旧世代の遺跡の奥深くの広間にて、３機のＡＣが乱戦を繰り広げていた。

　正確にはこの戦い、２対１のハンディキャップ・マッチである。

　だがどちらかと言えば不利なのは２機の方であった。

　狭い閉鎖空間では、ＡＣの機動力は大きく削がれる。

　そのためホワイトウルフの雪狼はその持ち味を殺されていた。

　今も敵機のマシンガン連射を避けようと横っ飛びして壁にぶつかり、結果避けきれずに半分近く被弾してしまう。

　あわてて仲間の中量級二脚タイプがライフルを撃ちながらカバーに入った。

　その中量級…ポチの栄光Ｖｅｒ．２は、万能型と言えば聞こえがいいが、その実器用貧乏なセッティングになっている。

　そして器用貧乏だと言う事は、別な側面も持つ。

　そう、彼のＡＣは重装甲の敵を相手取るには致命的に火力が不足していたのだ。





「ちっくしょ〜〜〜！」

『おのれっザザザ卑怯もザザッ』





　ポチの装備中最大の火力を誇る肩装備のミサイルは、現在ＥＣＭによって使用不可能だ。

　ミサイルを使うにはＦＣＳによるロックオンが必須である。

　だがＥＣＭによりロックオンを妨害されてしまっては撃てる物も撃てないのだ。

　電子妨害の強さというものは技術上なかなか安定させられないらしく、ときどき思い出したようにレーダーやＦＣＳが生き返る事もあるが、ほんの一瞬では意味が無い。

　そして主武器であるバーストライフルはロックオン無しでもなんとか使えなくも無いが、やはり命中精度は落ちてしまう。





「くっそ…。こっちが盾になってウルフに攻撃任せるしかねーか…。とほほ、修理代…」





　ポチはあえて囮となるべく、敵の前面に出て機体を左右に小刻みに小ジャンプさせた。

　無論ライフルのトリガーは引きっぱなしだ。

　その隙にホワイトウルフは雪狼を敵側面から後背へと回りこませる。

　だがザ・キラーは外部音声のボリュームを最大にして叫んだ。





『甘ぇ！！』





　レイヴンであれば誰しも聞き覚えのある金属音にも似た轟音が、デュエリストの背部から響き渡る。

　それはオーバードブーストの起動音だ。

　ホバータンク型ＡＣは急加速すると間合いを取り、流れるような動きで旋回する。

　これがホバータンクの恐ろしさだ。

　ホバータンクは下手な二脚はおろか、重装四脚タイプにも迫る旋回性能を持っているのである。

　さすがに軽量級や並の四脚には届かないし、機動力のために若干強度が損なわれている面もあるのだが、瑣末な問題と言えなくも無いだろう。

　雪狼は既にブレードを発生させており今まさに斬りかかろうとしていた。

　だが、もはや目標は光刃の届く範囲外だ。

　ホワイトウルフは舌打ちすると、斬撃が空振る間際にブースターを空噴かしさせる。

　雪狼の左腕に仕込まれたブレード機構が異常発光し、光波が射出された。

　蛇足になるが、ホワイトウルフは今まで光波を撃つのに武器腕の光波射出システムを用いていた。

　このように手動で光波を撃てるようになったのは、ポチの指導の賜物であったりする。　

　ホワイトウルフ会心のブレード光波がデュエリストの胸板を直撃した。





『やったでごザッる！！』

「ばか避けろっ！」

『遅ぇ！！』





　ザ・キラーの咆哮と共に、マシンガンの弾幕が光波を放った直後の硬直から復帰できていない雪狼を打ちのめした。

　ポチはブースターを噴かして敵機と雪狼の間に割り込む。

　彼は微妙に姿勢を制御して、機体左側面を敵に向けるのも忘れない。

　これは機体前面が既にけっこう弾丸を受けている事と、エクステンションの追加装甲が機体側面をカバーしている事を計算に入れた行為だ。

　そしてバーストライフルの引き金を引きながら、相手のマシンガンのカートリッジ交換のタイミングに合わせて栄光Ｖｅｒ．２を向き直らせた。

　ライフル弾がデュエリストとその周辺に着弾する。

　デュエリストに命中した内の更に何発かは、アイロン型脚部の装甲に斜めに当たってあさっての方向へ跳ね飛んだ。





『うおおおっ！？…は、ははっ！やりやがる、やりやがるぜっ！そうだっ！それでこそ俺が見込んだだけはあるぜっ！』

「おまえみたいなんに見込まれたくないわいーーー！！！」

『せ、先せザッ…』

『…ねえ先輩ザッザザザ跡を襲ったＡＣザザッ所属って…』

『…え？…あ。まさかザザッ』





　ポチは雪狼がよたよたと敵の射界から出たのを確認した上で、自分も機体を横っ飛びさせた。

　だがその時一瞬だけＥＣＭの効果が弱まり、ＦＣＳがわずかな時間生き返る。





「！？」





　ＡＣのロックオンサイトは、敵がたとえ壁の向うにいようともセンサーで捉える事ができていれば自動的にその敵をロックオンする。

