──忘れていた。
それは、自分の想いだけではなく。
それに付随する様々なものを。
"忘れさせていた"のだ。
・・勿論、全てを、ではない。
だが、確実に、思い出す。
・・共に、それらに対する不安も。
一気に。改めて。
だから。
「・・なぁ、鬼道・・。本当に、俺で良い、のか・・?」
今になって、こんな言葉が出るのも──仕方が無いのかもしれない。
例え、自分が。自分の気持ちが固まっていようとも。
想いを言葉にされ、告白されていたとしても。
不安は消えてくれないから。
「・・横島?」
不思議そうに瞳を向けてくる鬼道を避ける様に俯いて。
「・・だって、俺・・汚れてる、し・・」
手は、自身の服の裾を握り締めていた。
対して鬼道は、ぱちくりと。
きょとん、とした顔で目を瞬かせて。
「・・何が?」
そんな風に返す。
「だからっ・・!!」
顔は見れなくて。
言葉も続かない。
こんな事は言うべきじゃない。
そんな状況でもないし、それで本当に突き放されてしまったら。
悪い想像に、思わず蒼褪める。
唇を噛み締めて黙り込んでしまった横島を、鬼道は優しい瞳で見詰めて。
一歩前に。
腰を屈めて、顔を覗き込む様にして。
「・・アシュとの事気にしとるんやろーけど・・それは、『汚れた』とは言わへんよ?」
言う。
別に、言い聞かせ様としている訳ではない。
ただ、当たり前の事実を語る様に。
「本当に汚れた人間は、『堕ちる』んや。で、瞳が濁る。終いには、大事なモン失くす。・・自分から、な」
体勢は変わらない。
見詰める瞳も、交わらない視線も、変わらない。
「横島は、横島のままやろ?」
言葉に込められる想いも、変わらない。
「・・でも」
「ん?」
横島が口を開く。
「・・俺、アシュに・・」
「ああ、そうやな。取り敢えず、後でハリセン百叩きやな。保護者としての説教やなく、横島を愛しとる男からの報復や」
横島の言葉を遮り、にっこりと、物騒な笑みでそうのたまった。
目をぱちくりさせて鬼道の顔を見た横島は、
(・・あ、本気だ・・)
しかもキレてる・・とかなんとか、頭の中のどこか冷静な部分で思ったりしていた。
「・・大体──・・」
屈んでいた腰を戻し、遠くを見詰め。
「・・ボクのお初は・・アホ親父が早く女経験しとけって中学入るか入らんかの頃にムリヤリ・・」
余談だが、それで六道を懐柔しろとかのムチャも言ったらしい。無論、成功はしなかったが。
・・というか、着々と復讐の道具として育てられていた鬼道だったが、その時ばかりは徹底的に嫌がった為である。
・・子供に何やらせる気だったクソ親父。
「・・いや、あのえっと・・」
遥か遠くを見詰め続ける鬼道に、汗ジトで困る横島。
「・・いや、すまん。ついあの頃のアホな地獄が・・」
何があったんだか、溜め息を吐きつつ頭を振っている。
(・・本当に何があったんだ?)
