周囲の光源も確認済みであり、影で気付かれるマヌケな真似などしはしない。
そして「彼」は高嶺清麿のすぐ背後に移動すると右手を振り上げ!
目標の後頭部へと叩き付ける!
殺すのは目的に反するし命令に背く事になるから、当然手加減をする。
2、3時間気を失う程度だろう。
しかし!
その完璧なはずの奇襲を、目標は身を沈めてかわす。「な?」
そして突然振り向くと、懐から出した小瓶のフタを外して勢い良く腕を振る。
瓶の中身 −何かの液体のようだ− が、ある意味まったく油断していた「彼」の顔面にふりかかる。
「ぐあああああああ!」臭い。そして猛烈に目が痛い。
焼け付くように、というのはこういう感じだろう。
思わず仰け反り、そんな自分が動きを止めているのに気付いた。「しまった!」
しかしもう遅い。目標は戦闘準備を整えている。
メリケンサックに似たそれを拳に嵌めてこちらに殴りかかろうとしているようだ。
先端に円柱が三本立ったそれで「せ−の」といわんばかりにフックを繰り出す。
多少硬い程度、しかも人間のパンチなどどうというものではない。
この一撃を耐えて反撃を。そう考えた瞬間、目標の拳がヒットした。
ドカァン「ぐはっ?」
目標の拳が爆発する。
「たいしたモンじゃない。FBIの知人に頼まれて作った護身用の武器さ」
そして動きが止まった時、体に何かが接触した。そう感じた瞬間強烈な刺激とともに意識が薄れていく。
「九万ボルトの有線スタンガンさ。しばらくおやすみ」
「く・・・くっそぉ・・・」
全身ズタボロのダニ−。その眼光はいまだ光を失わないものの、多くの「泥の矢」が突き立ち、両足は今にも地に屈しそうだ。
「負けてぇ・・・たまるかよぉ・・・」その時
「『ガンズ・ゼガル』」
光弾が次々と降り注ぎ、ダニ−を取り囲む泥人形を打ち砕く。
「だいじょうぶ?ダニ−」「キッドか。正直助かった」
「逃げるよ、ホラ早く」「しかたあんめぇ。手前ぇら覚えてやがれ!」
深い何かの底からゆっくりと意識が浮かび上がってくる。
そうだ。目標たる人間の反撃で打ち倒されたのだ。
この の一族ともあろう自分がなんという恥さらしなマネを・・・
目を開くと、何やら本を読んでいる目標が。助けの類は呼んでいないのか?だとしたらまだ・・・
「目が覚めたかい?はっきり言って君は負けた。反撃はおろか脱出のチャンスもありはしないと思って欲しい」
こちらも見ずに告げる目標。どうやら一枚も二枚も上手のようだ。
「ひとつ聞く。何故我の攻撃を見破った?」
「そうだね、まずは雰囲気・かな」「雰囲気だと?」
「ああ。攻撃の瞬間もそう思ったんだけど、君は自分より弱い相手としか戦った事がないね」
何を当然のことを。
「俺は違う。相棒と一緒に戦った相手は常に俺たちより強かった。だから・・・そうだなぁ
『戦いの空気』ってヤツにかなり敏感なんだ。
今も君が心の中で呟いた『食らえ』って声が聞こえたんでね、逃げたのさ」
『戦いの空気』だと?おかしな事を。
「さて、ひとつ相談なんだけど君の正体と目的を素直に話してくれないかな?」
言葉に出さず、顔を背けることで意思を示す。
このような事態に備えてそれなりの訓練はしてある。
たかが人間ごときの尋問や拷問で俺の意思を曲げられると思うな。
「しかたないな」
ひとつタメ息をつくと目標は横に置いてある鉄製の巨大な箱に手をかける。
・・・ゲキレツにいやな予感がする。
殺気?違う 瘴気?近いが・・・もっと恐ろしいモノだ これは・・・絶望?
「知り合いが『結婚祝い』として1ガロンも送ってきたモノでね」
待て。ガチガチに鎖で括ってあるのはよしとしよう。
南京錠とやらで五つも六つも閉めてあるのもまあ許容範囲内だ。
しかし・・・「封印」とか「封魔」とか書かれた紙が沢山貼り付けてあるのは何だ。
その・・・ガスマスクというのか?何時の間につけた?
「本当に気は進まないんだ。でも君がそんなに頑固なのが悪いんだよ。
だからこの『甘くないモノ』を使わなければ・・・
憎んでくれていい。呪ってくれてもかまわない。しかし結果的にこうなるのを君が選んだんだからね。
本当にすまない」
やめろ。その箱から出したでっかいボトルの栓を開けるな。
中身をさじで取るな こっちに近づくなぁ!!!!!
続きます