皆様からご指摘が多くあったのでこちらには新作のみ(メイド編からです)投稿することにしました。第1話から第7話は、華の残照にあります。
「なあ、玖里子ねえ」
「なあに?和樹」
「俺ら今どこに向かってんだっけ?」
「マーシャル諸島よ」
「それにしては、角度がえらいななめ下に向いてないか?」
「このままだと海に墜落するわね」
「ったくなにやってんだよ玖里子ねえ」
「そうですよ、玖里子さん」
「なに落ち着いてるんですか、みなさん!このままだと私たち死んじゃうかもしれないんですよ!!そんなのやだあ・・・あ、い、
いやああああああああああああああああああああああ
あああ・・・
「・・・・おい、・・・・おい夕菜、おい!」
「う、うーん」
夕菜はゆっくりと目を開けた。
「よかった。気が付いたか」
「和樹さん・・・・?」
「おーい、玖里子ねえ、凜、夕菜が気が付いたぞ!」
和樹が二人を呼ぶ。それを聞いた玖里子と凜が駆け寄ってきた。二人とも、夕菜を見てほっとしたような表情をした。
「大丈夫?夕菜ちゃん、あなただけ気絶してたから、私たち冷や冷やしたわよ。せっかく病気が治ったのに、また死ぬんじゃないかと思ったわ」
「乗ってた飛行機はどうなったんですか?」
「あそこです」
凜が指さした方を見ると、飛行機が海に半分沈んで煙を噴いていた。
「ちゃんと残ってる・・・・着水できたんですね!」
「ううん、和樹が魔法使ったの。私としては魔法なんか使わなくても、着水させる自信あったんだけどね・・・」
そう言って和樹の方を見る。
「いいじゃねえか、別に」
和樹がそう言うと、飛行機がボンと音を立て、部品をいくつかばらまいて、それきり沈黙した。
そもそも旅行を言い出したのは玖里子だった。彼女の叔父だか叔母だかの所有するコテージが、南の島にあるらしい。今度の連休に、そこで夕菜のお祝いをかねて遊びに行かないかと。全員賛成した。
グアムまではまだよかったのだが、玖里子がここで乗り換えて別の島に行くと行ったとき、夕菜は、一抹の不安が胸によぎった。しかもパリキールでまた乗り換えて、マーシャル諸島が終点だと聞いたときは、ざわめきがかなり大きくなっていた。
最後に乗る飛行機はセスナに毛の生えたようなフランス製で、プロペラがときどき異音を立てていた。おまけに操縦は玖里子であった。
下りるだの帰るだのひと騒動あり、押し込められた夕菜と共に機体は飛び立った。
意外と玖里子の操縦はうまく、スムーズに飛行は続いた。彼女によると「この手の機体は何度も使ったことがある」とのことであった。
これなら無事に到着すると思い、ようやく外を眺める余裕が出てきた瞬間、トラブルが起こった。
見知らぬ島にさしかかり、突然大きく揺れたと思ったら、エンジンが火を吹いたのである。まるでハンマーで叩いたような衝撃が続き、機体は大きく傾いた。
そのまま海に急降下。玖里子が立て直そうとしたがどうにもならず、着水する寸前、和樹が魔法を使い助かったのだが、夕菜は気を失った。
夕菜は立ち上がり、砂についた砂を払った。
「大丈夫か?夕菜」
和樹が声をかける。
「はい。なんとか・・・。和樹さんたちは」
「俺たちは平気だ」
「よかった・・・・・。でも、なにがあったんでしょう」
「さっき凜と調べていたんだけど」
玖里子が言った。彼女は指で丸を作り、
「翼にこんな大きな穴が空いてたわ。エンジンの方もやられてた」
「まさか、玖里子ねえ」」
「どうやら銃撃を受けたみたい。対空砲火のようね」
「たい・・・・ええっ!?」
夕菜は目を丸くした。玖里子は肩をすくめ、
「私もおかしいとは思うけどさ、どうみても弾痕なのよね」
振り返って、水に浸かった飛行機を見た。下から撃ち抜かれた穴がうかがえる。エンジン部には切り裂かれたような痕があった。
