「犬だ…。」
「犬じゃのう…。」
仕事も終わっての帰宅途中に目に入った物。それは子犬。
「怪我をしているようにも見えるが……どうする?」
孫の問い掛けに横島の脳裏にフラッシュバックが起こる。
狐を拾う
一緒に寝る
体を洗ってやる
女。しかも裸体。
「……明日も晴れると良いなぁ……」
そう言いながら、そのまま自宅へ向かう横島。そんな横島に孫が突っ込みを入れる。
「現実逃避もそこまでにして、現実を見つめんか!怪我を負っている子犬を見て見ぬ振りするのか?」
現実逃避もままならぬ横島。突っ込まれた頭を抑えながら横島は呟く。
「そんな事言ったってよぉ。俺には過去、いや〜な思い出があるんだよ。そんなに言うなら自分でやれよ。」
最近(初対面の時から?)は斉天大聖として敬う事は全くしない横島はそう、言い捨てる。しかし孫は
「犬猿の仲と言う言葉を知らんのか。」
と、答えるだけ。
「それに見つけたのはお主じゃ。何とかせい。」
結局拾って帰る横島。後、師弟関係になる二人の出会いであった。
ちなみに、孫は美神事務所に属している。入る時に、美神、おキヌ、タマモ、蛍、それに何故かいた小竜姫に大反対されるも、横島をその場に置いて五人にコソコソと言葉をかけると、態度が一変。快く受けたのだ。その時の会話で横島の耳に入った言葉は
「これ以上……見張る……独占……裏で暗躍」
等であった。
「それで拾って、また連れて来たのね。」
翌日、子犬を小脇に抱える横島。その姿に説明を受けた美神の言葉だった。
「それに、またそいつからは妙な霊気を感じるし……。」
美神は子犬を見ながらそう呟く。結局前回の経験により、蛍(一応この事務所では一番の下っ端)による子犬のシャワータイムを行い、綺麗な姿で再び全員の前に連れてこられた。
「これ、食べるでしょうか。」
おキヌが持ってきた昨日の夕食の残りを食べさせてやると、ガツガツと食べた後その姿が子犬から小さな男の子の姿になった。
「かたじけない。拙者、犬塚シロと申す。拙者、人狼の里より出てまいった。拙者の敵である犬飼ポチを討つために。」
正座をしてそう言う男の子。その姿に横島は
(ふ〜、男か……。よかった。)
と、ため息を吐いた。
「敵討ちって……だれか、やられたの?」
タマモの問いにシロは悔しそうな顔をしながら
「実は、拙者の里に伝わる妖刀八房にまつわる逸話で『八房を手にし、100人の力ある者の血を吸わせれば、伝説の狼王の力を得る』と言うものがあるでござる。昔、それを実行に移した者もいるとかで、そんな事を再びさせぬように厳重に封印保管されておったのでござるが、犬飼の奴がその封印を解いて拙者の父を斬り、里を抜けたのでござる。」
その話を聞いて蛍が、何かを思い出す。
「美神さん、もしかして今テレビなんかで出ている、切り裂き魔って……」
「恐らく、そうね。被害者のほぼ全員がGSだって事らしいし。」
今、巷で切り裂き魔が出ると言う事件がある。その姿や特徴は全くわからず、被害者は全国で60人を超えている。
「全国で行われているって事で、複数犯だと言われているけど人狼の足なら単独でも可能な話ね。」
美神の呟きにシロも頷きながら、
「間違いなく、犯人は犬飼でござる。拙者、犯行現場にて匂いを辿った所、犬飼に出会う事が出来たでござる。しかし拙者の力及ばず逃げられたでござる。」
悔しそう声におキヌが美神に頼み込んだ。
「美神さん、オカルトGメンに頼んでみましょうよ。
「そうね。一事務所の出来る範囲を超えているわ……でも、やられたGSの中にはA級の人もいたらしいわ。そんな存在、オカGにいたかしら。」
現状のオカルトGメンにはA級のGSの資格及び、それに並ぶ力を持った人材はいない。例外として美神美智恵がいるが、彼女は管理職。簡単には現場に出る訳にはいかない。そんな慢性的な人材不足の組織に今回の相手、犬飼ポチは手に余りそうだと美神は考えた。
