現れたタンク型ACは、ゆっくりとした動きで間合いを詰めてくる。
その機体から、搭乗レイヴンの声が聞こえてきた。
『ぎゃはははは、いいザマだなっ!俺の罠に見事に引っ掛かって、自慢の機体もボロボロじゃねぇか!なあ雪之丞っ!』
『てめぇっ…本名バラさねーのはレイヴンの不文律だろーが陰念っ!』
『てめえこそバラしてんじゃねー!!』
激昂する敵に、ザ・キラーはしれっと言い返した。
『だって俺、てめーのレイヴン名知らねーもん。つーか、お前がレイヴンになってる事すら知らなかったぜ』
『ぐっ…。いいか、俺の事はデモニッシュと呼べっ!いいかデモニッシュだっ!!』
『あーわかったぜ陰念』
『お・ま・え・わ〜〜〜!!!』
陰念改めデモニッシュは怒声を上げる。
その様子を見て、ポチは感嘆の呟きを漏らす。
「さすがだぜザ・キラー…。最初はヤツのペースだったのに、いつの間にかすっかり逆転してやがる」
『…拙者、どちらかと言うとあの敵の方がド三流なせいだという気がするでござるが』
「そりゃ言いっこナシだ。だって可哀想だろ?」
『先生…やっぱり優しいんでござるな…』
『て・め・え・ら・も〜〜〜!!!』
こめかみから血を吹きそうなほど頭に血を上らせたデモニッシュだったが、ぜいぜいと深呼吸をすると落ち着きをとりもどした。
彼は再び嘲うような口調で言葉を続ける。
『へっ!だがどーせこっちの作戦に引っ掛かったズッタズタの機体じゃあ、ピッカピカ新品同様のこっちにゃぁ勝てやしねーぜ!』
「いや新品同様ったって、なんとなくみすぼらしく見えるんだが。見た目中古パーツも多いみてーだし」
『それに俺達を引っ掛けた引っ掛けたって自慢そーだが、どーせお前が考えた策じゃねーだろ。まだ奴とつるんでんのか?まだ尻は無事か?』
『え゛っ!?そ、そんな人だったんでござるかっ!?せ、拙者子供だからわかんないでござるっ!』
『うっがあああああああああああ!!!』
完全にブチ切れたデモニッシュは、腕装備のマシンガンと肩装備のチェーンガンを交互に乱射した。
ポチとホワイトウルフは機体を飛び退かせた。
ザ・キラーはデュエリストを横滑りさせて被弾を最小限に抑えつつ、マシンガンを連射する。
『ち…ちょこまかとっ!』
『へっ、あいかわらずだなっ!』
タンクらしからぬ機動戦を見せるデュエリストに、デモニッシュは焦った様子を見せる。
だが実の所、ザ・キラーの側もさほど余裕があったわけでは無い。
ポチやホワイトウルフと闘り合った結果の損傷はかなり大きいのだ。
そしてポチは少々悩んでいた。
正直な所彼は、デュエリストが倒されようがどうしようが知った事ではない。
第一彼のACを穴だらけにしてくれたのはザ・キラーなのだ。
だが万が一ザ・キラーが倒されてしまえば次は彼等の番である。
『先生…』
「…しゃーねぇなあ。やるぞウルフ、デュエリストに当てないように注意しろ!」
『はいっ!』
ポチの栄光Ver.2がバーストライフルを撃ち、ホワイトウルフの雪狼が光波を放つ。
それ等は見事にデモニッシュの機体へ着弾する。
だが栄光Ver.2からの火線はあっと言う間に途絶えた。
「げっ!た、弾切れ!?」
そして当の相手の機体はさほどダメージを受けていない。
デモニッシュは高笑いを上げる。
『ぎゃははは!たっぷり弾使わせといた甲斐があったってもんだぜっ!それに俺のデモン・アーマーを舐めちゃこまるぜぇっ!エネルギー兵器対策はばっちりだっ!』
『エネルギーシールド…。それにエクステンションのサイド・シールドでござるか…』
ようやく名前が出た敵AC…デモン・アーマーの左腕には対エネルギー兵器効果の高いエネルギーの盾が展開され、同時に両肩の脇にも似たようなエネルギーの盾が展開されていた。
その光芒はあっという間に消える。
エネルギーシールドはコンデンサのチャージを大量に食うのだ。
それ故にポチ達がブレードの類を使うモーションを見せたら、その間だけシールドをオンしているのだろう。
『ち、だがやっぱ邪魔だなっ!…なら…こうしてやるぜ!』
デモン・アーマーは右腕のマシンガンを自分が隠れていた部屋へと向け、引き金を引いた。
途端に広間の照明が落ち、真っ暗になる。
