「・・全く、あの方は・・」
溜め息しか出てこない。
いきなりポチを・・人間の男を、己の愛すべき姫だとのたまい。
攫い、捕らえ、閉じ込めて。
呆れて、頭を抱えたけれど・・酒に溺れてもみたけれど(爆)
結局、見放す事もできなくて。
・・で、そこらにいたハニワ兵達の話を聞いていると──塔の方では色々あったみたいで。
何だか恐ろしげな二人の人間にはたかれまくって、その挙句──
「・・全く・・どうしろってんだか・・」
塔を見上げ、疲れた様にそう呟くのは、アシュタロスの娘である蜂の化身──ベスパだった。
──塔の中。
どこぞの通路にて。
「きゃーーーっ!?」
「どんな城だここはーーーっ!?」
「違いまちゅ!!塔でちゅ!!」
「どっちでも変わりませんよっ!!」
「罠多すぎなのね〜〜〜っ!!」
・・妙神山メンバー、只今大岩に追っ掛けられ中。
物の見事に何かの罠に引っ掛かったらしい。
こんなベッタベタな罠に引っ掛かる方も引っ掛かる方なら、作る方も作る方である。
・・まぁぶっちゃけ、塔にある罠は、大半が魔神の暇潰しのお遊びと──魔王のもしもの為の時間稼ぎ目的のものなので、殺傷度は限りなく低い。
更にこの連中は神魔族。
そんなんだから、実の所、余裕はきっちりとある訳で。
「・・ヒャクメ・・本当に役立たずじゃのう、お主・・」
「あうっ!!・・ひ、ひどいのね〜〜〜っ!!」
逃げながらも冷静に、ジト目でぼそりと呟かれた天龍童子の台詞に、滝涙を流しながらヒャクメが声を上げていた。
さっぱり罠を見抜けなかったのだから、仕方無いといえば仕方無いのだが。
そして、最後尾。
「おおうっ!!右のっ!!お約束な罠とはいえ、ハッキリ言って罠自体は大した脅威には成り得ないとはいえっ!!・・こんな事に巻き込まれる我等に明日はあるのだろうかっ!?」
「愚問ぞ左のっ!!こんな事・・具体的に言うならば横島の保護という名の姫奪還!!もしくは争奪、かっ攫いというこの事態に巻き込まれた時点で我等に明日などあるものかっ!!」
・・完全巻き込まれ型の鬼門達が、何だか悲しすぎる叫びを迸らせていた。
「・・ん?」
相も変わらず乗り物(怨霊悪霊の塊)の上。
ハニワ兵達を引き連れて、横島の元へと疾るその途中。
その行く手に見えるのは。
「・・悪いが、アンタには死んでもらうっ!!」
何だか殺気をみなぎらせ、攻撃体勢に入っているベスパだった。
「・・・・・・回避」
思わず汗ジトになりながら、方向転換。
内壁の方へ。
銀一は乗り物に命じて壁を強引に(乗り物に体当たりさせて)ぶち破り、取り敢えずその場から逃げ出そうとして──
「逃がさないよっ!!」
「何やねん一体っ!?」
・・一瞬で追い付かれた。
ベスパも銀一がいきなり壁をぶち破った事には些か驚いたものの、土偶羅から引き出していた情報で多少は塔にいる人間達の異常性は知っていた為か、直ぐに立ち直った様である。
「・・死んでもらう」
「んな無茶なっ!!・・って、アンタ・・アシュの娘かっ!!」
横に付かれ、その殺気に満ちた瞳に捕らえられ、思わず慌てる銀一だったが──間近にしたベスパの姿に声を上げた。
「・・!!何故アタシの事を・・」
銀一が乗り物を止め、ベスパも同じく動きを止める。
「・・情報は大切やからなー」
軽くそう言って、息を吐く。
「・・ま、アンタは誰んトコにも姿見せんかったし、俺も少しばかり話に聞いてただけやから、殆ど知らんけど・・。後々何かに使えるか思て、他んトコの記憶やら記録やらで姿は確認しといたんでな♪」
にっ、と笑って言う姿は、どこか悪戯小僧の様で。
・・しかし、色々な恐ろしさがそこかしこに含まれている気がするのは──・・気のせいではないだろうが。
ベスパは、それを無視する。
「・・そんな事はどうでもいい。・・アンタには、死んでもらう。・・アシュ様の為に」
「・・あぁ?」
ピクリ、と片眉を上げる。
その言葉と、一瞬揺らいだ瞳とに。
「・・それはアレか?忠誠心か?それとも・・他の感情からのモンか?」
「・・ッ!!アンタに関係ないよっ!!」
掌に魔力を収束し、攻撃しようと銀一に向かってくるベスパ。
(・・あ〜・・また横っちに貰った文珠がぁ〜・・)
表情には出さず、心の中で嘆く銀一。
ベスパから見えない位置にある手に握られているのは横島から貰った文珠。刻まれた文字は──『眠』。
(・・横っち悲しませる訳にはいかんしなー)
ただ、過去の情報からすると、効くかどうかは疑問であり。
効かなければ己の持つ色々な物で乗り切るしかないのだが。
(・・トリモチ、時間稼ぎに位なるやろか・・)
とかなんとか思いつつ。
「死になッ!!」
(・・取り敢えずコレぶつけて相殺するか・・)
まず乗り物を盾にしようと、タイミングを見計らって──
『ぽぽーーーっ!!』
「ってわあぁっ!?」
「うおっ!?」
漸く追い付いたハニワ兵達突進!!