着水で破損した部分を除けば、確かに外部から破壊されたようにしか見えない。玖里子の言うような、対空砲火なのだろうか。
だとすると、ここには誰かいることになる。なぜ撃たれたのかはわからないが、どうも友好的ではないようだ。少なくとも頭の上を飛ぶものを、力ずくで追い払うくらいアンフレンドリーであった。
和樹は陸のほうを見た。そこにはジャングルが広がっている。今のところは静かで、誰かいるようには感じられない。だがそこから銃撃をされていた。
不安な面持ちで夕菜が訊いてくる。
「どうしましょう・・・・・・」
「そうだなあ・・・・・」
「移動しませんか」
凜が言った。
「海岸から離れるのは好ましくありませんが、雨でも降られたらことです。それにいつまでもここにいると、日射病になります」
もっともな意見であった。全員砂は見飽きていた。
四人は、ジャングルの中に入った。
ジャングルと言っても、南米のものとは違い、地面が植物に覆われておらず、土地が痩せているのか下栄えもあまりなく、歩きやすかった。
「あの、玖里子さん」
夕菜が声をかけた。
「なに?」
「この島って、どこですか」
「うーん、最後は計器が壊れちゃったからよく分からないんだけど、北緯十度前後、東経百六十度あたりかな。東カロリン諸島のあたりだと思うんだけど」
「東カロリン諸島・・・・そこ、地球なんですか」
「一応ね。ミクロネシア連邦。このへん島ばかりで厄介なのよ」
彼女は顎に手を当てた。
「上から見ると、どこも似たような形でしょう?無人の島も多いし、困るのよ。フライトプランは出てるから遭難したことに気づくでしょうけど、問題は助けが来るかどうかよね。船もないし」
さすがに玖里子の声も小さくなる。
「まあ、なんとかなるだろ。いざとなりゃ瞬間移動でもなんでも使えばさ。それに、ここが無人だって決まったわけでもないし」
「なんだか乱暴な人たちがいそうですけどね」
しばらくすると、ジャングルは上り坂になった。島の中央に行くに連れ、標高が高くなっているのだろう。木々は徐々に密度を増し、それに比例して歩きづらくなっていった。
一向は、和樹が先頭に立って進むようになっていた。一行の中では、彼が一番体力がある。部活には入っていないが、体育会系の部に常に勧誘されているのだ。
「ん?」
和樹が止まった。
「今銃声が聞こえなかったか?」
「うーん、別に聞こえなかったけど」「私も」「私も聞こえませんでした」
「そうか・・・・・ん?」
和樹は地面を調べ始めた。
近寄った。そこだけジャングルが開けていて、道になっていた。
幅は結構広いが舗装はされていない。土のままである。そこに細かい段差がつけられ、ずっと奥まで続いていた。
「轍ね。トラック?」
玖里子がつぶやく。キャタピラの跡がついているのだ。
玖里子は和樹の隣で、土を指ですくった。
「湿ってる。ちょっと前に通ったみたい」
夕菜は屈み、横から覗き込んだ。
「じゃあこれをとどれば、人家に着くんですね」
「多分・・・」
玖里子の言葉は途中で途切れた。ジャングルの奥で物音がする。
繁みをかき分ける音。複数の荒い息づかい。叫び声。そしてなにかが破裂するような連続音。
「銃声!?」
正真正銘の発砲音を聞き、夕菜は思わず声を上げた。同時に草むらから飛び出す人影。
「くっ!うわっ!」
まるでタックルするように接近してくる。一人が和樹を踏みつけ、もう一人が飛び越えた。反対側の繁みに消えていく。
「・・・・・女の子!?」
スカートをはいた少女たちだ。自分たちが走り抜けてきた方向に、銃を乱射している。
ジャングルからも彼女たちを狙うように弾が飛んできて、あちこちに着弾した。