「あーーーっ!あいつ電源装置ブチ壊しやがったっ!?」
『なんにも見えないでござる〜〜〜!』
『ぎゃはははは!てめえらの機体で暗視機能があんのは雪之丞のだけだってわかってんだ!てめえらは雪之丞しとめたらゆっくり嬲り殺しにしてやらあ!』
『けっ、上等だ…。てめえごときに俺が倒せると思うなよ』
闇の中、マシンガンのマズルフラッシュだけが輝く。
相手が見えない以上、雪狼のブレード光波攻撃はうかつに撃てない。
下手に栄光Ver.2にでも直撃させたら目もあてられないのだ。
栄光Ver.2の側でもさほど事情はかわらない。
暗闇でもロックオンは可能なので、彼は武装をミサイルに切り替えておおよそ敵がいそうな方角を狙った。
だがミサイルはロックオン完了までに時間がかかる。
その間に敵はロック範囲から出てしまったりするし、あるいは撃てそうと思った時に前方にホバー炎…無論ザ・キラーのデュエリストだ…が見えてしまい撃てなかったりする。
さらにそうやって撃つのを躊躇している内に、ロックオンが勝手に外れたりもするのだ。
「げ。KISSYOHか…」
『な、なんでござるか?』
「ロックオン解除パルスを出すオプションパーツだよ…。ちっくしょ、ミサイル対策も万全だってか…」
突然マシンガンの発砲音が半分になった。
マズルフラッシュの閃光も半分になる。
デモニッシュの嘲笑が響いた。
『ひゃーっはっはっは!とうとう弾切れ、だなぁゆきのじょぉ〜?いくらなんでもそんだけ撃ちまくってりゃ1000発マシンガンだって弾が切れらあ!』
『け!舐めやがって…。てめーなんざブレードで充分よっ!』
『甘えんだよ!エネルギー武器対策は万全だっつったろうがっ!』
暗闇の中、巨大な鉄塊と鉄塊が衝突する音が響く。
そしてわずかな間エネルギーシールドとブレードの光芒が見え、チェーンガンのマズルフラッシュが網膜を焼いた。
無論そのチェーンガンはデモン・アーマーの物でしかありえない。
ポチはごくりと唾を飲んだ。
彼は外部音声を切り、雪狼とデュエリストに回線を繋ぐ。
「…オイ、お前ら外部音声切れ。切ったか?…いいかザ・キラー、ちょっとの間だけ射線を空けろ。奴に隙を作ってやっから」
『…お前弾切れだろ?何をする気だ?』
「いいから!ウルフ、お前は俺が合図したら『撃たれてる奴』に向けて光波連打しろ。今度ばっかはチャージ状態なってもいいから。あ、でもできれば電池は使うの忘れんなよ。…それと『撃ってる奴』を撃つなよ!俺だから!」
『わかったでござる!』
『…へっ、OKだ。その後は俺にまかせろ』
ポチは通信を終えると、自機の両腕装備…バーストライフルとブレードを強制排除した。
栄光Ver.2の両手は自動的にハンガーユニットに格納されていた予備武器を掴む。
ポチは自分のACに、二丁拳銃を抜き打ちさせた。
先ほども言ったように、闇の中でもロックオンは行われる。
そしてロックオン解除パルスの発動には時間がかかるため、ミサイル以外にはさほど効果が無い。
連射される拳銃弾がデモニッシュのACを連打した。
『のわあああぁぁぁっ!?』
「今だウルフやれっ!」
『応っ!!』
拳銃弾が着弾する閃光に向けて、雪狼が放つ光弾が連続で命中する。
デモニッシュはあわててエネルギーシールドとエクステンションのシールドを稼動させた。
だがその時、闇を劈く金属音が響き渡る。
そしてOBの光条を後に曳き、デュエリストがデモン・アーマーに突撃した。
ザ・キラーは拳銃弾とブレード光波に巻き込まれるのもいとわずにACを衝突させる。
デモン・アーマーは部屋の角に押し付けられ、身動きが取れなくなった。
デュエリストの両手には、先ほどまであったはずのマシンガンとブレードは無くなっており、いつの間にかハンガーユニットから抜き出されていた物騒な拳銃状の武器…小型グレネードが握られている。
外部音声でザ・キラーの不気味な笑声が響いた。
『く、く、く…びーびーびー』
『て、てめえ!?』
『びーびーびーこの距離なら絶対外しゃびーびーびーしねぇ…。オワリ、だなびーびーびー』
『ま、待て!』
『待たねーよ!びーびーびー』
零距離で連射されたグレネード弾はデモン・アーマーに直撃し、デュエリストを巻き込んで爆裂した。