ベスパの攻撃は、ハニワ兵達に突進された為に明後日の方向へと。
そして。
「こっ・・コラッ!!何すんだいっ!!」
「ぽぽっ!!ぽー!!」
「ぽー!!」
「はあ!?殺すな!?コイツはアシュ様の敵なんだよっ!?コイツさえなくなれば・・アシュ様は幸せに・・」
「なれる訳あるか阿呆」
「なっ!?」
辛そうに顔を歪めてのその言葉を、銀一が冷淡に遮った。
「俺よりもっとタチ悪いのがおるわ。第一俺殺して、煽り食らうのは魔神やで?・・横っちに泣かれて、罵倒されて、嫌われる」
嘲笑じみた笑みで、言う。
「・・矛先が向かうのは、アンタの創造主や」
「・・・・・・ッ!!」
言葉に詰まるベスパに、尚も銀一は言葉を止めない。
「・・ああ、それがアンタの目的か?俺殺して、横っちに修復不可能な位に魔神嫌わせといて・・傷ついた魔神の心の隙間にでも入り込むとか?」
「きっ・・貴様・・ッ!!」
「ていうか、あのアホ魔神の幸せが何か知っとるんかオドレ?横っちとラブラブってか?・・で、それをアンタ本当に望んどるんか?」
「なっ・・と、当然だっ!!アタシはその為にっ・・!!」
「・・独り善がりはいかんなぁ」
「なっ・・!?」
「まぁ、俺もアンタの事は言えんけどな。自分の心押し潰しとる訳やない。アンタが本気でアシュの幸せ考えとるんは解るわ。・・けどな」
真剣な瞳を向けて。
「・・アンタはその前に、押し潰しとる想い、出さんといかんな」
言った。
海を前に。
砂浜に立ち。
鬼道は、考え込んでいた。
・・これは、ただの保護欲だ。
確かにこの子は何があっても護ると決めたし、自分に出来る事なら何でもしてやりたいと思っている。
人の想いは変わると、この子の幼馴染みは言った。
だが、この想いが、恋愛感情だのに結び付くとは思わないし、容易には変わる事などないとも思う。
ただ──自分が解るのは。
・・初めの内は。
義務感や、教育理念やら。
教育者、教職者、大人としての使命感みたいなもので、保護者として、この子を護る為、魔神を更正させる為に、この塔にいたのに。
──・・いつしか。
横島の傍に、いる様になっていた。
己の意志で。
・・己の、意思で。
「・・・・・・・・・・あ?」
・・気付く。
それは、なんというか。
他の連中の──・・横島に想いを寄せている連中の方に、近いのではないか?
