魔人襲来の翌日・・・・
いまだ傷跡残るリーザス城の医務室で
ランスは・・その意識を取り戻した
そのランスの傍には・・・ランスの姉であるハウレーンがいた
「つっ・・・・ここは・・・・?」
ランスは、体の痛みをこらえつつも、状況確認を急ぐ
「・・・リーザス城内の医務室よ・・・」
ハウレーンが・・・何かに耐えるような声でそう答えた
ランスは、ハウレーンの方向を向かず、目を瞑り、軽く頭を下げた
「・・被害の方は?」
「全体的に死傷者がいるけど・・・そう大きな被害じゃあ無いわ」
「・・・そうか・・・良かった・・・」
そういい、顔をあげてハウレーンの方向を向こうとした瞬間
ポフッ
ハウレーンが、ランスの胸に顔をうずめるように・・抱きついた
「ね・・・姉さん!?」
そのハウレーンの行動に、流石にランスもあわてるが
ハウレーンは、さらに・・少しだけ、その腕の力を込めた
「・・・・・・・馬鹿・・・・・・
なんで・・・ランスはいっつもそうなのよ・・・・
なんで・・・もう少し自分の体をいたわれないのよ・・・
怖かったんだから・・・いなくなっちゃうんじゃないかって
このまま・・・目覚めないんじゃないかって・・・・・」
ランスは・・・・ハウレーンを・・優しく、抱きしめた
「・・・御免・・・・また心配かけちゃったみたいだ・・・
でも・・大丈夫・・・俺は・・必ず帰ってくるから
だから・・・・泣かないでくれ・・・姉さん」
ランスは優しく・・・ハウレーンにそういった
ハウレーンもそれを聞き・・・もう少しだけ強く抱きしめ
ランスもそれに答えるように・・・・ほんの少しだけ力を込め
二人だけの空間が・・・・しばらく流れ続けた・・・・
「・・・悪いんだけど・・・報告いい?」
その空間を壊したのは、何時の間にか医務室に来ていたかなみだった
まぁ・・かなみはランスの警護を任務として受けているため・・・
事実上、ランスが起きる前からいたのではあるが・・・・・
「ん・・?あぁ・・・頼む」
ランスは特に慌てる様子もなく、ハウレーンから手を離し、そう答えた
ハウレーンの方も抱きつきをやめ、かなみの方を向いた
まぁ、その目にほんの少しだけ恨みがましい物が入っているのは仕方ないだろう
そのハウレーンの視線に僅かに汗をかきつつも、かなみは報告を始めた
「ランスが知らない情報だけ伝えるわね
まず、リーザスで旅の一団・・たぶん冒険者なんだろうけど・・・
二人の女性と負傷した男性を保護してるの
その三人が、ランスに応急処置してくれた人達だからね
後は・・赤の軍と黒の軍の再編成が完了したわよ
当初の予定通り赤の軍にはレイラさんが副将に
黒の軍の方は指揮官達にマニュアルを教え込む事で何とかするみたい
内乱で将の絶対数が減った影響からみたいよ」
かなみの情報を聞き・・・ランスはしばらく考えるそぶりを見せ・・・
そして真剣なまなざしでかなみを見、こう言った
「今から一時間後に緊急の軍議を開く、全将軍に伝えてくれ
後、その保護した人達も来るように言ってくれ
国の存続が掛かっている軍議になる・・・頼む」
「・・・・・わかったわ、今すぐ伝えてくるわ」
そう言うとかなみの姿はその場から消え去り、ランスは直ぐに起き上がった
「ち・・・ちょっとランス・・・まだ怪我は治りきって・・・」
「ちょっと調べ物があるんだ・・・・姉さんも手伝ってくれ」
ランスはハウレーンの言葉をあえて黙殺すると
即座に傍に置いてあった自分の鎧を着込み、医務室から出て言った
向かった先は図書館・・・先の大戦で数十冊の本が消失してしまっていたが
今はその消失した本に匹敵するものを仕入れなおしているのである
その中でランスは、近代の魔人に関する書物を選び
それを持って会議室に移動していた・・・・
