「
──蛇は遅れてやってきた。
血を浴び。
哄笑を上げ。
その首を──掲げ。
そして────────・・・・・・・・・・
姫は蛇に喰われてしまいましたとさ、にんにん」
「帰ってきぃや、キーやん!!」
「・・ハッ、ついアホな事を!?・・と言うか何ですかあの人は!!貴方の所の人でしょう!?」
「元々はそっちの竜神やろ!?堕天止められんかったくせにふざけんなやー!!」
「そんな昔の事言わないで下さいよ!!あれでどーにか大団円いけたのに!!」
「ワイだってこんな事になるとは思わへんがな!!つーか何であそこでアレが来んねん!?アホか!?」
「それはこっちの台詞ですってば!!」
・・モニターの前。
某二人が何やら言い争っていた。
ぞぶっ、と嫌な音をさせて、槍が引き抜かれる。
それに伴い、ぼたぼたと血が滴り落ちる。内臓を持っていかれなかったのがせめてもの救いだろうか。
「ぐっ・・ぅ」
「きどっ・・!!」
膝をつく鬼道を支える様に、横島も同じ体勢に。
庇おうとしているのか、護ろうとしているのか、その身体を抱き込もうとしている。・・顔は真っ青だ。
「・・アンタもつまりは、横島狙いか」
傷口を抑え、横島の腕の隙間からメドーサを睨み上げる。
「おや、流石しぶといねぇ♪」
しかしメドーサはそんな鬼道を愉しげに眺めて。
「ま、そのとーりっちゃあそのとーりなんだけどねぇ・・私は少し、歪んでてね♪」
にっこり笑って、槍を構え直す。
「私のビッグイーターで石にして飾っておくか、喰らって一つになっちまおうかと思ってるんだけどねぇ・・どっちがいいと思う?」
「趣味悪いヘンタイやな」
愉しそうに尋いてくるメドーサに、バッサリとそう言い捨てて。
「──転移」
呟くと同時、掻き消えた。
無論、横島も一緒に。
「・・フン・・。血で描いた魔法陣かい・・。やってくれるじゃないか・・!!」
忌々しげに、二人の居た場所──血で描かれた魔法陣を、踏み付けた。
一方。
怒れる魔王と魔神達は──
「・・アッハッハッハ。あの蛇、やってくれたなぁ・・よりにもよって核、放っていくとは・・クソが・・!!」
「・・フフフ・・ビッグイーター・・。まさかその体内に仕込んでいたとはな・・。しかも腹の中に異次元空間拡げて私の貯め込んでいた核全部詰め込んでやがった!!どちくしょう!!何さらす!!」
しかもそれに気付いたのが、こちらの攻撃が当たった瞬間にその空間が裂けるのを感じた時であったり。
「つーか何であないにカンタンに持ち出されとるんじゃゴラァッ!!」
どがっ!!
「私のせいデスカ!!」
「ぽー!!」
「やかましいハニワ!!オドレ等の見張りなんぞには基本的に期待しとらん!!」
「ぽー!!」
「ぽー!?」
「ぽぽー!!」
ガビーン!!でうわーん!!な感じのハニワ兵達。
「ああ!!魔王がウチのハニワ兵達を泣かした!!何て奴だ!!くぅっ、外道めが!!」
「黙れアホンダラ!!何にせよオドレが全て悪いんじゃあぁ!!」
げしげしげしっ!!
