ランスがカスタムに来て約二週間が過ぎた頃、遂に戦況は動いた
ジオ・ハンナの両都市が、リーザスに宣戦布告したのだ
その報告を聞いたカスタムの都市長エレノア・ランは
リーザスとの盟約どおり、集めていた兵をジオの街へと向かわせた
兵数は総勢2000、しかもランスの助言に従い兵科混合の部隊である
市民兵(歩兵)が740、マリアの弟子達で編成されたチューリップ兵が60
ミリが独自に集めた兵達が1200、ミリの兵は男性女性混合部隊でもある
ランスは、この兵の数では、迂闊に戦力を割いた方が被害が拡大すると思い
戦況に応じて陣を変えられるような兵の配置をして、一個の部隊にしたのだ
その部隊の中陣に、ウマに乗ったランスと、志津香、シィルの三人がいた
「・・・・なぁ、志津香」
「・・・・何、ランス」
「どうして、あてなを連れてきたんだ?」
「仕方ないでしょ、あの子、戦闘能力は高いんだから」
「・・・俺は始めてだぞ、味方が味方に及ぼす被害を考えながら戦うのは」
「だ、大丈夫ですよ、あてなさんも、流石にそこまでは・・・・」
中陣を歩いていたランスと志津香がそう顔を微妙に引きつらせながら話し
それを聞いたシィルが弁解するが、目の前の光景がそれを覆していた
先陣の方では、ある女性・・・闘神都市で産まれた人造人間の女性である
あてな2号が、渡されているチューリップを振り回し、時たま暴発させ
その周囲の人達が、それを慣れた様子でかわすという光景が繰り広げられていた
どうやらカスタムの人達にあてなの暴走は日常茶飯事のようなものらしく
そのような事があっても、先陣は編成は崩れず、士気も落ちてはいなかった
ランスは、その光景を半ば現実逃避気味に眺めながら、進軍を続けていた
カスタム軍がラジールの街を越え、レッドの街にたどり着こうとした時
「後方からロックアース軍が迫ってきてます!!」
後陣の兵が、ランスに敵接近の報告をした
ランスはそれを聞き、不敵な笑みを漏らした
「餌に食いつきやがったか・・・!!
全軍反転!!
当初の予定通り、後方の敵を討つぞ!!」
ランスの報告と共に、即座に兵が反転し、迎撃体制に移る
その配置は、特に兵員移動をしていないというのに、完璧な体制だった
ミリ率いる1200の兵が先陣に、中陣にカスタムの市民兵、後陣にチューリップ兵
ランスの言葉どおり、当初から背後からの攻撃を前提とした配置だったのだ
これは、カスタムに向かう前の日に、アールコートから言われた事だった
カスタムがリーザスに参加するのを一番嫌うのはロックアースであり
カスタムがジオの街に進軍すれば、リーザス軍との合流を防ぐためにも
レッドの街付近辺りで、背後から攻撃を仕掛けてくるだろうと
ランスはその言葉を聞き、リーザスに戻った後、直に緑の軍を動かし
少数の兵でカスタムの軍と合流し、ロックアース軍を討つ予定だったが
今はカスタムの客将の身分なので、カスタム軍単独で迎撃すべく
最初から反転迎撃を前提とした陣を引き、進軍させていたのだ
全軍の反転が完了した後、ランスは先陣に向かった
「相手は5000って所みたいだけど・・・勝ち目はあるかい?」
ミリが、隣に来たランスにそう話しかける
「いや、一箇所に集中させることで兵数を誤認させているだけだ
実質、4000前後って所だろう、勝ち目は十分にある」
ランスはそういうと、遅れて到着した志津香の方を向き、少しだけ頷いた
志津香も頷き返すと、即座に魔法の詠唱を開始した
ロックアース軍は一丸となったままカスタム軍へと迫り続けるが
カスタム軍は退きもせず、進みもせず、沈黙を保ち続けていた
その間にランスの周辺には、シィル、マリア、ラン、あてなが集まってきていた
更にロックアース軍が進軍を続け、遂に両軍が衝突する瞬間
「白色破壊光線!!」
志津香が敵陣中央に向かって自分の持つ最大の火力の魔法を放ち
それをもろに喰らったロックアース軍が浮き足立ち始めたと同時に
「全軍突撃せよ!!」
ランスがそう叫び、自らウマを駆り、敵陣へと突っ込んで言った
そのランスに僅かに遅れる形でミリ、ラン、あてなが突っ込んで行き
マリアは即座に自分の弟子達に命令を出し、一斉射撃を開始した
ザシュ ドシュ ズシャ
ランスがウマの上から刀を振るうたびに、鮮血が舞い
次々とランスの近くにいたロックアース兵は、物言わぬ人形となっていった
「どうした!!その程度か!!