ハウレーンはそんなランスを気遣うように、常に傍に寄り添っていた
リーザス城会議室
ランスが到着してまもなく、召集された将軍達が入ってきた
バレス、エクス、リック、コルドバ、アスカの五将軍は当然の事
配置変更で赤の軍の副将になったレイラ・グレクニーに宰相のマリス
メナド、アールコート、メルフェイス、キンケード、ハウレーン
そして・・・王女リアも、会議室に集合していた
まさしく・・・国の命運を賭けた会議にふさわしい顔ぶれであった
そして、上記の面々に僅かに遅れ、かなみに連れてこられる形で
日光と美樹の二人が、会議室に顔を出した
「いきなり召集をかけて申し訳ない・・・
だが、この軍議、リーザスの命運を賭けた物になるだろう」
ランスがそう言うと共に将軍達の顔が一気に真剣な物となり
日光と美樹の二人は・・・僅かに衝撃を受けていた
そしてランスは・・その二人の方に視線を向けた
「まず・・・俺を助けてくれた事に対して礼を言いたい・・・
あの後、君達が放っておけば俺は他の魔物に討たれていた可能性もあった
本当に・・・・ありがとう」
「いえ・・・この世は助け合いなくして渡ってはいけませんので」
そのランスの言葉に、日光が美樹を僅かにかばうように動き、そう答えた
「だが・・・こちらとしてはどうしても見過ごせない一点もある・・・
その事は・・・君達の方がよく分っているだろう?」
ランスはそう言うと、日光と美樹に向ける視線を鋭くする・・・
「・・・魔王リトルプリンセスの事ですか?」
日光もその視線に答えるように、鋭い視線をランスに向け、答える
「あぁ・・・あの魔人・・サイゼルはかなりの実力者だ
もっとも、俺も今日調べてやっと判明した事ではあるんだけどな
仮にも魔人四天王に匹敵しうる実力をもつ魔人が・・・このリーザスに
復讐の為等ではなくて・・・その魔王を探しに来ていた
そして・・・君達が現れた・・・偶然にしてはできすぎている気がしてね」
ランスはそう言うと・・・僅かに殺気をこぼしはじめた
嘘をついたのなら、即座に襲いかかると言わんばかりに・・・
「・・・・・正直に答えましょう
確かに、当代の魔王、リトルプリンセスと言う存在は・・・
こちらにいる、美樹様に相違ありません・・・されど
美樹様は自分の意思で魔王になったわけではなく
ましてこの世界の住人ですらないのです
そして、美樹様自身、魔王への覚醒など望んではおりません!!」
日光はランス同様殺気をこぼしつつ、言葉を返した
「と言っているが・・・他の皆はどうする?
魔王がこのリーザス城にいれば・・再び魔人の襲撃を受けるだろう
それを覚悟で彼女達を保護するかどうか・・・聞かせて欲しい」
ランスは殺気を抑え、全体を見回しながらそういった
日光は、何かあったら美樹と共に脱出できる体制をとっていた
「儂は・・・この様な若い女性達を放り出すのは気が引けるが・・・・
連れの男性の傷が癒え次第・・・出ていってもらったほうが良いと思う」
まず最初に発言したのは、バレスであった
「確かに・・魔人に複数で攻められては・・・リーザス城と言えど・・・
迎撃できたとしても国土は弱体化しますし・・・
それをヘルマンやゼスに悟られ・・・侵略されたりしたら・・・」
エクスもバレス同様、国家を第一におき、判断を下す
「バレス将軍、エクス将軍、何を言っておるのだ
救いを求める民を護る事こそ軍の使命であろう
聞けば彼女は元々は異世界の住人だと言うし
魔王にはなりたくないといっておる
この世界の騒動に巻き込んでしまっておる以上
この世界の者達・・・我が軍で保護するのが理ではないのか!!」
そんな二人の発言にコルドバが返し、キンケードとメナドが深く頷く
「しかし・・・何度も魔人達の来襲を受けては、軍の力も弱まりましょう
