「ハァハァハァ」
村が燃えている。
そしてかろうじて逃げ出せた幾人かが山道を必死で走っていた。
「もう少しだ。あそこを越えれば隣村だ!そこで助けを呼ぶぞ!」
「ちぃっ!やつら追いかけてきたぞ!」
「防げ!女子供をなんとしても逃がすんだ!」
しかしその時
「『フリズド』」
一方は崖、一方は山壁という細い道が氷に閉ざされる。
驚く一同。そして氷壁の向こうに見えた影は
「レイコム!」「なんのつもりだ?早くこの壁をどけろ!」
「イヤだね。アンタらはそこでゆっくり食われててくれよ。その間にオレは余裕で逃げさせてもらうから」
「うわぁ」「いやぁ」「助けてぇ」
悲鳴が上がり始めた氷壁の向こう側を見て、レイコムもゆっくり出来ぬとトンズラ決め込もうとする。しかし
「な、何だぁ?」
地面から腕が生え、レイコムの足をしっかり掴んでいた。
「こ、ここここここここれは?」
地面から、岩壁から次々と泥人形が生えてくる。
そうか。レイコムは気付く。
奴等の目的はオレだ。オレだけってわけでもなかろうが魔王候補、あるいは魔力の強いヤツが優先度高いんだ。
しかもヤツらは泥人形。つまり「柔らかい土」なんだ。
土や岩に同化してその中を「泳ぐ」ことが出来る。
土のある場所ならどこでも行けるんだ。壁があろうと魔力で防ごうと。
次々と絡みつく腕から逃避するようにレイコムはそんな考えを巡らす。
そして、正面の一体が腹部を開き、自分を抱きしめるかのように近づけ、そして
「ふぅ」自分で入れた紅茶を啜る。
コ−ヒ−も悪くないが、やはり紅茶のほうが好みだ。
そんな風に落ち着く清麿の背後の壁が盛り上がり、人間(らしきもの)の上半身が生えてくる。
瞳には明らかな意思の輝きが見える。
いいなり、あるいは操り人形の類は決して持てない光だ。
そして、右手が大きな鉤爪へと変化する。
引き裂くというより抱え込んで逃がさないためという感じだ。
当然音などさせないし空気も動かさない。
周囲の光源も確認済みであり、影で気付かれるマヌケな真似などしはしない。
そして「彼」は高嶺清麿のすぐ背後に移動すると右手を振り上げ!
走る。走る。少女は走る。必死で走る。
何故こんな事になってしまったのだろう。
自分が悪いのだろうか。
毎日毎日ティオとパティが喧嘩するから。
おいしいケ−キでも食べれば仲良くするだろうと思ったから。
(それでも喧嘩になった場合、ガッシュと二人で食べられる、と考えたのも否定しない)
随分上手く焼きあがったので、添えるための木苺を取ろうと少し離れた森に入ったのがいけなかったのだろうか。
幸いあの人達は(ひと、と言っていいのだろうか)は走るのがあまり速くない。
だからしばらく走って引き離し、疲れて休んでいたら追いつかれて逃げ、また追いつかれというのを繰り返している。
辛うじて大きな木の洞に逃げ込む。どうやら気付かれなかったようだ。
「ふぅ」
わずかにため息をついて、この後の事を考える。
とりあえず見つからないように森を抜け出し、町へ戻ろう。
そしてガッシュ達に言わなければ。ヘンなものが森にいるって。
そこまで考えた時、ふいに周囲が暗くなる。
恐る恐る目を開き、前を見ると其処には・・・・・
先ほど自分を追いまわしていた連中より大きめの泥人形が立ちはだかっていた。
呆然とした瞬間延びた複数の腕が自分に襲い掛かる。
腕を抑え、足に絡みつき、口を塞ぐ。
口を塞がれてしまった今、もう術を唱えて逃げることも出来ない。
助けて・・・誰か・・・
「そいつ」の上半身が大きく二つに分かれる。
助けて・・・助けて・・・助けてガッシュ・・・
ゆっくりと、しかし確実にそいつの開いた口が自分に近づいてくる。
助けて・・・助けてしおりちゃ
ぱたん
続きます。
自分ではちこっとホラ−風味にしてみたのですが・・・あまり怖くないですね。
特に清麿はもう「戦いの気配」に感づいていることを言っちゃってますんで。
ところで現在の術についてですが、はっきりいって出せる威力は
人間界に居た頃とあまり変わりません。
しかし一部の魔物達は「パ−トナ−と共に在ればもっと上に」と感じています。
(あるいは知っています)
言い方を変えればそう感じるというのが「一流」の資格という風に取られています。
それにしても・・・「一日」シリ−ズがでんでん感想つかなかった&評判悪いっぽいので
ひょっとしたら自分はコメディより「終末の宴」のようなシリアスの方が向いているのかななどと
誤解しかけています。