それは一本の電話からはじまった。
『というわけで、出撃して欲しいのね〜』
「…はぁ!?」
ポチはさっぱりわけが解らなかった。
それでペスに詳しく問いただしてみたところ、前回の任務に関連して急ぎの依頼がナービス社から届いているとの事だった。
緊急とまでは言えないものの、ナービス社からすればできるなら大至急なんとかして欲しいようだ。
前回陽動作戦に引っかかって遺跡を一つ占拠された彼等としては、それをはやいとこ取り戻したいのである。
彼等はそこの重要度は低いと見積もっていたが、他社がテロリストを操ってそこを占拠した以上なにかあるのではないかと思うのは当然だ。
だからナービス社はできるだけ早急にそこを再調査したいのである。
『で、貴方達は前回のミッションで事情もだいたい知ってるでしょ?一番適任だと思うのね〜』
「む…。だが敵はACなのが確実だろ?前回の話だと、俺達が守ってた発掘基地を攻めるとみせかけたACが突然そっち襲ったんだから…」
『ACは二機いたけど一機は帰還したのが確認されてるのね〜。でも代わりに何やら色々輸送機で搬入したみたいだから…』
正体不明の『敵』としても、重要戦力であるACを何機もそこに貼り付けておくわけにはいかないのだろう。
だから代わりの戦力…おそらくはCMTか無人兵器群を送り込んできたのだ。
ACにとっては敵となり得ないとは言え、数が集まれば決して侮る事はできない。
ましてや帰還が確認されたACは一機。
もう一機はいまだそこに残って警備任務に就いている可能性が大なのだ。
チキンハートなポチは、この依頼を断ろうと心に決める。
「あー、悪ぃけどこの依頼やめとくわ。どっか別のレイヴンに…」
『え〜〜〜!?せっかく気を利かしてもう『ポチのチームが受けます』ってミッション受諾申請しといたのに〜〜〜!?』
「…メールでの依頼提示じゃなく電話だったのはソレが理由か。…勝手なマネしてんじゃねーーー!!!」
ポチの絶叫がペスの鼓膜を劈いた。
『というわけで、拙者達は今まさに問題の遺跡内部へと侵入しようとしているでござる』
「…誰に話してるんだよ。それに自分ならともかくACをカメラ目線にすんのはよせって」
彼等は外部に展開されていた無人自律兵器群を難なく蹴散らし、今まさに遺跡の扉をこじ開けようとしていた。
旧世代の遺跡とは言っても、別にそれは石器時代とか古代の遺跡というわけでは無い。
俗に大破壊と呼ばれるカタストロフ…最終戦争とも呼ばれるソレによって、それ以前の記録は相当量欠落していた。
それ故、『旧世代』と呼ばれる大昔の人類黄金時代が本当に存在していたのかどうかさえ今では不明である。
その旧世代において、人類は現在よりも進んだ科学力、技術力を持っていたと言われていた。
もっとも新興企業ナービス社が旧世代の遺跡を発見するまでは、その話は眉唾物だと思われていたのだが。
そしてポチとホワイトウルフが今侵入しようとしているのはその旧世代の遺跡である。
だから扉も自動ドアなのだ。
わざわざ言う事でもないが。
そしてソレは最初に発見、発掘した調査隊やその後来た技術者達により、開閉できるよう最低限の整備はされている。
「おーいペス、扉のロック外せるか?」
『やってみるのね〜。…ナービスから貰ってた解除コードで開いたわ。変更してないなんて無用心なのね〜』
『本当でござるな。こうも間抜けな敵では気が抜けるでござるよ』
『…っていうかコレ罠でしょフツー。まったくバカ犬なんだから…』
『狼でござるっ!』
オペレータと喧嘩をはじめたホワイトウルフを放っておいて、ポチは自機を前に出す。
空間の狭いインドア戦闘では、機動力が命の軽量級である雪狼は著しく不利になるのだ。
それ故ポチは栄光Ver.2を先に立たせる。
そして扉が開くと同時に、彼は横っ飛びに機体を飛び退かせた。
一瞬後、機銃弾の一連射が遺跡内側の廊下から飛び出してくる。
その連射が途切れた一瞬を見計らって、ポチは叫んだ。
「いまだ!行け!」
『了解!』
雪狼は開ききった扉の前に踊り出ると、ブレード光波を叩き込む。
そしてその直後、雪狼の前に栄光Ver.2が滑り込みバーストライフルを連射…というよりも乱射した。
扉の内側で待ち構えていたCMTはなす術も無く四散する。