一瞬だけ銃声が止む。夕菜と玖里子は歩いてきた繁みに急いで飛び込んだ。凜はやや離れた場所に伏せる。
少女たちの通過点となった和樹は、動くのが遅れた。
ふっと空白が生まれる。周りに誰もいなくなった。逃げ出そうと身体を上げる。が―いきなり、真っ正面に女性があらわれた。
再び銃弾が飛んでくる。避けようとするが、足をもつれさせ、女性の上に倒れ込む。
弾丸が服をかすめた。立木がはじけ、和樹は彼女にのしかかるようになる。しかもそこは、登ってきた斜面だった。
彼女をかばう形になったのは、おそらく偶然だ。
「どわーっ!」
和樹は女性を抱えたまま、斜面を滑り落ちていった。
話は少し前に遡る。場所は彩雲寮。
「〜♪〜♪」
和美は鼻歌を歌いながら、和樹の部屋に向かっていた。
「やったやった。福引引いたら、1等のマーシャル諸島ペア旅行のチケットが当たっちゃった―。これで和樹君を誘って二人でラブラブ旅行・・・・ウフフ、そんでもって海で泳いでー、食事してー、それから・・・・ホテルの部屋でついに和樹君と・・・・キャー!恥ずかしい。でも、もし一線をこえちゃったら・・・ウフ、ウフフフフフフ・・・・」
いろんなことを想像してると、和樹の部屋に着いた。
コンコンコン、「和樹君」
返事がない。
コンコンコンコンコン「かーずーきー君、いないの?」
返事がなかった。
「なんだ、いないのか・・・・。まあ、いいや。また後で来よう」
和美が和樹の部屋を後にしようとすると、
「あら、松田さん?どうしたの。式森さんなら今いませんよ」
管理人の尋崎華麗が言った。
「管理人さん、和樹君がどこに行ったか知りませんか?」
和美は華麗に訊いた。
「式森さんなら、今ごろマーシャル諸島じゃないかしら」
「マ、マーシャル諸島?」
「ええ、なんでも風椿さんとこの叔父さんだったかしら、その人が所有するコテージがそこにあって、この連休で、宮間さんのお祝いをかねて、宮間さん、風椿さん、神城さんと四人で遊びに行きましたよ」
「・・・そうですか、ありがとうございました」
和美は礼を言うと、華麗は階段を下りていった。
「あいつら・・・・せっかく私が先に和樹君を誘ってあんなことや、こんなことしようと思ってたのに、抜け駆けしたわね。夕菜ったら和樹君に興味ないって言っておきながら自分だけ・・・あの巨乳女も剣道チビもそう。こうなったら私もそこへ行って、あいつらから和樹君を助け出さなきゃ、そうよ、そうだわ!それから二人でゆっくり旅行を満喫するの。それでホテルであんなことやこんなこと・・・・・
ウフ、ウフフフフフフフフフフ・・・・・・」
和美が妄想にふけっていると、
「今の話全部聞いたわよ、和美」
振り返ると、そこには沙弓をはじめ、B組女子全員が立っていた。
「全部聞いたって・・・・」
「そ、あなたが尋崎さんと話していたところから全て。いないはずよね、マーシャル諸島にいるんだもんねえ」
「だから?だからなんだってのよ。これは渡さないわよ!」
「いらないわ。そんなもん」
「・・・・・へ?い、いらないの?」
「いらないわ。欲しいって言って欲しかった?」
「い、いやそう言われても困るけど・・・なんで?」
「チケットはいらない、でもあなた一人では行かせない」
「ま、まさか・・・・」
沙弓たちはチケットをピラピラさせた。しかもマーシャル諸島行きのチケットであった。和美は唖然とした。
「・・・・なんであんたたちまでそんなもん持ってんのよ・・・・」
「そんなのどうでもいいでしょ、早くあいつらから和樹君を取り戻しましょう」
沙弓はそう言うと、和美の手をつかんだ。
「あ、あは、あははははははは・・・・・・」
和美はもう笑うしかなかった。
舞台を戻そう。
柔らかな手の感触が額にあった。ゆっくりなぞっている。女性が薄めを開けている和樹の顔をじっと覗き込んでいた。