そして・・・それはこのリーザスの民にも多大な被害を及ぼします
リーザスの民達と彼女達・・・どちらをとるかと聞かれれば・・・
非情と言われようとも、リーザスの将軍として、民を取らせてもらいます」
そのコルドバの言葉にリックが返した・・・三人が保護を拒否してはいるが
バレスも、エクスも、リックも決して乗り気ではないのは全員わかっていた
将軍達が次々と論争をしていく中で・・・・
ランスとマリス・・・リアの三人だけは、沈黙を保っていた
「私は保護の方に賛成よ、追い出しても何にもならないでしょうし・・・
・・・そういえば・・さっきから黙ったままだけど
ランス君は保護は賛成、反対、どっちなの?」
少数の意見になっている賛成派のレイラが、ランスの方を向いて尋ねた
ランスは、微かに笑うと・・・真剣な顔で答えた
「俺の意見は・・・・賛成だ」
その言葉に、賛成派の将軍と反対派の将軍、両方の将軍が驚いていた
このような言い回しをして、各将軍に討論を行わせていたのだから
かなりの高確率で・・・反対派だろうと考えていたのだ
日光や美樹も同じらしく・・・呆然とした顔でランスを見ていた
「アールコートなら・・わかるだろう?」
ランスはそう言うと、アールコートに視線を向けた
賛成と言う意思表示はしても、討論に参加していなかったアールコートは
ランスの問いに・・戸惑いながらも頷くと、席を立ち、口を開いた
「その・・・魔王には、魔人に対する強制力と言うものが存在しているんです
でも・・魔人がこうやって探しに来たと言う事は・・・
魔王として・・・目覚めていないという証拠になると思うんです
それに・・魔王を探しに来たあの魔人・・サイゼルと言う魔人なんですけど
あの人の言動とか行動から考えて見たら・・・
魔王・・リトルプリンセスを・・・殺そうとしているみたいなんです」
アールコートがそこまで言うと、ランス以外の将軍達は再び驚いていた
魔王と魔人の関係はどういうものかは、彼らも知識として知っている
だからこそ・・・魔人が魔王を殺そうと言うのが信じられなかったのだ
しかし・・・アールコートの発言は・・まだ続いていた
「多分・・・殺そうとしている理由は・・一つだけだと思うんです・・・
先代の魔王は・・・人間に対して不干渉を常にしていましたから・・・
魔人の本質は・・・殺戮や破壊みたいですので・・・・
その・・先代の魔王の頃から・・魔人達は欲求不満だったでしょうから
多分・・今代でも同じような命令を受けるのを嫌って・・・
覚醒していない・・・強制力のない状態の魔王を殺して・・・
自分か・・・代表か何かの魔人を・・・魔王にしようとしてるんだと思います」
そこまで言うと、アールコートは席に座った
「アールコート、ご苦労様」
ランスはアールコートにそう言い、微笑むと、再び全体を見回した
「アールコートが先ほど言った通り、魔人達の狙いは
魔王リトルプリンセス・・つまり、美樹ちゃんの命と言うことだ
アールコートは言い忘れたみたいだけど・・・・
それが、保護する理由になるんだ
魔王をこっちが庇護している以上・・・魔物全軍が攻めてくる可能性は低い
魔人領・・おそらくは魔王城からここまで逃れてこれたんだ
人間不干渉に賛成の魔人も少なからずいるという事だろう
逆に言えば、彼女達を保護せずに、彼女達が捕らえられ・・・
魔王が変わるような事があれば・・・絶望の時代だ
かつての魔王・・ジルの世界が・・・再現されるだろう
だからこそ、俺達は人類のためにも・・保護する必要があるんだ
肝心の魔人に対抗する手段は・・・・カオスだ
セルさんをなんとか説得して・・・カオスをもう一度振るう」
ランスがそこまで言うと・・・反対派の将軍は納得したようだった
「・・・ですが、魔人が複数でせめて来た場合はどうするのですか?