「足蹴連発ッ!?」
そんなマンザイをやらかしてるトコに。
「・・あの・・アシュ様・・今・・何をなさったのですか・・?」
些か呆然と、ベスパが問い掛ける。
「む?何とは・・ああ、核か。一応この塔の空間なら一部分だけ閉じる事も可能だからな。・・と言うか──」
「その空間ごと卵の中に入れた。・・もー大変な事になっとるやろな、あの卵等は」
因みに、あのカオス作の指輪により、魔力やら霊力やらが吸い込まれていた卵達の事である。
「・・もー生命絶対に誕生せんな・・。で、どー処理する気だ魔王。その哀れな卵達は・・」
「んー・・いつ力が外に漏れるかも解らんし、異次元か何か作って、そこであの蛇に喰わせるか?中に入れるんでもえーけどな。まー力漏れたら周り大変な事になるかもしれんけど、後始末はクソの役にも立たんかった神魔共に任せて。・・最高指導者とかゆーのでもええけど。今まで放ったらかしやったんや、それ位させんとな」
何気に色々とえげつない。
「・・魔王がココにいるヨー!!」
「うるさいわボケッ!!って、こんな事しとる場合かい!!横っち追わな!!」
「・・火角結界だの、手持ちの術あるだけ残して行ったからな・・クッ・・!!手間取った!!魔王が私の力吸い取ったりするから!!しかも他の神魔連中の力も削ぎまくってたりするから!!」
「ちょっ・・そんな事している場合じゃあ・・」
今の状況を今更ながら思い出し、止めようとする小竜姫だが。
「仕方無いやろボケェッ!!大体部下にしてやられておいて偉そうに!!ハニワ共!!位置は!?」
「ぽー!!」
「仕方無いだろーが!!監視ウイルスとか10の指令(テン・コマンドメント)とか実際には扱っとらんのだから!!何!?姫と最強保護者の位置が離れているだと!?・・とにかく空間を繋げっ!!」
「ぽー!!」
「・・喧嘩しながらもやるべき事はきっちりやっていますね・・」
「何だかんだで横島さんが大切なのは共通してるから、当然なのね〜。・・でも、何か卵内に入るのにも結界壊さなきゃいけなさそうなのね〜!!」
──と。
ドッ!!
「な!?」
ドシュッ!!ドシュッ!!ドシュッ!!
「これは・・火角結界!?またぁっ!?」
一同を囲む様に──四方に。
「時間差だとっ!?」
「あんのクソ蛇、ケンカ売っとんのか!?ああ、売っとるんやな!?潰すっ!!」
『ぽー!!』
怒りの声と共に。
ドブシャアァァァッッ!!!
銀一のハリセンと、アシュタロスの一撃と、ハニワ達の突貫と、その他全員の一斉攻撃により、カウントダウンが始まる前に、火角結界蒸発。
・・もームチャクチャである。
そして。
「あとは卵内に入る為に結界を破らなきゃいけないのね〜!!」
「何でこんな用意周到なのさアイツはっ!?」
「案ずるな!!結界破りの札がある!!三回しか使えんが!!」
「だから最初の火角結界の時渋ってたんでちゅね!?」
「過ぎた事をグダグダ言うな!!行くぞっ!!」
「横島さんの保護最優先ですよねっ!?」
「ぽー!!」
「ッ!!メドーサは最強保護者の方かっ!!」
「ぽー!!」
「詳しい位置解らんのか!?・・ちっ、どの卵内かは解るらしいが・・」
「ええいメドーサ!!やはり私が引導を渡しておくべきでした!!よりにもよってこんな・・!!折角諦めよーとしてたのにーーーっ!!!」
『ぽー!!!』
一同はばたばたと、一瞬で結界壊して卵内へ。
「・・いやー、死ぬかと思ったなぁ」
「・・普通死ぬってば・・」
あっけらかんと言う鬼道に、疲れた様に横島が返す。
今、二人はどれかの宇宙の卵の中で、文珠を使って傷の治療をしていた。
「・・それにしてもメドーサの奴・・。狙いは俺だろっ!?何で鬼道にぃっ・・!!」
「・・邪魔やったからやろ?」
「だからっていきなり刺すかフツー!?」
「フツーやないんやろ?」
「あぁっそうだったーーー!!って、あんま喋んなよっ!!」
「・・いや、そんな泣かんでも平気やから」
「・・泣いてねーよっ!!」
そうは言いつつも、落ちる水滴は隠し様が無く。
「あー、じゃあ心の汗か?」
「・・古い」
ジト目で横島。
「・・アイタタタ」
傷よりその目の方が痛かったり。
とまぁ、そんなどこか呑気な会話を交わしてはいるが、余裕のある状況では決してない。