綺麗な娘だなあ、というのが第一印象だった。和樹は、美人をしょっちゅう見ている。夕菜も玖里子も凜もB組女子も人並み以上の容姿である。彼が通っている葵学園にも美少女はいる。ブス娘は皆無といってもいいくらいである。眼福という意味では、並みの高校生より遥かに恵まれている。じゃあ異性に慣れているかというと、和樹はすごくもてるが、女はあまり得意ではない。
目の前の女性は、三人とは別の美貌であった。顔の作りが欧州系の典型的な美人である。年は分からないが、和樹よりは上そうだから二十そこそこだろう。
小さな唇が開いた。
「zu・・・・」
彼女は発音を途中で止めた。(今のはドイツ語・・・)ついで、
「大丈夫ですか?」
流暢な日本語で言った。心配そうな口調だった。
「あ、ああ」
和樹はあいまいに返事をした。身体を起こす。
女性は気配をうかがうように、斜面の様子を見ていた。銃声はしない。先ほどまでの騒ぎなどなかったかのように、元の状態に戻っていた。ほっとしたのか、改めて和樹に向き直る。
「もう敵はおりません。引き上げたようです」
彼はぼんやりと、女性の言葉を聞いた。なんだか分からないが一息つけるらしい。敵、という単語が引っかかったが。
「危険は排除しました。災難に遭われたようですが、心配いりません」
「そう・・・・よかった。ありがとう」
「え・・・・・」
何故か(ここではちょっとこれはおかしいかもしれませんが)、女性の顔が朱に染まった。
「いや、なんか助けてくれたみたいだから」
「そんな・・・・。当然のことです。過分なお言葉、もったいのうございます」
彼女は赤面しながら、和樹に近寄った。
「お怪我があるようであれば、おっしゃってください。すぐに手当ていたします」
「いや、平気だよ」
「そうですか?」
彼女が腕を取った。さするように手を動かしていた。傷と、関節をひねったかどうか確かめているのだろう。和樹は指先にくすぐったさを感じ、腕を引っ込めた。
「いけません」
静かだが、怒ったような声。
「いや、でも」
「本来なら、即座に捜索隊を編成して救出するつもりでしたが、戦闘に巻き込まれてしまいました。これで怪我をされていては、私たちの忠誠が問われます」
「俺を助けるつもりだったのか?」
「さようです」
意味深なことを言い、再び彼女の指は腕を触り、肩、首筋をなでていく。魅力的な顔が、くっと近づいた。
「だからくすぐったいって」
和樹は女性から再び離れた。女性がまた注意をする。
「駄目です。怪我は初期治療が一番肝心なのです。ご自分では平気だと思っているようでも、万が一のことを・・・・」
「いいって!」
慌てて遮った。彼女がオーバーな物言いだったからだ。冷静な女性に見えるが、本気で和樹を案じているように聞こえる。嬉しいことではあるが、反面、しつこいくらいの世話焼きでもあった。
世話、で気づいた。彼女の服装を眺める。特徴があった。
「なにか?」
和樹の視線に、聞き返してくる。
「その格好・・・・」
「和樹さん!」
頭上から声がした。横向きになって、足元を確かめるようにしながら、夕菜が降りてくる。
「・・・・・・・・・?」
女性が怪訝な顔をする。
「あ、俺の名前。式森和樹っていうんだけど」
「はい。それは存じておりますが・・・・」
「え?」
夕菜が近寄ってきた。捜していたのだろう。息を切らしていた。
「無事ですか!?怪我は・・・・」
「なんともない。この人が気を遣ってくれて・・・・・」
そこで和樹は言葉を詰まらせた。女性が警戒するように身体を引き、どこから取り出したのか、手には拳銃を持っていたのだ。