それに・・・セルさんが確実に返してくれるとも限りませんし・・・」
沈黙を保ち続けていたマリスが、そう反論した
確かに、一体ずつの魔人なら、魔剣カオスがあればなんとかなるであろう
しかし、複数で攻められては、どうしようもないだろう
まして・・・カオスが確実に戻ってくるとも限らない・・・
まさしく、保護をする事は何度も賭けを重ねた上で
全て成功した場合のみ、その体制が整えられることなのだ
「・・カオスに関しては・・・尽力を尽くすしかない・・・としか言えないが
だが・・・魔人に関しては・・・なんとかなるはずだ・・・・
そうだろう・・・・・魔人・・・・サテラ!!」
ランスはそう言うと懐から護身用の短刀を出し
それを会議室の入り口に向かって投げつける
その短刀は・・・何時の間にか立っていた女性によって、受け止められた
「待ってたのにずいぶんな挨拶だな・・・ランス」
その女性は投げられた短刀をその場に落とし、腰に手を当てながらそういった
「会議の結果次第では俺達を殺そうとしてた奴には言われたくないぞ」
ランスは、短刀を受け止めた女性・・・昨年、リーザス解放戦の時に敵対し
最後は和解した魔人、サテラに、苦笑しながらそう話しかけた
「それより念のため聞きたいんだが・・・・
サテラは魔王、リトルプリンセス派の魔人でいいな?」
ランスは、何一つ疑う様子もなくそう問いかけた
「・・・わかっているからサテラを放置してたんだろ・・・?
まったく・・・サテラがせっかく会議が終わるまでまってやってたのに
いきなりこんな玩具を投げつけてくるなんて・・・・」
サテラは、魔人・・と言うか一人の女性といった感じで
ランスに向かって、恨めしげな視線を向けながらそういった
「・・・ところで・・その紫色の魔人は・・・だれだ?」
サテラが会議室に少し入ってきたために視認できた存在についてランスが尋ねた
「あぁ・・・メガラスだ、メガラスもホーネット様の仲間だ
もともと無口な奴だから、発言してなくてもあんまり気にしないでくれ」
「ホーネット・・・誰だ?」
ランスの問いにサテラが答え、サテラが答えるたびに新しい名前がでて
その新しい名前にランスがさらに質問し、またサテラがそれに答える
そんな事を延々と繰り返していくうちに・・・・・
会議室に集まった全員に、魔人界で勢力が二分し、戦が起こっている事
魔人界で勢力が別れた理由、各勢力の状況等・・・・
遠くはなれた魔人界の情勢が、おぼろげながら理解できていた
だが・・・ランスとサテラの問答はいまだに続いており・・・・
「だから・・今ホーネット様は窮地にいるんだ・・・
だが、リトルプリンセス様が目覚めてくれればそれも終わる!!」
しかも段々と焦点がずれていき、魔王覚醒の是非を討論するようになっていた
ちなみにランスは魔王覚醒否定、サテラが魔王覚醒肯定である
「だが・・・無理やり覚醒させてどうするんだ?
目覚めたとしても、そのホーネットと言う人が求めた通りに動くとは限らない
それに彼女は元々この世界の住人じゃあないんだ
無理やりこっちの目的のためだけに、覚醒させるのは非道じゃないか!!」
「じゃあ・・・どうすればいいんだ!!
