「ねぇ知ってる? 妖狐は強い男に惹かれるのよ・・・・・・・・・ヨコシマ」
Legend of Devil vol.2 Inauguration その3
「とうとう明日だな」
「ああ」
横島と雪之丞は横島除霊事務所の前に立ち、自分たちの新しい事務所を笑顔で見上げていた。その表情からは希望と決意とそして覚悟が読みとれた。
横島除霊事務所は改装工事が終わり、営業登録も終えた横島達は月初めから営業開始しようと考えていた為、明日10月1日から営業開始ということになったのだ。
「そういやぁ今日は美神の旦那も来るのか?」
「あぁその筈だけど・・・・・・・・・かわいい弟子の門出だからって言ってたけどあそこまで素直な美神さんは逆に不気味なんだよなぁ」
雪之丞の問い掛けに横島は苦笑いを浮かべながら答えた。明日は開業前夜ということで魔法料理魔鈴で開業祝いパーティーがあるのだ。その招待に美神は素直に応じたのだ。
「違げぇねぇ」
雪之丞は苦笑混じりに答えた。
「おぉ、小僧来たか! もうみんな中で待っておるぞ」
「お久しぶりです・横島さん」
魔法料理魔鈴の玄関口で出迎えてくれたのは歴史上最も優れた錬金術師ドクター・カオスと、その代表作であるアンドロイドのマリアだった。
「アンタも来たのか」
「何を言うか! おぬし達の門出を祝ってやろうと来ているんじゃぞ!」
「ただ食い物に釣られただけだろ」
横島の問いにカオスが答え、すかさず雪之丞がツッコミを入れた。実際開業パーティーの招待状は出しているのだから来てくれたことに感謝の言葉をかけるのが当たり前なのだが、このやり取りこそがドクター・カオスへの感謝の言葉なのだ。
「まぁそうとも言うがな。 がははははは」
「「・・・・・・・・・」」
前言撤回、やはりドクター・カオスには感謝の言葉などかけなくてもいいようだ。
「あ、来たわね。 みんな待っていたワケ」
「いらっしゃい横島さん。 本当におめでとうございます」
「横島くん〜〜独立〜〜おめでとう〜〜」
店にはいるとエミ、魔鈴、瞑子の3人が口を揃えて祝いの言葉をかけてきた。更に横島達が奥に入っていくと神族から小竜姫とヒャクメ、魔族からはワルキューレとジーク、パピリオとベスパ、日本のGS関係者は美神とおキヌとシロ、唐巣にピート、タイガー、美智恵と西条、更に弓と魔理といったいつものメンバーと小鳩、そして机幽霊の愛子が揃っていた。彼らは口々に祝いの言葉を横島と雪之丞にかけていった。
一通りの挨拶(横島による乾杯の音頭)が終わると無礼講で飲み食いが始まった。
「それにしても横島くんがここまで立派になるとは考えてもみなかったよ」
「そうじゃいのう」
「何を言っているでござるか! 先生はなんでも出来てしまう凄い人でござるぞ!」
「まぁアンタにとってはそうなんでしょうね」
唐巣の言葉にタイガーが相槌を打ち、それにシロが反論する。そこにすかさずツッコミを入れたのは美神だった。
「あれ? そういやぁタマモはどうしたんスか?」
普段シロにツッコミを入れるのはタマモだった。しかし今ツッコミを入れているのは美神である。店の中を見渡してもタマモの姿はなかった。
「タマモちゃんは具合が悪いとかでお留守番してるんですよ」
横島の問いに答えたのはおキヌだった。
「え? タマモが風邪? 一人で大丈夫なのか? まさかまた毛の生え替わりじゃぁ」
「そうではないでござるよ。 特にこれといって悪いところもないようでござるし、あのバカ狐のこと何か悪いモノでも拾い食いして腹をこわしたんでござるよ」
「まさかアンタじゃないんだから」
「タマモちゃんに限ってそういうことはないと思うけど」
「ははは」
「あ! 先生まで笑うとは酷いでござるよ!」
この日「本日貸し切り」の看板の立てられた魔法料理魔鈴は笑いに包まれていった。
「かなり飲んじまったな」
「大丈夫ですか?」
そう呟きながら横島と小鳩はいつものボロアパートへと足を進めていた。
魔法料理魔鈴で騒ぎまくった後、みんな徒然に別れそれぞれの家に帰っていった。雪之丞は横島のアパートに泊めてもらっていたが
「今日は事務所で寝るさ」
などと言い、眠って(?)しまった愛子の机を担いで横島除霊事務所に向かって行った。
「・・・・・・・・・正直、愛子さんが羨ましいです」
「え?」