ザ・キラーの声には先ほどからOBの使いすぎでチャージ音が混ざっていたが、グレネードはエネルギー兵器でないためエネルギーチャージ中であっても射撃可能なのである。
爆炎の中からのそのそとザ・キラーのACが後退して来た。
頑丈な装甲もあちこちが捲れ上がり、修理に相当かかりそうである。
炎の中からデモニッシュの泣き声が聞こえてきた。
『あ、あ、あああ!びーびーびー温度が!下がらねぇ!びーびーびー冷却が!シールド切らねーと!ってチャージがかかってっからびーびーびーはなから動いてねー!ああ熱が!びーびーびー燃える燃える!あああ』
『さらば陰念…』
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏、アーメン…」
『あ。やっちゃったでござる』
デモン・アーマーは突如内側から炎を吹き上げ、パーツ毎にばらばらになって崩れ落ちた。
こうしてこのミッションは、なんとかかんとかぎりぎりズタボロではあるが成功に終わったのである。
ちなみに彼等が無事助かった事で、オペレータ達が陰で安堵の溜息をついていた事は言うまでも無い。
何故って減俸の割合が少しでも違うから。
ミッションの次の日、ポチとホワイトウルフは食材の買出しに出ていた。
ポチが弟子に話し掛ける。
「…なあ。オマエはどうだった?赤字か?」
「ふっふ〜ん♪実は今回も黒字でござったよ〜♪」
「ナニっ!いくらだっ!」
「な〜んと132C!」
「ふ…。勝ったな。俺は1千とんで4Cの黒字だっ!」
「ががーん!ま、負けたでござるっ…」
そして二人は笑声を上げた。
ちなみに渇いた笑いである。
普通レイヴンが黒字と言ったら、修理費を引いて万単位のCが残る物だ。
ぶっちゃけこの程度の儲けでは、あれだけ必死に働いて文字通り死にかけた意味はまったく無いと言っていい。
二人はヤケッパチのように笑い続けた。
「はぁ…。まあ、赤にならなかっただけ良しとするでござるよ。安売りショップで賞味期限ギリギリ見切り品の子供ソーセージと子供ハンバーグが大量に安く買えたでござるし、しばらくは食べる物にも困らないでござるよ」
「しかし…。アーマードコア・ネクサス・ソーセージとアーマードコア・ネクサス・ハンバーグ…ねぇ?なんか間違えてるよな絶対…」
二人は最近食事をいっしょに摂っている。
正確には、ホワイトウルフが親切の押し売り的に、ポチの部屋へ料理を作りに来ているのだ。
ポチの側では当初渋っていたが、一人分づつ作るよりも食費が安く上がる事、絶品とまでは行かないが味がそこそこ良い事から今ではそこそこ歓迎している。
もっともホワイトウルフの方では別の意図もあるようだが…。
それはともあれ、彼等はポチの部屋の前までやって来た。
だがその時、ホワイトウルフが柳眉を逆立てる。
「…中に誰かいるでござるっ!」
「何!?」
ポチは荷物を廊下に置くと、懐から拳銃を抜き出した。
ホワイトウルフも左手にコンバットナイフ、右手に投げナイフを構える。
ポチは彼女に頷くと、扉を開けてその前から飛び退いた。
だが中からは何も飛び出して来ない。
彼はゆっくりと中へ踏み込み…そして唖然とした。
そこには一人の男が堂々と座り込み、彼の大事な保存食である缶詰を貪り食っていたのだ。
「なにしとんじゃオマエはっ!」
「ドロボーでござるかっ!?」
「よー、遅かったな」
抜け抜けと言い放つ目つきの悪い小男の声に、彼等は聞き覚えがあった。
「てめえザ・キラーかっ!?」
「何してるんでござるかっ!!」
「いや、ACブチ壊れて食費にも困ってるんでな。ちょいと助けてもらおーと思ってよ。ダチだろ?」
不幸が凝り固まったような師弟は絶叫する。
「「誰がダチだ〜〜〜っ!!!」」
「お前らが」
ザ・キラーは取り合わずに次の缶詰を開けた。
本日のレイヴン情報:
レイヴン名:デモニッシュ(♂)
本名:陰念(ホントに本名かは不明)
AC名:デモン・アーマー:492800C
頭部:H01−WASP(実防40%・E防60%):40000C
コア:CR−C69U(初期パーツ):61000C
腕部:A01−GALAGO(実防30%・E防70%):40000C