・・改めて、考えてみた。
最優先するべきは──横島忠夫の、保護。
・・少し、違う。
『横島忠夫と、共にいる事』
・・その、傍らに。
ずっと。
──頭を、抱えた。
色々と考えながらも、足を進め。
ふと、気配を感じて立ち止まる。
「アシュ様・・!!」
「・・ベスパ・・」
目の前に佇むは、己の娘。
一体今までどこにいたのやら、全く姿の見えなかったベスパの姿。
「・・ここは通させません・・!!」
決意に満ちた瞳を向けて。
ベスパは、アシュタロスへと言い放つ。
「・・何のつもりだ?私は、姫を奪還せねばならん。・・邪魔はさせんぞ、我が娘」
「・・我が娘、ですか・・」
その言葉を受け、息を吐く。
解っていた事だった。
しかし、直接本人の口から聞くのはキツイ。
──いや、"道具"扱いではない事を喜ぶべきだろうか?
だが、"娘"と見なされるよりはいっそ"道具"扱いをされた方が楽だったのかもしれない。
・・そんな事をつらつらと考えながら。
「・・アシュ様は、ポチ・・いえ、ヨコシマを、どうしたいのです?」
問う。
「・・取り敢えず、愛の営みを再開したいな!!」
「アホですか!!」
・・空気がオチャラケた。
「・・って、真面目に答えて下さい!!」
「・・むぅ。結構真面目に答えたつもりなのだが・・」
怒られてぶーたれるアシュタロス。
魔神の威厳とか思い出せ、親父。
「・・本当は、どうお考えなのですか?」
呆れた様な溜め息を落とした後、真剣な顔になり、ベスパはアシュタロスを見詰める。
アシュタロスもつられた様に、表情と纏う空気を真剣なものへと変えた。
「・・どう、とは?」
「・・望みは、何ですか?」
「・・・・・・」
無言。
答えを求める娘へと、アシュタロスは何も言う事ができない。
決まっている筈の答が、出てこない。
(・・・・・・私は・・・・・・?)
惑うは魔神。
そんな魔神から、一瞬たりとも目を離さないその娘。
「・・私とて、貴方の娘です」
「・・む?」
幾許かの沈黙の後のいきなりの発言に、眉根を寄せる。
(・・文が繋がってなくはないか?)
そんな感想を持つアシュタロスにお構いなしで。
「求めたら一直線です!!」
「・・むぅ?」
何だか雲行きが怪しくなってきた。
魔神も何かを感じたのか、微妙に汗を垂らしている。
「と、ゆーワケでっ!!」
ばっ、と懐より取り出すは、縄。
何か物凄くぶっとい、縄。
封印の呪とか、色々と編み込まれてるっぽい、縄。
「私に捕らわれて下さい!!アシュ様!!」
「何だそのいきなりさ加減はっ!?」
・・行動の類似性(いきなりさ加減とか)がとっても父娘な感じだった。
その頃、GS達救出部隊の面々は──
「う・・うぐうぅぅ・・」
「くぅぅ・・ヨコシマ〜・・」
・・まだ目を覚ましてはいなかった。
それでも根性なのか執念なのか、それぞれ這い摺って進もうとしてたり、唸ってたり。
そして、その場に立つ物は、二名。
かつてヨーロッパの魔王と呼ばれた男と、その男の生み出し人造人間のみ。
「・・力の大半を奪われ、気を失ってるにも関わらず、小僧を求めるか・・。ふむ、連中が起きるのも、そう遅くはならんようじゃのぅ」
「・・ドクター・カオス・・。これから・どうしますか?」
「無論、観戦じゃろう。こやつらにはもう勝機はありそうもないがな。・・いかんな、本気で小僧達の様子が気になってきおった。・・のぅマリア、此処は任せて良いかのぅ?」
「・・ドクター・カオス・・。ミス美神及び・救出部隊一同にそれを知られ・私刑を受ける確率・99.987%・・」
「・・それもそうじゃなー・・」
どことなくジト目ちっくなマリアの冷静な言葉に、思わず遠い目をして呟くヨーロッパの魔王。
「・・仕方無いのぅ・・。一応霊力を回復する霊具等は持ってきておるが・・下手に回復させると面倒な事になりそうじゃし・・。取り敢えず、自然に連中が起きるまで待つか・・」
呟き、どっこいせ、などと漏らしつつその場に腰を下ろす。
「・・横島・さん・・」
マリアは無表情ながら、心配そうに入口へ。そしてその奥へと、目を向けていた。
(・・小僧も難儀じゃな。しかし・・うちのマリアに目もくれんかった罰じゃ。自分らで何とかせぇよ・・)
・・そんなマリアを眺めながら、親馬鹿ちっくな思考を交え、カオスは横島へと言葉を向けていたりした。
因みにこの時。
「・・ぅ・・」
「んん・・」
微かに目覚めを予兆させるかの様な声が数人の口から漏れていた事に、カオス達は気付いていなかった。
「もーいーですっ!!アシュ様が好き勝手やるというなら、アタシも好き勝手させてもらいます!!」
「いやちょっと待てベスパ!?」
「待ちませんっ!!こーなったら首に縄かけてでもっ!!」
「目がマジだぁっ!?」
「とーぜんですっ!!」
思わずダッシュで逃げるアシュタロス。
当然追い掛けるベスパ。
その前方。
「ていっ♪」
曲がり角、どこかで聞いたよーな声と共に、手が見えた。
ぽいっ♪
「ぬうっ!?」
魔神警戒。
ずるっ
「のおおおぉぉ!?」
しかし意味ナッシング。
ずべしゃああああっ!!