これは彼等が今回の任務直前までシミュレータで練習していた、付け焼刃のコンビネーションである。
インドア戦闘では持ち味が殺される雪狼を防御しつつ、できるだけその攻撃力を生かそうという物だ。
…タイミングを誤るとポチのACが背後からブレード光波、前から敵弾のサンドイッチになるという危険もあるのだが。
「あ〜ビビった〜…。ま、まだ安全な今のうちに実機での練習しとかんと…しゃーないしな。で、でもビビった〜」
『先生!上手くいったでござるなっ!さすが先生の考えた戦法でござる!』
「ま、まあなっ!は、ははは、ハハハ…。だ、だけどどの戦法にも穴はあるもんだからなっ!こればっかに頼っちゃアカンぞっ?そんじゃそっちはオートマップ機能あるんだから、ナビゲーションよろしくな」
『まかせるでござる!』
二人は薄暗い廊下を進んでいった。
最初にここを調査していたナービス調査隊が持ち込んだ発電機により、遺跡の照明システムは復旧、稼動している。
そのため暗視機能を持たない彼等の機体でも問題なく行動ができた。
遺跡内部には、数は予想より少なかったものの敵が持ち込んだ防衛システムや無人自律兵器等が待ち構えていた。
だがそれらは所詮ACの敵では無い。
ポチの栄光Ver.2が軽いダメージを受けてはいたものの、彼等は問題なく遺跡最奥部へと到達していた。
だが、広場になったその部屋に入り込んだ途端、レーダー画面が砂嵐状態になる。
「くっそ…ECMかよ」
『…ザッ…先生、レーダーが効かんザッござるよ。…ザザッあれをっ!!ザッ』
ホワイトウルフがノイズ交じりの通信で伝えようとした事をポチは既に気付いていた。
ペス達も『それ』についての情報を送ってくる。
『ザッレイヴンズ・アークに登録されてる機体なのね〜。今はランカーザザッ無いけどランカーだった事もあるのね〜。30位付近をウロウロしてるザッね〜』
『ザザザッ『ザ・キラー』の『デュエリスト』よ。ザッ…マシンガンとブレードで至近距離、瞬間の火力は侮ザッないわ!』
ランカーレイヴンとは、地方毎のレイヴンズ・アークにおいてトップ30位に入る評価をされているレイヴンの事である。
このACの操縦者は、このナービス領近辺において上位30名に入るか入らないか…。
つまりはそこそこの実力者であるらしい。
ちなみに目の前にあるその赤と黒でドぎつく塗装されたACは、足が存在しなかった。
かわりに下半身がアイロンのような形の重車両になっている。
これはタンク型と呼ばれるタイプで、耐久力と装甲厚、搭載力に優れていた。
いや、優れているというレベルではないだろう。
タンク型というものは、機動力が最低レベルであるかわりにそれらの能力は他のタイプを圧倒しているのだ。
そしてその中でもこれは、なんとか並レベルの機動力を確保するため、キャタピラではなくホバーを使ったタイプ…ホバータンク型と言う物だ。
そのACから、通信ではなく外部音声でザ・キラーの声が聞こえてくる。
『へっ…。そのAC、てめえ『ポチ』だな?お前の事は前から目ぇつけてたんだ。いつもぱっとしねぇらしいが、お前…三味線弾いてやがるだろ?他の盆暗どもにはワカランかもしれんが…機体動作の端々に滲み出るその精妙さ!俺の目にはお見通しだぜっ!マジになったてめえと闘りあってみたかったんだ…』
彼が言った『三味線を弾く』とは『手を抜く』という意味だ。
ちなみにポチは全然手なんか抜いてない。
彼は泡喰って過大評価を改めようとした。
「ま、まてって!俺ぁ三味線…」
『何を言うかっ!貴様ごとき下郎が拙者の先生に勝てるはずが無かろうっ!』
『ほほう、言うじゃねぇか。ふ…ん。まあホントなら互角の条件で闘りあいたいんだがな…。こんな場所じゃこっちが有利すぎる。だからそっちは二人がかりでかまわんぞ?』
『なっ…!!舐めるか貴様っ!!!』
だがポチの関与しない所で話は勝手に進んでいたりする。
彼は顔面蒼白になった。
閉鎖空間でのタンク型との戦闘…それは勝っても負けても大損害を意味するのだ。
可能ならミッション放棄して逃走したかったが、もはやそれも不可能だ。
「なんでこうなるんや〜〜〜!!」
ポチの涙まじりの絶叫が響いた。
本日のレイヴン情報:
レイヴン名:ザ・キラー(♂)
本名:伊達雪之丞
AC名:デュエリスト:681100C
