GS試験決勝戦。準決勝が終わって、十分な休憩時間を取った後に両者は対峙していた。
「それでは、今期GS試験決勝戦を行います。」
アナウンスが響き、孫と横島はリング上にあがる。
(結構時間経ったけど、結局戻らなかったな……。よっぽど怖かったんだな……。)
横島2(仮名)がそう頭の中でぼやきながら対戦相手である孫を見る。孫は今まで素手でここまで勝ちあがってきたのだが、今回はその手に棍を持っていた。
「んあ?今回は武器持ってんのかい?」
横島2の言葉に孫は
「そうですよ。貴方はずいぶんとお強い方だ。私も本気で行かせて貰います。」
「つー事は今まで手ぇ抜いてたのかよ……。」
本来ならば、試験であるこの試合。ほとんどの選手は二回戦を勝ち抜くために初戦から全力で勝負する。孫のやり方は、明らかに横島狙いのやり方もしくは、優勝を狙うやり方である。
「しかしお前さん、どっかで見た事あるんだよなぁ…何処だっけ?」
「さぁ、私は初対面ですけど?あぁ、美神事務所と初日の南口入り口でお会いしていますね。」
「いや、そんなのじゃなくてもっと前に。」
「…………さぁ。」
「なんだ、その長い沈黙の後のワザとらしい答えは。」
そんなやり取りを尻目に審判は試合開始の合図を出した。
「まずはこれです!」
孫は懐から符を取り出してそのまま横島に突貫して行った。その速さはヒトを凌ぐ速さだ。
「マズッ!きょぜ……!」
横島2は何か仕掛けてくるであろう孫に向かって全てを『拒絶』するつもりで叫ぼうとしたが、孫の攻撃の方が早かった。
「貴方の『言霊』は強すぎます。そのために口を封じさせてもらいました。」
横島2の口には孫が取り出した符が張り付いていた。よほど強い念がこもっているのであろう、そう易々とは剥がれなさそうである。
「では、改めて行きます!」
棍を突き出しながら再び、孫は攻撃を仕掛けてくる。横島2も霊波刀で応戦しているが、出だしが躓いたのが原因か、中々自分のペースに持ち込めない。
(ちぃ、ミスった!……もしかして、こいつが老師の言っていた『不穏な奴』じゃないだろうな。だけどこいつは老師の紹介だし……待てよ、試験に手ぇ抜いてくるような奴が、何で今まで試験に合格していないんだ?)
孫の動きは並外れた動きではない。その動きは、除霊は勿論その気になれば魔族でも十分相手にしそうな感じを受ける。
(まさか、老師が騙されてるなんてこと無いよな……でも、所詮サルだし。)
本人に聞かれれば、締め上げられそうな事を考えながら孫の攻撃を捌く横島2。何だかんだ考えながら孫の攻撃を捌く横島2も並みの力の持ち主ではない。
その時、孫の口から決定的な言葉が飛び出す。
「中々じゃのう。ワシの見込み通りじゃワイ。」
その言葉に横島2が、いや横島が反応する。
(のう?…ワイ?……もしかして……いや、そんなはずはない。神族が人間界に干渉するなんて……いやいや、隠居したって言ってたし……いやいやいや、でも、ジジィだったはず……まさか…まさかだよ……な?)
