「タイガー…そんなに気ぃ落とすなよ、な?これが初めてってわけじゃないんだし」
ザコッ!
「うう…どうせわっしはこれで10回も失敗しとりますジャ…」
「っだーもー…気ぃ落とすなって言ってるだろ!うじうじするな!でっかい図体して鬱陶しい!!」
タイガー寅吉。神眼の虎とも呼ばれる、最近ではダウジングをも身に付けつつあるオカルト捜査の第一人者である。しかし…
「そうは言っても…魔理さんが今度ウチの事務所に来るっていうのに、わっしはまた落ちてしもーて…ひょっとしたらエミさんにクビにされるかも知れんですケン…」
「そうなったら、どっか他の人の事務所か他の仕事に付いてまた試験受けりゃいーだけの話だろ!?」
そういった能力の悉くが戦闘能力には全く関係が無く…彼はこの度めでたく10回目のGS資格試験に失敗し、激しく落ち込んでいた。
いっそGSになるのを諦めたら楽になるのだろうが…霊能力を使う人間である以上、取っておくにこした事はないし…それに何より、彼の恋人がこう言うのだ。
「GSになるために今まで散々努力して来たじゃないか!なのに途中で諦めるようなヤツとは付き合ってられないね!!別れたいのか!?」
「いえっ!諦めません!!諦めませんから捨てないでツカーさい!魔理さ〜〜ん!!!」
涙を流しながら土下座する勢いで魔理に縋るタイガー。
「ええい、泣くな!縋るな!皆こっち見てるだろ〜!!」
ちなみに、試験に落ちた直後。場所はGS試験会場から少し離れた喫茶店の店内である。
カップルの別れ話(?)に他のお客さん達は興味深々だ。
「出るぞっ!タイガー!!ここはお前のおごりだからな!」
「ああ、待ってツカーさい!」
余程恥ずかしかったのか、早足で立ち去る魔理の後を…それでも律儀にレシートを持って追いかけるタイガーだった。
「あ、お帰り。さっそくだけど、この土器と絵を『読んで』くれない?」
何とか魔理をなだめて事務所に帰ってきたタイガーに、エミは試験の結果を聞きもしないで縄文式火炎土器と額に入った絵を一枚渡した。
サイコメトラーとして警察関係だけではなく、世間一般に認知されつつあるタイガーには時折こうした鑑定も持ち込まれる。本物かどうかなど、サイコメトリーで読めば一発だ。
どこぞの神の手を持つ男だろーと、ギャラリー偽者な元キュレーターだろうと彼を騙すのは難しい。
「は、はぁ…」
試験の結果を聞かれなかった事に不安になりながらもほっとしつつ、それらを『読む』タイガー。
「土器の方はニセモノですノー。絵の方は100年前にどこか外国で描かれとります」
「ふ〜ん…やっぱりか。あ、これオタクの取り分なワケ」
小笠原事務所に来た依頼なので、エミの手数料を引いた分がタイガーの取り分になる。
それを受け取りつつ、エミに試験の事を切り出すタイガー。
「あの〜…実はわし…またGS試験に落ちてしもーたんですジャ…」
「あっそ。で?」
それを軽く返すエミ。
「で?って言われても…その、それだけですケン…今までみたいにお仕置きとかは無いんですかいノー?」
「お仕置きって…もしかしてされたいワケ?」
ギラッ☆
エミの瞳に危険な光が宿る。それを見るや慌てて否定するタイガー。
「ち、違いまっす!そうジャーありまっせん!」
「チッ…な〜んだ……じゃ何なのよ?」
あからさまに残念そうに舌打ちするエミ。
「これでもう10回目ですケン…ひょっとしたらエミさんに見捨てられるかも知れんと思って…」
「昔のままのオタクだったら、そうしたかも知れないけどね」
「なっ…エミさん!?」
言い難い事をズバッと言われて動揺するタイガー。しかしエミの話には続きがあった。
「今のオタクは霊能力者としては間違いなく一流なワケ。戦闘能力も単独では弱いけど、サポート要員としては最高だし、そんな得難い人材放り出すほど私はお人良しでも、バカでもないワケ」
「エ…エミさん…」
滅多に誉められた事の無いエミから誉められ、涙を流しそうになる程感動するタイガー。
それに気付き、急に照れくさくなったエミは別の人間の事に話を持っていく。
「もっとも私も接近戦に強いワケじゃないから、あのオタクの付き合ってる一文字ってコを雇う事にしたんだけどね…あのコ自分から雇ってくれって言って来たんだけど、知ってた?あたしは不器用で頭悪いから殴り合いしかできない。でもタイガーの代わりに闘う事は出来る。だからタイガーに戦闘力を無理に期待しないで、アイツに向いた力を身に付けさせて欲しい…ってさ」
愛されてるわね?と未だ独身の癖に、息子をからかう母親のようにタイガーを冷やかすエミ。
タイガーは顔を真っ赤にして、何も言い返せない。
「そういうわけで、最近オタクに戦闘訓練じゃなくって占いとかダウジングを教えてるワケ。GS試験もオタクの実力ならあとは運だけだし、何度も受けてればそのうち受かるだろうし…あのコにあそこまで言われたら、何かオタクが受かろうが受かるまいが、どうでもよくなっちゃたワケ」
タイガーは何と言っていいのか分からなかった。喜んでいいのかどうかも分からない。
でも魔理とエミが自分の事を大事に思ってくれているのは分かったので、こう言った。
「エミさん…有難うございますジャ…」
「な〜に言ってるワケ」
エミは笑ってそれを受け入れた。
しかし、この後唐巣神父がGS協会会長に就任し、GS資格に特別枠を設けるまでタイガーがGS試験に落ち続ける事を…彼らは知らない。
タイガー寅吉。運命にある意味愛された彼がGSと名乗れる日は…この時から、まだ数年先の事である。
<完>
なお…唐巣がタイガーにGS免許を支給しようとした際、他の協会幹部が一致団結して一つの条件を付けたという。
その条件は『彼が今後ともGS試験に挑み続ける事』。
…どうやら、タイガーがどこまで落ち続けるのか見守る会なるものがいつの間にか発足し、その規模は意外と大きいものになっていたらしい。
応援されてるんだかされてないんだか、微妙なカンジで今後もタイガーの挑戦は続く。
頑張れタイガー寅吉二十ピー歳。三十までには受かる………………といいな(笑)
<今度こそ完>