唐突だが、前々回のサイコメトラーTAIGAを参照いただきたい。そこにはこうあるはずだ。
――今回、思い余って妙神山に2回ほど修行に出かけて、命がけで潜在能力を引き出したのだがその結果出てきたのがサイコメトリー――
つまり、彼は妙神山に2度猿神の試練を受けに行ってサイコメトリーの能力を得たとある。
………おかしくはないだろうか?
猿神の試練は潜在能力を引き出す。と、言う事は短期間に2度受けても2度目は大きな伸びは見込めないという事だ。
それに、何故試練を“2度”受けて、得た能力の数は“1つ”なのだろう?
……これは、ごく一部を除く関係者全員が記憶の彼方に葬った、タイガーが最初に妙神山へ修行に出かけた時の出来事である。
自分の恋人に先にGS免許を取得されては立場が無い。
GS試験が近付くに連れ、そんな思いがひしひしと危機感となって表れてきたタイガーは、ある日雇い主兼師匠のエミに頭を下げてこう頼んだ。
「妙神山に修行に行かせてツカーさい!」
仮にも自分の弟子ともあろうものが再び試験に落ちたのでは体裁が悪い…それにそんな事になったら、あの美神令子がどんなイヤミを言ってくるか…
そう考えたエミは、その願いを即座に受理。紹介状付きでタイガーを妙神山へと送り出したのだった。
「ふぃ〜…結構キツイですノー…」
妙神山は当たり前だが山である。それもそこそこは高い山のようだ。
そして人の通わぬ、整備されていない山道を行くのは中々キツイものがある。最低でも10数kgになる食料、衣類、テントを始め各種登山装備を背負って行くのだから、尚更だ。
一人山道を行くタイガーは、何とはなしに寂しさを感じながらそんな辛さを味わっていた。
「………おや?」
そして山頂にある建物と門が見えてくる頃、彼は気付いた。
今まで登ってきた道無き道ではない、ちゃんとある程度以上整備された山道が向こうにある、という事に……
ちなみにその山道は、以前小竜姫が暴れて壊した建物を某女性GSが能力アップと引き換えに再建した時に作られた、建材運搬用のけっこう確りした道だったりする。
そう。タイガーは昔ながらの修行者達の通った道を歩いてきたのだが…それは全くの無駄骨だったのだ…
「………ま、まぁ……過ぎた事は…仕方ないですケンノー…」
彼は、自らの無駄な苦労を無かった事にしようとした。肩にずっしりと重く圧し掛かる疲労がそうはさせてくれなかったが、それも頑張って気にしないでいた。
「た〜のも〜!」
色々なものを振り切り、門に向かって声を上げるタイガー。
「「な〜んじゃ〜!!」」
それに答えたのは、門に付いている飾り…もとい、左と右の鬼門達。
「「我ら妙神山への門番なり!」」
「ゆえに、我らを倒さぬ限り」
「この奥の修行場へと進む事まかりならん!」
「さあ」
「いざ」
「「勝負!!」」
久々の門番としての仕事に張り切って乗り出す鬼門達。
有り余る暇を使って考えた名乗りまで上げて、絶好調。美神にやられた時の教訓を生かして、顔も門から体に装着し直して万全の構えだ。
一方タイガーはさっき受けた精神的ショックと、登山での体力の消耗からまだ回復していない。
「ちょっと待ってくだっさ〜い!!ワッシは…」
「問答」「無用!」
息を合わせて左右から同時に攻撃を仕掛ける鬼門達!
ばきゃきゃっ!!
「ぐぴっ!?」
ドサッ…
まともに喰らって、その場に崩れ落ちるタイガー!
そして…
………………………………
「………………なぁ、右の」
「……なんじゃ、左の……」
「ワシら……ひょっとして勝ったのか?」
「………う〜〜む………どれ」
ツンツン ペシペシ
久々の勝利があまりにもあっさりと訪れたので自分達でも信じられず、タイガーをつついたり軽くはたいたりして確かめる鬼門達。
「……ふむ、確かに気を失っとる」
「と、いう事は」
「うむ。間違いなくワシらの勝利じゃ!!」
「やったな!左の!!」
「うむ!来る日も来る日も誰もやって来ず…たまに来たかと思えばとんでもない奴らばかり…一時は本気でこの役目を辞めようかと思いつめたが…」
「皆まで言うな。ワシも同じ気持ちだ…」
「ううっ…良かった…生きてて良かった…」
心からの感涙にむせび泣く鬼門達。
それは不審に思った小竜姫が様子を見に来ても、気付かぬほどであった。
そしてその様子を見た小竜姫は……
「………………あ、そろそろ洗濯物を取り込まなくっちゃ」
見なかった事にしたらしい。
そして意識を取り戻したタイガーは、上機嫌の鬼門達に見送られて下山した。「絶対また来るのだぞ!」という鬼門達の言葉を背中に受けながら…
このまま帰ったら、エミにシバかれるのは必死、もとい必至。この際、どこか他の修行場に行って、少しでも霊力を上げて妙神山へ行った事にして誤魔化そうか?
タイガーはその思いつきに激しく心が揺らいだが、結局まっすぐ帰って正直にエミに打ち明ける事を選んだ。
タイガー寅吉。その外見に似合わずチキンな小心者である。
しかし打ち明けられたエミは、怒る事も叱る事もせずに逆に同情と哀れみの目で彼を見つめて肩を叩き。
事情を知ったタイガーの友人達も…横島でさえ、決してその事には触れようとしなかったという。
その温かく優しい目を向けられ続けたタイガーは、泣きながら身を削るような荒行を行い…その追い詰められた精神力は、一週間で鬼門に通用する精神感応の強度を彼にもたらし、リベンジに成功させる事となったのだった。
なお敗北した鬼門達だが、自分達に負けた事で強くなった彼を益々気に入り、友と呼ぶようになったらしい。
ひょっとしたら…同じ報われない脇役のニオイがしたから…なのかもしれないが…
それは、言わぬが華というものであろう。
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