ちょっぴり気になってみたり。
「・・で?」
「・・う?」
「ボクは、汚れとるか?」
「え!?」
無言で見詰めてくる鬼道に、困りつつあわあわしている横島。
「・・ボクと一緒にいたくないか?」
「そんなワケねーだろっ!?」
思わず声を上げる横島に、
「ボクも、同じやで?」
「あぅ・・」
呻く。
何だか問題がすり替わっている様な気もしつつ。
「・・でも、俺、迷惑だって、いっぱいかけたし」
「・・迷惑?・・ボクが勝手にやってた事やけど?」
「・・それに・・これからも、多分、かける・・し」
「・・別に構わんで?」
「・・だって」
「ボクは、横島がいい」
トドメ。
結局は、それだけ。
「・・横島は?」
重要なのは、多分。
「・・俺は──・・」
理由も、言い訳も無視して。
全てをとっぱらった後に残る、純粋な心と想い。
そして今、するべき事は。
己の想いと心とを。
「・・鬼道が、いい・・」
その声に、乗せる事。
宇宙の卵に入って暫く。
銀一とアシュタロスは、未だに走っていた。
・・どうも、出た場所が横島達の居る場所と離れていたらしい。
まぁ、ハニワ兵達は互いに連絡を取り合えるし場所も感知出来るので、迷う事は無く。
その間、会話が続いていた。
今、その内容は──何故自分を滅ぼさなかったのか。
「・・オドレみたいなクソでも、横っちが馴れ合ってしもうたからなぁ・・。多分情移っとるし、殺すだ滅ぼすだはできんやろ。・・泣くトコまでいかんでも、悲しむトコまでいかんでも、きっと顔は曇る。・・それはいかんやろ、やっぱ」
露骨な溜め息と共に、そう言う。
「それに俺もオドレなんぞの命背負いたないし、鬼道さんに何言われるか解らんしなー」
そう、億劫そうに付け足して。
それを聞いて、魔神は苦笑い。
アシュタロスは、自分の感覚に間違いが無かった事と、その解りやすく、銀一らしい理由に笑った。
信じていたという事だろう。解っていたという事だ。
この男は、姫の気持ちが第一なのだという事を。
その事を信じ、解っていたからこそ、自分は滅ぼされる筈がない、と。
思っていた・・いや、解っていたのだ。
──逆に言えば、もし本気で横島が自分の滅びを望んでいたなら、自分は絶対に滅ぼされていただろう。
(・・いつも見ていたからか、想っていたからか・・。その"気持ち"第一・・よく解るものだ・・)
ここまでくると、呆れる。
・・ただ、少しだけ。
(・・そうならないと・・滅ぼされないと思っていたという事は・・私も姫の気持ちを解っていた、という事だろうか?)
その事に嬉しさを感じたり。
とにかく、自分を滅ぼす事が最善であっても、それで姫が笑わなければ。
・・しない、のだ。この男は。
素晴らしい徹底ぶりである。
流石魔王、とか思いつつ。
「・・貴様らしい行動原理だ」
苦笑しながら、漏らす。
「知った風な口きくなや。・・ま、ココ(塔)での俺見とったら、どんなアホでも解るとは思うがな」
「・・横島クン以外はな」
「横っちはええねん。それでこそ横っちなんやから。可愛いなぁ♪」
「・・しかし腹黒っぷりには気付いた方が横島クンの為だと思うのだが」
「・・ケンカ売っとんのか、魔神」
「・・ハハハ、マサカー」
相変わらずなやり取りしつつ。
──横島の元へ。
「・・鬼道・・。なんか、今何がどーなってんのか、正直よく解んねーけど・・。俺、やっぱ皆にちゃんと言うから。・・やっぱり人間界で普通に暮らしてーし。・・皆にも、ちゃんと解って欲しいから・・」
卵の中に入って。改めて、鬼道を前に、意識して。
まず現れてしまったのが先程の不安。
些かの混乱もあって、失念していたが──まずするべき事はそれだろうと。