「バ、バナナの皮ーーーーーっ!!?」
コケたと同時に。
「わははははっ!!傑作!!」
「ギャーーー!!!やはり貴様か魔王ーーーっ!!!」
曲がり角から銀一登場。
「おう魔神!!しぶといなぁ、相変わらず!!」
「きっ・・貴様ァァッ!!」
額に血管浮き上がらせて。
はた、と気付く。
「・・ちょっと待て・・」
「・・あ?」
「・・貴様が此処にいるという事は・・横島クンは、今・・最強保護者と共にいるという事か!?」
「・・ま、そーなるな」
「モニターから遠ざけたという事は・・今あの二人は・・二人っきりで・・」
「・・ハニ達もおるけどな」
「・・貴様は何故あの時、横島クンを連れて逃げなかった!?あの連中はともかく、最強保護者を置いて逃げられなかったというのは想像出来るが・・貴様なら口八丁手八丁で横島クンを丸め込むなど造作も無かった筈っ!!・・何故だ?」
「・・何か色々と蹴り飛ばしたい台詞も出たが・・。俺は、横っちさえ幸せならそれでええ。・・言うとらんかったか?」
それが何を意味するのか、想像がつく。
この男は、とっくに答を出しているのではないか、と。
未だ答を──多分に出せていない自分に、苛立ちながら。
「・・やはり貴様・・」
いつか見た夢が思い浮かぶ。
「・・自分の事さえどうでもいいのか・・」
「横っちが悲しまん程度には、な」
そんな、シリアスに空気が移行しそうな中。
ぽいっ、と。そして、きゅっ、と。
アシュタロスの首に縄が掛けられいい具合に締められて。
「さ!!アシュ様はこっちです!!」
「って待てベスパ!!首に縄かけてもって本当にするかコラァッ!?」
ギャグちっくな空気へと逆戻り。
「頑張れやベスパさん!!」
「オッケーさ銀一!!」
サムズアップと爽やか笑顔を見せる銀一に、こちらも同じくサムズアップと爽やか笑顔で応えるベスパ。
「グルですか!!」
「やかましいんじゃ魔神!!オドレ一途に想うてくれとる奴おるんやからそっちいけやアホが!!」
「卑劣な!!・・ってゆーかベスパ!!私は・・ッ、横島くん一筋だぞ!!」
「ご心配なく!!私もアシュ様一筋です!!」
「会話が成立してないぞ!?」
「年貢の納め時やな、魔神!!」
「そんないつの間に!?」
「さ!!それでは心おきなく私とのラブラブをーーー!!!」
「ノォーーーッ!?」
「ほななーっ♪」
ずるずる引き摺られていく魔神に満面の笑みで手を振って。
「・・さぁて・・ケジメつけにいくか・・」
色々な感情が複雑に入り交じった表情で、呟いた。
「・・なー、鬼道・・」
「・・ん?」
相変わらず目の前は、海。
ハニワ兵達は、色々とゴタゴタしつつも今は順調に、波の届かない場所で次の卵に行く為の魔法陣を作成中。
そして横島は、砂浜にしゃがみ込んで、そこらに落ちていた棒切れを動かし、砂の上にがりがりと、意味無く線を増やしていく。
「・・この後、どーする?」
「・・どう・・って」
「・・鬼道の言う通り、いつまでも逃げ続けるってワケにもいかねーし。・・銀ちゃん置いてきたまんまだし」
「・・そうやなー・・」
横島の少し後ろ。
腕を組んで、その言葉を受け、鬼道が考え込む。
よぎった想いと考えは無視した。
横島もその状態のまま、頭に浮かんだものを打ち消す。
──認めない。
(・・思ってない、そんなコト)
(・・思っとらん、そないなコト)
思う。
((・・このまま、逃げたいなんて))
同時に、心の中で呟いて。
・・波の音が、響く。
空は青いまま。