脚部:CR−LT69(E防100%):33000C
ブースター:無し:0C
ジェネレータ:CR−G84P(出力100%):54000C
ラジエーター:CR−R69(初期パーツ):14700C
FCS:MF02−VOLUTE:42000C
インサイド:I04E−SQUID:45000C
エクステンション:E03S−TURBOT:36900C
右肩武装:CR−WB72CGL:46000C
左肩武装:CR−WB69RA(初期パーツ):19700C
右手武装:WR02M−PIXIE:16000C
左手武装:CR−WL74ES:15500C
右手格納:なし:0C
左手格納:WL01LB−ELF:29000C
機体解説:某M社(笑)専属レイヴン『デモニッシュ』のAC。
カラーリングは仕事毎に変えるが、戦車調のオリーブドラブに塗られている事が多い。
後暗い裏方任務が主任務の機体である。
そのため某M社(笑)との繋がりを悟られないよう複数社のパーツを組み付けている。
所有者の人間関係が悪いため、あまり高価なパーツは支給されなかった。
だがそれでもそれなりにそこそこ強力に仕上がっているのが不思議。
まあ自分でも報酬はたいてオプションパーツとか頭部パーツとか買ったし。
機動力の死ぬような狭い場所でその真価を発揮する。
ちなみに排熱に弱点を抱えている。
だからよく燃える。
備考:アーク所属レイヴン『ザ・キラー』と過去の因縁がある人物。
どうやら少年時代は不良仲間(笑)だったらしい。
しかし互いにあまり仲はよくなかったようだ。
某M社(笑)においても消耗品の捨て駒扱いを受けている可哀想なヒト。
(あとがき)
えー、ちょっとだけ考えて書いてます。
でも基本的になんも考えてません(笑)
というわけで、正体は陰念でした〜。
もう一人はまだ出てきてません。
というか、出てきたらまだ勝てないかなあ。
そのうち出そうとは思ってますが…。
美しき薔薇の人を。
…。
おいといて。
ザ・キラーというかゆっきー、やっぱりお気に入りですね〜。
ついついひいきしちゃいます(笑)
ではでは、レス返しです〜。
>D,さん
はい、勘違い帝王ですね〜。
まあポチの秘めた力…というか才能については、ザ・キラーの見立てもそうそう間違ってはいないんですが…。
過大評価気味ではありますね(笑)
でもって大当たり、陰念でした!
>九尾さん
狐っ娘さんも先輩に毒されましたから(笑)
まあでも、タマモもけっこううっかりさんなんですけどね、GS本編で。
「ブレーキってコレ?」
「それはハンドルー!」
あのシーンは脳裏に焼きついてます…。
ちなみに前回ラストで喋ってたのはザ・キラーのオペさんじゃなくて陰念ですよ〜、解りづらかったでしょうけど(笑)
>kuesuさん
実はまだ決まってないんですよ。
弓かおりもタンク使いとして出そうか、それともザ・キラーのオペさんにしようか、と…悩んでますんで(笑)
恐ろしい人は…一応役柄決まってます(笑)
ちなみに防衛戦力の二機目は既に帰還してて別の戦場に借り出されてますので今回出ませんでした。
陰念と違って、エース級なんで忙しいんですよ(酷ぇ(笑))
>大仏さん
才能はあるけどヘタレっぽい…って所を表現するのって、難しいですねえ…。
ちょっと格好良過ぎになっちゃたかなあって気がしますからね、前回今回。
しかし逆玉を狙う雪之丞が見たい、ですかぁ…。
う〜ん、どうしようかなあ(笑)
>朧霞さん
『彼』が相棒っすか…(笑)
一応役柄は決まってはいるんですが『彼』は…でも話運び次第ではどうにかなる役柄でもありますね。
ちなみに私が書くピートはホモじゃないですからね一応言っときますが(笑)
ところでユッキー、OBは機動力確保の他にも今回のように特攻にも使います。
真正面からゴリゴリやりあうだけの人間じゃないですが、真正面からゴリゴリやるの好きですからハイ(笑)
その頭パーツは拾わせてもシロに使わせたいですなあ、軽いし…。
一応貯金は多少はあることにしてはいますが、いつブチ壊れるかわからんので保険の意味も込めて残しとかないと、と思っておるんですな。
ちなみに残さないで全部ブチ込むのが雪之丞(笑)