魔人の多くはケイブリスの奴についている・・・
魔物達だってほとんどケイブリスの方だ・・・
覚醒していただかないと、私達は負けるんだぞ!!」
サテラとランスの討論も段々熱がこもってきたが
次のランスの一言が、両者を冷静にさせる事となった
「勝機はある!!戦術戦略を駆使すれば十二分に存在している!!」
「!!・・・本当なのか・・・ランス・・・?」
サテラがその一言で、一気に冷静になった
自分達が絶対に負けるだろう戦況で、勝つ手段があると言うのだ
魔人達に戦術、戦略と言う物はほとんどない・・・
基本的に人間相手であるため、力だけで粉砕できるからだ
まして、サテラは人間の戦術によって倒された経験もある
だからこそ・・・ランスの言葉で冷静になったのだ
「あぁ・・・だが、先にそっちの総司令官と話がしたい」
ランスも一通り話して冷静になったのだろう
何時の間にか用意されていた茶を軽く飲み、そうサテラにいった
「・・・無理だ・・ホーネット様がそう何日もこっちに来るわけには行かない」
サテラは、現在の自分達の戦況を振り返り・・・そう返した
ホーネットが人間に比べると、僅かながらとはいえ戦術を行使しているからであり
そのホーネットが戦場を離れている事は好ましくないのだ
まして、リーザスは魔人領・・・さらにホーネットがいる魔王城からは
このリーザス城は、かなり離れている場所にあるのだ
ホーネットがこっちに来ている間に何かあれば・・・
そう考えると、リーザスにこらせるわけには行かないのだ
「・・・ねぇ、マリス、あれを使ってもらっちゃダメなの?」
何時の間にか用意されていた紅茶を飲みながら
我関せずと言った様子でランスの顔を眺め続けていたリアが
マリスに向かって、そう唐突に切り出した
「・・・・確かに・・あれを使えば可能でしょうけど・・・」
「何か方法があるのか!!」
リアの問いに、律儀に答えたマリスに、サテラが即座に詰め寄った
「・・・・・・・仕方ありません・・・緊急事態ですから
皆さん、ついてきてください」
マリスはそう言いながら席を立ち、リアが紅茶を飲み終わるのを確認した後
リアの傍に控えるような形で、会議室にいた全員を連れて
王族以外、立ち入り禁止の場所に、案内していった・・・・
マリスが足を止めた所には・・強大な結界が張られている
大きな魔法陣が存在していた・・・・
「私も・・・半年ほど前にリア様に連れられて始めて見たものなのですが・・・
この魔法陣は・・・かつての魔王ジルを魔剣カオスを持って封印する際に
魔王城に直接繋ぎ・・・先代の魔王・・ガイが囮を勤め
魔王ジルを、こちらに呼び寄せたものだそうです
その後、このゲートを利用し侵攻されるのを防ぐために
この様な強大な結界が張られたと・・王家の歴史書に記されていました」
マリスが言う王家の歴史書とは・・・王族だけしか見る事の許されぬ
闇の歴史書の事である・・・もっとも、リアは自分の意思で見ておらず
リーザス解放時に、魔王が封印されていたと言う事実から
マリスの言にしたがい、歴史書を紐といてみた結果・・・・
歴史書の記述からこの魔法陣を発見し、マリスに詳細解読を依頼したのである
しかし、マリスとて完全に理解できてはいなかったため・・・・
あくまで、伝聞の形としてしか、伝えることができなかったのである
「つまり・・・これを使えば魔王城とのゲートを開けると?」
エクスが、マリスの言葉から推測できた事を尋ねた
「えぇ・・・しかし、これは諸刃の剣だと言う事を理解してください
確かに・・・そのホーネットと言う人を即座に呼び出せるでしょうし
特に時間の差なく、魔王城に返せるでしょうけど・・・」
「逆に言えば・・・魔人を自ら懐に招くようなものか・・・
・・・だが・・これ以上の策も時間もない・・・・
魔人領から送られて来る戦力の増加だけでも・・食い止めなければ」
ランスはそう言うと、サテラの方を向いた
サテラもランスの視線に応じ、深く頷いた
「・・・・では・・リア様・・結界の解除を・・・」
マリスもそれを見てこれ以上の問答は無用と理解したのだろう
リアを促し、リアもそれに応え、王家の鍵を持って、結界を解いた
結界が解かれると共にサテラが魔法陣に飛び込み・・その姿が消える
