×月〇日、とある島でのことである。
その日、島では激しい雨が降っていた。銀髪の、量はあまり残っていない老人はその島にある館に住んでいた。
彼はベッドに横たわっていた。薄く目を開け、天井を見つめる。何かを考えているようである。やがて彼は骨ばった手を伸ばすと、サイドボードに載せられた呼び鈴を取った。
軽く振った。部屋の外で金属音が鳴り響いている。しばらくすると、扉がゆっくりと開いた。
入ってきたのは、若い女性だった。背が高く、銀色の髪を後ろでまとめている。彼女は一礼すると、音を立てないように歩き、老人の許へ近寄った。
「お呼びでしょうか」
その声はどこか機械的に聞こえる。職務に忠実たらんとする人間のものであった。
が、老人は気にもせず、女性を眺めるわけでもなく、天井に目をやったままだった。
彼女は何も言わない。最近の老人はめっきり喋らなくなった。
どれだけ時間がたったか、老人は思い出したように口を開いた。
「・・・・・リーラ」
「はい」
女性は腰をかがめ、老人に顔を近づけた。
「今日は何日だ」
「〇日でございます」
「そうか・・・」
老人はゆっくり息をついた。
「もうそろそだな。時の流れは早いものだ・・・・・」
いつのまにか雨は止んでいた。すでに夜になっていた。
「リーラ、もっとそばへ」
リーラは顔を近づけた。同時に、老人の手が、ベッドの中からするりと抜けた。その手は女性の視線と合わないように床を這うようにして彼女の後ろに回された。
「お前は優秀なハウスキーパーだ・・・・これまで仕えてくれて、感謝している・・・・・」
「ありがとうございます」
「だが、わしはもう老いた・・・この通り、動く力もない」
言葉とは裏腹に、手はリーラの足に沿って上へ登っていく。
「リーラよ、わしは」
一度台詞を切った。
「誓約をしないつもりだ」
「・・・・なにをおっしゃいます」
声にわずかの感情を込めていった。続きを言おうとするが、遮られた。
「必要なのは、この島の後継者だ。そのための人材を捜さねばならん」
「どなたか、心当たりでも」
「それだが・・・・・そこの封筒を開けてくれんか」
リーラは封筒を開けた。中には調査書が入っていた。写真が一枚、クリップで留めてある。まだ若い、学生らしき少年が写っていた。
リーラはじっと、写真を見つめた。
「・・・・この方が?」
「そうだ、MMMの東京支部が報せてくれた・・・」
「そうですか・・・・」
彼女の注意が調査書に向いているすきに、老人の手がまた動き出した。
「気に入ったか・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
彼女の視線は、ずっと写真に注がれていた。
手が上がった。いったん止まると、スカートに包まれた魅惑的なヒップへと―
達しなかった。リーラが左手を後ろに回し、手首をしっかり押さえたのである。
「この方が、新しく・・・・私たちの」
調査書を読みながら、細い指に力を込めた。老人の手がみしみしと音を立てている。
「あた、あたたた」
「ご主人様?」
「ちょっと力が強いんじゃないのか?」
「なにをおっしゃいます。女の細い腕のどこにそんな力があるでしょうか」
しかし、リーラはいっこうに手を離さなかった。ひねり上げ、骨折させるかの勢いであった。
「しかし今日はいつもよりも・・・・・痛たたたたたた」
「気のせいでしょう。悪い癖をお持ちになるからそう思い込むんです」
老人の顔に脂汗が浮かぶ。自由な手足を振り回し、ベッドでじたばたした。リーラは眉一つ動かさなかった。
「ご主人様、お話の続きでございますが」
「う・・・・・うむ。この後継者だが、早急に来てもらわねばならん。MMMの支部によると・・・・こ、こっちへ旅行の予定がある・・・・・はずで・・・きっとお前たちにふさわしく・・・・っく、あああ」
「近日中にいらっしゃるのですね?」
「まっ、まあそうそうそう・・・・すぐに、多分すぐ・・・・痛・・・・」
「では私たちは、これまで通りお仕えいたします。新しいご主人様がいらっしゃるまでには、誓約の準備もおこなっておきますので・・・・・」
「それでよい・・・・・リ、リーラリーラ」
「まだなにか」
「た、たのむ・・・、は、はやく離してくれ・・・・・・」
彼女は左手を軽くひねり、それから指の力を緩めた。ぽきっとかるい音がすると、老人は叫び声をあげ、白目をむいて動かなくなった。
リ−ラは深々と頭を下げ、静かに退出した。
あとがき
どうもみなさん。イジ―・ローズです。
メイド編が始まりました。予定としては、前半は原作をベースに募集したキャラを交えて書いていきます。後半は完全オリジナルを予定してます。
キャラ募集はまだ続けます。レスください。
レスです。
紫苑様>
思ったんですが、華の残照が更新できなくて移ったんですよね?
他の方々が火群の住処とNight Talkerに移る予定かもしれませんが、
もう一つサイトを増やしたほうがいいのでは?>
これは他のサイトにも作品を送った方がいいということなんでしょうか?
D,様>
ディステルもできるだけ早く出すつもりです。
アポフィス様>
でも自分的に夕菜のあれは和樹が一度死んだからさらに依存というか執着しちゃったと思うんですよ。所謂もう失いたくないっていう気持ちですね。>
ほとんどそれに近いです。まだ好きというのは早いですね。
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