傷自体は命が危ういという程でもないが、暫くは満足に動けそうもない状態だ。
先程鬼道が己の血で描いた魔法陣は、ハニワ兵達が卵を転々と渡っていた時に使っていたもの。
時間が無かったせいで簡易なものだったが、何とか成功し、取り敢えず一安心といった所だろう。
・・その実場所の特定なんぞ出来ない為、ランダムでどこかに出れば御の字で。
まぁ、それらは結果的に良かったのだが。
簡易のものは一度通った者でなければ正確に機能するかどうか怪しいし、血で描かれたものも、その血を持つ本人と、それと共に居た者以外は弾かれやすいのだから。
メドーサがそれを通ってくるのは難しい。
・・それでも、メドーサも力のある魔族。
いつ此処へやってくるとも限らない。
ぶっちゃけ、神器なハリセンを使えば一発で吹き飛んだのだろう。
だが流石に腹を貫かれた身体では、ハリセンを振り抜く事も出来ないと判断した為の行動だった。
そして、横島がいたからこその、逃げ。
だが。
「みーつけたっ♪」
存外に早く、メドーサは現れた。
宇宙の卵の中に一同が入ってから少しばかり後、その場に到着したのは、GSチームの"大人"二人。
「・・何でしょうね、この惨状は・・」
「・・う〜む・・。ビッグイーターの屍の山と、残留する魔力・・。よくは解らないが、メドーサが来た様だね、此処に」
「メドーサが!?何の為に・・」
「・・横島クン狙いだろうね、きっと」
「・・確かにそれしか考えられませんが・・・・・・チッ、あのバレンタインの時に喰っとけば良かった・・」
ぼそっと不穏な台詞を口にする某道楽公務員。
「・・西条君?」
にっこりと唐巣。
「・・ハッハッハ、冗談ですよ、神父」
笑顔で返す西条。
意味無く緊迫。
「・・そんな事より状況把握ですね。何か手がかりは──」
「逃げたね・・」
「ぽー!!」
「ん?」
「ハニワ兵・・?」
「ぽ!!」
二人の足元、何やら真剣な顔でしゅたっ!!と手を上げたのは、一体のハニワ兵だった。
──状況は、この上無くマズイ。
「・・あぁ、アンタを殺さなくても別に良いんだよねぇ、本当は・・。アンタが横島をこの私に引き渡すんならねっ♪」
「なっ・・!!」
「・・アイツに関わったせいでこうなってんだよ?アンタ」
ドズッ、と。
地に置かれていた左手が、槍によって貫かれ──そのまま地面に縫い付けられた。
「〜〜〜・・・・・・ッ!!」
「もう嫌だろ?」
笑って。
痛み──治りかけているとはいえまだ熱を持つ腹の傷と、貫かれた手からのもの、更にはこの場に転移してきた時吹っ飛ばされた為に負った身体中の傷。それらに顔を歪ませる鬼道に、言う。
「アイツのせいで・・死ぬよ?」
槍を引き抜き、構えて。
「渡しな。アイツに、お前のせいでこんな目に遭ったんだから、とでも恨み言添えてね♪そうなりゃアイツも大人しく来るだろうさ・・。悪い様にはしないよ?」
笑顔で脅迫。
「・・その時点でダメやな」
鬼道はアッサリとそう返す。
「・・アンタも生かしといてやるし、横島だって、可愛がってあげようじゃないか。まぁ、私の可愛がり方は激しいかもしれないけどねぇ?」
脂汗はシャレにもならない程。
手より流れ出る血は止まらない。
横島の文珠と自身の符による治癒で腹の傷は塞がっているが、流れ出た血は戻っていない為、意識を保つのも難しい。
──けれど、ぶっちゃけた話。
「・・そういうモンで人の心は変わらんよ。・・心は自分でも変えられん。いつの間にやら動いて、変わっとる」
ずる、と血濡れの左手で身体を支え。
こちらも腹の傷を抑えていた為に紅い右手を夜叉丸のいる異次元へと突っ込み。
取り出したのは、神器なハリセン。
「・・またそれかい」
眉を顰めるメドーサ。
ハニワ兵達から、情報は色々と引き出している。
それが強力な神器だという事は知っていた。
だが、それをメドーサは、脅威に思わなかった。
絶対的に優位な自分と、ズダボロの相手。
だから、嘲笑し、疑わなかった。己の優位と、勝ちを。
・・愚かにも。
「だけど・・そんな状態のアンタに何ができるっていうんだいっ!?」
槍が一直線に、鬼道へと伸びる。
しかも超加速のオマケ付き。
──が。
ギャギッ!!