腕に覚えのある奴は前に出ろ!!
この俺、ランス・プロヴァンスが直々に相手してやる!!」
ランスは鬼気迫る表情でそう叫びつつ、次々と兵を切り捨てていった
その叫びに、まるで誘われるかのようにランスに兵は殺到していったが・・・
ある者は首をはねられ、ある者は頭を二つに裂かれ
ある者はウマに蹴り殺され、ある者は頭を串刺しにされた
そして、次々と殺される味方を見ていたロックアースの兵達は
次々と味方を葬るランスへの恐怖心が完全に浸透してしまい
恐慌状態に陥り、まともな攻撃もできず、我先にと逃げ出す兵も出始めた
これこそが、ランスが狙っていた事であった
恐慌に陥った軍が、まともな反撃を出来た事は、歴史を振り返っても一度もない
極まれに、冷静な兵達が撤退の時間稼ぎ程度の反撃を加える程度だ
ランスの狙い通りロックアース軍が恐慌に陥った瞬間
カスタム軍の突撃は、更に勢いを増した
ランスは周囲にいるロックアース兵を屠りつつ、全体の様子を探っていた
ランスから右手側には、ミリとランが兵を率い突撃を仕掛ける様子が
左手側には、マリア、シィル、志津香の三人が遠距離攻撃で追撃をかける様子が
後方には、あてながチューリップ砲を乱射する光景が広がっていた
「・・・・ってなに!!」
周辺の部隊の行動を見て、更に突撃に移ろうとしたランスは
決して見逃すわけには行かない光景、あてなの暴走を見てしまった
さらに・・・・
ドガ〜ン!!
「ぬわっ!!」
あてなの乱射が、自分の周囲にまで及び始めたのだ
流石のランスも、冷や汗を隠せず、即座にあてなの方へと向かった
「あてな!!攻撃中止だ!!」
ランスがそういうと、あてなは乱射をやめ、ランスの方を向いた
「ご主人様、久しぶりれす!!」
あてなは、ランスを見て笑みを浮かべると、ランスに向かってそういった
ランスは、そのあてなの様子を見て、僅かに頭を抱えた
「ご主人様、頭が痛いのれすか?」
あてなはそんなランスを見て、微妙に的外れな言葉を返していた
(志津香、シィル、頼むからあてなの教育を急いでくれ・・・・)
あてなの様子を見て、ランスは戦場と言う事を忘れてそう本気で思った
闘神都市でであったあてなは、戦闘では確かに有能ではあったが・・・
どこかずれた価値観と、天然な行動を取り、よく被害を拡大させていた
今回の乱射も、ほぼ全弾敵に当たっていたが、味方にも当たりかけていた
ランスは、そんなあてなに一般知識を与えなければならないと考え
自分は軍人である以上、あてなに構う時間などそう滅多にとれないから
志津香とシィルの二人に、あてなを託していたのだ
まぁ・・・その教育の効果は、余り発揮されていないようではあるが
ランスが頭を抱え、あてながそんなランスに声をかけ続けていると
「報告します、ロックアース軍は完全に壊滅しました」
先陣にいた兵の一人が、ランスにそう報告して来た
ランスもそれを聞き、意識をしっかりと切り替え、兵の方を向いた
「此方の被害はどれくらいだ?」
「負傷者こそ多いですが、死者だけは出ていないようです」
「・・・そうか、負傷兵の手当てを優先しろ
俺は先にリーザス軍と合流しておく
負傷兵の手当てに必要な者達以外は、俺に続け!!」
ランスはそういうと、負傷兵達の手当ての指示を軽く出し
即座に動ける兵、約300と共に、一路、ジオの街へと向かっていった
ちなみに、カスタム代表と言う事で、ランも同席する事になっているが
ランは戦闘中に足を負傷したらしく、歩行行軍についてこれないという事で
ランスにしがみつくような形で、ウマに乗って行軍していた
自由都市 ジオの街
ランス達がそこにたどり着いた頃、既に街には、リーザスの旗が立っていた
そして、ランスは単身城門へと近づいていった
ギギィィィィ!!