先ほどまでとはまるで違い、世話やきさんから兵士の顔になっている。銃口は夕菜に向き、人差し指が引き金にかかっている。小さい音がして、安全装置が外れた。夕菜は驚き、硬直していた。
「近寄るな」
女性が硬質の声で喋る。
「な、なんですか、あなたは」
拳銃を気にしつつも、夕菜は言い返す。
「和樹さんをどうしようと・・・」
女性はなにも言わない。ただ銃口をぴたりと合わせていた。夕菜もその場から動けない。しばらくそのままだった。だが、それほど時間はたたなかったと思う。
「ちょっと、なにしてんの?」
玖里子の声が聞こえた。ほぼ同時に、和樹の背後からも別の声。
「housekeeper,Liera!」
女性は一瞬だけ後ろに顔を向け、すぐに戻す。少しのあいだ夕菜を睨んでいたが、彼女は不意に背を向け、駆け出した。その姿はすぐに、木々の奥へと消えていった。
残された二人は、しばし茫然としていた。木々をかき分けて玖里子が現れる。
「どうしたの。平気?」
「平気は平気なんだが・・・・玖里子ねえ、メイドって知ってるか?」
「知ってるわよ。それが?」
「そのメイドがいたんだ。ジャングルの中で拳銃持ってな」
「はあ?」
玖里子が胡散臭げな声を発した。胡散臭いのは和樹も同感だが、事実なのである。さっきの女性はメイドだった。着ていた服がそれを証明していた。
「なんだったのでしょうか」
夕菜がつぶやく。
「ああ、しかも拳銃持ってたし」
「私、メイドさんに知り合いはいません」
「俺もいねえよ。やけに親切だったけど」
「親切だったんですか?私にはすごく敵意をもっていたみたいですけど」
「そういえばそうだな」
「メイドのことなんて考えてもしょうがないわよ。いずれ分かるんじゃないの。それより、さっきの道をたどりましょう。人家があるかもしれないわよ」
「銃撃戦は」
「凜と見張っていたけど、あれっきり終わっちゃったわ。行きましょう」
滑り落ちた坂を上った。道では凜が待っていた。身をさらしてるところをみると、もう危険はないらしい。
一行はトラックの轍を歩いた。見失わないよう、ゆっくり進む。
ジャングルが切れた。ぱっと視界が広がる。
「建物がありますね」
凜が指さす。小高くなったところに、石造りの建物があった。
「ああ・・・・でもあれ、建物というよりどう見たって城だろ」
和樹は言った。視線の先にあるのは普通の建築物ではなく、西洋の城なのである。南洋の孤島にはミスマッチだった。
「どうしてこんなところに・・・」
「さっきのメイドと関係あるんじゃないでしょうか」
夕菜の言葉に、しばし考えた。撃墜されてメイドに会い、今度は城。関係があるのかもしれないが、それにしても突拍子もない話だ。
「誰が住んでるんだ?」
「入ってみれば分かりますよ」
四人は近づいた。それほど行かないうちに前庭が見えてきた。
妙に静まりかえっていた。人のいる気配はあるが、姿が見えない。それどころか緊迫した雰囲気すらあった。
巨大な扉の前に立った。呼び鈴代わりのひもがあったので、引く。
しばらくして、扉が開いた。中から、背の低いメイドが現れた。大人しそうな感じである。地味めで、眼鏡をかけているのが特徴らしい特徴だ。
「はい、どちらさまですか」
「あー、すみません。えーと、道に迷いまして、いや、迷ったというか遭難しまして」
「・・・・・・・・?」
彼女はこくんと首を傾げた。和樹は続ける。
「実はその、飛行機で旅行中に墜落したんです。いや、墜落というか撃墜されて。弾痕の跡があったもんで」
メイドはなにかに気づいたような顔をした。
「・・・・あななたちだったのですか」
「え?」
「よかった・・・・・。もう一度、捜索班を出すところでした」
「なに?」
「しばらくお待ちいただけますか?」
奥へ引っ込む。和樹たちはなんだか理解できないまま、その場にたたずんだ。メイドはなかなか戻ってこなかった。