「拙者、自分の力で敵を討ちたいでござる。」
美神とおキヌの会話に割って入ったシロ。しかし美神は
「気持ちは解らなくは無いけど、見た所実力では敵わないわよ。」
と答えた。実際シロの実力では余りにも格差があるのは目に見えている。
「それでも……それでも、拙者の力で!」
「父親が、殺されれば、そう思うわなぁ。」
シロの言葉に孫はそう口にした。その時、
「ん?父上は生きておるでござるよ。」
「「「「「「え?!」」」」」」
全員が、シロを見て声を上げる。
「父上は、怪我を負ったでござるが、命に別状は無いでござる。それで、父上が手傷を負った相手を拙者が倒せれば、拙者は父上より強いと言う事でござる。さすれば、拙者は父上公認で里より外に出て生活する事が出来るでござる。拙者の自由のためによろしくお願いするでござる。」
シロの言葉に一同唖然。しばしの静寂の中最初に口を開いたのは孫。
「あ〜、つまりだ。敵討ちって言うより、自分の力を見せつける為って訳か……。」
その言葉にシロは
「敵討ちには違いないでござる。動けぬ父上の代わりに拙者が退治するのでござるから。」
と胸を張る。今だ、復活を遂げることなく唖然とする一同をそのままにし、孫は続ける。
「まぁ言いたい事は解った。しかし今のままでは全く相手にならん事は、一度剣を交えたのならば、解っただろう。その辺はどうするつもりだ?」
すると、シロは素早く土下座して孫に願い出た。
「そこで願いの儀があるでござる。実は先だって行われたGS試験にて霊波刀を用いて、決勝戦を勝ち得た御仁がこの辺にいらっしゃるとの事。その御仁に修行を願いたいのでござる。どうか、ご存知ならば教えていただけぬか。」
「勝ち得た…か。まぁ、負けたわけではないな……そう言ってるぞ、横島。」
そう言うと孫は、横島に一撃を見舞い、覚醒させる。
「いでっ!……なんだ?俺がこいつに何を教えろってんだ。」
ブツブツ文句を言いながら頭をさする横島。
「出来れば、妙神山なるところに居られると言う武神『斉天大聖』殿に教えを請いたいのでござるが、中々余人の前に姿を現すことのないとの事。しからば拙者と同じ力を持つ御仁に教えを請いたいのでござる。」
シロの言葉に横島は孫の方を横目で見ながら小声で呟く。
「だとよ、サル。」
「ワシは、犬は嫌いじゃ。」
「……何なら、ここで俺の知っている事をぶちまけても良いんだぞ。」
「……その時はワシも、知っている事をぶちまけるぞ。」
「…………」
「…………」
周りには解らぬ水面下の折衝が横島と孫の間に行われたが、その勝者は言うまでも無く、
「それじゃ、シロ。俺が教える事の出来る範囲で教えてやるよ。」
と横島は口にした。その言葉にようやく覚醒した美神らも
((((子供だし、男の子だし……特に問題ないわね。))))
と口出しはしなかった。
「ところで、犬飼の方はどうしましょうか。」
横島の言葉に孫が答える。
「俺達を囮に山にでもおびき寄せて、結界で閉じ込めときましょう。何処にいるか解らないからどれくらい時間がかかるか解らないけど……その間、横島はシロに修行をつけるって言うのはどうです?」
その言葉に美神も
「タダ働きは気に入らないけど、ここまで話を聞いてほったらかしって言うのも、後味悪いし……それで行きましょう。」
との事。一同も納得する。
一路、犬飼を封じてシロに討たせるために山へ向かう。そこで横島を待っているのは新たなる出会いだった。その出会いが横島に何をもたらすものなのか……。
続く
後書き
シロ登場です。この先はまだ、もやもや状態で形になっていないので次は少し、時間がかかりそう……。まぁ、横島君が酷い目にあうって事は決定事項なんですが。
それではご意見ご感想、お待ちしております。