　ポチの目は、ＦＣＳが生き返ったその一瞬、自機のサイトが壁の向こうの『敵機』をロックしたのをはっきりと見た。

　彼は一瞬唖然とし、次に必死で頭の中に遺跡の地図を思い浮かべる。

　そして同時に、彼の脳裏に先ほどノイズ混じりで聞こえたオペレータ達の会話がよぎった。





（まさか…。いや…。そんなアホな…）

『く、くううぅっ！？ザッ貴様あああ！』

『ははっ！？邪魔だメスガキっ！』

「ストーーーップ！！待った待ったあああぁぁぁっ！！ちょい休戦だっ！！！」





　ポチは外部音声をオンにすると、大声で叫んだ。

　雪狼もデュエリストも、『休戦』の一言にぎょっとした様に動きを止める。

　彼は更に、交戦の意思が無い事を示すように機体の両腕をバンザイさせた。

　ザ・キラーは苛立ったような声を上げる。





『ああぁ！？なんだ降参ってか！？冗談じゃねーぞ』

『先生！いったいザッしたでごザッザザ』

「ウルフ、お前も無線じゃなく外部音声に切り替えろ。ノイズ混じって聞きづれくてしょーがねー。それとザ・キラー…だったよな？別に降参ってわけじゃねー」

『だったらさっさと構え…』





　ポチはザ・キラーの言葉を遮って続ける。





「話最後まで聞けって。…いいか？俺達のミッションは『ココへの攻撃任務』だ」

『先生！？今更何を…』

『何いぃっ！？』





　ザ・キラーは愕然とする。

　ポチはそんな彼に尋ねた。





「なあザ・キラー、お前はどんな依頼受けてきたか教えてくれんか？依頼人とかは明かさんでいいから。ってか、そりゃ当たり前だけどな」

『俺は…。ほんとに依頼人は明かさんぞ？…俺が受けた依頼は、ここを占拠してる奴らへの意趣返しだ。勝手に囮の陽動作戦に使われた上、約束してた援軍にも来なかった野郎をブッちめてケジメ取れ…ってよ』

「『依頼者言ってるも同然だって…』」





　ポチとホワイトウルフは各々自機の腕でデュエリストに突っ込みを入れた。

　そしてホワイトウルフは不審そうな声を上げる。





『…とすると…どういう事なんでござるか？この輩は拙者達のミッションに全然かんけーないんでござるか？』

「関係ないってまでは言えねーだろうが、よ。だがここで戦うべき相手でも無かったってコト…。つまりは…」





　ポチは機体を奥の壁に向き直らせると、いきなりブレード光波を見舞った。

　無論、バーストライフルの弾がもったいなかったからである。





「さっさと出て来いや！いいように引っ掛けてくれたなっ！」

『…バレちまったか。ま、てめえらみんな充分削れたし…。弾も随分使わせたし、これでいいとすっかね』





　その声と共に、奥の壁…に見えていた対爆シャッターが上がり始める。

　そしてシャッターの向こうには一体のＡＣがいた。





『ま、またタンク型でござるっ！』

『てめぇ…』

『へへ…。こちとら隠れてＥＣＭ使ってただけなのによ…。うま〜く引っ掛かってくれたよなあ』





　彼等を一時放っておいて、ポチは無線機へ話し掛けていた。

　相手は無論ペス達である。

　ちなみに敵がＥＣＭメーカーを使い切ったのか、それとも高価いからもったいないのか、今はもうＥＣＭを出していないので通信は明瞭だった。





「おい…。おまえら…。さっき妙なコト言ってたよなぁ…」

『え…？』

『あ、ははは…』

「遺跡を襲ったＡＣの所属がどーのこーの、と…。『デュエリスト』はレイヴンズ・アーク所属レイヴンのＡＣ…。でもって、よ？もしかして遺跡を襲った奴らってのは…。所属不明ＡＣ、だとか…言ったりせんか？』

『『……』』





　オペレータ達は言葉に詰まる。

　そこにホワイトウルフも絡んできた。





『…さっきの戦闘中に…その事に気付いたんでござるな？でもって…言い出せなかった、と？』

『『………』』

「いやソレよりよ。戦闘中に気付くって何だよそりゃ。相手がアーク所属だってわかった時点で気付かにゃならんだろ…。諸般の事情とやらでレイヴンにあんま情報明かさんのは仕方ないとしても、よ？」

『『…………』』





　どこかで『ぶちり』『ぶちり』と音がする。





『女狐えぇ…』

「ペス…」

『こンの…』

「『役立たず〜〜〜！！！』」

『『ゴメンナサイ！』』





　師弟の絶叫が響いた。





『…俺達はどーすりゃいいんだ？』

『…大人しく次回を待とうぜ』





本日のレイヴン情報：今回はちょっちオヤスミ。
　　　　　　　　　　…何故って掲載直前にデータ見直してみたら…。
　　　　　　　　　　出力不足で腕部重量過多だったの見落としてたから（笑）
　　　　　　　　　　だもんでレイヴン情報載せるの急遽取りやめ（爆）
　　　　　　　　　　更には本文中、敵レイヴンの名前呼ぶ所も削っちゃったい（核爆）










