目的地の居酒屋の前で携帯を取り出して時刻を確認。約束の時間に間違い無い。
しかし辺りを見回しても、待ち合わせの人物は見当たらない。
だが慌てず騒がず相手の性格を考え、多分何らかのトラブルに巻き込まれているのか、それとも一足先に中で飲んでいるんだろうと予想する。
このあたりは、最近の仕事柄身に付けた職業病みたいなものだ。昔の自分だったら、何も考えずに何かあったのかと心配して、でも何も考えずここでオロオロしていただろう…
少しばかり自嘲の笑みを浮かべて、暖簾をくぐる。案の定、カウンターに自分を呼び出した相手の姿があった。
「ちょっとぶりですノー。何の用ですジャ?横島サン」
相変わらず、気取らない雰囲気の親友に挨拶して横に座る。
さて、このトラブルメイカーは今度はどんなトラブルを持ち込んでくるのやら。
「いや〜、ちょ〜っと今回急ぎでな〜?一人、弱みを握って欲しい偉いさんがいるんだ」
「…出会い頭にサラッと、危ない依頼をせんでツカーさい…」
今までの付き合いからある程度覚悟はしていたが、やって来たのは予想以上の直球だった。
サイコメトラーTAIGA InterMission−2
「ま、そーゆーなって。マジで急いでんだよ」
「ネギマをかじりつつ言っても、説得力が無いですノー…」
焦っているように見えなくも無いが、やはりどこか緊張感が無い横島にツッコむタイガー。
ツッコまれた横島はそれをスルーして顔を寄せ、小さな声で囁いた。
「タマモの事が、政府関係者にバレた」
「な…!?」
「元々な?アイツの件はそーゆーオカルト関係に過剰に反応する一部の連中から依頼があったんだよ。でなきゃ、政府が億単位の金出して除霊するわきゃねーだろ?」
傾国の魔物。権力を握っていると自覚する者達が、自分の身が危ないと思ったからこそタマモは速攻で除霊依頼が出たのだ。
「で、今回バレたのは、その人達に…?」
「いんや。幸いその取り巻きってトコだ。で、殆どが美神さんが“何とか”したんだが…」
いったいどうゆう具合に“何とか”したのか、タイガーは聞きたかったがスルーした。
「頑固なのがおった、とゆーわけですノー」
「ま、そーゆー事だ。時間が無いってのもそーゆー事。明後日の朝までに、そいつの口を塞がなきゃならんのだが…」
「文珠は?」
「打ち止め。だから取りあえずの時間稼ぎ程度のネタでかまわない」
「了解ですジャー」
これで一応用件は終わった。しかし、この際だから聞いておきたい事が横島にはあった。
「なぁ、タイガー」
「はい?」
「そろそろ、また例の時期だよな?」
遠回しだが、即座に察するタイガー。
「ええ…GS試験ですジャろ?」
「…いつまで、受け続けるんだ?タイガー。もういいじゃないか。もう誰もお前を半人前だなんて思ってない。俺だって、美神さんですら、こうやってお前を頼ってる…なのに、何で挑み続けるんだ?」
その問いに ふ… と笑ってタイガーは答えた。
「十代の頃から、ずっとやって来ましたケン…今更、止められんですノー。周りの人らは、横島さんを始め、ピートさん、雪之丞さん……
魔理や弓さん、シロさんタマモさん、アンさん、陰念…そうそう、この間ワッシを負かしたヒノメさんまでアッサリと…」
「解った!解ったからもう言うな!!」
「いえ、言わしてくだっサイ!ワッシだって頑張ったのに!?何でジャー!?実力は最初の頃とは比べ物にならん位あがっとるとゆーのにっ…!!」
「タイガー!!」
「タイガーだから!?ワッシがタイガーだからそーだとでも言うんですカイ!横島さん!?」
ぶっちゃけその通りだが、流石に口には出せないのであからさまに視線をそらす横島。
「ドチクショォォォーー!!今度こそ……今度こそワッシは!お約束を超えてやるぁああああ!!!」
ドカッ!!だだだだだだだ……
居酒屋のドアを体当たりでブチ抜き、どこかへと走り去っていくタイガー。
「あ……」
フォローするタイミングを逸した横島の手が、所在無く彷徨う。
と、ポンとその肩を叩く人がいた。
「お客さん……取りあえず弁償してくださいね?」
「はい…」
逃がさねぇぜ、とばかりに肩をワシッと掴む店員さんに、横島は素直にうなづいた。
タイガー寅吉。二十代ももう半ばの秋の事だった…