孫も自分が口にした言葉に気がつき、間合いを取り横島の姿をじっと見つめている。何時の間にか効力のきれた符を自分で剥がした横島は恐る恐る、口にした。間違いであって欲しい。そんなはずは無い。そう思いながら。
「……老師?」
「……やっぱ、ばれたか。」
「あんた、何やってんだぁ!!」
最初のやり取りは極小さな声だったため、審判にすら聞えてはいない。しかし、横島の最後の雄たけびはあまりにもでかい声だった。
「何、大声で叫んでんのかしら?」
「さぁ?」
「?」
美神、おキヌ、タマモは三人して首を傾げるばかり。その横にいる芦一家も似たようなもの。そんな周りに不思議そうな感じはまったく気にせずに横島は孫改め老師に詰め寄っていた。
「あんた、神族だろ!こんな事やっても良いのか!!」
「良いも悪いも、ワシは引退した身じゃ。闘戦勝仏の名は既に返上しておる。ワシの今の名は斉天大聖じゃ。あくまで『天に斉しい(等しい)偉大なる聖人』じゃ。つまり正確には神族ではないんじゃ。人間界にもあるじゃろ?公務員ではないが、公務員並みの待遇を受け取る奴が。道路公団とか。それと同じじゃ。それに…ホレ。」
そう言って懐から取り出したのは、一枚の免状。そこには
斉天大聖 孫悟空殿
上記の者、人間界にて行動についてその全てを不問とする。
但し、人間界にての問題行動による責任追及については
神界は如何なる責任も取らない事をここに記す。
並びに、人間界にての行動、調査の記録については随時、
報告を行う事。
ブッちゃんより
「最高指導者の一人の免状じゃ。何の問題も無い。」
その免状を握り締めてフルフルと震える横島。
「……神界ってのは、暇な奴ばかりなのか?アホしか居らんのか?」
「その質問にワシが肯定する訳にはいかんじゃろう。…最も、否定する理由も見つからんがな。とにかくじゃ、ワシがここに居る事は何の問題も無いと言うのは解ったな。」
何だか、自分がとてつもなく逃げようの無いアリ地獄の中でもがいている様な錯覚に今更気がついた横島は、ため息混じりに観客席に視線をやりながら口を開く。
「んじゃ、あれは……偽者か?」
横島の視線の先にはヒトの姿に化けてはいるが、わかる人には丸わかりの老師が小竜姫と並んで座っている。
「あれも、ワシじゃ。正確には身外身の術じゃ。んで、ワシが本体。ちなみに、この姿もワシの本来の姿をベースに化けておる。」
その言葉に再び驚かされる横島。しかしその言葉間違いでも、老師がボケた訳でもない。その昔、孫悟空は蟠桃園に忍び込んでそこにあった桃を手当たり次第に食い漁り、その上太上老君の庵に忍び込んで、そこにあった仙丹をバリバリ頬張ったと言う過去を持つ。そのお陰で、本当の意味での『不老不死』なのである。ここで浮かぶのが、ドクターカオスであるが、カオスは『不死』ではあるが『不老』ではない。だからボケた。しかし老師のそれは、文字通りなのである。
「……つまり、偽っていたって事になるのか?」
「いやいや、実際歳はかなりのもんじゃよ?ただ、体は若いままじゃと言うだけ。あのまま闘戦勝仏を続けてもいいんじゃが、元々ワシは神族ではなかったしのう。肌に合わんかったんじゃろう……。」
横島の質問に昔を思い浮かべるような表情で答える老師。横島はそんな老師に最後の質問をした。
「老師……最後だ……今回のあの老師が持ってきた事件は?」
「ありゃ、ワシの方便じゃ。本気のお主と一度、やりあって見たかったんじゃが……ワシのミスで全部台無しじゃのう……。」
「はぁぁぁ?!!一体、この話何話引っ張ったと思ってんだ!!ここまで引っ張っておいて、実は私の嘘でした、で通用すると思ってんのか!!五話だぞ五話!!そんなオチ、アリかよ!!!!!」
「アリじゃ。第一、お主ではシリアスは難しい。そんな事はお主が一番解っておろう。下らんコメディの主人公が、文句を言うな。」
「………………」
「………………」
「スマン、老師。言い過ぎた。」
「ワシも、年甲斐もなく詰まらん事を口にした。」
そんなこんなで、審判そっちのけで結局、二人ともドローと言う事で史上初最大のくだらない決勝戦が幕を下ろした。ちなみに小竜姫には老師の免状などの話は一切していないとの事。気が付かれた日には、間違いなく一騒動あるのは目に見えている。
「はぁ……なんつー試験や……。」
ため息を付きつつ、家路に向かう横島。そして玄関を開けたときその場にいた者の存在にしばし、開いた口がふさがらなかった。
「おう、横島。ワシ、住む所が無いでのう。厄介になるワイ。」
滅茶苦茶だが試験編終わる。
後書き
はい、まーそう言うことで、試験編終わりです。
もう、何も言いません……。
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