「・・ん、そやな。ちゃんと報告せんといかんわ」
穏やかに、微笑い合う。
そして。
「横島の意思尊重したい言うて、したい事とか聞いとらんかったしなー。・・すまん、ボクも告白に緊張しとったらしいわ」
「あ、あはは・・」
笑みは残しつつ、しかしきっちり謝罪する鬼道と、その内容にその告白を思い出したのか、顔を赤くして困った様に笑う横島。
そんな二人を包む空気は優しくて。
・・しかし体感温度は高い。
ぽたり、と落ちる一滴の汗。
それをキッカケに。
「・・しっかしまた・・」
「・・よりにもよって・・」
ある意味逃避していた現実へと目を向けて。
「「何故砂漠?」」
ハモッた。
・・宇宙の卵の中、場所の特定は出来ないらしい。
「ぽー・・」
「ぽぽー・・」
そして足元では、ハニワ兵達がチョコマカと。
「ぽー!!(オアシスを探せー!!)」
『ぽー!!(おー!!)」
・・妙な事に燃えていた。
──想いは、矛盾を孕む。
想い人の為に。
想い人の望む事を。願う事を。
第一に考えて。
・・でも、それは、想い人を自ら手の届かない場所へと送る事で。
それは、想い人の立場を危うくする事かもしれなくて。
それは──・・。
それでも、想い人の心を、第一に考える──
それは、覚悟。
思う。
想う。
己の事を。
姫の事を。
魔王から一連を聞いた。
走りながら、考える。
想像し、思い描く。
姫の隣に立つ者は。
己と共に居る者は。
・・過ぎた日々。
非日常であった日常。
騒がしく、賑やかで、滅茶苦茶で。
・・悪くはなかった、日々。
かつて、求めたものは。
今、求めているものは。
・・きっと、どっちにしろ──もう手には入らない。
今。
己の欲するものは──・・。
・・それはそれとして。
「なにゆえ砂漠ーーーーーっっ!!?」
「それは俺の台詞じゃボケーーーーーッッ!!!」
広大な砂漠を走りつつ。
「砂嵐キターーー!!!」
「・・魔神・・オドレ何考えて作った卵の中・・!!!」
「いやこれは単にこの世界自らの自然現象でありマシテ!!」
・・砂嵐から逃げたりしつつ。
『ぽぽぽーーー!!!』
「むぅ!!姫達はオアシスへ!?幻の泉!?しまった!!千年に一度しか現れんと!!」
「アホかーーーーー!!!!!」
・・何はともあれ。
横島の元に。
「・・ふむ。どうじゃ、お目覚めの気分は」
「・・最悪だ」
「・・あのままずっと夢の中にいたかった・・もしくは全て夢であってほしかった・・!!プリーズ夢オチ!!」
「・・壊れかけてますね、唐巣神父」
大広間。
死屍累々と(死んではいないが)GS陣──既に目覚めて行動を起こしている美神とルシオラ以外の救出部隊の面々が倒れ伏したその場にて。
カオスとマリア以外に、動いている人間が二人程いた。
西条輝彦と唐巣和宏だ。
他の面々より経験の多い為か、咄嗟に何事かの対処をしたらしい。
消耗はしているが、動きは鈍くない。
そして、決定的な目覚めを促したのは。
「・・で?何故僕達を目覚めさせたんです?」
じろ、とカオスを睨むのは西条。起こった色々に、機嫌はこの上無く悪い。
「話の通じそうな連中・・というか、もう解っとる筈の奴を起こしてみただけじゃ」
しれっ、とカオス。
やはりというか何というか、カオスが起こしたらしい。
「・・美神達は未だに暴走しとるしのー。・・全く、凶暴な・・」
・・美神とルシオラに少々ボコられた為、それを邪魔する手駒が欲しかったのかもしれない(爆)
それには触れず、
「・・神父はともかく、僕も暴走に加わっていた一人だけど?」
「それでも、他よりは"大人"じゃろ?」
「・・・・・・・・・・」
アッサリとそう言われ、沈黙。
その後に、息を吐く。