それからどれほどしただろう・・・・
メガラスが、段々美樹をかばいつつも・・・戦闘体制に移行していた
おそらく、サテラが騙し討ちにあったと思ったのだろう
それに気付いたランスがメガラスの説得を行おうとしたとき・・・
「申し訳ありません、少し遅れてしまいました・・・」
聞く者全てを魅了しそうな声と共に・・・
同じく・・見る物全てを魅了しそうなほどの美貌を持った女性
エメラルドの髪に・・・・金色の瞳をした女性・・・
「自己紹介が遅れましたね・・・私の名はホーネットと申します」
サテラが言っていた魔人・・ホーネットが・・魔法陣から現れていた
ホーネットのその美貌に・・・男女問わず・・・その場にいるもの全てが
心奪われ・・・ただただ、魅入っていた
「・・・っ、ようこそ、リーザスに、俺の名はランス・プロヴァンス
この度はこちらの誘いに応じ、来ていただき真に感謝します」
一番早く自分を取り戻したランスが、ホーネットにそう言いながら礼をする
「いえ、こちらこそリトルプリンセス様の保護をしていただき
まして、私達に勝利の策を授けてくれるそうで・・・
心の底から・・感謝を言わせていただきます」
ホーネットもランスの礼に応え、ランスに対して礼を取った
「・・・ところで・・サテラはどうしましたか?」
いまだに姿を見せないサテラについて、ランスが尋ねる
「私がいない間・・・城の警護を頼んだんです
サテラも呼んだ方が良かったですか?」
ホーネットが、その問いに答え、さらにランスに尋ね返した
「いえ・・・少し気になったものですから・・・・
では、このような所で悪いのですが・・・早速軍議といきましょう」
そう言うとランスは、自ら持っていた紙を広げ
ホーネットに改めて魔人領の情勢、戦力の分配状況
各魔人の配置状況、並びに魔人の持つ能力などを尋ねた
ホーネットは、サテラ以上に詳細な情報をランスに伝えていた
他の将達の多くは、ただただ、ホーネットの人外の魅力に魅入っていた
まぁ・・女性陣には嫉妬の視線が混じりつつもあったが・・・
ホーネットから与えられた情報をもとに・・ランスは策を練った
アールコートに頼んだ方がより早く、強力な策を講じてくれるのだろうが
ランスは、自分の限界を試そうとしていた・・・・
兵は十万と二十万の差・・さらに魔人の人数もホーネットの方が少ない
唯一の強みが・・魔人領の要塞とも言えるカスケード・バウを有していることだけ
その中でランスが立てた作戦は・・・以下の様な物であった
「まず、カスケード・バウに九万の兵を待機させて・・・
残り一万の兵を・・この、死の大地の警護に当たらせてください
後、力が残っている魔人達で、死の大地の切れ目の部分に結界を張らせるんです
カスケード・バウで防衛し続けれればし続けるほど・・・
相手・・ケイブリスの軍が、この死の大地を強行進軍して来るでしょう
死の大地は・・多くの魔物は死んだとしても・・・
決して通過できない所ではないでしょうからね
結界と一万の兵でとりあえず侵入だけは防ぐ・・・
相手が死の大地に来たのなら即座に兵力を二分すればいいんです
五万の兵と結界と大地の瘴気・・・これだけの要素が重なれば・・・
いかに大軍と言えども・・壊滅するか、大打撃を受けた状態で
引かざるをえなくなるはずです・・・そうすれば、時間も稼げるでしょう
後・・・この魔人ワーグですが・・なんとかして引きこんでください」
ランスがそこまでいうと、ホーネットが不思議そうな顔をした
「なぜ・・ワーグを引きこむのですか?
彼女は・・・お世辞にも戦闘能力は・・・・」
ランスはホーネットのその言葉に、静かに首を振った
「人間界では・・・堅牢な城壁を落とす一番簡単な方法が・・・
敵を内部から崩壊させることなんですよ・・・・・
このワーグと言う魔人は・・夢を操れるんでしょう?
もし、その力で貴方達の軍が敗北する様子を兵士達に延々と・・・
そう・・・狂うか、士気がガタ落ちになるまで見せ続けたらどうなります?
いかなる策を弄しても・・・・勝ち目はなくなりますよ」
「・・・確かに・・貴方の言うとおりですね・・・・
でも・・・どうすればワーグを・・・・・」
「ワーグ・・・彼女・・・子供のようなものなんでしょう?