それは、ハリセンの纏う神器に軌道を逸らされ、
「チッ!!」
体勢を立て直そうとした所で──
ぱひゅんっ!!
「へっ!?」
間抜けな音と共に、超加速が解け。
「おらあああああああぁぁっっっ!!!!!」
ドゴッッッ!!!!!
「ぐぎゃっ!!?」
頭突き一発。
「こんっ・・ドアホがぁぁぁぁっっっ!!!!!」
その勢いに反らされた上半身を無理矢理引き戻して、
バシィィィィィィィィィィィィッッッ!!!!!
「ぶへあっ!!!」
・・ハリセンを真上から真下に、思いっ切り振り下ろした。
その直線上には、頭突きに地に尻をついていたメドーサの頭。
・・頭突きのせいで額からも出血した為、血塗れ。
脂汗はシャレにもならない程。
手より流れ出る血は止まらない。
横島の文珠と自身の符による治癒で腹の傷は塞がっているが、流れ出た血は戻っていない為、意識を保つのも難しい。
──けれど、ぶっちゃけた話。
「正座ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
・・へたれと化したとはいえ魔神。
更には人間とはいえ魔王。
そんな二人と共に過ごした、その中で一番強かったりした最強保護者。
そんなもんで──メドーサ程度でどーにかなる程、脆弱な精神と肉体は有していなかったりする。
「・・ぁ・・あぅ・・こっ・・この・・!!本気で殺っ・・」
ゴッ!!!
「ぶぐっ!?」
柄の方で頭──脳天殴打。
「・・ごっ・・ごの゛っ!!」
ゴッッ!!!
更にもう一発。
「・・ぐ・・貴様っ・・」
ゴッッ!!!
「ごの゛ぉ゛っ・・!!」
ゴッッッ!!!
「っわ、わか・・やめっ・・」
ゴッ ゴッ ゴッ ゴッ ゴッ ゴッ ゴッ ゴッ ゴッ ゴッ
能面。
無言。
連打。
流石に伏してぴくぴくしているメドーサに、一言。
「・・正座」
血塗れ。
能面。
眼は見開かれた状態で、瞬きせず。
何かに取り憑かれた様に一定に連打していた動きは止まったが、それでも怒りは目に見えて。
背負っている何かがもうなんか物凄い。
神器──柄の方からは、通常込められた神気は放出されない。
だが、ここまで効果があるのは、鬼道の想いやら何やらの詰まりまくった霊力を帯びているせいで。
神器の力に頼りたくなかったらしい。最初の一発はともかく、それ以降は純粋に己の霊力のみだった。
・・それだけ怒りが深かったという事だろう。
「・・・・・・ハイ」
タンコブ連なり重そうな頭をゆらゆら揺らしながら、正座。
目の端には涙が溜まっている。
「・・オドレ等魔族いうんが、人間の常識で縛れるとは正直思っとらん。・・けどな。相手が人間なら、自分等の理屈で全部押し通せる思たら大間違いや。・・まぁ、人間でも脅迫だのするアホもおるが、それで良い事なんて一つもないわ。それは、全てから疎まれ拒絶され最期は惨めで悲しいモンになる事必至やで?アンタはそれでいいかもしれんが、それに他人巻き込んで、自己満足のまま逝けると思うんか!?恨みと憎しみと呪いにまみれて、それらに喰われて取り込まれて堕ち続けるで!?大体・・」
ぼたぼた血を落としながら。
(プレッシャースゴオォッッ!!?しっ・・しまったーーー!!!先に行動不能にしておくべきだったぁぁ!!?)