諦めが幾分か含まれた、溜め息だ。
「・・アナタの言う"大人"の定義がどんなものかは知らないが・・言いたい事は解りますよ」
「・・横島クンの事、か」
「・・他よりは、分別がありそうじゃからな」
まだ気を失っている連中を苦笑と共に眺めながら、カオスが言う。
元々横島狙いでは無かった唐巣神父はともかく。
鬼道の説教やらに少しは耳を傾けられるのは、このメンバーの中では西条だけだと判断された様だ。
実の所、その通りだったりする。
流石にあそこまで言われて少しも考えない程、西条は一直線に突っ走れる直情馬鹿でも無ければ、若くも無かった。
・・某隊長に関してはスルー希望。
「・・タイガー君は?」
ふと、自分と同じく横島狙いで来た訳では無いもう一人を思い出し、サッパリ会話の中に出てこない事に気付いて漏らした唐巣の呟きに。
「あー、ヤツは役に立ちそうもないからのー」
「愚問ですね、神父。上手く使わないと枷にしかなりませんよ」
(・・不憫な・・)
あんまりと言えばあんまりな二人の言葉に、思わず涙する唐巣だった。
「・・・・・・・・・・」
ハニワ兵達に連れられて。
その先には、神魔達。
泣いてる妹。それを慰めている子供。
座り込んでいる竜神の姫に、傍らにいる神族と。
魔族の姉弟、気絶している鬼達。
「・・何だい?コレ・・」
思わずそんな呟きが漏れた。
「ぽー!!」
「ぽぽー!!」
「ぽーっ!!」
「・・待ってろって言ったて・・」
足元のハニワ兵達に何事か言われつつ。
状況が解らないながらもそこに留まるベスパ。
そして、戸惑うベスパを置いて。
『ぽー!!』
「あっ!?何処行くんだい!?アンタ達っ!?」
慌ただしく部屋を出て行くハニワ兵達。
「・・何だってんだい・・もう・・」
一人ベスパは、途方に暮れた様に呟いた。
因みにハニワ兵達の行く先は、仲間の元だったりする。
仲間を未だに踏み付けている蛇女の所へ向かい。
ハニワ兵達は、走る。
──見付けた。
その姿を確認して。
酷く、安心する。
それが何故かは解らない。
愛すべき姫と、そして。
・・姫の傍らにいる最強保護者。
いつの間にやら姫を手に入れていた男。
・・不可解だ。
不愉快だ。
自分は何故。
"姫の姿のみ"にではなく。
"二人揃っている"その光景に、これ程安堵しているのかが。
・・いいや。
本当は。
もう──────
──偉そうに説教しといてこのザマだ。
言ってしまえば抜け駆け行為。
誰の事も言えやしない。
だが多分、魔神に言った事は間違ってはいないのだと思う。
あの魔神は、多分。
ただ"欲しかっただけ"なのだから。
愛するという事は。
もっと・・きっと、深いものだと思うから。
その想いを、魔神の求めたものを、否定する気も、間違ったものだと言う気も無いけれど。
ぬくもりや、優しさや。
そういうものを、求めただけ。
"愛する"までには足らない想い。
・・だって、相手の事を考えていないのだから。
──そして今。
魔神の真に求めているものは。
きっと──────
──対峙。
それは、最強保護者と。
欲しいものを求めたが故。
・・そして。
確かめる為に。
魔神とが。
何故かオアシスと共にあった、遺跡ちっくな建物の中で。
「・・やってくれたものだな、人間・・!!」
「・・聞いたんか」
「・・ああ」
「・・そんなら、どうする?」
「・・倒すっ!!」
吠える。
「そして、姫とらぶらぶいちゃいちゃな日々を今一度っっ!!!」
拳握り締めて血管浮かせて涙迸らせて。
(嘘つけ)
銀一に心の中で冷めた突っ込み入れられつつ。
掌に残った力を集約し──・・。
「やらせねぇっての!!」
文珠、発動。
「ぶはっ!?」
ずべしゃああっ!!
