「次っ!」
「……ふむ。どうやらこの凶器を使ったのは年配の看護婦みたいですノー…」
血錆の付いたナイフを手に取り、目を閉じて集中したタイガーは静かにそう告げた。
「なっ…しかし彼女にはアリバイが」
「いや、彼の言う事に間違いは無い。至急、その女を洗い直せ」
「はっ!」
若い刑事がそれに反論するも、年配の刑事がタイガーの言を支持して若い刑事に捜査の指示を出す。
ここは都内の某警察署の証拠品保管庫。
ここでタイガーは自分の能力を生かしたバイト…一件3千円で片っ端から証拠品をサイコメトリーしていた。
なんと言うか、微妙なお値段であるが一警察署の予算からでは仕方がない。
「次は、この靴をお願いします」
年配の刑事が次の証拠品を差し出しつつ、丁寧な口調で頼む。
彼はタイガーの能力を何度も目の当たりにしており、その能力と全く奢らぬ謙虚な姿勢に一目置いているのだ。
「……ム?自転車に乗った主婦…ですノー?この女性が何か?」
無言で頷き、靴を手に取ったタイガーが読み取ったものは…普通の主婦が自転車に乗っているだけの記憶だった。
証拠品と言っても、必ずしも有益な情報が読み取れるとは限らない。
人を傷つけた凶器などなら、その物品に宿った最も強烈な記憶…それを使った人間の感情の最も強烈だったであろう傷害や殺人の瞬間が簡単に読み取れる。
しかし、例えば空き巣が開けたタンスの引き出しから無数に開け閉めをした家族の記憶ではなく、一回だけ触っただけの空き巣の記憶を読み取るのは難しい。
この場合は靴だった為、日常的な記憶しか読み取れなかったのだが…今回はそれで十分だった。
「その女性は通り魔です。目撃者の証言で似顔絵を配布しているんですが、まだ捕まっておりません。ですから…」
「わかっとりまっす。これの出番というわけジャノー」
そう言うと、自分の荷物から今時珍しいポラロイドカメラを取り出すタイガー。
そして目を閉じて、レンズカバーも外さずに無造作にシャッターを切る。
パシャ ジジジ…
そうして出てきた真っ黒なはずの写真には、先ほどタイガーが読み取った主婦らしき女性の顔が写っていた。
「おい!例の通り魔の女性の顔写真だ。至急手配しろ!」
「はっ!了解です!」
それを受け取った年配の刑事は、すぐさま部下を呼び出してそう命令した。
そう。これこそタイガー寅吉が『3度目』の妙神山修行で手に入れた力である。
説明しようっ!
猿神によって一時的に霊力をアップさせられた修行者は、上がった霊力が元に戻らないうちに潜在能力を引き出すため猿神と戦わねばならない。
しかし、彼が前回猿神に吹き飛ばされつつ目覚めた能力は……
サイコメトリーだった。
今回
も戦闘に全然関係が無かったら、戦っても危険なだけで意味が無い…
そう猿神に判断されたタイガーは、戦う代わりに透視や遠隔視、遠隔聴、瞬間移動や念動など超能力系の能力を思いつく限り試した。その結果、判明した彼の第3の能力。それが………
念写だった。
今は心にイメージした物をポラロイドの写真に写すだけだが、修行次第で目的の人物や物の現在の様子を写し出したり、デジカメやビデオカメラ、水面に動画を映し出したり出来るようになるだろう。
これはこれで素晴らしい能力である。
しかし。
そう。しかし………
やっぱり、全然戦闘の役には立たない(笑)
まるで神か悪魔が、あるいはその両方が手を組んでからかっているかのようなこの成果に…友人や関係者一同は同情と哀れみの視線を送るしか無かったという。
証拠品を始め、あらゆる物体から情報を読み取るサイコメトリー。
容疑者や関係者の嘘を許さず、その真実を見抜く精神感応。
そしてそれらを他者の目にも明らかにする念写。
この3つの能力を身に付け、今や警察関係者の間で“神の眼を持つ虎”と呼ばれる男、タイガー寅吉。
しかし、GS資格試験第2次試験をいまだ突破できない彼の職業は…GS見習いのままだったりする…
運命に嫌われているかの如く、自分の能力にまである意味裏切られた彼がGSと名乗れる日は…
まだ、遠い。
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