・・説教は、続く。
「・・・・・・コワイヨーコワイヨーーー!!!」
「・・・・・・アッハッハッハ。空が高いわー」
頭抱えてぶるぶる震えるアシュタロス。
なんか周りの空気をキラキラさせつつ笑顔で現実逃避の銀一。
・・見付けたはいいが、入っていけない二人だった。
そして。
「ぽー・・」
「ぽー!!」
「ぽぽー・・」
・・共に行動していたハニワ兵達も、その足元でぷるぷる震えていたりした。
──夜叉丸と一緒に逃がされて。
その際にされた口付けは、鉄の味がして──
独り、そこに、取り残された。
「ぶわかあああぁぁぁぁっっ!!!」
大泣き(爆)
その前には、鬼道。
先程まで続いていた説教を中断したのは横島で。
その際、メドーサは踏み潰されていた。
・・メドーサの真上に入口が出現したらしい。
「おまっ・・きどっ・・ばかーーーっ!!!」
ぼろぼろと涙を零して、涙交じりの声で叫ぶ。
「何してんだよ!!何してんだよ!?何されるかわかんねーのに、メドーサとっ・・!!しかも手当の前に説教かよ!!本当にもうっ・・!!」
「あああっ・・。いや、その・・すまん。けど、な?一応符で傷癒しとったし・・ボク無事やし・・な?」
「『な?』じゃな〜〜〜いっ!!」
腕をぶんぶん振り回して、涙を散らして怒っている横島に、鬼道もオロオロしつつ宥めつつ。
その光景に。
「・・はっ・・アンタも形無しだねぇ・・。散々偉そうな説教かましてたくせにさぁ・・」
鬼道の説教と横島に踏み潰されたのとでヘロヘロなメドーサがいらん事を言う。
因みに、横島の出現にやっと出ていけたアシュタロスと銀一によってぐるぐるに縛られていたり。
しかし──
「うるさい」
「ぴっ!?」
響いた絶対零度の声に、固まる。
「・・正座」
「へうあ!?」
「正座」
「・・いやあのちょっと?」
「正座しろっつってんだろおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「ぴゃーーーーーっ!!」
メドーサ、悲鳴がおかしい(爆)
「・・よ、横島?」
「鬼道は大人しく傷治してろっ!!」
「・・はは・・」
鬼道、苦笑と共に沈黙。
「やりやがったなメドーサ!!狙いは俺だろーがっ!!鬼道に何て事しやがるっ!!」
「あ、あうあうあう・・」
説教と言うよりは文句だが、そんな事は関係無く。横島は止まらない。
「・・鬼道さん、尻に敷かれてますな」
「強いな、姫は」
「同感や」
それを見ている方は呑気だったり。
しかし──
「ごめんなさいは?」
「えうっ!?」
「鬼道に、ごめんなさいはっ!?」
「ぴゃーーー!!!」
「謝れえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
・・こちらはヒートアップしていた。
だが、ふっ、と。
横島から熱が消える。
「・・解った。もーいい・・」
静かに、横島が言う。
どんな思考に陥ったのか──
「使う!!」
いつの間にか手にしていた文珠。
それに浮かぶは──『忘』。
「に゛ゃっ!?」
「横っち!?」
「横島クン!?」
「横島・・どーする気や?」
「全部忘れさすっ!!全部!!そんで、前と同じにするっ!!」
「って・・横島?」
「大丈夫だっ!!全部忘れる!!忘れられるっ!!もう、使った事あるんだからっ!!」
「なっ・・」
一同が、言葉を失う。
そして。
横島が、語る。
想いも、気持ちも、そして。
「・・もう、使った事あるんだから・・文珠・・!!」
泣きそうな、情けなそうな、辛そうな、思い詰めた、顔で。
告白した。
文珠『忘』を使った事は──納得した。
何となく、感じていたから。
少し。ほんの少しだけ、何かが違っていたから。
今から思えば、不自然な位に寝ていた事もある。
あれは無意識に、極力考えない様に、思い出さない様にする為の行動だったのかもしれないと。
霊能には詳しくない。だが、ふと魔神に聞いてみれば、文珠が使われた事を感知していた。
魔神はそれが何かまでは解っていなかった様だが、銀一は何となく感じていた。・・解っていた。
見ていたのだから。
塔の中。
その傍らで。
あの男と居る姫を。
己にとって、何より大切な人を。
・・だから。
その事は──複雑だったのだ。凄く。
だって自分にとって、一番の願いは。