（あとがき）

えーと何も考えず書いてます。
というか今回何も考えずデータだけ組んで、念の為実際にアセンブルしてみたんですよ。
彼の有名な『Ｈａｓｈ　ｆｏｒ　ＡＣＮＸ　Ｖｅｒ．０．１１ａ』使って。
そしたらうっかり腕部重量過多の上に出力不足（爆）
眠い頭で組んじゃいけませんなあ。
ゆっきーとかの機体はちゃんと組んだのに…。
というわけで、レス返しです〜。


＞九尾さん
たしかにこの三人が戦うと、とことん不毛ですな（哀）
でもまあ、前回の黒字がぜんぶパァとまではいかないと思います。
まあなんとか。
動く状態で帰れれば（笑）

＞大仏さん
既に買っておられましたか（笑）
そうですね〜、赤（略）さんはキビチぃですよねー。
私は一週目はそのミッション逃げました（＾＾；
二週目で大金つぎ込んで超絶火力の頑丈ロボ・ガチタンガーで力押しでやりましたが…。
一週目の貧乏人時代だと、操縦技術の乏しい私では赤（略）さんは倒せません（＾＾；；；
しかし唐巣神父か…忘れてた（滝汗）
ちなみに遺跡を襲ったのは、なんとゆっきーじゃなかったんです。
名前出してないけど、誰かわかるかな〜。

＞Ｐｒ．Ｋさん
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい！
私もガチタン乗りですっ！
操縦技術無いんですっ！
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい〜！

＞こまかく気になる人さん
ええ、ＣＭＴってのはＣｏｒｅｄＭＴの事なんですが…。
でも私の認識がちょっとズレてたみたいで、戦闘用ＭＴ＝ＣＭＴって意識がどっかにあったみたいです。
ＭＴとＣＭＴの分類はけっこう微妙らしいですし、戦闘用ＭＴ全てがＣＭＴでは無いみたいなんで、今後は面倒だからＭＴは全部ＭＴと表記しますね。
それと、ＡＣ＋ＧＳぜひ書いてくださいましっ！

＞Ｄ，さん
ポチ…可哀想ですよねぇ（笑）
まあソレでこそＧＳっぽい、という説も無きにしもあらずと（笑）
なお雪之丞がタンク系というのは、魔装術レベルの頑丈さはやっぱり重量級かなあ…と考えたのがモトモトですね。
でもなんか違うなあ…。
なんかもっとビンボー臭さを…。
そう考えてたらホバタンの一番安いのになりました。
ちなみに真上からの攻撃に対する緊急回避手段としてＯＢコアにしてみましたけど…。

＞Ｄｒ．Ｊさん
というわけで、ＥＣＭを使っていたのは別の敵でした。
ところでミッション案、大変勉強になりました。
この作品はギャグ色が強いので、そのまま使うのは困難ですが、参考にさせていただきますね。
でも、このまま置いとくのも惜しいですねぇ…。
これで何か書いてみませんか？とか（笑）

＞梶木まぐ郎さん
ザ・キラーのオペさん…やられましたねぇ…。
ママ、ですか…。
なんか意表を突かれました…。
いやホントやられちゃいました…。

＞ｋｕｅｓｕさん
ザ・キラーのオペさんが勘九朗…こちらもやられちゃいましたねぇ…。
おもいっきり直撃弾を食らいました。
両肩武器の１０発しか残弾が無いあの波動砲を直撃されたぐらいイっちゃいましたよ。
ちなみに、まともな人間はレイヴンになぞならんのでは。
というか、まともな神経ではやってられないかと（笑）

＞朧霞さん
いや、ザ・キラーはポチとほぼ同期なので、働いて働いて働いて稼ぎ出したんです。
というか壊して壊して壊して（笑）
ちなみにポチもせこせこせこせこ働いてなんとか現状の機体を作ったんですよ。
なお、小さく上って小さく（ただしギャグ的には大きく）落ちるポチと、大きく上がってどかんと落ちる彼では金額的収支は結局あまり変わってません。
彼の機体構成パーツ（というか主に武器）にはいくつか拾った物も混じってます（笑）
なおレーザーライフルが取れるミッションですが、アレは知ってはいたんですが…（苦笑）
左手武器だったことと、最後の報酬だってことで考えに入れてませんでした。
過去ディスクにはちょうどいいレーザーライフルあるんだけどなあ…。

＞極楽鳥さん
似合う、という意見と意外だ、という意見がありますね、雪之丞タンク…。
ちなみに雪之丞のはホバタンなので旋回かなり速いです。
ＯＢコアも使ってますし、そういう意味では隙は少ないつもりですね。
ちなみにこの戦場は天井低目です。
…ポチ＆ホワイトウルフには最悪の戦場ですね（笑）

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