ずっこけるアシュタロス。
文珠に浮かび上がる文字は──『倒』。
かつてデミアンにその効力を発揮したそれは、その時と同じく、アシュタロスを『倒した』。
「ってマイハニー!!何をしますか!?」
「誰がマイハニーだぼけぇっ!!」
アシュタロスの叫びに、そう返して。
深く、息を吐く。
「・・お前、意味ねー事やってんじゃねーよ。・・今更」
呆れを含んだ口調で。けれど真剣な顔で、そう言う。
「・・意味が無い?今更?・・どういう事かな?」
「・・俺は、鬼道が好きだ」
真っ直ぐに。
アシュタロスを見据えて。
静かに、だがハッキリと──告げた。
「・・だから──・・お前のモノにはなれないし、ならない」
静かに、静かに、静かに。
視線は交差したまま、動かず。
「・・はっはっは。何を言ってるのかね、横島クン?・・だから今こうして、最強保護者を倒して、姫を我が手にっ!!」
「倒すのか?」
「・・倒すとも」
静かな問い掛けに、静かな答。
そして、続く。
「・・たとえ、それで君が壊れるとしても」
瞳には危険な光。
昏く、暗い、闇色の光。
けれど、横島は溜め息をついて。
「それが意味ねーよ。虚しいだけだろ、それ」
だって、自分の心も想いも、魂さえも、魔神のモノになりはしないから。
「・・狂った闇の中、私も壊れ、君と共に在ろう」
表情は変わらない。
ただ、静かに。
「・・壊れた方が、永劫に生きる身には楽なのだからな」
哀しい事を言う。
自嘲の笑みの形に、顔が歪む。
しかし、横島は再度溜め息。
「・・でも、鬼道の事倒せんのか?・・あぁ、この場合、『殺せるのか』か?」
アシュタロスの顔が固まる。
無表情で。
「・・ふっ・・。殺せば、壊れるのも楽そうだ」
「ムリだろ、それ。だってお前、鬼道の事好きなくせに」
間。
色々と止まる。
「・・・・・・・・・・は?」
「恋愛感情とかじゃないけどな。・・そんなんじゃなくて、フツーに好きだろ?お前。・・鬼道の事も、銀ちゃんの事も、ハニ達の事だって」
・・土偶羅の事とかは割愛らしい(爆)
「・・何を言ってマスカ?」
思考停止状態で、かくん、と首を傾げる。横に、九十度。
「・・お前、本当に"俺だけ"で満足できんのか?壊れる前の、今のお前で考えて」
言葉に詰まる。
自分の理想形が何なのか、もう本当は知っていて、解っているから。
本当は。
あの日々が。
姫の笑っている、あの日常が。
魔王と保護者と姫がいて当たり前になっていた、空間が。
・・今己の望むもの。
きっと、もう。
何をしても戻れないと知っているから。
せめて自分で壊そうとして──・・壊せない事を知る。
「・・では、どうすればいい?私は、魔神だ。魂の牢獄に囚われ、永劫に刻を生きる者だ。・・ここで君を諦めたなら・・"今"を諦めたなら・・私は──」
また、独りに──
つかつかつかっ
べしぃっっ!!!
「ぷぎゃっ!?」
いつの間にか俯きながらそんな事を漏らしていたアシュタロスに近付き、ハリセンではたいたのは──銀一。
「グダグダ抜かすなやっ!!オドレ、魔神やろ!!もちっと反則技の一つや二つ思い付けやボケがっ!!」
魔神の胸倉引っ掴んで、怒鳴り散らす。
「・・ま・・魔王・・?」
呆然とするアシュタロス。
「・・銀ちゃんも、アシュの事何だかんだ言って好きだよな♪」
・・何だか物凄い事を、のほほんと平和な笑顔でのたまう横島。
そして、それに反応するのは勿論魔王。