なら・・・遊び相手になってあげればいいんですよ
多分・・こういった力を手に入れたのは・・寂しかったからでしょう
他の魔人達が遊んでくれるわけでもなかったようですし・・・
まして、魔物が魔人と遊ぼうなんてするはずがないでしょう?
彼女は・・ただ遊び相手が欲しいだけだと思いますよ・・・」
ランスは・・・何かを思い出すようにそういった
ホーネットは・・ランスの言葉を聞き・・・深く考えていた
(彼の言うことが正しければ、私はワーグの思いも考えずに・・・・
何とかしてもう一度あって・・・謝らないと・・・・)
「他の魔人達も・・・まぁ説得できそうな相手は説得してください
所で・・・貴方は何で美樹ちゃんを覚醒させようとしてるんですか?」
ランスは・・・真剣な顔で、ホーネットの顔を見ながらそういった
そのランスの発言に・・美樹が僅かに反応していた事を悟りつつも
「・・・魔物と人間の友好関係のためです
リトルプリンセス様が覚醒してくだされば
必ず・・・人間と魔物の友好関係が結べるはずですから・・・
だから・・・覚醒していただきたいんです」
ホーネットも、ランスを真剣な目で見ながらそう返した・・・
そしてランスが口を開こうとした瞬間・・・
「イヤッ!!」
美樹の・・絶叫のような声が響いた
「私は・・・私は魔王になんてならない!!
私は・・・普通に暮らせれればそれでいいの!!
お願いだから・・・普通に・・過ごさせて!!」
今まで・・色々耐えてきたものが爆発したのだろう・・・
美樹はそう叫ぶと・・・ただ・・泣いていた
その様子に・・ホーネットと日光は痛ましげに・・・
メガラスは・・・どこか困惑したような目で美樹をみており
他の将軍達も・・どこか、同情するような・・そのような目で見ていた
そんな中、ランスはゆっくりと美樹に近づいて行き
そっと頭をなでると・・・優しい声で・・・言った
「・・・そうだよな・・・いきなり巻き込まれたんだ・・・
今まで色々つらかっただろう・・・好きなだけ泣けばいい
辛い事は・・抱え込んだりしちゃいけないんだからな・・・
まして・・今まで普通の生活をしてたんだろうからな・・・・・
無理に耐える必要なんてないんだ・・・泣きたいときに泣けばいいんだ」
ランスは、ゆっくりと、美樹の頭をなでながらそういった
美樹も・・・段々落ち着いて来たのか・・・次第になきやんでいた
美樹が泣きやんだ事を認めると、日光に後を任せ
ランスは、再びホーネットの顔を真剣な目で見ていた
「・・・今のでわかっただろう・・・?
彼女が・・・美樹ちゃんが普通の女の子だって事が
それに・・・ホーネットさん・・貴女の言う理想は・・・
貴方の今のやり方では絶対に実現しない」
「なっ!?・・・それはどういう意味ですか・・・!!」
流石のホーネットも、冷静ではいられなかった・・・
自分の夢が・・・真っ向から否定されたのだ、冷静な方がおかしいだろう
だが、ランスはどこか冷たい目で見ながら・・・言い放った
「そもそも魔物と人間の力の差をちゃんと理解していない
表向きは友好的かもしれなくても・・お互い警戒しあっているだろうさ
魔物からすれば人間は脆弱で自分達の獲物に過ぎない
人間からすれば魔物は自分達を襲う敵でしかない
さらに魔王の力で・・って言うのがそれを余計に無理にしている
確かに、魔物達も魔王の命になら大人しく従うだろうが・・・
人間からすれば・・・そんなもの信じられるはずがないだろう?
魔王は人間にとって恐怖と絶望の象徴だ・・・・
そんな存在がいきなり友好姿勢をもったとしても・・警戒するだけさ
いつ、また人間を虐殺しようとするかわかったものじゃない・・・
それに・・その魔王が死んだ後はどうなる?
