め寄ろうとする。今まで黙っていた凜も立ち上がり、刀の鞘を抜いて飛びかかろうとした。夕菜は二人を止めようと立ち上がろうとしたが、そのまま硬直した。先の二人もそのまま硬直している。
三人の少女の背中には、なにやら固いものがこつこつ当たっていた。リーラ、セレン、エーファがそれぞれに銃器を持ち、突きつけていた。リーラは夕菜,セレンは玖里子、エーファは凜の背中に突きつけ、威嚇していた。他のメイドたちも、全て銃器を構えていた。動くに動けない状況に追い込まれてしまった。
「この城で狼藉は許されんよ。メイドを甘く見たようだな。リーラあとは任せる」
「はい」
老人は別の部屋から退出した。リーラが早口で指示を飛ばす。彼女たちはサブマシンガンを突きつけ、夕菜たちを一箇所に固めた。
「先ほどご主人様がおっしゃられたとり。式森様は私たちと誓約を交わす」
口調が変わっていた。すでに夕菜たちを敵として認識しているのだ。
「あんたなんかに和樹はふさわしくないわ!」
「無礼なことを。式森様のような優れた方こそ、私たちの主人となる」
「そうやって和樹を自分のものにするつもりでしょう!態度見てたらわかるんだからね!」
メイドたちは玖里子を無視し、扉まで追いやった。
「おい、ちょっとリーラ・・・「式森様はこちらへ、私たちと共にいてください」
「夕菜たちをどうするつもりだ。怪我なんかさせたら俺は・・・
「敵対するものを城内に留めて置くほど我々は寛容ではありません・・叩き出せ!」
リーラが命令した。メイドたちは夕菜たちを部屋から追い出す。
「ちょ、ちょっとまってください。きゃー、和樹さーん!」
「夕菜!」「和樹さーん!!」「夕菜ー!!」
彼女の声は徐々に小さくなり、やがてドタンバタンと玄関を開け閉めする音がして、聞こえなくなった。
彼女たちを追い出した後もリーラは指示を続けていた。何人かのメイドが武器を携帯したまま走り去った。
「リーラ、いくらなんでもひどすぎないか!?城から追い出さなくてもいいだろ」
「彼女たちは危険すぎます。先ほどの態度を見ましたか?私たちの主従関係に対して、烈火のごとく腹を立てていました。誓約の邪魔をするかもしれません」
「でも夕菜は・・「彼女もいつ本性を表すか分かりません、だから一緒に追い出しました」
「食料は?」
「自生している果物くらいあります。飢え死にはしないでしょう。問題は式森様を奪取しようと攻撃してくることです。わずかに三人、恐れるにたりませんが、我々は水銀旅団も相手にしなければなりません。ですが私たちにもメイドの誇りがあります。返り討ちにしてやります。今の時代に生まれてきたことを後悔させてやります」
そう言うと、リーラは和樹に礼をし、メイドたちの指揮をとるために離れた。さっきのことを見ていたセレンは
「な、言っただろう。思い込みが激しいって」
「ああ、お前が言った通りだ。玖里子ねえたちに負けてない」
「あいつらは彼女たちを目の敵にしてる。せっかく待ち望んだ真のご主人様のメイドになれるのに邪魔されちゃたまんねえからな」
「お前もそう思ってるのか?」
「最初に聞いたときは別になんとも思わなかったけど、あんたのこと見て、あんたになら本気で仕えてもいいって思えた。やさしさというか、意志の強さというか。とにかく今まで会った男とはまるで違う感じがした。今までは別にただ仕事としてやってきただけだから。みんなそう思ってんじゃないの。現に今のご主人様のプライベートはよく知らない」
「そうなのか?」
「ああ。メイドはただ主人様の世話をするだけ。言い付けを守り、余計なことには干渉しない。リーラだってそうだ。あの二人の会話を聞いたろ?リーラの声はすごく機械的だったはずだ。感情も込めずに。あの二人の関係は主人とメイド、ただそれだけ。他には何も無い。でもあんたは違う、はじめてあいつが本気で仕えたいと思ったただ一人のご主人様だ・・・いや、あいつはそれ以上の感情をあんたにもってる。ほかのメイドたちもそうなんじゃないか。それに私も・・・」
「セレン?」
セレンは何も言わず、和樹の腕をつかんだ。そして和樹の唇に・・・
「お、おい。セレン!」「和樹・・・・」
「セレン!何をしている!」
リーラがこっちに気づいた。足早にこっちに来た。
「式森様から離れろ!」「なんだよリ―ラ、せっかくいいとこだったのに」
「早くその手を離せ!」「へいへい。わかりましたよ」
セレンは和樹から離れた。
「大丈夫でしたか?式森様。なにもされませんでしたか?」
「大丈夫だよ・・・それよりリ―ラ」
「なんでしょうか」
「さっき訊こうと思ったんだけど、水銀旅団って強いのか?」
リ―ラは不敵に笑った。
「お見せしましょう。こちらへ」
階下へ案内する。いくつか廊下を角を曲がって、裏口の扉を開けた。
中庭だった。奥に別の棟がある。やけに頑丈そうなコンクリート製の建物だ。
リ―ラはそこまで歩いた。大きな鍵を外し、鉄製の扉を開け放つ。中にはさまざまな武器があった。ここは巨大な弾薬庫だったのである。
背後からメイドたちが駆け足でやって来た。名前を告げ、武器を受け取るとまた走る。
「彼女たちは?」
「ご存知の通り、メイドは訓練された兵でもあります。彼女たちとて例外ではありません。あちらをご覧ください」
そこではメイドたちの激しい訓練と実験が行われていた。
「我々はただのメイドではありません。正式名称は第五装甲猟兵侍女中隊。MMMの中でも精鋭です。これまで幾多の敵と戦闘をおこなってきました。消耗しておりますが、士気は衰えておりません。水銀旅団は兵員において我が方をかなり上回っておりますが、その実マニアの集まり。しょせん寝間着などという、寝るときしか用のない衣類好きな烏合の衆に過ぎません」
「へえ・・・・」
「追放した女たちは、おそらく水銀旅団と合流するでしょう。もしかすると手先となって、誓約の妨害をしてくるかもしれません。ですが、それはむしろ好都合。警戒すべきはほんの一握りの敵です」
「・・・その敵って?」
「ピンクパジャマ中隊、それに・・・・」
「ほかにもいるのか?」
「いえこれはまだ断定できないんですが。さきほど不審な飛行機がこちらに接近してきたので撃墜したとメイドから連絡があったんです。水銀旅団のものかもしれませんし、もしかしたら別の組織ということも考えられます」
どうもみなさん。イジ―・ローズです。
第2話ができました。夕菜たちが追い出されるところは次回に持ち越そうと思ったんですが一緒にくっつけちゃいました。えー今回も原作ベースの話になってしまいました。これは水銀旅団をやっつけるまで続きそうです。それではまた次の話で。
レスです。
D,様>
三大勢力としての戦いは、できるだけ早めに終わらせたいと考えています。
紫苑様>
オリジナルキャラ使わせてもらいました。ありがとうございました。
ニコライ様>
今のところこれだけですけど、これからも出番は増やします。
アポストロフィーエス様>
そう言ってもらえるとほんとにやる気がでてきます。これからもがんばるんでよろしくお願いします。
33様>
メイド姿いいですねえ・・・。
ゴマシオナイト様>
はたして夕菜たちはB組女子と協力することになるんでしょうか?
ジャッカ―様>
おいおい、またやっちまったよ。たびたびすいません。
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