「アホ言うなや横っち!!俺はこのクソ馬鹿が、反則技の一つも思い付かへんへたれカスやからムカついとるだけやっ!!横っちかっ攫って散々好き勝手しといて、今更弱音吐いて同情買う気かああ!?うだうだ言っとらんで何か道捜すなり何なりしろやっ!!何が魂の牢獄や!!そないなモンぶち壊せタコッ!!それもできんなら、とっとと現実に目ェ向けて無様に泣いとれアホがっ!!」
吐き捨てて、忌々しげに手を離す。
「・・あ・・相変わらず容赦ゼロだな魔王・・」
「オドレにんなモンしてどないすんねん、ボケ」
思わず汗ジトで呟く魔神に、ケッとか言いながら魔王。
「つーか結局オドレが逃れたいが為の欲求になっとるやないか。横っち使ぉて自分癒す為になっとるわ。・・ふざけんなや、ドアホが」
とことん冷たい眼で睨まれ。
「むがぁ!!酷ッ!!それは酷すぎるぞ魔王!!私は私なりに姫の事を本気でー!!」
「・・ま、それは否定せんよ。アシュの"想い"そのものは、な」
「・・最強保護者・・」
「・・甘いですよ、鬼道さん」
「そうか?ボクが説教しとったのは想いを相手に押し付けたり、相手の事を考えん事に対してのつもりやったんやが」
「・・なら、どうするんですか?・・このクソダボへたれ魔神が横っちにこれ以上チョッカイ出したりしても、黙認するとでも?」
「ああ、それは譲れんから却下や。それと、保護者やなく横島愛する男からの報復として、今までの事に対してのハリセン百叩き決定な」
にっこりと鬼道。
間。
「ギャーーーーーーーーーーーーーーー!!?」
魔神、絶叫。
「・・鬼道ってば・・」
苦笑しつつ横島。
「・・言う様になったやないですか・・」
にやりと笑みつつ、些か満足そうに銀一。
「くそう!!最強保護者め!!怖いぞ!!何か物凄くっ!!くそー!!姫を手にしたからと偉そうに!!」
ちょっぴり泣きべそかきながら魔神。
「やはり最強保護者を葬って姫と愛欲の日々をーーー!!」
「最初に戻ってどないすんねんボケがっ!!!」
ズッパァァァン!!!
「ぶべらっ!?」
空気は、塔でのあの日々と同じものへと。
「・・なんや思いっ切り、いつもの光景やなー・・」
──と、苦笑と共に、呆れの混じった声が漏れて。
「・・そんなら、取り敢えずボクの事一発殴り」
「・・は?」
「ちょっ・・鬼道!?」
「・・鬼道さん・・俺は横っちが泣くから許容出来んと言った筈ですが」
「これは仕方無いやろ?ケジメみたいなモンや。・・ぶっちゃけ、抜け駆け行為したよーなもんやし(・・アンタにも一発殴ってもらうわ。後でな)」
「・・ったく、この人は・・(そんなら殴ってやりますよ。それはもう、思っくそね!!)」
会話と共に、瞳だけで密かな意思疎通。
それが終わり、鬼道はその内容に苦笑して。
「すまん、横島。これはボクのワガママやけど・・ボクのケジメやから」
「鬼道・・。・・しゃーねーなぁ、もう・・」
本当に仕方なさそうに、困った様に微笑んで。
それを了承と取って、鬼道はアシュタロスの前に立つ。
「・・そんなワケで、殴れや。・・で、横島の事は諦めてもらう」
「・・殴った後で、諦めんと言ったら?」
「殴られるのは、単にボクが抜け駆けしたから、の罰みたいなモンや。その後の事は関係無いな。・・大体、ボクは横島を渡す気は無いよ」
にっ、と笑う。
不敵に。
塔での生活の中でも、見た事の無かったそれ。
(うわ怖ッ!!)