・・姫の幸せだったのだから。
無意識に、気付かない様にしていた。
傍らに在って、共に居る時間が長くなればなる程に。
たまに感じる違和感と。
瞳の色。
向けてくる表情。
互いの、距離。
それらは、日によって違っていて。
だけどそれは、迷いでも、不安定なものでもなく。
穏やかで、安定していた。
・・だから、いいのだと思っていた。
自分は保護者なのだから。
その安定は、歓迎するもので。
平穏を与えたかったから。
そのままでいいのだと。
・・でも、原因は自分で。
それは、文珠の効果で。
鬼道は、思う。
思い知らされる。
自分が、どんなに馬鹿だったのかを。
そして、共に。
また。
決意する。
結構な、衝撃だった。
そこまでして。
・・何故、己を抑えるのかと。
色々な、様々な理由があるだろう。
けれど、違う。
根源にあるのは、相手への想い。
突き詰めて言ってしまえば、それだけ。
そして、何も気付く事の出来なかった自分を、嘲笑う。
長く過ごしてきた日々は、まるで無為の様。
気の遠くなる程の年月を経ても、それらに。ヒトの心に。
気付く事の出来ない、推し量る事も出来ない、真実を、気持ちを、想いを、視る事の出来なかった今の未熟な己を、魔神は。
アシュタロスは、嘲笑う。
──語り終えて。
「その方が良いだろっ!?アシュも、そーだよなっ!?」
「あうっ・・」
振られて呻く魔神。
確かにそうだ。己の求めるものは──・・。
けれど。
「だから・・だからっ、また・・元通りにっ・・」
「横っち」
ぽん、と。
肩を叩くのは銀一。
「・・いらんよ、そんなん」
微笑む。
「・・そこまで強い想いだと言うのなら・・また、思い出すだろうしな」
ふっ、と息を吐いてアシュタロス。
複雑そうな──少し悲しそうな、しかし優しい笑みを浮かべて。
「・・俺、前と同じでいい・・」
歪む顔と、滲む涙。
そして、掠れた声。
「だって・・!!」
必死に。
望む事。願う事。本当は。
だけど、嫌だから。
傷つくのは──嫌だから。
「・・そうか」
ふわ、と。
横島を抱き込むのは鬼道。
「・・ごめんなぁ、気付いてやれんで・・」
愛おしげに頭を撫でて。
「・・好きにしたらええよ」
囁く。
「・・ボクがまた、それ壊したるから」
その鬼道の言葉に苦笑したのは、二人。
ある意味惚気全開なので。
心配する気にもなれなかった、魔王と魔神の、その二人。
「「・・・・・・・・・・」」
茂みの中。
体育座りで、顔を俯かせているのは、二人。
「・・ふぐ。・・出ていけないよぅ・・」
「・・ふみ。・・入っていけないぃ・・」
どちらも涙ぐんでいたりする。
美神とルシオラだ。
「「・・えうぅ・・」」
追っていたはいいが、ほどなく迷子。そして、見付けた時にはこの有様である。
・・流石にあれらの場面に乱入できる程、二人は強くはないらしい(いろんなイミで)
──文珠が、光る。
抱き締められて。
目に映るのは、赤く染まった腹部。
傷は塞がっているが、それがあまりにも生々しくて。
それを目に焼き付けたまま、文珠が発動した。
──それは、『 』
傷つくのは、嫌だった。
自分も。
そして何より。
自分のせいで。
・・傷つくのが、嫌だった。
あのひとが。
それでも。
全て無かった事にして、なんて。
できるだろうか?
「・・ま、結論から言って──できませんでした、と」
「・・文珠の文字も『浄』やもんなー。まー確かに、血の跡も傷痕も消えた・・つーか、浄化・・言うんか?何にせよ、清められて綺麗になったから遠慮無く抱きつけるわなー、横っち。血で汚れる事はあらへんでー?」
「なななななっ!!何言ってんだよ銀ちゃん!?ってアシュ!!何処向いて何のたまっとる!!」
「ははは・・」
明後日の方(例えるなら視聴者側)を向いて状況説明する魔神。
意地悪そうに笑みながら横島を揶揄う銀一。
慌てまくる横島と、その光景に苦笑する鬼道。
「ぽー!!」
「ぽぽー!!」
「ぽー♪」
そして喜ぶハニワ兵達。
完全な平和が、そこにあった。
「・・ふえええん!!」
「・・あうううう・・」
・・茂みの中の二人は除いて。
「・・アタシの事・・忘れてるだろ・・?」
・・そういえば説教やら何やらのせいで死に掛けの蛇もいた。
(・・ああ・・もう・・早くしとくれよ・・)
胸中、誰かに言葉を向けながら。