かなり待たされる。再び扉が開いた。
「お待たせしました。申し訳ございません」
メイドは頭を下げた。さっきとは別の、銀髪の女性だ。
「いえ・・・・・って、ああ!?」
和樹は驚いて彼女を眺めた。少し前に密林で遭遇した、あのメイドだったのである。
「先ほどは失礼いたしました。わたくし、リーラと申します」
「どうも・・・」
「お疲れでしょうが、主人から、中へお通しするように言われております」
「はあ・・・・」
「ご案内いたします・・・・後ろの方たちは?」
リーラがかすかに表情を固くした。
「あ、俺の連れ・・・・っていうか、俺が連れられてきたんだけど」
「そうだったのですか」
彼女は思案する様相だった。やがて、「では、ご一緒にこちらへ」と言った。
ゆっくり歩いていく。四人は後に続いた。
やがて、扉の前に来た。
「中へどうぞ。主人がお待ちしております。あ、女性の方は」
和樹の真後ろにいた夕菜は、やんわりと制された。リーラ扉を少し開け、中になにごとか言う。すぐに、メイドの一人が出てきた。
「あれ、あの人・・・」
そのメイドに和樹は見覚えがあった。
「彼女はネリーと申します。このものが案内しますので。あちらへ」
「え、和樹さんと一緒じゃないんですか」
リーラは軽くうなずいたが、あとはなにも言わなかった。仕方なく、夕菜たちは別室へと歩いていった。
和樹は一人だけ残された。ずっと別室の方を見ていた。
「式森様、どうぞ中へ」
リーラが扉を大きく開けた。広い部屋の中に入った。椅子に座ろうとして―危うくひっくり返りそうになった。そこの中央にしつらえたテーブルに男がいた。欧州貴族の末裔みたいな老人だった。だが和樹がそうなったのはそんなことではない。壁際に、ずらりと女の子が並んでいるのだ。
「・・・・・・・」
三、四十人はいるだろうか。背の高さも髪の色もまちまちだが、皆十代後半から二十代前半のようだ。顔立ちの美しい娘たちが、身じろぎもせずに立っていて、和樹のことを待っている。
驚くべきことに、全員が紺色の服を着ていた。彼女たちは一人残らず、メイドなのであった。
「いや、よく来てくれた。さあこっちへ」
茫然としている和樹に、老人が言った。最初に出てきた眼鏡のメイドが、椅子をひいてくれた。
メイドがなれた手つきで紅茶を注ぐ。老人にはリーラがついていた。彼はいかにも嬉しそうな表情だった。
「この島に男はわししかいなくてね。若い人は大歓迎だ」
「はあ・・・・・・」
紅茶をすする。
「ゆっくりしてくれたまえ。寝室は用意させる」
「どうも・・・・」
和樹はメイドたちを見た。彼女たちはピクリともしなかった。
「彼女たちは、この屋敷の使用人でね、わしがこの島に移る前から雇っている者たちがほとんどだ。よく働く、有能なメイドだよ」
「それにしては多くないですか?」
「百五十はいるな」
「ひゃ、百・・・・」
「わしのメイドたちは少ないほうだぞ。同士の中には五百人ほどつかっているものもいる」
(そんなに雇用してどうすんだよ・・・・)
「疑問に思っているみたいだな」
「・・・・そりゃまあ」
「若い君は知らないかもしれん。私はMMMの会員なのだよ」
「は?なんですかそれ」
和樹もそんな名前は聞いたことがなかった。老人は説明した。その後、和樹は遭難したことを話した。
「そのことは知っている。実は君たちの乗機を撃墜したのは、わしたちなのだ」
「はあ?」
紅茶を吹き出しそうになった。
「本来なら、到着地の島に船を出して、君たちを迎えに行くはずだったのだ。ところがこの島は敵に備えて警戒態勢に入っていてな。つい敵機と誤認して射撃をしてしまった。もうしわけなかった」