ランスが城門に近づいたとき、城門が開き、メナドがそこにいた
「お帰りなさい、ランス将軍、アールコートさんから話しはきいています
ロックアース軍との戦闘、お疲れ様でした」
メナドはランスの姿を見て微笑むと、そういった
ランスは、メナドのその言葉に僅かに頷くと、カスタムの兵達に近づくよう指示を出した
「そちらも疲れているとは思うけど、伝達兵を一人、城に回して欲しい」
ランスはそういうと、ランを促し、ランがメナドに書状を手渡した
「これが、カスタムからの返事です」
メナドはそのランの言葉に頷き、ほんの僅かだけ視線をぶつけると
近くにいた兵に命令を出して、その書状をリーザス城へと送らせた
その後、ランスはジオ侵攻部隊の総大将であったリックと話をし
リーザス軍でまだ無事な兵達を率い、カスタムの負傷兵達の救援に向かった
カスタム軍が完全にジオの街へと入った時、ハンナ陥落の報が知らされ
更に、アールコートの第三の策に応じたバレス率いる黒の軍により
ロックアースの街を陥落させ、DXの会を崩壊させた事が伝えられた
ランスはその報告を聞き、アールコートの成長を喜んでいた
アールコート第三の策はこうであった
ヘルマンに対する備えを黒、青の軍、ジオの街を赤の軍と緑の軍の半数
ハンナの街を、白の軍と緑の軍の半数、更にかなみ率いる忍者部隊で攻め
ランス率いるカスタム軍がロックアース軍と交戦をしている隙に
バレスが黒の軍の約半数を率いて、ロックアースを陥落させる
こうする事で、ランスが万が一にロックアース軍との交戦で敗走しても
ロックアースを追い詰め、逆に壊滅させられる状態に持ち込んだのだ
さらに、その際にDXの会を潰す事で、禍根を絶とうとしたのだ
アールコートのその策は完璧に成功し、一気に三都市を陥落させた
その後、リア(マリス)とランの間で、正式な同盟締結が行われ
カスタムの街は、事実上自由都市郡での主導者的な立場となった
ロックアース、ハンナ、ジオが陥落して、なおリーザスに刃向う勢力はなく
逆に、カスタムの街を通じて、リーザスとの友好を求める都市ばかりであった
三都市を即座に陥落させ、リーザスの地位は再び安泰の物となった
だが、ヘルマンとJAPAN方面で怪しい動きがあるのも、また事実であり
サイゼルの襲来依頼、沈黙を保っていた魔人達も、再び動き出そうとしていた
一つの火が消え、また、別の場所で煙が上がり始めていた
だが、その煙は今だ火にはならず、ランス達はそれに気付く様子もなかった
もしかすると、火が見えるまでの間は、つかの間の平和を謳歌していたい
そういう思いもあったのかもしれない・・・・
新たな火があがるとき、歴史はまた、大きく動き出す
動いた結果、再び火が広がるかどうかは、まだ誰も知らず
今はただ、つかの間の平和を謳歌していた
後書き
最近段々内容薄くなってるなぁ・・・(汗
次回、某魔人との決戦予定です
その後、皆さん期待?のJAPAN覚醒編へと入って行きます
まぁ、そろそろネット環境もピンチになるかもしれないので
どうか、気長にお待ちください〜
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