「私はどうすればいいのよ・・・・・・・・・バカ」
Legend of Devil vol.2 Inauguration その2
「横島さん、お疲れさまでした。 修行の方はどうですか?」
小竜姫はそう言いながらパピリオと食堂のテーブルに料理を並べていた。
「はぁ・・・・・・・・・大分なれましたけどやっぱりキツイっスね」
妙神山に来て斉天大聖の元で修行が始まり一週間が経っていた。はじめは8時間だった霊気の流れを読む修行も12時間に増え心身共に疲れ切っていた。
「大丈夫でちゅ!ヨコチマなら絶対にルシオラちゃんを復活の為ならなんでも出来まちゅよ!」
パピリオは横島を後押しするように言った。彼女にとっては大事な姉の復活と横島の命がかかっているのだ。どんなことがあっても横島に強くなってもらわなければならない、そんな考えが頭をよぎる。
「だけどよぉ、こんな修行で本当に強くなれるのか?」
実戦を伴わない修行に強くなるという実感が湧かない雪之丞が口を出す。実際この一週間、雪之丞の魔装術はおろか横島の文殊や栄光の手(ハンズ オブ グローリー)を出すことさえ禁じられていたのだ。
「それはですね」
「御主達は潜在能力を引き出したもののそれ自体を使い切れておらん」
小竜姫の言葉を遮って横島達の背後から斉天大聖が声をかける。
「どういうことっスか?」
横島達は振り返り斉天大聖の顔を覗き込むようにして問いかけた。
「うむ、個々には霊力の上限があり潜在能力を引き出した時点でそれ以上上がることはない」
その言葉に横島達は絶句した。小竜姫だけが平然と聞いているのだった。
「そ、それじゃ修行なんて意味ねぇじゃねぇか!!」
雪之丞の言葉を受け流し斉天大聖は話を進めた。
「じゃが、潜在能力を引き出したところで己の霊力を100%使い切れておらん。 無駄に霊力を垂れ流しているだけにすぎんのじゃ」
「だからどういう事なんだよ!」
斉天大聖の言葉に訳が分からず雪之丞がくってかかる。
「うむ、どれ御主ら文殊と魔装術を出してみぃ」
斉天大聖がそう言うと横島達は顔を見合わせた後精神を集中し、横島は文殊を雪之丞は魔装術を造り出した。
「「なんじゃこりゃ〜!!!」」
横島達の叫びを聞き斉天大聖はニヤリと笑った。それは横島の手には一気に文殊が11個出現し、雪之丞の魔装術は両腕に盾の様な籠手が増えていた。
「い、一週間で11個!? 今まで6〜7個出すのが精一杯だったのに」
「この盾はなんなんだ!?もしかして霊力が上がったって事か?」
それぞれが困惑した状態で疑問が声に出てきた。それに対し斉天大聖が説明を続けた。
「霊力が向上した訳ではない。 今まで垂れ流していた己の霊力が使えるようになったのじゃ。 まぁそれでも微々たるものじゃがな。 大凡10%と言ったところかの」
「「じゅ、10%〜!!?」」
横島と雪之丞はやっと斉天大聖の言葉の意味を理解できた。
「そうじゃ、この間までは5〜6%だったものが10%程度に使える様になったんじゃまぁまぁと言ったところかの〜。 以前言った通り精神と霊気は直結しておる。 各々の霊力源は様々じゃがそれを使えるかどうかは本人の精神力次第じゃ。 更にその霊力に耐えうる為の身体も鍛えねばならん。 今やっておる修行はその全てを鍛えられるという事じゃ」
それだけ言うと今まで威厳を保った斉天大聖の顔が解れ、笑顔で言った。
「ところで、今夜の夕食はなんじゃ?」
そう言いながらテーブルの上を見渡す。勿論横島達も腹が減っている為に早く食べたいのか、身を乗り出してテーブルを覗き込む。そこには酢豚や青椒牛肉絲といった中華料理が並べられていた。
この一週間泊まり込みで修行している横島達の食事は小竜姫とパピリオが作っていた。普段あまり良いモノを食べていなかった2人は毎食事に涙を流して喜ぶのだった。
「サルにはこれでちゅ」
パピリオはバナナを取り出しサルに・・・・・・・・・ではなく斉天大聖に手渡した。
「おぉ、台湾バナナか。 やはりバナナはシュガーポット(腐りかけ)に限るわい・・・・・・・・・モグモグ」
慣れた手つきでバナナの皮をむき口に運ぶサル・・・・・・・・・ではなく斉天大聖。
「・・・・・・・・・何をやらすんじゃ! 小竜姫、教育がなっとらんぞ!」
「も、申し訳ありません」
「まったく・・・・・・・・・モグモグ」
そう言いながら2本目に手を伸ばすサル・・・・・・・・・ではなく斉天大聖。本能とは恐ろしいものである。
「やっぱりサルにはこれが一番でちゅ」
その日の妙神山では笑い声が響いた。
その頃美神除霊事務所では・・・・・・・・・
「今日も来ませんでしたね、横島さん」
美神にお茶を出しながら呟くおキヌ。
「妙神山で修行するとか言ってたし当分来ないんじゃない!」
不機嫌そうに答える美神。
「え? でも文殊の方はどうするんですかね?」
「今週の分は一週間前に手紙と一緒に封筒に入れて”転送”してきたわ!」
おキヌの問いに美神は気に入らないと言わんばかりに答えた。
「うぅ〜先生と散歩に行きたいでござる」
シロの言葉に2人はため息を漏らした。
「あれ? そういえばタマモちゃんは?」
「何か屋根裏部屋で考え事してるみたいでござったな」
おキヌの問いにシロが答えた。
その頃屋根裏部屋では布団にくるまりながら寝転んでいるタマモの姿があった。
「私はどうすればいいのよ・・・・・・・・・バカ」
何度も同じ言葉を呟きながら。
続く