次の魔王が人間に対して友好姿勢をとらずに敵対姿勢をとったら?
それこそ完全な終わりだ、二度と友好なんてありえなくなる」
ランスの言葉に・・・ホーネットは衝撃を受けていた
魔王の力があれば・・・魔物と人間の友好は成ると思っていたのに・・
それを否定され・・しかも・・それが見事に正論だったのだ・・・
歴史を振り返れば・・・人間にとって魔物は恐怖であり・・・
魔物にとって・・・人間は餌であり・・・獲物でしかなかった
だが・・・ホーネットは夢を捨てることができなかった・・・
しかし・・ホーネットには他の方法が思いつかなかったのも事実だった・・
「では・・・私に・・・私にどうしろと言うのですか・・・・!!」
何も思いつかず・・夢も壊されたホーネットは・・ランスに向かって叫んだ
だが・・その叫びは・・助けを求める・・子供のようなものであった・・・
「俺にわかるはずがないだろう・・・・
だが・・・これだけはいえる
貴女は・・自分の戦いをしていない
人の力を借りるのではなく・・自分で自分の夢を実現しようとしていない
人の力で開かれた道だから、自分の夢の限界に直ぐにぶつかる・・・
だが・・・自分の力で切り開いた道ならば・・・夢にもたどり着けるだろう
まだ、魔物と人間の友好が完全に不可能になったわけじゃあない
それは・・・これからの貴女次第だと言うことです・・・・」
最初は・・突き離すような冷たい声であったが・・・
ランスの言葉が続くに連れ・・ホーネットが顔を挙げ・・・
何かを自覚したような目でランスの顔を見つめたとき・・・
ランスは、微笑みながら、ホーネットに手を差し出した
ホーネットは・・・しばらくその手を見つめた後、その手をしっかりと握った
「・・・ランスさん・・・・美樹様を・・護ってあげてください
こちらからも・・・せめてもの助力として
サテラとメガラスの両名を、美樹様の護衛につけますので」
ホーネットは・・・決意に満ちた表情で、そう言った
その中で・・美樹の事を・・自分が覚醒を求め続けた人の名前を
リトルプリンセスと呼ばず・・美樹と呼んだ事も、決意の表れだろう
ランスもそのホーネットの決意を理解したのか、しっかりと頷き返した
「では・・・・そろそろ、戻らせていただきますね
また・・・何かあったときには・・相談させていただきます」
「こちらこそ・・何かあったときには頼むと思いますので」
ホーネットがそう言い、撤退しようとすると、ランスが微笑みながらそう返した
ホーネットは・・・最後にもう一度だけ礼をすると・・魔法陣の中に入っていった
こうして・・リーザスは災厄の種とも言える存在を保護する事になった
その異世界の住人にしてこの世界の魔王・・・
その人物が・・どのように歴史に影響を及ぼすのか・・・
その事は・・神ですら知らず・・ただ、時は流れていた・・・・・
後書き
んに〜・・・詰め込みすぎた感じがある今回どうでしょうか・・・?(汗
日光さんイベントは・・・次回に延ばしました
いや・・カオス手に入る可能性がある状況で
あの日光さんイベント起こるとは思わなかったので・・
とりあえずホーネット・・・完全オリキャラ状態に・・・(汗
しかもいきなりフラグ立てちゃったかな・・・(汗
ん〜・・・電波による暴走って怖いですね(汗
まぁ・・次回はレッドの街で説得+日光さんイベントかな・・・?
では、レス返し〜
kouさん
サテラ・・取りあえず敵対はないけど惚れてるほどでない状態で・・・
多分・・・落ち着いているはずです・・・(何
イレギュラーVSイレギュラーな気もしますけどね〜(ぇ
美樹の存在もある意味イレギュラーですし・・・
ランスの存在も、またイレギュラーですからね〜ww
カオス・・・本格出場はもう少し先です〜
気長にバカオス登場をお待ちください〜(何
10/14 12:20分 レイトニングサン殿の突っ込み部分を修正+魔法陣に関して僅かに追記
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