頭部:H01−WASP(実防20%・E防80%):40000C
コア:C04−ATLAS(実防40%・E防60%):128000C
腕部:CR−A69S(初期パーツ):35500C
脚部:LT01−BOAR(実防40%・E防60%):65000C
ブースター:無し:0C
ジェネレータ:CR−G91(出力100%):59800C
ラジエーター:CR−R76(冷却100%):16800C
FCS:MF03−VOLUTE2:58000C
インサイド:I05D−MEDUSA:24800C
エクステンション:CR−E82SS2:43800C
右肩武装:CR−WB69M(初期パーツ):17500C
左肩武装:CR−WB69RA(初期パーツ):19700C
右手武装:WR04M−PIXIE2:58000C
左手武装:CR−WL88LB3:43000C
右手格納:CR−WH98GL:32000C
左手格納:CR−WH98GL:32000C
機体解説:ザ・キラーの搭乗するAC。
上半身が深紅、下半身が漆黒というドぎついカラーリング。
ある程度の被弾を耐え抜き、かつ最低限の機動力は確保する目的でホバータンクを採用。
しかしそれが所有者の財政を圧迫。
さらに言えば、レイヴンの戦術も装甲に物を言わせて突っ込むという物である。
つまりミッション毎の修理費用も膨大な額となるのだ。
結果として財源はさらに圧迫され、腕部と肩武装は初期装備のままである。
備考:ポチとほぼ同期のレイヴン。
戦いでは(無駄に)強いのだが、ポチ同様ランキングには入っていない。
正確に言えば、何度かランク30に入ってはいるのだがあっという間に落ちるのである。
理由はよく任務に失敗するから。
防衛任務では敵は殲滅、防衛対象も壊滅というのが常。
攻撃任務では敵は全滅、自機は首の皮一枚残るというような状況がままある。
そのために彼の財政は常に逼迫しており、ポチやホワイトウルフよりも貧乏である。
彼の傾向として、大手柄を上げるか大ポカをやるかのどちらか。
彼に依頼するのは大博打とご近所の奥様方にも大評判である。
(あとがき)
えー、やはりダラダラと何も考えず書いてます。
でもって、とうとう満を持して『彼』の登場です。
GSキャラの中でもいっちばんAC世界に馴染みやすそうな『彼』(笑)
もっとも馴染むのは速くてもやっていけるかどうかは(笑)
というわけで、レス返しです〜。
>狂った帽子屋さん
ええ凄いです(笑)
でも、私はできませんが飛行目標を斬れるプレイヤーは実際存在しているらしいですね。
正直羨ましい腕前です。
私もそのぐらいの操縦技量が欲しい…。
…え?
凄いのは操縦技量じゃなく犬塚(父)の性格?(笑)
>D,さん
やっぱり私にはできませんでした(苦笑)
余計に撃たれてばっかで(^^;
カラサワと月光…AC3あたりまでだと王道装備みたいですねえ…。
AC−NEXUSだとどちらも弱体化してますが…。
ちなみに…本当に飼い主とペットみたいなコンビですね。
なんか『ぽちたま』で時々紹介してるドッグコンテストみたいなイメージが(笑)
>九尾さん
この調子で黒字が続けば、ポチは新しい頭、ホワイトウルフの方は先生オススメのインサイドを買えるんですが…。
そうは問屋が卸さなかったり(笑)
POCHIですが、プロットはできてますが細部はできてないんですよ。
細部を煮詰めるのに結構苦労してます。
でもラストは決まってますので…。
>siriusさん
ガンパレードマーチ…ですか。
刀やパンチ、蹴りでどうやってきたかぜゾンビを墜とすのか不思議なんですが、便利だったんで気にしなかったです(笑)
スカウト道は滝川で極めてみようとして挫折いたしました(^^;
>大仏さん
AC−NEXUS、NBが出た今なら中古屋で安価に買えると思います。
ちなみに我輩もポチを馬鹿に出来ないヘタレイヴンです。
熱暴走はしょちゅう、カルテットキャノン撃ち過ぎであっという間にチャージング…。
そうなると、どんなにブ厚い装甲で守っていても熱くて熱くてどんどんAPが減っていく…。
せっかくのガチタン乗りなのに〜(涙)
>クエスさん
大爆笑&七転抜刀でした(核爆)
いやー笑わせていただきました。
お見事です。