「だって、愛子さんは横島さんの事務所で働くんでしょ? 何時でも横島さんと一緒にいられるんだもの」
実際、人手不足の状態だったので一人でも多くの助っ人が欲しかった横島は愛子を事務員として雇ったのだ。彼女は
「いいわよ。 これも青春ね」
と言って快く引き受けてくれた。
「そうだ! 来年私が卒業したら私も雇ってください」
「え!? ・・・・・・・・・」
小鳩の唐突のない提案に横島は黙ることしか出来なかった。己の魔族化、出来る限り他人には知られたくない事だった。その事もあったので、独立という形で美神から離れる事にしたのだ。ここで小鳩を雇う訳にはいかない、横島はそう考えていた。
「だ、ダメですか・・・・・・・・・」
「ほ、ほら、その・・・・・・・・・この先どうなるかまだ分かんないし、ね」
精一杯に誤魔化そうとする横島、ここで「うん」とは言えないところがやはり横島といったところだろうか。どんなことでも女性を傷つけようとはしないのだ。
「そ、そうですね」
気まずい雰囲気のままアパートに向かう横島と小鳩。
「それじゃ〜おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
玄関口で挨拶を交わしてそれぞれの部屋に帰って行った。
ガチャ
「おかえり」
聞き慣れた声、だが聞き慣れない言葉。今までアパートに帰ってきた時に「おかえり」の言葉をかけてもらったのは数えるほどしかない。実際部屋に誰かがいること自体あまり無い。イヤ、むしろ全に有り得ない事だった。
横島は声に反応して部屋の中を見渡した。そこには見慣れた少女が一人横島の帰りを待っていた。開業パーティーに来なかったタマモである。
「な、何でタマモがここにいるんだ? 具合悪くて休んでるはずじゃ」
「仮病よ。 美神達は私がここに来てることも知らないわ。 まっ、身代わり作ってきたからバレないだろうし」
横島の問いにタマモは内容を付け加え自信気に答えた。
「っていうか何でこんなとこに来たんだ?」
それほどの重大事にはならないだろうと考えた横島は溜め息を漏らしつつ、タマモに問い掛けた。
「それは・・・・・・・・・ねぇ、ルシオラって・・・・・・・・・誰?」
「え!? そ、それは・・・・・・・・・」
「アンタに何かあったのは分かるわ! でも、美神もおキヌちゃんも話そうとしないし・・・・・・・・・横島が強くなれば復活出来る!? なによそれ!! ルシオラって何者? 何でヨコシマが事務所を辞める必要があるのよ!? さっぱり分かんないわ!!」
タマモは身を乗り出しながら横島を問いつめる。横島は俯き、考え込んでいたが決心がついたのか口を開き話し始めた。
「ルシオラは・・・・・・・・・」
横島はアシュタロス戦役で起こったことをタマモに話して聞かせた。
「そんな事って・・・・・・・・・」
タマモはあまりのことの大きさに驚愕した。
「でもそれじゃヨコシマが強くなったってその魔族は復活できないじゃない! 私だってバカじゃないわ! この2年で前世の記憶は取り戻したもの、知識はあるわ。 復活させたって・・・・・・・・・アンタは人間なのよ死んじゃうじゃない! いくら強くても魔族でもない限りそんなの無理よ!」
人間の身体では魂を2つに引きはがす事は死につながるのである。唯一そんなことをして生き残る可能性があるのは魔族のみ。タマモはそんな考えを巡らしていたが、自分の掌を見つめながら俯く横島を見てハッと気付いた。
「アンタもしかして」
「!!!?」
「魔モガ・・・・・・・・・」
横島は咄嗟にタマモの口を手で塞いだ。
「・・・・・・・・・頼む、みんなには黙っててくれ」
(ヨコシマ・・・・・・・・・)
タマモは横島の部屋を後にした。そしてアパートの横島の部屋を眺めつつ呟いた。
「ねぇ知ってる? 妖狐は強い男に惹かれるのよ・・・・・・・・・ヨコシマ」
続く
あとがき
お久しぶりです鱧天です。この話を書くのに3週間もかかってしまいました。教育実習と重なり内容もグチャグチャ・・・・・・・・・(汗)
今回はInauguration(発足)その3ということでヨコシマ除霊事務所開業前日までのお話しでした。とりあえずInauguration(発足)はこれで終了です。(中途半端だなぁ)
次回作はDeparture(出発)を書こうと思っています。今後ともよろしくお願いします。