反射的にそう思い、心の中で声を上げた魔神は。
(・・だが、ハッキリ解ったな・・私は、ダメだ・・)
何故か、微笑が浮かぶ。
穏やかな、それ。
──姫を真に微笑ませる事が出来るのは──・・多分、この男だけ。
(・・私では・・ダメだ・・)
そう悟って。
何故か、穏やかな、どこか晴れ晴れとした気持ちで。
「それでは一発!!いくぞぉっ!!」
力を込めて、一発。
「ぽー!!」
「ぽぽー!!」
「ぽー!?」
──塔の外。
ゴロゴロと地に転がるハニワ兵達。
そこに駆け付けてきたハニワ兵達との会話は。
・・内容は知れぬとは言え、雰囲気からしてなかなかに緊迫したものであるらしかった。
そしてそこに、今。
蛇はいない。
「わははははっ!!スッキリ!!」
意気揚々と帰還するは魔神。
笑顔と共に、腕をぶんぶん振り回して。
「・・周りのモンから霊力と魔力補充しての一発は効いたわ〜・・」
元々の力の大半が失われていなかったら、即死コースだったろう。・・それでも最強保護者なら絶対に死ななかったろうが。
「だから文珠で治すってのに・・」
「容赦あらへんのはオドレやないか、魔神・・」
他三名も共に帰還。
鬼道は腫れ上がった頬を抑えつつ、横島はそんな鬼道に寄り添って、銀一はアシュタロスに呆れた視線を送って。
そして更にその後ろからはハニワ兵達がぽーぽーと。
宇宙の卵の中から出てくる。
そしてそこには何名か。
「アシュ様ぁっ・・!!」
「おお、ベスパ」
アシュタロスの姿を見付け、駆け寄ってくるベスパに、手を上げて軽く応える。
「・・あの・・?」
平和な感じの一同の雰囲気にベスパは困惑し。
その姿に苦笑してから、優しい微笑を向ける。
「・・取り敢えず終わった様だ。こっちは、な」
「え・・?」
いまいちよく解っていないベスパだが、それをほのぼのと眺めている暇も無く。
「・・横島さん・・」
その場に居た妙神山メンバーも参加。
「・・小竜姫様・・」
「・・ご心配なく。私達はもう、そこの方から貴方を引き離すつもりはありませんから」
にこ、と。
優しい笑みを見せて言う。
・・その端に、幾許かの哀しみや寂しさも見えたけれど。
「取り敢えず皆認めたから、安心していいのね〜」
お気楽に、手をひらひらさせながら言うヒャクメの後ろには、微妙な表情で佇んでいるワルキューレとジーク。
まだ涙ぐんでいるパピリオと、それをあやす為なのか、慰める為なのか。
その手を握って、横島に多少困った様に笑みを向けている天龍童子。
・・因みに鬼門達は送り帰されたらしい。
「・・そっか。ごめん。・・俺、ちゃんと言わないで・・。皆、心配してくれたのにな」
(((うわまだ解ってない!!!)))
一同──その場に居る、横島以外の全員の心が一つになった!!(ハニワ兵含む)
・・それはともかく。
「え、えーと・・ところで、美神さん達はどうしたんですか?」
己の想いを告げる事は諦めたのか、話を逸らす小竜姫。
「へ?美神さん達・・?」
「ええ、何だか物凄い勢いで中に・・」
「・・うわぁ」
思わず汗ジトになる横島。
「・・一斉にボコられたら死ぬなー・・」
遠い目をする鬼道。
「・・あいつらにまで殴らす気ですか?基本的にあの連中ただのアホなんですから、別にそこまでしてやる必要無いと思いますけど」
嫌そうに銀一。
顔を曇らせたり心配する横島を見たくないが故、そして単純にあの連中が気に入らない為に。
「・・まぁ、それは私が代わりになってやろう。ハッキリ言って頭数には入っていなかったしな、あの連中は」
魔神がさらりと提案する。
横島を力ずくで自分のモノにしようとせず、ただ純粋に、本気で愛していたのは。
その幸せを願っていたのは──二人。
だから、鬼道殴る事が出来るのは、銀一だけなのだ。
本来ならば、自分も入っていない筈で、そんな役目も持てないだろうが──
覚悟を持たず、また、持たない状態で求めただけの、罪滅ぼしを兼ねて。
──自分は、欲しかっただけ。