つまり自分たちはこの島の住人、しかもメイドとその雇い主に打ち落とされてしまったのである。歓迎してくれているはずだ。
「あの・・・俺たちを迎えてくれるつもりだったんですか?」
「君一人だがね。連れがいるとは知らなかった」
「それに敵って・・・・。戦争でもしてるんですか」
「さよう。実はな・・・」
と、扉がノックされた。さっき夕菜たちを連れて行ったメイドネリーである。
「ご主人様、お連れいたしました」
「うむ」
老人がうなずく。和樹も一応姿勢を正した。
扉が大きく開かれた。夕菜、凜、玖里子の順に入ってきた。だがなんと、三人ともまったく同じ紺色の服を着ていた。そのかっこうはメイド。壁際に並んでいる彼女たちと同じかこうなのであった。老人はいかにも満足そうであった。
「この島では女性はメイド服を着ることになっていてね。同じ服を提供させてもらったよ」
「へ、へえ・・・・」
夕菜がにこにこ笑いながら近づいてきた。
「どうです、和樹さん」
「うーん・・・・まあ似合ってることは似合ってるけど・・・・なんかなあ・・・・・」
「いや、素晴らしいよ。この服がここまで合う女の子も、そうそうおらん。絵画から抜け出たようだ」
「ありがとうございます」
夕菜がぴょこんと頭を下げた。
「私こういうの好きなんです。ほらほら、和樹さん。可愛いでしょう」
笑いながらターンした。スカートがふわっと浮く。
「私はあまり好きじゃないなあ」
玖里子がぼやく。背の高い彼女には、スカートがやや短めだった。
凜はなにも言わなかったが、嫌がるそぶりは見せなかった。それなりに気に入ってるらしい。
老人は満足そうだった。そこにリーラが、耳元でなにか囁いた。白髪の頭がうなずいた。
「さて・・・これから諸君たちと歓談といきたかったが、そうもいかなくなった。急用ができたようだ。明日の朝にでもお目にかかろう」
「え。朝、ですか?」
「今週は重要なのだ。式森君、朝は必ずここにいてもらいたい」
「それは・・・・いいですけど」
「夕食は運ばせるよ。食事は豪勢なものを用意させる。楽しみにしてくれたまえ。そうそう、伝えるのを忘れていた。一つだけ守って欲しいことがある。ここで魔法を使うことは許されていない」
「魔法禁止、ですか?」
「そう。あとは自由にしてもらってかまわん。ではまた」
老人はそう言うと、大勢のメイドと共に退出した。
(・・・・・・・・・・・)
和樹は退出するメイドたちを見ながらネリーと、ほか数人のメイドのことを考えていた。
(彼女たち、どっかで会ってる気がするんだよなあ・・・・)
どうもみなさん、イジー・ローズです。
上にも書いたんですが、こちらには新作(メイド編からです)のみの投稿にします。第1話から第7話は、華の残照にあります。
今回の話も原作をベースに書きました。次回から募集したメイドを入れていこうと考えているので、次回からは違う話になっていくと思います。それではまた。
レスです。
紫苑様>
オリジナルキャラの提供ありがとうございます!!!私の中でキテますよ、このキャラ。
そこで気になったんですが、美なの「な」は、菜なんでしょうか、それとも奈なんでしょうか?
D,様>
今どうしようか悩んでます。
ニコライ様>
ありがとうございます!!!やっぱこういうレスがくるとやる気でますね。
嬉しいな〜♪
ジャッカー様>
私が見てきた中では、これから私がやることはまだ誰もやってないと思います。
アポストロフィーエス様>
今のところは協力させるつもりでいます。
早乙女様>
和樹と夕菜の性格はらんま1/2の影響はあります。
通行人A様>
新作のみの投稿にしました。
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