どれ位時間が経っているのかも解らない。
──そして。
そんな中、響く声が二つ三つ。
「ぽーーーっ!!」
「ぽぽーーーっ!」
「ぽーーー!!」
「ってハニ!?」
「ああっまた波に攫われとるっ!?」
・・なんかヘマしたらしいハニワ兵二体が何故か海の真ん中でじたばたしていた(爆)
「ぽーーー!!(ちくしょう青春ってやつかっ!!)」
「ぽぽーーーっ!!(失恋祭りじゃあ!!)」
・・実は横島達の様子を見て何かを感じた挙句、ヤケになって自ら飛び込んだのかもしれない。
「何やってんだお前等ーーーっ!?」
「なんかアホ言うとらんかオドレ等っ!?」
慌てて助けに入る二人を眺めつつ。
「ぽー・・(魔王が卵の部屋に向かってるって連絡してきたの知らせようと思ったのに・・)」
先程の三つ目の声の主だったハニワ兵が、何だか黄昏ていたりした。
心の奥底で、思う。
そして想いが形を成していく。
けれどもそれは。
形作られるまで、もたない。
──気付かない。
気付いちゃいけない。
・・それでも。
優しい手が、いつも護ってくれていた。
保護者だと言ったひと。
・・保護者でしかないと、言っていたひと。
・・俺は。
(・・どうして)
これは、勘違いだ。
思い込みで、誤認識で・・とにかくそーゆーもので。
男だぞ?そんで、保護者だ。
有り得ない。
一時的な気の迷いだ。
笑い飛ばして、終われるくらいの、ただの。
・・だから。
考えちゃいけない。
俺は、汚れてるんだから。
・・考えちゃいけない。
そのひとと。・・その保護者と離れて、気の休める場所がサッパリ見当の付かない自分を知っていても。
考えたら──・・。
ヴンッ
──・・何を、だっけ?
「・・あれ?」
横島は、自分の中の空白を見付けて。
首を、傾げた。
・・解っていた事。
本当は、そんな気は無かった。
だって、解っていたから。
ただ、この想いは。
・・止められなくて。
「・・仕方無いよねぇ・・全く・・」
そしてどこかの通路で、一人。
蜂の化身が苦笑と共に、座り込んでいた。
力無く地面に置かれた手には縄。
しかしそれは何の役にも立たなくて。
「・・アシュ様は・・どうなさるのですか・・?」
消えた姿を追う様に、視線を通路の奥へと投げて。
ベスパはそう、問い掛ける様に、呟いていた。
・・一方。
「今度は槍ですかーーーっ!?」
「おのれっ!!軍人を舐めるなぁっ!!」
「刀とか飛び出るとはどういう事でちゅかっ!?アシュ様、お茶目にも程がありまちゅよ!!後でお仕置きでちゅ!!」
「って姉上!!通路を通り抜けるのが先決です!!銃で対抗しようとしないで下さいっ!!」
「前方に落とし穴なのね〜〜〜っ!!・・って、その前にスイッチがーーー!?」
カチッ♪
「さっさと気付かんかっ!!ヒャクメーーー!!」
「だって霊的処置がっ!!隠蔽工作がーーーっ!!」
そんな事やってる間に。
ガコンッ!!
「うおおっ!!右のーーーっ!!」
「ああっ!!左のーーーっ!?」
・・ランダムに通路の床に穴が開く仕掛けらしかった。
「飛ばんかっ!!」
「飛ぶでちゅ!!」
天龍童子とパピリオのお子様(見掛けとか)コンビに指摘され、ヘコむ鬼門達。
「ううっ、右のぉ・・わしは早く帰りたいーーーっ!!!」
「無理じゃ、左のーーーっ!!!」
・・妙神山チームは何だか、未だに相変わらずだった。
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