傍らに置いて、一方的に愛して。
孤独を、牢獄への憎しみを忘れさせてくれた幸福。
それに酔って。その存在を貪って。相手の事を考えず。
・・その、報い。
だが。
「あーいらんいらん。ヤッたれ!!」
にやりと魔王。
「・・殺るのか?」
汗ジトで魔神。
「それとも犯るか?」
にやりとしたまま続けて魔王。
「やめい、そこ」
危険な会話に発展しかけた二人を止める鬼道。
「物騒だよなぁ、銀ちゃんまで・・」
困った様に苦笑して。
「とにかく──・・ちゃんと言わなきゃ、な」
「・・そうやな」
横島と鬼道は、顔を見合わせて、微笑った。
──と。
「いたーーーーーっっ!!!」
叫び声が響き渡る。
『へ?』
一同が振り向いた先には。
「ふふふふふ・・見付けたっ!!見付けたよアンタ達っ!!もう本当に探したっつーの!!」
「・・メドーサ?」
何故かメドーサがいたりした。
しかもコギャルバージョン。
「・・って、何でお前がいんだよっ!?」
「・・そういえば復活させておいたな。置いてったベスパ達の話相手にと」
「ってオイ!!」
またお前かアシュタロス、な感じだ。
「・・来てたのかい?・・ハッ、もしかして私を笑いにっ!?どーせ私なんて話についていけてない馬鹿者だよおぉっ!!」
「・・アンタ何にも解ってないのかい・・」
いきなり泣き出すベスパに呆れた様に溜め息を零すメドーサ。
・・それだけなら微笑ましい限りなのだが。
「・・ま、いーさ。私は私で用があるんでね」
「ちょっ・・メドーサ!?何を・・」
「うっさいよ、小竜姫。負け犬は黙ってな」
「な゛っ!!」
額に血管浮かせる小竜姫は完全に無視し、スタスタと横島達の元へ。
そして鬼道の前に立ち、その顔を覗き込む。
「・・ふーん、コイツかい?詳しい事は知らないけど」
「・・何や?」
「横島オトしたって?」
「んなっ・・!!メ、メドーサ!?」
アッサリとしたメドーサの言葉に、真っ赤になる横島。
「・・アンタが男に走るとはねぇ・・。で、アシュ様はフラレたと」
「・・それは私にケンカを売っていると受け取っていいのか?」
「滅相も無い♪ただ・・」
「ただ?」
「ぽっ・・!?」
「ぽー!?」
「ぽー!!」
にわかに騒ぎ出すハニワ兵達。
「なっ・・やめるのね〜!!」
何かに気付き、遅れて声を上げるヒャクメ。
しかしそれらに目を向ける前に。
「チャンスは平等に♪」
言うが早いか、超加速。
「「なっ!?」」
その際、横島と鬼道を連れて。
それに気付き、追い付く者もいるにはいたが。
≪ガアァァァッッ!!!≫
そこらに潜ませていたビッグイーターを一斉にこの場の全員に飛び掛からせ、時間稼ぎ。
「チィッ!?」
「メドーサ!?アンタ・・!!」
「何をっ・・!!」
「オドレ何する気じゃコラァッ!?」
因みにその行動に動きと意識が追い付いたのはアシュタロスとベスパと小竜姫と──何故か銀一。
・・まぁ、他三名よりは遅れたが。
しかしビックイーター達の壁により、その動きを止めるまでには至らず、メドーサ達は宇宙の卵の中へ。
『やりやがったぁ!?』
一同、怒りやら驚きやら、いろんなものを込めた叫びを上げ。
『ぽぽぽーーーーー!!!!!』
何だか皆して怒ったハニワ兵達が、ビッグイーター達を粉砕し、殱滅していた(爆)
「っぶ!?」
「・・此処は・・最初来た密林っ!?」
出たのは確かに見た場所で。
しかし、それに驚いている暇も無く。
どすっ、と、鈍い音がした。
「──なっ!?」
「ぐっ・・!?」
腹から突き出る、二又の槍。
突き出た刃は一本だけ。
しかし、それは確実に腹を貫いていて。
「アハハハハッ!!いけないねぇ、気ィ抜いちゃあさっ!!」
哄笑が、響いた。
その頃、どれかの宇宙の卵内では。
「此処は何処ぉぉぉーーーーー!?」
「横島クーーーン!?」
・・ルシオラと美神が迷子になっていた(核爆)
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